- AI & エマージングテクノロジー/ベイン・アンド・カンパニー
生成AIを企業固有の業務に活用し
成果を創出していく成功パターンとは
2022年11月にChatGPTが登場して以来、生成AIに対する認知は急速に広がっている。インターネットやスマートフォンに匹敵するインパクトがあったことは確かだが、実際に企業でどう活用が広がっているのか。従業員が個々に生成AIを活用しているというケースだけではなく、企業固有の業務へ応用されるケースも増えているという。具体的にどんな活用事例があり、日本企業での課題はどこにあるのか。企業のIT活用をアドバイスするベイン・アンド・カンパニーでパートナーを務める安達広明氏が最近の活用事例と導入成功のポイントを語った。
(聞き手:日経BP 日経クロステック 発行人 森重 和春)
生成AIを活用することで
コア業務を強化する先進企業
パートナー
安達 広明 氏
森重 生成AIは今どんな業種でどんなことに使われているのでしょうか。
安達 日本はまだテスト段階にあることが多いので、海外の事例を中心にご紹介します。マーケティング領域での生成AIの活用を模索する消費財メーカーでは、これまで人手で時間がかかっていたダイレクトメールの反応を試すPDCAサイクルを、生成AIのサポートによって早く回すことができるようになり、開封率を4割向上させることができました。
エネルギーインフラ企業では、フィールドメンテナンスを担当するフィールドエンジニアの支援に生成AIを使っています。社内にある膨大なマニュアル類を生成AIに学習させて、自然言語で質問できるようにしたことで、熟練者ではない人の生産性が17%向上しました。
設計や見積もりに生成AIを活用する製造業もあります。使用する部材のデータを生成AIに学習させ、画像や品番から類似のものを抽出する仕組みを構築し、ベテランに頼って属人化していた業務に生成AIを活用したことで、見積原価を0.5%下げることができました。
膨大な承認申請書が求められるヘルスケア企業では、ドラフト作成に生成AIを活用しています。書類のフォーマットを生成AIに学習させてドラフトを作成させ、それを人間がチェックするという協業体制によって作成工程が8割削減しました。
ある金融機関では営業提案のストーリー作りに生成AIを使っています。生成AIに顧客の特性を学習させたうえで複数の提案のストーリーを作成させ、営業担当者が選択できるようにしたことで準備作業時間が短縮され、顧客に対する訪問数が4割増えました。
これらは生成AIを活用することで人間がより価値が高いコア業務に注力できるようにした事例です。それがビジネスに成果をもたらしています。
森重 貴社でも生成AIを使用しているのでしょうか。
安達 ベインでも生成AIを最大限活用しています。特にユニークなのが、カスタムGPTの開発です。顧客調査の分析やヒアリングノートの作成など、現場の担当者がワンクリックで処理したいと思う業務を複数のカスタマイズされた生成AIツールに行わせています。すでに100以上開発されています。
さらに企業名から一般情報を検索してサマリーレポートを作成するような業務のオペレーションにも生成AIを利用しています。生成AIは現在15のコア業務にも活用されており、今まで以上にコンサルタントがソリューションを考えることに時間に充てることができるようになりました。
検証段階を抜け出すために
乗り越えるべきハードルがある
日経クロステック 発行人
森重 和春
森重 日本企業が生成AIを導入するうえで課題は何でしょうか。
安達 昨年度も日本企業の経営者の方たちと数多く議論してきましたが、総じてポジティブで、生成AIの導入にはハードルはないはずです。
ただ、検証で足踏みするケースが多いのも事実です。その理由の多くはIT部門やDX部門のその先にある、実際に利用する現場の方たちへの巻き込みが上手くいっていないことや企業内での優先順位の問題です。ITインフラやセキュリティといった問題もあります。
導入が進むには、投資効果も大きなポイントです。よく「何万時間の効率化を実現」といった試算ベースの話がありますが、効率化されることで発生した空き時間をどう使うかが問題です。リターンが生み出せるという保証がないと投資することは難しくなります。
森重 生成AIが誤った答えを返してしまうハルシネーションやコンプライアンスリスクなどにはどう対処すればよいのでしょうか。
安達 対応としては大きく2つあります。1つはあらかじめ対象となる情報を用意しておくRAG(検索拡張生成:Retrieval Augmented Generation)の導入です。生成AIにRAGを使わせることで、間違った回答をするリスクを低減できます。
もう1つはダブルチェックです。人がチェックしたものを社外にアウトプットすることも重要ですが、最近では生成AI自身がチェックする手法も広がっています。AIは万能ではなく、よく働く新人のようなものです。教科書やマニュアルを与える必要がありますし、社外にアウトプットする前に上司がチェックするのは当然です。賢く利用するのが重要です。
生成AI活用の成功事例に見る
3つの共通パターンから学ぶ
森重 生成AIを全社で導入する場合のポイントはどんなところにあるのでしょうか。
安達 成功する企業には3つの共通するパターンがあります。1つ目が戦略とリンクさせていることです。AIの導入自体は戦略でも目的でもありません。あくまでも本業を加速させるツールです。生成AIで本業を伸ばすことができれば、意思決定が早くなり、現場の巻き込みが進みます。
2つ目は専門部隊の設立です。技術者だけだと実装段階に進まないことが多くあります。生成AIは現場で調整して作り込まなければ期待通りの結果を返してくれません。現場で効果を出すためには、ツールを作って終わりではなく現場が協力して取り組むことが必要です。デジタル人材とビジネスサイドのメンバーによる混成チームを作ることが重要です。
3つ目はインフラの再設計です。生成AIを活用するには、データ管理やITインフラの見直しが必要です。データがどこにあり、どうアクセスして、誰がどこまで利用できるのかなど、優先して決めておく必要があります。
森重 生成AIは、2025年どうなっていくと思われますか。
安達 テクノロジーの進化のスピードはますます加速します。画像や映像の処理能力は格段に向上して、活用の可能性は高まります。より多くの日本企業でもハードルを乗り越えて活用が広がっていくと思います。
当社として2025年は分水嶺だと位置付けています。アドバイザーとして日本企業での本格的な生成AIの活用をグローバルの知見を活かし導入支援することで、企業がより一層競争力をつけていくことに貢献したいと思っています。

