迅速な意思決定に効果あり
一方で活用人材は不足
生成AI活用調査の結果を受け、経営者が把握しておくべきポイントを教えてください。
宍倉剛氏(以下、宍倉) デロイト トーマツが行ったプライム上場企業における生成AI活用調査によれば生成AIの活用はこの1年で大きく進んでおり、既に約3割の企業が顧客向けサービスに導入済みで、検討・開発段階まで含めると7割に達しています。背景にはAIエージェントの登場やスマートフォンなど身近なデバイスへのAI搭載が進むことによって、ユーザー自身が積極的に利用する環境が整いつつあることなども影響しています。ユーザー側のAIに対する理解や関心の高まりを受けて、企業側もその取り組みを加速している印象です。
企業はどのような効果を感じていますか。
デロイト トーマツ
AI&Data パートナー
宍倉 剛 氏
宍倉 生成AI活用によって4割が「意思決定スピードの向上」、7割が「生産性向上」の効果を実感しています。さらに「生成AIによって収益が増加する」と見込む企業が5割を超えました。顧客向けサービスにAIを活用することで人が関与する部分が減り、業務効率化によって利益率が高まるだけでなく、AIによる顧客体験(CX)の向上やパーソナライズ化されたサービスの提供が可能となるため、売上の増加にもつながると考えられています。
デロイト トーマツ
AI&Data パートナー
宍倉 剛 氏
その一方で、AI活用に必要な人材の半数以上を確保できている企業は全体の約4割にとどまっており、現場の感覚としては「まだまだ人材が足りていない」というのが実情で、人材の獲得競争が起きている状況です。また、生成AI領域は技術進化が早いため、学び続ける体制を整えないと知識やスキルがすぐに陳腐化してしまいます。そのため、経営者は採用戦略と平行して、長期的な視点での社内人材の能力開発やリスキリングに取り組むことが、今後のAI活用の成否を左右する重要なポイントとなっていくでしょう。
企業がAIを中心に据えた業務変革を進める背景と、この流れの中で「人」と「AIエージェント」が織りなすワークフォースの変化をどのように捉えていますか。
田中公康氏(以下、田中) 少子高齢化による人手不足が深刻化していく中、企業としては競争力を維持し、売上を持続的に伸ばす方法を常に模索しています。その取り組みにおいて、AI活用は単なる生産性向上にとどまらず、企業の成長を加速させる重要なドライバーと捉えています。特に、サービス業など人手不足が深刻な業界では、AIエージェントの活用によって業務の在り方が大きく変わりつつあり、今後はその傾向がますます強まると考えます。
技術とビジネスに精通した
ブリッジ/ハブ型人材が鍵
これからAIエージェントが当たり前となった場合、人との役割はどう分担すればいいのでしょうか。
デロイト トーマツ
Human Capital マネージングディレクター
田中 公康 氏
田中 既存の役割の一部をAIに置き換えるという視点と、AIを活用しながら人のパフォーマンスを高めていくという、二つの方向性があると考えます。さらにチームの要員構成そのものも大きく変化していくでしょう。特に、チームリーダー・管理職の役割は、従来のメンバーをマネジメントする仕事に加え、「人とAIが協働するワークフロー」を設計し、AIそのものを適切に管理・監督するなど、求められるスキルも従前とは変わってくると思います。
デロイト トーマツ
Human Capital マネージングディレクター
田中 公康 氏
宍倉 最近増えているのは、「AI役員」や「AI上司」といった意思決定や業務執行を強力に支援する“人に近いAI”です。経営層の発言力や会議での意思決定をサポートするAI開発の取り組み事例も出てきています。この流れは、AI技術の高度化によって、AIが従来の補助的な立場を超え、組織内で主体的な役割を担う存在として期待されていることを示しています。企業は、AIと人が協働する新たな働き方や組織構造の変革を迫られており、ワークフォースの在り方も大きく変化しつつあります。
デロイト トーマツが考える「AI人材」とはどのような人材でしょうか。
田中 大きく三つのタイプが存在します。第一に、業務やビジネス領域に精通した「ビジネス特化型」。第二に、生成AIや先端技術に卓越した「テクノロジー特化型」。第三に、ビジネスとテクノロジーの橋渡しをして、AIを基盤とした事業変革を強力に推進できる「ブリッジ/ハブ型」です。
AI時代においては、特に両者をつなぐ第三の「ブリッジ/ハブ型」人材の存在が極めて重要だと考えます。全体の構造を把握・理解し、ビジネス視点とテクノロジー視点の双方から体系的に整理・設計できる人材こそが、AI活用成功の鍵となる「AI人材」といえるでしょう。
AI活用には3タイプの人材連携が重要。特にビジネスと技術をつなぐブリッジ/ハブ型人材が鍵となる
その実現に向けて企業が成すべきこととは何ですか。
田中 経営において最も重要なのは、AI活用の総合的なビジョンを描くことだと考えます。AIを単なる業務効率のツールにとどめるのか、経営の中核に据えて企業全体を大胆に変革していくパートナーと捉えるのか、その「腹決め・覚悟」が必要です。トップである社長がAI活用の方向性を深く理解し、他の経営陣を巻き込む力強いリーダーシップを発揮していくことが問われています。
ミドル層は、まさに変革の現場を動かす原動力です。経営層の意図を正しく理解し、「自ら会社を変革する」という強い意識を持つことが重要です。AIやテクノロジーに関するリテラシーを積極的に高め、現場を効果的にけん引し、変革の中心的役割を担うことが求められます。
現場の従業員にも、AIを積極的に活用し、業務の在り方そのものを主体的に変えていく姿勢が強く求められています。経営層、ミドル層、現場が一体となって前向きにチャレンジし、AIを生かした新たな価値創造に取り組んでもらいたいと考えています。
経営、CoE、現場、人事が
密に連携する人材戦略
これまで多くの企業がCoE組織を設けてDXを推進してきました。AIの導入・活用において、こうした組織にも変化は必要でしょうか。
宍倉 CoEは今後「ハブ&スポーク型」に変わり、より機能的な推進体制への進化が求められるとみています。AI活用を経営と一体で推進するためには、R&D機能も含めた専任組織の設置が望ましいでしょう。しかし、社内変革とビジネス変革の両方を担うには膨大な人員が必要になり、すべてのビジネス人材やIT人材、現場リーダーたちをCoEに集約するのは現実的ではありません。
それゆえ現場の変革は現場主導で進めるべきです。CoEが全てを抱え込むのではなく、現場がローコードツールなどを用いて自ら開発できるような環境を整備するとともに、AI人材の育成支援を通じて、現場の自走力を高めることが重要です。CoEは全体の支援と推進のハブとしてビジネスの成長を支える役割にリソースを集中させ、現場の自律的な変革を促しながら社内変革と事業成長を両輪で進める。そうした姿が理想です。
AI CoEの運営モデルは分散型から中央集権型、そして「ハブ&スポーク型」へと進化し、「ビジネス適用の壁」を超えるための連携を強化
さらにCoEが変化すると、人事部門の役割も変わってくるのではないでしょうか。
田中 経営層、CoE、現場、そして人事部門による「緊張感のある連携」が不可欠だと考えます。これからの人事部門は、単なる労務管理だけでなく、経営の一翼を担う戦略的な存在へと進化するべきです。人的資本経営の観点からも、企業の持続的な成長をけん引する最大のドライバーは「人」です。だからこそ、AIを導入する際には、人の在り方やスキル変革を経営視点で捉える必要があります。全社的な連携のもと、自社の成長戦略と人材戦略を一体的に推進していかなければなりません。
宍倉 人材育成の観点では、新しい役割やスキルの再定義が進んでいます。例えばエンジニアやAIネイティブ人材などにもビジネスに必要なスキルを明確に示し、従業員自身が「自分もその領域にチャレンジできる」と感じられるような評価制度や待遇に反映させることが重要です。
会社全体として
一体感を持って変革に臨む
企業の変革をデロイト トーマツはどのように支援されていくのか、強みと併せて教えてください。
宍倉 テクノロジーをいち早く取り入れて自社特化の形にしていくことが、競争力の源泉になると考えます。ただし技術以上に重要なのは「AIをどう使いこなすか」です。AIの価値発揮は、リテラシーや発想力、その使い方次第で価値が大きく変わります。デロイト トーマツは、幅広い業界知見やグローバルネットワークを生かし、構想策定から技術実装までワンストップでサポートするだけでなく、AI人材育成や人材ポートフォリオの設計など体系的な支援を通じて、企業のビジネス変革を後押ししていきます。
田中 経営層、ミドル、現場のすべての従業員が、この変化の波をどのように受け止め、どのように主体的に向き合うかが極めて重要です。共通して大切なのは「会社全体として一体感を持って変革に臨む」ことです。私たちデロイト トーマツは、単なる導入支援にとどまらず、企業の皆さまが持続的に成長し続けられるよう、全力でサポートします。






