- 人手不足問題に打ち勝つ/パーソルテンプスタッフ
人材不足時代の人材活用を妨げる
「3つの壁」をどう乗り越えるか
労働力不足の深刻化は止まらない。事業を継続するのに必要な人材を確保できないことから廃業する「人手不足倒産」も加速している。人材不足解消を考える際に指摘されるのが、「企業側と働く側のニーズの壁」「企業側と世の中の技術的な変化との壁」「育成におけるHR部門と現場との壁」の3つの壁だ。これらの壁を乗り越えるには何が必要なのか。総合人材サービス会社大手のパーソルテンプスタッフの加瀬洋子氏と古澤一樹氏に話を聞いた。
(聞き手:日経BP 総合研究所 人的資本経営フェロー 一木裕佳)
人数ではなく時間で考えることが
立ちはだかる壁を取り除く鍵に
人事本部長
CHRO
加瀬 洋子 氏
一木 今の労働力不足の状況をどう感じていますか。
古澤 パーソル総合研究所が未来の労働市場を推計したデータによれば、2035年の労働力不足は384万人不足する見通しです。2023年と比較すると⒈85倍深刻な状況で、時間に換算すると、1日当たり1775万時間不足することになります。
加瀬 人事の立場からすると人手不足は切実な問題です。ただ、日本の人口が増えることはありません。今までのような人の取り合いには限界があります。だからこそ時間の概念で考える必要があると考えています。一人ひとりの生産性を向上させるとか、スキルや適性に着目した人事配置などで、より短い時間で成果を上げてもらうことが必要です。
古澤 働きたい人は、自分の隙間時間で働きたい、ダブルワークをしたいと考えていますが、企業側からは依然として「何人欲しい」「こういう人が欲しい」というご要望が多いと感じています。
一木 働きたい人たちを活かせていない、というのが実態なのですね。
フレキシブルワーク事業推進部
部長
古澤 一樹 氏
加瀬 そこでは「企業側と働く側のニーズの壁」「企業側と世の中の技術的な変化との壁」「育成におけるHR部門と現場との壁」があると言われています。
まず1つ目の壁「企業側と働く側のニーズの壁」ですが、働く側は仕事に就くために企業側に合わせてきたという時代がありました。それがコロナ禍をきっかけに希望する働き方を主張できるようになりました。でも企業として全てに対応するのは難しいというのが現状です。この壁を越える鍵は「現場の組織の長」にあると思います。働き手の声に耳を傾けて、組織としてのミッションと働き手の意識を擦り合わせることが大切です。そのためにもこの壁の存在を理解してほしいです。
2つ目の壁である「企業側と世の中の技術的な変化との壁」で指摘されるのは、リモートワークができるような環境づくりについてです。安全に業務を行えるようにセキュリティーを準備するなどがありますが、昨今は議論がツールなどに寄り過ぎている気がします。ツールを入れれば解決するわけでなく、企業・組織としてあるべき姿を活かしながら、マネジメント能力を高めることが大切です。
一木 3つ目の「育成におけるHR部門と現場との壁」ですが、多くの部門を見ている人事が全ての状況を理解すること自体が難しい気がします。
古澤 そうですね。現場のニーズは個別にあります。例えば、関東で人材が必要で北海道にスキルを持った優秀な人材がいるのに、通勤は無理なのでフルリモートで働きたいという人がいても、人事制度が整っていないために対応できないといったことはあります。
加瀬 必ずしもどこかの企業に所属しなくても仕事ができる時代においては、人事としては会社で働く魅力を高めることも重要です。そのために人材育成のためのコンテンツや施策の充実を図るべきでしょう。当社では2020年4月から企業内大学「Temp University」を創設しました。教える側もほぼ全員が社員で構成されており、専門的なことだけでなく、生活の知恵とかマネーリテラシーなどもあって社員同士で教え合い学び合うことで、会社にいることが働くことだけでなく良いライフにもつながっていくことを実感し、会社に魅力を感じてもらいたいと考えています。
「完全在宅」勤務であれば
7.5倍のエントリーが望める
一木 派遣サービス自体はどう変わっていくのでしょうか。
人的資本経営フェロー
一木 裕佳
古澤 今までは企業から見てアシスタント的な働き方が多かったと思うのですが、そういう業務を人工知能(AI)とかRPA(Robotic Process Automation)に任せられるようになったこともあって、派遣社員に求める能力が変わってきています。経理業務や決算業務ができるといった、より専門性のある人材へのニーズが高まっています。実際に地方ではオフィスワークはあまりありません。そこで派遣社員の専門性を高めてもらうことで、業務委託で仕事を受けて、どこでも働ける仕事を作っていくことを目指しています。
当社の派遣求人検索サイト「ジョブチェキ」のデータでは、「在宅なし」の求人のエントリー倍率を1とした時の「完全在宅」に対するエントリー倍率は、実に7.5倍です。求人に対するエントリー数が全く違います。そういう求職者のニーズに応えていくことが大切です。
加瀬 在宅勤務の良し悪しに加えて、求職者にとっては通勤時間が収入にならないことも影響します。企業として不足している労働時間を埋めることにもつながります。時間に着目した発想が重要です。
一木 完全リモートだとエントリー数が7.5倍も増えるというのは衝撃的ですね。貴社としてそういう変化に対応したサービスもあるのでしょうか。
古澤 2024年の春から「Remote Tasker(リモートタスカー)」というオンラインのアウトソーシングサービスを開始しました。人数ではなく、月30時間とか50時間という時間単位で業務を預かり、全国の最適なスキルを持ったスタッフに業務を割り振りオンライン上で業務を行うサービスです。おかげさまで、企業側からも大変好評です。
単純な人の取り合いではなく
スキルや適性に着目した人事を
一木 企業としてどう深刻な労働不足に向き合えばよいのでしょうか。
加瀬 人の取り合いを続けていても生産性は高まりません。人事と現場が対話して、企業として何が良いのか、目指すのはどのような姿なのかを議論する必要があります。大事なのは人の取り合いではなく、育てる意識、今の人の能力を活かす意識でしょう。
ないものばかり考えていても改善されません。今自社には何があるのか、それをどう活かすのかを考えながら制度を作らないと続きません。そのためにはスキルや適性に着目した人事が大切だと考えています。
古澤 今は働く側が仕事を選ぶ時代です。企業の現場側でできる対策もあり、働く人にも考えられることはあるはずです。双方が歩み寄ることでより働きやすい環境が作れるのではないでしょうか。通勤時間を在宅に振り向ければ、その分、勤務時間を延ばすこともできます。
3つの壁は乗り越えようと思えば、乗り越えられると思います。なぜそれが必要なのか、どうすればできるのかを一緒に考えて、少しずつ前に進めていきたいと思います。

