





営業職にとって、日々の商談内容をCRMに入力する作業は避けて通れない。しかし、それは本来の営業活動を圧迫する“生産性の壁”となってきた。その構造的な課題をAIエージェントの力で変えようとしているのが、ベルフェイス株式会社だ。同社が開発したSalesforce専用のAI入力エージェント「bellSalesAI」は、商談の音声を自動で解析・入力し、営業の手間をゼロにする。同社代表取締役社長の中島一明氏に、開発の背景と営業の未来を聞いた。
営業現場を苦しめる
「手入力の壁」
オンライン商談システム「bellFace」で知られるベルフェイス株式会社は、2025年に大きな転機を迎えた。祖業であるオンライン商談事業を譲渡し、AIカンパニーとして再出発したのである。現在の主力は、Salesforceの入力作業をAIエージェントが代行する「bellSalesAI」。営業現場の“手入力問題”に正面から挑む、シンプルかつ革新的なサービスだ。
「営業担当者は商談後、入力作業に1日1時間以上を費やしています。しかも記録は記憶に頼るため精度も低い。誰もが『意味がない』と感じているのに、やらざるを得ない構造があるのです」と中島氏は語る。
ベルフェイスが実施した調査によると、営業担当者の9割以上が「入力作業によって、売上や顧客満足度を高める時間が削られている」と回答。さらに同率の9割が「自動化されれば売上を伸ばせる」と答えた。現場は明確に“手入力の限界”を感じている。

営業が記録を怠れば、上司や経営層は顧客の状況を把握できない。マネジメントにも支障をきたし、CRMの活用は形骸化する。しかし、営業側からすれば、入力しても成果や給与には直結しない。現場と管理側の利害がかみ合わないまま、双方のストレスだけが積み上がる。営業の生産性を阻む“手入力の壁”は、いまや日本企業に共通する構造的課題となっている。
AIエージェントが解き放つ、
営業の時間
この非生産的な構造を打破するのがSalesforce入力エージェント「bellSalesAI」だ。商談の音声をAIエージェントが自動解析し、企業ごとに異なるSalesforceのカスタマイズ項目を認識。必要な情報を抽出・分解し、最適な形式に整えて入力してくれる。
「対面のときはスマートフォン、オンラインのときはPCアプリでSalesforceのお客様情報と紐づけておけば、商談後、エレベーターに乗る頃には連携が完了しています」と中島氏が言うように、かかるのは数分の確認作業のみだ。
導入効果は明確だ。営業一人あたり月20時間──営業日換算で月約3日分の入力工数を削減。1日1時間の余力が生まれ、営業担当者は“お客様と向き合う時間”を取り戻している。さらに、入力の自動化は「時短」にとどまらない。人によるばらつきが消え、入力精度が標準化。顧客情報の信頼性が高まり、マネジメント層は常に最新データにアクセスできるようになった。
営業現場のストレスを軽減し、経営に確かなデータ資産をもたらす。その価値が評価され、「bellSalesAI」は誕生から間もなくシェアNo.1の座に駆け上がった。
Salesforceに特化した
「深掘り戦略」
ベルフェイスの成長戦略の中核は、Salesforceに特化するという一点にある。
「日本には約100万社の企業がありますが、当社はそのうちSalesforceを導入している数万社に対象を絞りました。つまり、Salesforce導入企業に愛されるために、それ以外を捨てたのです」と中島氏は断言する。
背景にあるのは、オンライン商談ツール事業時代の苦い経験だ。汎用型プロダクトはZoomなどビッグテックに飲み込まれる──。その現実を痛感した同社は、特定領域を“深く掘る”戦略へと舵を切った。
「bellSalesAI」の最大の特長は「抽出プロンプトのオーダーメイド構築」だ。企業ごとに異なるSalesforceの項目構成を解析し、AIエージェントを個別にチューニング。証券会社なら年収や家族構成、メーカーなら導入製品や納期など、業種に応じた最適な情報抽出を実現。どんな会話からでも正確にデータを引き出せるよう、長文のプロンプトを一項目ずつ設計している。
この高精度な入力を支えるのが、同社独自の「プロンプト生成AI」である。
「AIの汎用化が進んでも、この仕組みだけは簡単に真似できません。むしろAIが進化すればするほど、深掘りした設計が価値を持つのです」と中島氏は自信をのぞかせる。
AIエージェントを活用するには
「入力エージェント」が不可欠
現在、SalesforceはAIエージェント「Agentforce」の展開を進めている。その狙いは、蓄積データを活用し、生産性を飛躍的に高めることにある。だが、AIエージェントがその真価を発揮するには、前提となる「良質なデータ」が必要だ。
「良い材料がなければ美味しい料理は作れません。Salesforceは優秀な“料理人”である『Agentforce』を用意しましたが、まだ材料が足りていない。『bellSalesAI』は、その材料を仕入れる、いわば“仕入れ担当”のような存在です」(中島氏)
「bellSalesAI」によって入力作業が自動化されれば、商談データは正確かつ構造化された形でSalesforceに蓄積される。これにより、企業は膨大な会話データから顧客の潜在ニーズを見出し、新たな商談機会を発見できるようになる。つまり、「bellSalesAI」はAIエージェントが力を発揮するための“基盤”を整える存在であり、AIエージェント時代への第一歩を担うテクノロジーなのだ。
ベルフェイスが描く未来は明快だ。入力エージェントが全営業担当者に伴走し、AIエージェントが蓄積データをもとに商談や顧客対応を支援する。入力の負担が消え、営業は本来の仕事に集中できる。その姿こそ、ストレスフリーな営業組織の理想像といえる。
「この世界観を世界で最も早く社会実装できる企業になります。海外でも、ここまでSalesforceに特化したプロダクトはまだ多くなく、グローバル市場でも十分に戦える可能性を感じています」と中島氏は力を込めた。
AIエージェントと人が共に働く新たなスタンダードを築く──その最前線に、ベルフェイスの挑戦がある。
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