dentsu japan 最新AI事例セミナー AIとの対話が生み出す新たな体験価値 先進事例に学ぶ顧客体験変革の実装とインパクト dentsu japan 最新AI事例セミナー AIとの対話が生み出す新たな体験価値 先進事例に学ぶ顧客体験変革の実装とインパクト

顧客接点を継続的に創出する手段として、AIの活用が広がっている。これに伴い、dentsu Japan(国内電通グループ)は、AIによる企業変革をグループ全体で包括的に支援する体制づくりを強化。その実践を通じて得られた成果をセミナー「AI DAYS」で披露した。セッション1では「顧客体験改革-AIエージェントは顧客とのつながりをどう変えるか-」をテーマに、最新事例として「GDO」と「東急リバブル」の展開を織り交ぜたパネルディスカッションを実施。クライアント、クリエイター、コンサルタントの視点から、成功のポイントや予期せぬ効果、開発の舞台裏までが明かされた。

ゴルフにまつわる全接点で
新しい体験を創出
個々の顧客に寄り添う
「GDO店員さんAI」を目指す

ゴルフダイジェスト・オンライン
ブランドコミュニケーション本部 本部長
エンゲージメント本部 本部長

加藤 裕稔

生成AIの普及が進み、広く活用されるようになった。AIは、いまや応対の自動化にとどまらず、顧客との関係のあり方そのものを変えようとしている。本セッションでは、AIエージェントを用いて新たな顧客接点を設計し、継続的な関係構築を生み出す先進事例が紹介された。その一つが、ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の取り組みだ。

ゴルフダイジェスト・オンライン
ブランドコミュニケーション本部 本部長
エンゲージメント本部 本部長

加藤 裕稔

2024年4月、GDOは電通デジタルと共同で「GDO-AI Lab」を設立。ゴルフという特定ジャンルにおける多様な接点体験を、生成AIで最適化する実証実験を進めている。

「当社に蓄積されたデータやゴルファーのインサイト、予約やECサービスで培ったナレッジを、電通デジタルさんのAI知見と掛け合わせることで、お客様の体験向上に資するサービスの提供を目指しています」とGDOの加藤裕稔氏は語る。

最初に着手したのは、ゴルフ場予約サイトのAI化だ。全国約2000カ所のゴルフ場の詳細なデータと、ユーザーから寄せられた口コミ情報をAIに学習させ、ユーザーの要望に応じて最適なゴルフ場をチャット形式でレコメンドする機能をテスト実装した。

「AIアシスタントを導入することで、会話の中でスムーズに条件指定ができるようになりました。会話のラリーも2~3往復ですべて完結できるよう設計しています。また、予約状況は刻一刻と変わるため、確実に今予約できるところをお客様に提案する仕組みづくりなど、地味ですが重要な部分にもこだわりました」(加藤氏)

さらにGDOでは、ラウンド後のフォローにもAIを活用。LINEやメールを通じて「今日のプレーはいかがでしたか?」と問いかけ、ユーザーが任意でプレーの感想や評価をチャットに投稿できるようにPoCとして検証した。

「実は、予約チャットよりもこのアフターチャットのほうが反応が高かったのです。ラウンド直後は、お客様もご自身のプレーについて語りたくなるタイミング。『ベストスコアを更新しました!』『スライスが出まくりでした』『トイレが清潔でよかった』など、ネガポジ含めて様々なコメントが寄せられます。相手がAIだと話しやすいのか、従来のレビュー欄では拾いきれなかったリアルな声を集められるようになりました」(加藤氏)

こうした対話ログは、サービスの改善や顧客理解に役立つだけでなく、新たなビジネスの糸口にもなる。実際、アフターチャットでは「パターを買い替えたい」などの声が増えているため、ECとの連携強化も検討中だという。

「ラウンド直後は、まさにインサイトが顕在化する瞬間です。そこにうまくアプローチできれば、従来のマーケティングとは違うかたちで価値を届けられると考えています」(加藤氏)

情報収集から予約、用品購入、ラウンドの振り返りまで、ゴルフのあらゆる接点において新しい体験の創出を目指す

同社がAI活用で目指すのは、ゴルフにまつわる体験を通して一人ひとりをサポートする「GDO店員さんAI」の実現だ。AIというテクノロジーを利用しつつも、その活用はあくまで人の感情に寄り添うことを出発点としている。根底にあるのは、お客様に対する気遣いやおもてなしの精神だ。この姿勢こそが、AIエージェント活用成功の鍵を握っているといえよう。

雑談にも対応する
AIエージェントの存在が
東急リバブルの
物件閲覧数アップに貢献

一方、不動産という情報量の多い検索サイトにおいて、よりパーソナルな体験を提供しているのが、東急リバブルの事例だ。同社のサイトでは、不動産AIアドバイザー「Tellus Talk(テラストーク)」を設置。構想段階から設計・開発をリードした電通デジタルの有益伸一氏は、こう語る。

電通デジタル
データエンゲージメント部門
AI&データコンサルティング事業部 事業部長

有益 伸一

「従来の不動産サイトは、カタログ的で一方通行になりがちです。ユーザーは膨大な物件情報の中から、必要なものを自力で探さなければいけない。でも多くの方は、自分が本当に何を欲しているのか、明確に言語化できていないことが多いのです」

こうした曖昧な欲求にアプローチするため、「Tellus Talk」では、AIエージェント「Tellus(テラス)」との会話を通じてニーズを引き出し、適切な物件や情報に導く体験を設計した。もちろん、ただチャットを置けば解決する話ではない。ユーザーにとって自然でストレスのない対話を実現するには、詳細なインサイト分析も必要だ。

電通デジタル
データエンゲージメント部門
AI&データコンサルティング事業部 事業部長

有益 伸一

「電通デジタルには豊富な生成AIの活用実績に加え、マーケティングやクリエイティビティの知見、そして生活者を理解するための膨大なデータ資産があり、適切に管理された環境下で活用しています。その強みを活かし、『Tellus Talk』では、プロジェクトの初期段階からクライアント様と膝詰めで話し合い、顧客のマインドセットを構築。リリースや更新にあたっては、社内の様々な組織や経営層の方々からのフィードバックもふんだんに取り入れています」(有益氏)

マーケティングのプロとして培った、「人の心が動き、
人の行動が変わっていくための力」をAIソリューション開発にも応用

こうして生まれたAIエージェント「Tellus」は、その親しみやすさから、「好きなプロ野球チームはある?」といった不動産とは関係のない質問を受けることもあるという。そんなときも、「野球についてはまだ勉強中ですが、プロ野球チームの本拠地近くの物件情報ならご紹介できますよ」と臨機応変に対応。会話の流れを汲み取りながら、不動産AIとしての役割を果たす愛らしいキャラクター性も、人気を支える理由となっているという。

その結果、「Tellus Talk」は実装直後から高い利用率を記録。物件閲覧数や問い合わせ件数の増加といった効果も表れている。それはすなわち、ビジネスの拡大を意味する。話しかけたくなるAIエージェントの存在が、事業インパクトをもたらした好事例といえるだろう。

AIエージェントに
求められる価値の源泉
会話体験を支える
キャラクターの重要性

電通
CXクリエイティブセンター
コンテンツクリエイティブ3部 アートディレクター

糸乘 健太郎

顧客接点でAIを活用するうえで、欠かせないのがキャラクター性の設計だ。ユーザーとの親密な関係性を築き、継続的に価値を届ける存在として、AIキャラクターはどうあるべきか。この問いに早くから向き合ってきたのが、電通で多数の企業キャラクターを手がける糸乘健太郎氏である。

電通
CXクリエイティブセンター
コンテンツクリエイティブ3部 アートディレクター

糸乘 健太郎

「AI時代のキャラクター設計には、従来とはまったく異なるアプローチが求められます。これまでのキャラクターは主に情報発信役を担っていましたが、AIエージェントに必要なのは、ユーザーの共感を引き出すコミュニケーション能力。それに伴い、キャラ設定や世界観のつくり方も大きく変わってくるのです」

糸乘氏は、AIキャラクターに求められる要素として、5つの視点を挙げる。1つは、キャラクターの「Identity」だ。キャラクターの一貫した人格やビジョンが、ユーザーとの関係性を深める土台となる。2つ目は「Usability」。気の利いた情報を自然に差し出すことで、会話に価値が生まれ、信頼も育つ。

「とりわけ重要なのが、3つ目の『Expression』。つまり表情や声のトーン、話すテンポといった、表現にまつわる領域です。人間同士の会話においても、間の取り方やリアクションは、コミュニケーションを円滑に進めるための大切な要素です。さらに相手に合わせた対応を図るには、4つ目の『Personalize』も欠かせません」(糸乘氏)

そして最後のポイントが、「Evolve」だ。テクノロジーの進化に合わせ、AIキャラクターも成長する。ユーザーとの対話履歴をもとに、関係性もアップデートされていくはずだ。そんな将来の変化をも見据えたキャラクター開発が、これからはますます重要視されるという。

糸乘氏はこの思想をもとに、AIと会話することで認知症予防を促すプロジェクトや、リアル店舗に設置するAIロボットなど、様々な試みを進めている。

「エンターテイメント性が高いのも、AIキャラクターの大きな魅力です。その価値を追求することで、AIの可能性をさらに広げていきたい」と糸乘氏。そうした挑戦を受け入れる土壌が、日本にはあるという。

「日本ではキャラクターとの距離が近く、キャラクターがいることで安心感を抱く文化があります。それがたとえ着ぐるみであっても、感情移入できてしまう。私はこれを『ファンタジー能力』と呼んでいますが、この着ぐるみがAIに置き換わっても、きっと同じことが起きると確信しています」(糸乘氏)

キャラクターの個性が会話体験に与える影響は、データでも裏付けられている。電通が行った調査では、対話内容が同じでも、キャラクターの個性や話し方を変えることで、ユーザー評価も大きく向上したという。

キャラクター性の違いや有無が、ユーザー数や会話数、対話のしやすさに大きく影響することが明らかに

日本では、キャラクターは価値ある資産と呼べる存在だ。そこにAIの力が加わることで、顧客体験はさらに進化していくに違いない。

インサイト起点のAI設計で
ユーザーの心に響く体験を提供

登壇者たちに共通するのは、「テクノロジーありきではなく、インサイト起点で考える」という姿勢だ。モデレーターを務めた電通デジタルの山田健氏は、「ユーザーの気持ちに深く入り込み、そこに寄り添うAIを設計する。お客様を見つめ続けるそのプロセスこそが価値ある体験を生み出すのだと、みなさんのお話から伝わってきました」とこれまでの内容を振り返る。

電通デジタル 執行役員
データ&AI/CR担当

山田 健

セッションの終盤、話題は「AIエージェント活用の事業インパクト」へと移っていった。有益氏は、「事業インパクトを生むには、AI育成のサイクルを回すことが不可欠です」と強調する。「AIとユーザーの対話から得られる価値は非常に大きいものです。従来のWebサイトではバナークリック数や滞在期間など間接的な指標しか得られませんでしたが、チャットではユーザーのニーズが言葉として残ります。このログを活用すれば、AIはどんどん賢くなり、ビジネスの成長にもつながります」

電通デジタル 執行役員
データ&AI/CR担当

山田 健

コミュニケーションのAI化により蓄積された対話データを、サイクルの中で循環活用することで、AIもビジネスも成長していく

GDOでは、すでに対話データを広告表現に活用する取り組みが始まっている。直近では、ターゲットごとに異なるバナー広告をAIで生成、配信。その反響は、「驚くほど良好だった」と加藤氏は語る。「バナー制作にかける時間とコストを抑えながら、これだけのパフォーマンスが出せるAIエージェントには、大きな可能性を感じています」

同社が「GDO-AI Lab」で目指すのは、各接点で取得した対話データや顧客情報を横断的に活用し、個々のジャーニーに応じた新しいゴルフ体験を創出すること。そこには、真に価値ある体験をお客様に提供したい、という強い思いがある。

「これを実現するためには、広告からCRMまで幅広い領域を手がけ、当社のことをよく理解してくれている電通デジタルさんのようなパートナーと組むことが、一番の近道だと考えています」(加藤氏)

AIの力を最大限に引き出すには、顧客理解を軸とした技術と創造性を掛け合わせる設計力、そして信頼できるパートナーとの共創が欠かせない。電通グループは、顧客体験変革に挑む企業にとって、心強い伴走者となるだろう。