「CO₂を食べる自販機」で循環型社会に貢献 アサヒ飲料の挑戦に迫る

過去20年で約70%の省エネが進んだといわれる自動販売機。さらなる脱炭素化を目指し、
アサヒ飲料が打ち出したのは、“CO₂を吸収する”という逆転の発想だ。
同社の開発した「CO₂を食べる自販機」は、稼働中に周囲のCO₂を取り込む仕組みを実現。
さらに吸収したCO₂を再利用することで、新たなビジネスにつなげ、循環型社会の構築にも貢献する。
この取り組みが未来にもたらす価値について、代表取締役社長の米女太一氏と、
SDGs研究の第一人者である蟹江憲史氏が語り合った。

社内でのふとした会話から
生まれた逆転の発想

蟹江 アサヒ飲料さんは、社会との約束として、「100年のワクワクと笑顔を。」という言葉を掲げておられます。

米女 私たちのミッションは、飲料事業を通じて世の中を明るく楽しくしていくこと。すなわち、「ワクワクと笑顔」を広めていくことこそが、価値創造の原点だと考えています。また、当社には「三ツ矢サイダー」「カルピス」「ウィルキンソン」という3つの100年ブランドがあります。その継続を支えてきたのは、自然の恵みに他なりません。今後も価値あるブランドを発展させていくと同時に、事業を支える自然環境を今より豊かな姿で100年先にも残したい。そんな思いを、この一言に込めています。

蟹江 ただ継承するのではなく、プラスにして未来に届けていくという考え方ですね。

米女 飲料事業で培ってきた私たちの強みは、おいしさで人を幸せにすることに加え、脱炭素や資源循環にも活かせると信じています。

蟹江 それを象徴するのが、自動販売機を使ったユニークな取り組みです。その名も「CO₂を食べる自販機」。ワクワクするネーミングですが、そのようなことが本当にできるのですか。

米女 はい。自動販売機の庫内にCO₂吸収材を搭載することで、大気中のCO₂を吸収する仕組みを実現しました。1台あたりの年間吸収量は、稼働電力由来CO₂排出量の最大20%で、杉の木約20本分(林齢56~60年)の働きに相当します。

蟹江 都会の中に木を植え、森をつくるような取り組みですね。一見、固く考えられがちな気候変動対策も、身近な自動販売機でできるとなると、一気に親しみが湧いてきます。開発のきっかけを教えていただけますか。

米女 社員と雑談している中で、「自動販売機で環境にいいことをできないか」という話題になったのです。電力消費を抑えるだけでは、マイナスをゼロに近づけることはできても、プラスにはなりません。そこで、「自動販売機でCO₂を吸収してみたらどうだろう」と、私が提案したのが始まりでした。CO₂を極力出さないことに目が行きがちですが、取り込むことで大気中のCO₂を減らすという逆転の発想です。その一言に、社内の技術者がすぐに反応し、試作にこぎつけてくれました。

蟹江 CO₂の“吸収”に着眼したアイデアが面白いですね。サステナビリティの実現には、こうした発想の転換が重要です。ここからトランスフォーメーションが起きることによって、循環型社会のサイクルが回っていくのだと思います。

米女 CO₂の排出より吸収する量が多くなれば、カーボンネガティブな自動販売機を達成でき、100年後の未来にプラスをもたらすことにもつながると考えています。

蟹江 自動販売機は、身近なインフラとしても活用されていますが、将来は街の中の森林のような機能としての期待も高まりそうです。

米女 そうした世界を実現するためにも、技術革新を進めると同時に、設置台数を増やしていく必要があります。「CO₂を食べる自販機」は2023年に実証実験を開始し、2024年には都市部を中心に約450台を設置。本格展開を目指す今年は、5,000台の設置を目標にしています。

自動販売機を軸とした循環モデルを
世界のスタンダードへ

蟹江 「CO₂を食べる自販機」が増えれば、より多くのCO₂を吸収できます。でも、自動販売機の製造過程でCO₂を排出してしまうことにはならないでしょうか。

米女 「CO₂を食べる自販機」は、既存の自動販売機に吸収材を取り付けるだけで実装できるので、新たな工事は必要ありません。商品補充時に吸収材を交換することで、吸収効果を発揮します。つまり、通常のビジネスの動線上でサステナビリティに取り組める仕組みとなっているのです。

蟹江 それは素晴らしいですね。今あるものを活用することは、SDGsの観点からも非常に重要です。

米女 自動販売機だけでなく、吸収したCO₂も有効活用することで、無駄のない循環を目指しています。そのために、現在様々なパートナー様と新しい取り組みを始めています。例えば、沖縄では一般社団法人伊良部島環境協会様と共同で、吸収材をサンゴの移植基盤に活用し、保全に役立てる実証実験を展開中です。吸収材に含まれるマンガンにより、サンゴの白化抑制に寄与できるのではないかと期待しています。

沖縄では、サンゴの移植基盤にCO₂吸収材を活用する実証実験を展開。マンガンを含む吸収材がサンゴの白化抑制に寄与する可能性を確認しており、詳細なメカニズムの解明を進めている

蟹江 サンゴ保全は世界的な課題でもあり、注目に値する取り組みです。また、私自身「Local2030 Islands Network」の活動に関わる中で、島の人々が海面上昇や資源の枯渇に強い危機感を抱いていることを肌身で感じています。彼らの環境意識は高く、資源循環の仕組みづくりにも積極的です。こうした取り組みを、ぜひ世界の島々にも広げていただきたいですね。

米女 まずは、地域ごとの循環モデルづくりが必要だと思っています。CO₂の回収から再利用までをエリア内で完結できるよう、今後はアスファルトやタイル、コンクリートの社会実装拡大を進めていきます。将来的には、CO₂の固定化や環境保全に貢献する日本発のCO₂資源循環モデルを構築し、グローバルにも展開していきたいと考えています。

蟹江 島の人たちもきっと喜ぶと思います。ところで、CO₂吸収材を工業原料に変える取り組みにはどんなものがあるのでしょうか。

米女 国内初の試みとして、吸収したCO₂をアスファルト舗装材に用いる取り組みを、前田道路様と共同で実施しています。今回の開発では、アスファルトの原料である石粉の代わりに吸収材を使うことで、道路面積1平方メートルあたり約0.9kgのCO₂排出量を削減できることが確認されました。このアスファルトは、現在開催中の大阪・関西万博で、公益財団法人 地球環境産業技術研究機構様の「RITE未来の森」内にも展示されています。

様々な企業や自治体と協働することで、吸収したCO₂を工業原料として有効活用。アスファルトやコンクリートに配合することで、CO₂の固定化や藻場造成によるブルーカーボンへの貢献などに役立てていく

蟹江 大阪・関西万博には、「CO₂を食べる自販機」も導入されているそうですね。

米女 私も実際に訪れましたが、多くの方々が自動販売機の前で足を止めてくださるのを目の当たりにして、関心の高さを実感しました。

蟹江 万博では、10月に「SDGs+Beyond」というテーマウィークが予定されています。私も登壇し、2030年をゴールとしたSDGsの目標をその先の未来にどうつなげていくかを議論する予定です。日本はSDGsの認知度がとても高いので、ここから世界の新しいスタンダードをつくっていくべきだと考えています。ビジネスの延長線上にサステナブルを実現するアサヒ飲料さんの取り組みには、まさに次のスタンダードとなる可能性を感じています。

米女 ありがとうございます。使用済みPETボトルをリサイクルし、再びPETボトルとして利用する「ボトルtoボトル」の取り組みも、日本では急速に広がりました。このような資源循環モデルを世界のスタンダードにすることで、日本の環境貢献がグローバルに広がると考えています。いずれは「CO₂を食べる自販機」を軸とした循環型社会を、より多くの国や地域に根付かせたいですね。

SDGsのさらに先へ
100年後に届ける贈りもの

蟹江 「CO₂を食べる自販機」を社会に広めていくには、仕組みや意識の醸成も必要です。

米女 おっしゃる通りです。だからこそ、パートナーとの協業が不可欠だと考えています。吸収材を作るのにも、それを再利用するにあたっても、一社単独での完結は難しく、連携によってこそ可能性が広がります。脱炭素は、国や様々な企業、自治体、一般消費者が一丸となって取り組むべき課題です。いろんな人が関わることで、社会の興味関心も高まります。それが、ビジネスマインドの変容にもつながるのではないでしょうか。

蟹江 サステナブルな取り組みは企業の責務ですが、それをコストと考えてしまうことも少なくありません。でもビジネスとして確立できれば、企業にとっても利益となります。その意味で、サステナビリティとビジネスの統合は重要ですが、問題はその順番。まず経営ありきで進めていくのが、両立のポイントだと思います。

米女 「CO₂を食べる自販機」は、まさしくそのセオリーに則っていますね。自動販売機という私たちの通常ビジネスの中で取り組みが始まり、その価値創造を活かした営業で、設置台数の拡大を進めています。

蟹江 結果的にそれが環境貢献につながり、SDGsの達成に寄与している。すごく理想的なモデルケースです。ただ、そういう発想のできる経営者は意外と少ないので、アサヒ飲料さんの取り組みをどんどん発信していってほしいですね。大企業が率先してやることに、大きな意義があるのですから。最後に、アサヒ飲料さんの今後の挑戦と展望をお聞かせください。

米女 今回のCO₂資源循環モデルの取り組みは、アサヒ飲料が将来世代にワクワクと笑顔をつなげていくための活動である「100 YEARS GIFT」の一環です。私たちは、100年後の社会をもっともっとよくしていきたい、と本気で考えています。そう願う気持ちをワクワクの源泉とし、これからも「期待を超えるおいしさ」と、循環型社会に向けた挑戦的な取り組みで、人や社会のウェルビーイングに貢献してまいります。※©Expo 2025

※「カルピス」「CALPIS」はアサヒ飲料(株)の登録商標です