タカラバイオ––本社移転・拡充で草津市を拠点に医薬品開発製造を展開

各種行政支援制度活用
地方研究拠点拡充、
人材確保
事業拡大加速

タカラバイオ株式会社 浜岡陽氏

2015年に本社を滋賀県大津市から草津市に移転した医薬品製造のタカラバイオ。本社機能の拡充等に当たっては、各種行政の支援制度を活用した。最先端の設備増強で、効率的な研究開発が進み、事業も拡大している。地元の大学や、近隣大学に通う若手バイオ人材の確保もスムーズに進むようになった。税制・助成金を最大限活用した設備投資の経緯をたどる。

CDMO事業拡大に伴い、
大津市から草津市へ本社を移転

 滋賀県草津市は、古くから琵琶湖の湖上交通の要衝として知られ、現在もJR西日本の新快速で草津駅 - 京都駅間が21分など、京都・大阪両都市へのアクセスが優れている。人口は県庁所在地の大津市に次ぐが、人口増加率は県内市町村で最も高い。経済誌が毎年実施している全国の都市の「住みよさ調査」でも、西日本エリア(近畿以西)では常にトップクラスに位置している。

 JR南草津駅から車で10分ほどの所にあるのが、タカラバイオの本社・工場だ。同社は寳酒造(現・宝ホールディングス)のバイオ事業部門として、日本におけるバイオテクノロジーの黎明期から事業をスタートしている。2002年にタカラバイオとして分社後、事業規模を拡大。現在は、製薬企業やバイオベンチャーを顧客に、再生・細胞医療・遺伝子治療薬の開発・製造に関し、初期開発から商用生産までをワンストップでサポートするCDMO(医薬品開発・製造受託)事業に力を入れている。

 同社が本社を大津市から草津市に移転したのは、2015年のことだ。

浜岡陽氏

タカラバイオ株式会社
取締役副社長
コーポレート本部長
博士(農学)浜岡 陽 氏

 「タカラバイオの創業当時は、寶酒造の研究所があった大津市に本社や研究機能を置いていました。しかし、社屋の老朽化に加え、CDMO事業の拡大を進める上で手狭になってきたことから、新しい本社用地を探していました。ちょうど草津市にあった食品メーカー大手の研究所が移転することになり、その施設を買い取ることにしました。いったん更地にして、生産ラインや研究棟、管理棟を段階的に建設していきました」と、この10年にわたる設備投資のヒストリーを語るのは、取締役副社長・コーポレート本部長の浜岡陽氏だ。

 草津市には以前から同社の物流の拠点もあり、タカラバイオにとって決して無縁の土地ではない。これを機に各地に分散していた拠点を集約していくという戦略があった。

 本社を移転する直前の14年に完成したのが、「CGCP(遺伝子・細胞プロセッシングセンター)」の1号棟だ。GMP/GCTP(共に医薬品や再生医療等製品などの品質管理・製造管理に関する基準)に対応した大規模施設で、主に細胞医療・遺伝子治療の開発・製造を行うのが目的だ。

 15年にはその隣に、遺伝子解析センターが建ち上がる。最新鋭のDNAシーケンサーや超高速データ解析サーバーを装備し、遺伝子工学研究支援サービスを提供するのが目的だ。同センターの完成を機に、大津市の本社機能もこの棟に移し、後にこの建物は本館棟と呼ばれることになった。

 本社・工場の移転に当たっては、設備が一新されることを社員はもろ手を挙げて歓迎。「真新しい設備で、効率的に研究や生産ができる」と喜んだという。大津市と草津市は隣接しており、移転に伴う社員の住居移転がほぼ必要がなかったこともある。ただ、唯一、三重県四日市市の遺伝子解析拠点で働いていたスタッフの中には、通勤のために引っ越しが必要になった人もいる。それでも、同時期に開通した新名神高速道路のおかげで、四日市市から車で通勤することも可能になった。

滋賀県草津市 本社・工場

タカラバイオ本社 管理棟

新たな研究施設の建設で
地方拠点強化税制を活用

 20年1月には従来施設の2倍、同社では最大規模(延べ床面積 14,500平方メートル)のCGCP2号棟と管理棟を新設した。背景には、大手製薬企業からのCDMO事業の受注が急拡大したことに加え、自社の遺伝子治療に関する臨床開発プロジェクトが上市を控え、準備を進める必要があったためである。

浜岡陽氏

 「CDMO事業や遺伝子治療プロジェクトの発展のためには不可欠の設備投資だった」(浜岡氏)。CGCP2号棟では1号棟と同様に、細胞医療・遺伝子治療の製造・品質試験などのCDMO事業を行うほか、新規技術の開発研究も進められる。

 CGCP2号棟の研究機能部分と管理棟の建設に活用されたのが地方拠点強化税制だ。

 本社機能の移転・拡充で様々な優遇措置を受けることができる制度。本社機能の一部または全部を東京23区から地方へ移転する「移転型」と、地方で本社機能を拡充する「拡充型」の二つの類型があり、それぞれに対して、建物等の取得価額に対する税額控除等の特例措置が設けられている。活用には移転・拡充先の都道府県知事から整備計画(※)の認定を受ける必要があり、タカラバイオは21年度に「拡充型」で認定を受け、研究拠点を強化した。

※地域再生法に基づく「地方活力向上地域等特定業務施設整備計画」の略

移転型事業とは?本社機能の一部または全部を東京23区から地方へ移転する場合※首都圏の一部地域への移転は対象外です
[クリックすると拡大表示されます]
拡充型事業とは?本社機能を地方で拡充する場合や東京23区以外の地方から別の地方に移転する場合
[クリックすると拡大表示されます]

 同税制の対象外となるCGCP2号棟の製造ラインの部分は、滋賀県の「ものづくり企業応援助成金」や草津市の「工場等設置助成金」など、自治体の助成制度も活用して建設されている。

 「CDMO市場は今後も拡大を見込まれるものの、新技術の開発にはリスクが伴います。その一部を補うことができるという点で、税制優遇措置や助成金は企業にとって非常にありがたい存在でした」と、浜岡氏は振り返る。

地元のバイオテクノロジー企業として、
大学生の認知が向上

 大津市から草津市への本社オフィス、研究・生産機能の移転・拡充は、事業規模の拡大だけでなく、人材確保についても大きな効果を発揮している。中でも関係が深いのが、立命館大学のびわこ・くさつキャンパスだ。経済、理工、生命科学、薬学など複数の学部があり、約1万5000人の学生が学ぶ。南草津駅から出るシャトルバスはいつも同大学の学生で満員だ。

 「当社の周辺にはほかにもいくつか大学があります。草津移転後、それらの学生たちの就職先に当社を選んでもらう機会が増えました。また滋賀県から京都・大阪の大学に通う学生も少なくなく、地元で働きたいと考える学生にとって、選択肢の一つとなっています。特にバイオ科学系の学生は、実験の試薬として当社製品を使う機会も多く、タカラバイオの名前になじみがある。その企業が近くにあるというので関心を持ってもらえるようです」(浜岡氏)

 複数の大学との共同研究や、企業研究の一環としての同社社員による講義の実績もある。地方の優秀な人材の確保はいまや企業にとって最優先の課題だが、その点でも草津は有利な立地ということがいえそうだ。

 現在同社は、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」補助金を活用した新たな製造拠点、CGCP3号棟を建設中で、27年度に竣工予定だ。

草津本社 ・管理棟・CGCP1号棟・CGCP2号棟(主要設備)・CGCP3号棟(建設中)・遺伝子解析センター等
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 「こうした国の助成制度だけでなく、自治体の助成制度についてもどんなものがあるのか、自治体担当者と日常的にコミュニケーションを取りながら情報を収集しています。使いやすい制度であれば今後も積極的に活用していきたい。私たちは助成金や税制優遇措置を受けながら、草津への移転・拡充がスムーズにできた。やはり立地は重要で、人材確保や事業拡大の上でもそのメリットを最大限享受しています」

 地元の企業団体との関係も深まりつつある。地域の若い世代に医薬品への関心を持ってもらう狙いもあり、最近は小学生向けの出前授業も始めた。地方に本社を持つメリットを最大に生かしながら、同社はいま世界に向けてイノベーションを発信しようとしている。

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