dentsu japan 最新AI事例セミナー AIによるマーケティング業務変革その成功の秘訣とは? dentsu japan 最新AI事例セミナー AIによるマーケティング業務変革その成功の秘訣とは?

AIを活用することによって、マーケティング業務が高速化、高度化されている。dentsu Japan(国内電通グループ)は、AIによる変革をグループ全体で支援しており、その実践を通じて得られた成果をセミナー「AI DAYS」で披露した。セッション3「マーケティング業務変革―AIによる高速化と高度化、その成功の秘訣」では、業界をリードする4人のキーパーソンがAIを用いた最先端のアプリケーションやワークフローを紹介。後半では、本音を交えたトークセッションを行った。

AI活用の事例と成果が続々
ノーコードで開発できる環境も

アドビ
マーケティング本部
本部長

清水 仁志

アドビの清水仁志氏が、電通グループとの協業とAI活用の状況について紹介した。アドビは電通とグローバル・パートナーシップ契約を結び、2025年度から協業をスタートさせている。アドビの広告制作物を電通が作る。同時に、電通はアドビが開発するAIツールをいち早く活用しながら、2社が協働してマーケティング分野のDXを進めていく。

アドビには「Creative Cloud」「Document Cloud」「Experience Cloud」の3つの事業領域があり、それぞれにAIを導入している。Creative Cloudでは、「Adobe Firefly」という生成AIツールを提供し、誰にでも高品質な画像、動画、ベクター画像などのコンテンツを商用利用が可能な形で作成できる環境を提供している。Document Cloudでは、PDFに含まれる情報を自動的に解析し、要約、検索、諮問応答などを実現するAIアシスト機能を実装している。

アドビ
マーケティング本部
本部長

清水 仁志

Experience Cloudは、マーケティング分野のDXを支えるデジタル基盤だ。例えば、Adobe GenStudio for Performance Marketingというソリューションを活用すれば、広告素材の制作から管理、配信、効果測定までを一元管理できる。各工程でAIを生かした高度化や自動化を進めている。その具体的な成果として、アドビのグローバルマーケティングチームによる概念実証では、アドビ製品の「Photoshop」のメールでクリック率が10%以上改善し、「Illustrator」ではクリック率が57%向上した。件名の定期テストで開封率が 8.5%上昇し、Creative CloudのSNS広告ではROI(投資対効果)が10%改善した。コンテンツを最適化するスピードと精度が、AIによって大幅に向上している。

アドビはマーケティングのあらゆる工程でAIを導入し、マーケターの業務を支援している

「アドビとしても様々なかたちでAIの活用を加速していますが、変化が大きい領域でもあり、改善のためのアクションは尽きないと考えています。特に、『AI活用モデルのワークフローの整備』『AI活用推進の組織・役割分担の整理』『評価制度への組み込みと反映』などは現場における肌感としても重要なポイントであると感じており、取り組みを強化していきたいと考えている分野です」(清水氏)

次に、セプテーニ・インキュベートの斉藤彼野人氏が、AIワークフローをプログラミング無しで作れるノーコードAIプラットフォーム「Dify」を紹介した。

セプテーニ・インキュベート
取締役
FLINTERS Dify事業コンサルタント

斉藤 彼野人

「Difyを用いると、ドラッグ&ドロップによる直感的な操作で誰もが簡単にAIワークフローを構築することができます。 LLMの処理を繋ぎ合わせるだけでなく、データウェアハウス、コミュニケーションツール、業務アプリケーション、ナレッジDBなどを繋ぎこむことで、社内データを活かしたAIワークフローを構築することができます。セプテーニグループでデータやAIを活用したソリューションの開発・提供などを担うFLINTERSでは、 Difyを活用した生成AI研修やDify構築コンサルタント人財派遣、Difyワークフロー開発受託など、ニーズに応じて様々なソリューションも提供しています」(斉藤氏)

セプテーニ・インキュベート
取締役
FLINTERS Dify事業コンサルタント

斉藤 彼野人

「Dify」では、誰でもドラッグ&ドロップによる直感的な操作でAIワークフローを容易にデザインできる

電通
BXクリエイティブセンター
エクスペリエンスデザイン部
クリエイティブディレクター

木村 裕也

結婚式場を運営するある企業では、Difyで結婚式のプランニングを支援するAIワークフローを進めている。お客様に実施した事前アンケートをOCRで読み取り、AIが打ち合わせ用のヒアリングシートを自動生成する。打ち合わせの後、AIが音声記録を分析して提案書を自動生成する、などだ。

それ以外にも、YouTube広告のブラックリストの自動チェック、画像を使った薬機法・広告ガイドラインの自動チェックなど、Difyで作ったAIワークフローの事例が増えている。

続いて、電通の木村裕也氏が、電通で開発し、業務に活用している2つのAIツールを紹介した。

電通
BXクリエイティブセンター
エクスペリエンスデザイン部
クリエイティブディレクター

木村 裕也

1つは、AIブレストシステムの「AIQQQ FLASH(アイキュー・フラッシュ)」だ。テーマを入力するだけで、AIが画像付きのアイデアをどんどん出す。MicrosoftのPowerPoint形式でダウンロードし、自由に加工できる。もう1つが、AIペルソナシステムの「AIQQQ TALK」だ。欲しいペルソナのデータを入力すると、それに応じた仮想のペルソナをAIが自動生成する。生成したペルソナとは自然な言語で会話でき、商品やサービスのアイデアに関する生活者の反応をバーチャルにテストできる仕組みだ。

電通グループで使われている2つのAIツール。
AIで多数のアイデアを自動生成し、仮想ペルソナですぐに生活者の反応を試せる

「情報を集めてAIQQQ FLASHでアイデアを生成し、すぐにAIQQQ TALKで生活者の反応を試します。このプロセスを高速で回すことで、仮説の検証とアイデアの改善を圧倒的なスピードで進めるのです。100種類以上のアイデアを顧客企業に持ち込み、その場でAIQQQ TALKの反応を見ながら、有望なプランを絞り込むことも多いです。アイデアの大枠が固まったら、最後に電通の専門家が企画案に仕上げます」(木村氏)

これらのAIツールは広告プランの作成だけでなく、「未来の事業構想」「R&D技術の製品化」「潜在顧客のAIペルソナ化」など、様々な課題解決に利用されている。

AIが優れた成果を出すようになり
人の役割が変化している

後半では、登壇者4人によるトークセッションが行われた。電通の藤本眞一郎氏がモデレーターを務めた。

電通
トランスフォーメーションプロデュース局
シニアビジネスプロデューサー

藤本 眞一郎

1つ目のテーマは「最もお客様に喜ばれるAI体験」だ。

まず、清水氏が「ビジネスのROI向上を実感いただけるような体験や事例が喜ばれています」と述べた。具体的に、アドビ製品の導入によってコンテンツサプライチェーンを構築した顧客の中には、広告コンテンツの制作時間を56%、制作コストを78%以上下げた事例がある。加えて、「ブラックフライデー」という、アドビが年に1度行っている大型セールの事例を紹介した。グローバルで同時に開催するため、30以上の言語で78地域向けに、1万6000点以上もの広告バリエーションを作らなければならない。従来は制作に数週間かけていたが、今ではAdobe GenStudioを活用し、わずか数日で作れるようになった。

電通
トランスフォーメーションプロデュース局
シニアビジネスプロデューサー

藤本 眞一郎

続いて、木村氏が「リアルタイム性に感心する顧客が増えている」と紹介。かつては、クライアントと会議をした後、「1週間後に次のものを持ってきます」とか「数日かけて調査します」といった流れが普通だった。しかし現在では、ミーティングの場でAIQQQ TALKを立ち上げ、仮想ペルソナの意見を聞いてすぐに意思決定できる。また、AIQQQ FLASHを使い、その場でデザインのプロトタイプを何パターンか作って見せることもある。スピード感のあるプランニングが喜ばれているという。

斉藤氏は、顧客に最も喜ばれるのは、AIの活用が具体的な成果につながった時であるという。「以前、集客用のWebページを改善するためのAIワークフローを作ってほしいと頼まれた際、従来人が介在し改善していたコンバージョン率を上回る改善をみせ、現在では複数のWebページ改善ワークフローの構築を併走させています。具体的な成果につながると感謝されますし、生成AIは使えるという認識が広がります」と述べた。

2つ目のテーマは「AI活用が広がる中で、人の介在価値はどのように変わるか」だ。

斉藤氏は「属人的な暗黙知だった知見が、AIによってどんどん形式知化されています。その中で、人の介在価値は何か。暗黙知だったものをコンテキストデータに変換し、AIに入力することです」と述べた。例えば、斉藤氏が先述した「Webページの改善ワークフロー」でも、斉藤氏のチームはデザイナーがやっている改善プロセスや業務内容をつぶさに観察し、そのノウハウを細かいプロンプトにしてAIに入力した。

木村氏は、人の役割は、AIが知らない情報を持ってくることだという。「AIが知らない情報とは、主に3つあります。1つ目は『データ』。ネットにない独自の調査や足で稼いだ一次情報が重要になります。2つ目は『メソッド』です。これは、マーケターやクリエイターの仮説や思考プロセス、企業文化などから生まれる独自の視点を指します。3つ目は『フィードバック』。専門性の高い意見や、実際にアイデアを試した反応のことです。ネットで容易に集められる情報だけでなく、こうしたユニークな情報を入れないと、AIはいつまでたっても優等生のような回答しかできません」

AI時代の組織変革は
小さな成功体験を共有することから始まる

3つ目のテーマは「AI時代に即した組織変革を始める際に、気を付けるべき点」だ。

斉藤氏は「あまり大規模に計画しないことでしょう」と語る。AIは日進月歩で進化しているため、何かを計画しても、すぐに変わってしまうことが多い。計画よりも、小さな成功体験を積み重ねていくことの方が重要だと強調した。

「ハードルを下げて、スピーディに進めることが大切です」と、木村氏は話す。AIQQQ FLASHやAIQQQ TALKの開発も、できることから徐々に試していく中で、自然に形になっていったという。

清水氏も同意する。「気軽にいろいろ試してみて、成功体験を作ることから始めましょう。いきなり組織を変革しようと考えるとハードルが上がります。まずは一部の熱心な人とコミュニティを作り、組織全体に広げていくような方法が良いと思います」(清水氏)

藤本氏が「AIを活用できる組織になるために、人財をどう育成していくべきでしょうか」と問うと、清水氏は「組織文化として、新しいことに挑戦できる土壌をどう作っていくかが重要です」と答えた。AIの活用を、組織や個人の評価とうまく組み合わせていけば、会社として取り組みやすくなる。

「AI活用がなかなか進まない組織では、AIの可能性に関するメンバーの理解度が低いように思います」(斉藤氏)。AIは座学で学ぶより、実際に使いながら学んでいく方が効果的だ。Difyを活用した生成AIの研修でも、理屈を説明する前にまず触れてもらうようにしている。ツールの扱いに慣れてくると、あれもしたい、これもしたいという具合に、ユーザーが自発的に動き出すケースが多い。

木村氏は、業務効率の向上以外の価値に、もっと目を向けるべきだと強調する。「AIには、従来の仕事をスピードアップする効果もありますが、絵心のない人が美しいイラストを作れるようになったり、企画書が苦手だった人が構成や文章を整理できるようになるなど、できなかったことができるようになるという効果も大きいのです。そこにフォーカスすれば、人財育成にも成果を出しやすくなります」

最後に、藤本氏が「私たちもクライアント様と共に悩みながら、日々進歩しています。一緒に試行錯誤し、新たな価値を目指していただける方は、ぜひお声がけください」と述べ、セッションを締めくくった。