Asana Japan

生成AI時代に問われる「働き方DX」の実践力
成功の鍵は仕事の見える化と部門間連携

生成AIの活用が進む今、「働き方」は大きな転換点を迎えている。しかし、日本企業のAI導入は、いまだ世界に後れを取っており、働き方の変革にも十分につながっていない。背景にあるのは、仕事の見える化の不足と部門間連携の壁だ。今回は、働き方DXを推進する企業の実例から、変革を実現するヒントを探る。

写真:立山 東 氏
Asana Japan ゼネラルマネージャー 立山 東氏

生成AIは産業革命に匹敵するインパクト
働き方を根本から変革する“実践の鍵”とは

生成AIの登場は、産業革命やインターネットの登場に匹敵するインパクトをもたらすと言われています。しかし残念ながら、企業の働き方においてはまだ大きな影響が見られないという調査結果もあります。重要なのは、AIを「チームの一員」として習慣化し、日々の仕事の中でどう生かすか。個々の生産性を高めるだけでなく、部門を超えてつながることで、初めて「真の働き方の変革」へとつながるのです。

ツールの乱立が部門間の連携を阻むAI導入前にやるべき「仕事の進め方の整理」

ワークマネジメントプラットフォーム「Asana(アサナ)」を提供するAsana Japanは、「働き方のDX〜AIと人が協働するこれから〜」と題したビジネスイベントを開催。初の大阪開催となる本イベントには、関西を中心に多様な業界のリーダーたちが集結した。日々の業務改善や組織変革に取り組む参加者たちは、「働き方×DX」の最前線を探るべく、登壇者の一言一句に熱心に耳を傾けていた。

最初のセッションでは、Asana Japanの立山東氏が登壇。Asanaが運営する働き方の研究機関「Asana Work Innovation Lab」では、2024年から日本市場に特化した調査レポートを発刊しており、今回はその最新データを基に、日本企業における「働き方の現在地」を紹介した。

写真:立山 東 氏

Asana Japan
ゼネラルマネージャー

立山 東 氏

アンケート結果では、AIを日常的に活用しているナレッジワーカーほど生産性向上を実感している一方で、その効果が組織全体に波及しているケースは少ない。実際、「組織全体でAIを使っている」と答えた割合は、日本では17%にとどまり、米国の29%と比べても低い水準にある。「その原因は、部門ごとに専用ツールが乱立し、部門間の連携が取れていないことにあります。AI活用以前に、まず仕事の進め方を整理する必要があるのです」(立山氏)。

部門間の連携が不十分なままでは、AIを導入しても生産性の向上にはつながらない。重要なのは、「誰が」「何を」「いつまでに」「どのように」「なぜ」その仕事を行うのか――つまり、仕事の目的とプロセスを明確にすることだ。そこでAsanaが提唱するのが、「ワークマネジメント」という考え方である。

個々のタスクから始まり、それがチームで共有されるプロジェクトとなり、さらに部門単位のポートフォリオへと統合されていく。さらには、企業のミッションやゴールまでAsana上でシームレスにひもづくため、日々の業務の意味づけがより明確になる。

「Asanaが日本に来て約6年。すでに数千社にも及ぶ企業に導入していただいています。ある企業では、これまでExcelで管理していた数百のプロジェクトをAsanaに移行し、生産性が大幅に向上したという結果も出ています。ぜひ、Asanaによる働き方改革の効果を実感していただきたいです」と立山氏は語り、セッションを終えた。

パナソニック インダストリーの泥臭いDX文化の壁を越え、「名もなき業務」も見える化

写真:近田 英靖 氏

パナソニック インダストリー(株)
常務執行役員 CIO、SCM改革担当(兼) デジタル変革共創本部長

近田 英靖 氏

続くDXリーダーセッションでは、パナソニック インダストリーの近田英靖氏が登壇。冒頭、近田氏は「デジタルの話というより、日々苦しみもがいている中での泥臭い話をさせてもらいます」と断りを入れ、同社が推進するデジタル変革の現状を語った。

同社は、車載用、情報通信産業など、幅広い用途に向け、コンデンサや電子材料などの多様なデバイス・マテリアルを手掛けるBtoB企業。デジタル経営変革を中長期戦略に掲げ、固有の材料技術やプロセス技術で特長の際立つ顧客価値を提供している。

グループ全体で推進する「Panasonic Transformation」を通じて見えてきたのは、各部門間に横たわるカルチャーの違いだったと近田氏は語る。「グローバル77の拠点で約4万人の従業員が働いており、一人ひとりは変革マインドを持っていながらも、どこか殻に閉じこもっていないか。その殻を破ろうじゃないかと、日々語りかけています」。

在庫の見方や計画基準、商品別収支の捉え方などは、部門や事業が異なっても本質的には同じではないか――。こうした横の軸を整えた上で、縦(部門ごとの取り組み)の軸で強みを発揮できれば、IT投資の効果も最大化できるはずだ。そのため、「経営陣で議論したDXのありたい姿や課題などを全従業員に公開するようにしました。すると経営陣の本気度が従業員に伝わり、IT投資の重要性に対する理解も深まっていきました」(近田氏)。

さらに、デジタルスキルを持ちながら、プロジェクトマネジメントや人を巻き込む力を併せ持つ“変革の先導役”となる「DXアンバサダー」の育成にも力を入れているという。発意を持って応募してきた従業員から毎年15人程度を選出・育成し、自職場の課題解決に取り組むDXアンバサダーの活動を経営陣も後押ししている。

「同時に進めているのが、誤字脱字チェックや紙の数値のデータ化など『名もなき業務』も含めた業務の見直しや変革です。こうした業務を包括的に担うAIエージェントを開発し、従業員の生成AI活用の後押しをしたいと考えています」(近田氏)

これら多様な業務を管理する上で、Asanaの導入効果は大きいと近田氏は話す。「AsanaのAIが自動で業務報告をしてくれるため、通常では見えない小さなタスクも可視化されます。こうした誰も取り残さない業務プロセスは、これからの時代に欠かせないと感じています」。

KMバイオロジクスのAsana活用法組織再編を機に、現場起点でDXを加速

写真:園田 憲悟 氏

KMバイオロジクス
執行役員/CMC技術開発本部長

園田 憲悟 氏

2つ目のDXリーダーセッションに登壇したのは、KMバイオロジクスの園田憲悟氏だ。同社は熊本を拠点に、ワクチンや血漿分画製剤の開発・製造・供給を手掛ける医薬品メーカーだ。約1年前にAsanaのトライアルを開始し、25年初頭から本格導入。IT部門主導ではなく、現場の声を起点に運用を磨き上げているという。

KMバイオロジクスは、2018年に一般財団法人化学及血清療法研究所(化血研)から事業譲渡を受けて発足した。明治ホールディングスの医薬品セグメントとしてMeiji Seikaファルマと連携し、ワクチンや血漿分画製剤を開発、製造、供給している。ワクチンではインフルエンザをはじめ、五種混合、日本脳炎、B型肝炎など、乳幼児向けの主要ワクチンなどを供給し、日本のワクチン医療を支える存在である。

ワクチンの開発は、基礎研究から始まり、動物試験、小規模・大規模な臨床試験による有効性検証と続き、完成までにはおおよそ7〜10年を要する。同社のCMC技術開発本部は、ウイルスや微生物の培養から精製、製剤開発、充填、包装まで、製造と品質の両面で「モノづくりの技術基盤」を担っているのだ。

同本部は、組織構造の刷新とほぼ同時にAsana導入を開始。従来はワクチンや血漿分画製剤などの種類ごとに部課が分かれていたが、現在は原薬製造、製剤製造、細胞生化学試験、理化学試験など専門性ごとに縦軸を置き、統括組織に所属するユニットリーダーが横断的にメンバーを率いてプロジェクトをリードするマトリクス組織に変更したという。「これまでのライン管理者は、課の管理や人材育成とともに複数のプロジェクト全体を見る必要がありましたが、ユニット式に変更し、ユニットリーダーがプロジェクト管理を専門に行うことで、課長の負担が分散、軽減されています。また、課ごとにナレッジ蓄積、人材育成、その他様々な管理体制が進み、専門性が向上するというメリットもあります」(園田氏)。

一方で、メンバーが、課長や複数のリーダーとコミュニケーションを取らなければならなくなり、指示系統の複雑化という課題が生じた。コミュニケーションの質と量をいかに最適化するかが、スムーズな組織運営の鍵であり、そこでAsanaの活用が生きてくる。

「現在も数十のプロジェクトが同時進行しています。ExcelやPowerPointなどで管理がバラバラでしたが、今はすべてAsanaに集約しました。プロジェクトの一元管理ができ、進捗の見える化が進みました」(園田氏)

AsanaのAI機能によって週次レポートが自動生成される試みも開始され、各プロジェクトの進捗やリスク、課題が整理されて届く。誰がどこで何に困っているかが一目で分かるため、迅速な対応が可能となった。「会議にもAsanaを活用し、議題を事前にAsanaで共有しているため、会議前にコメントでやり取りができ、会議時間の短縮にもつながっています。メンバーからもAsana活用に前向きな声が多く上がっています」と園田氏は語り、セッションを締めくくった。

小さな改革の積み重ねこそDXの本質現場と経営をつなぐ、新しい働き方へ

イベントの最後は、Asana Japanの立山氏が、DXリーダーセッションに登壇した両氏に対し、社内の「DX変革の今」をより深掘りする「Q&Aセッション」が行われた。

まず取り上げられたテーマは、「働き方のDXを進める上での壁とその乗り越え方」。KMバイオロジクスの園田氏は、これまで直面した2つの壁を挙げた。1つは“ツールはIT部門から与えられるもの”という固定観念を“現場主導でいいんだ”という意識に変えるための「現場の意識改革の壁」。そしてもう1つが、管理職や経営がDXに対してどれだけ前向きで、活用できているかという「経営層の壁」だ。「今回の登壇スケジュールも内容も、すべてAsana上で公開しています。経営陣のDXに対する前向きな姿勢を見える化することも、壁をなくす一つの方法ではないかと考えています」(園田氏)。

そしてパナソニック インダストリーの近田氏が指摘したのは、「DXの目的はデジタルツールの導入」という思い込みの壁だ。「本来の目的はトランスフォーメーション、つまり事業そのものの変革です。最初はそう定義していても、気づけばツールの選定が目的化してしまうことが多い。現場、事業部、経営陣の3層それぞれが“自分ゴト”として取り組み、本来の目的を見失わない風土づくりを目指しています」(近田氏)。

写真:左から立山 東 氏、近田 英靖 氏、園田 憲悟 氏

ここで立山氏は、近田氏がセッション中に触れた「名もなき業務」について言及。近田氏によると、同社では財務部門で紙の会計データをExcelに転記・照合していた作業を、生成AIで自動化したという。

「こうした作業は、どの部署でも少なからず発生します。この『名もなき業務』もどう変えていくか。私たちは、現場の担当者に経営会議で自分の課題を直接話してもらうようにしました。すると、経営陣がそれを身近な問題として受け止め、自然と関心を持つようになったんです。地道な取り組みですが、会議自体の活性化にもつながりました」(近田氏)

次のテーマは「会議や報告作業の時間削減」。園田氏がまず着手したのは、「会議ルールの徹底」だ。会議の目的とアジェンダを明確にする、資料を事前に配布する、会議時間は50分以内に収める。こういった基本から徹底することを始めたという。

「Asanaには会議専用のプロジェクトを設け、議題などの情報を一元的に共有しています。それを基に、会議で聞きたい質問や疑問点をできるだけ事前に解消しておくという意識が少しずつ根付いてきました。また、業務報告もAsanaのAIが自動でかなりの部分を担ってくれるようになっています。このレベルをさらに高めていきたいですね」(園田氏)

最後に立山氏は、両氏に社内DX変革へ取り組む人への提言を求めた。園田氏は「まだ進行中ではある」と前置きしつつ、「AI活用は、今や個人のレベルから組織全体へと移りつつあります。現場の視点から、どんな課題があるのかを遠慮なく発信していくことが大切です。そうした課題を一つひとつIT技術で解決していく。その積み重ねこそがDXだと思っています」と語る。

一方の近田氏は、生成AIが働き方を大きく変える可能性を実感しているという。「日本経済の『失われた30年』を取り戻すチャンスだと感じています。このタイミングを逃してはならないと自分に言い聞かせながら、日々モチベーション高く取り組んでいます」(近田氏)。

こうして、大阪初となる「働き方×DX」をテーマとしたイベントは、盛況のうちに幕を閉じた。参加者は、AI活用をはじめとする具体的な事例を目の当たりにし、働き方をどのように変革できるのか、それぞれの組織の「次の一手」を思い描いたはずだ。

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