もったいないな、
という印象でした
経営に参画した当時に感じていた、富士通の印象や課題感について教えてください。
大西 2019年8月、富士通へ入ることになりました。当時の富士通の印象は、「典型的な日系IT企業」です。SEは総じて仕事の進め方にこだわりがあり、従来のやり方を譲らないように感じました。その割に成果を出したと言えるプロジェクトは少なく、カルチャーも変わっていません。古巣の日系企業と比べても、グローバル化が遅れているように思えました。
富士通
執行役員副社長
COO(リージョン)、CRO
(兼)グローバルカスタマーサクセス
(兼)Japanリージョン
(エンタープライズ、ビジネス変革)
福田 旧職では、富士通はお客様でありパートナーでもありました。当時の印象はやはり「ザ・JTC(Japanese Traditional Company)」。昔から続く慣習や組織文化の染み込んだ日本の大企業そのものでした。一方で、「ニッポン株式会社のIT部門」のような立ち位置の企業なので、日本のためにもっと頑張ってもらわなければ困るとも感じていました。
現場の人たちは勤勉で真面目な人が多く、誠実に働いています。しかし、それがお客様への価値や成長に結びついていません。もったいないな、という印象でした。
富士通
執行役員EVP
CDXO 兼 CIO
富士通の成長を妨げてきた環境や要因、組織の問題はどこにあったと考えますか。
大西 事業ポートフォリオの中に、サービスとプロダクトが混在していました。1社のお客様に対して、営業とSEの2人が相対し、それぞれの組織がサイロ化していました。
お客様からすれば、富士通の事情など関係ありません。「当社の相談相手は誰ですか?」と尋ねても、営業とSEの2人がいるわけです。営業はお客様のニーズに対応することが中心になっており、主体的な提案が不足していました。SEはある一線を超えると「そこから先の対応は難しい」として、お客様をフォローしきれません。お客様のサポート役として伴走し、実効性の高い提案ができる状態にはほど遠い状況でした。
また当時から「グローバルを重視する」と言っていましたが、実態は日本と海外が別会社のように分かれていました。
福田 シンプルに言えば、「ビジョンや戦略の不在」と「経営の機能不全」ですね。富士通はいったいどの方角へ行くのか、明確になっていませんでした。事業部門ごとに考えた戦略をまとめて経営戦略にする古いやり方は通用しない時代です。何をやめて何にリソースを集中させ、どこを目指すのか。事業部門ごとの利害を超えた、全社レベルでの経営のリーダーシップと決断が必要です。
経営陣がビジョンと戦略を決め、必要なことをどんどんやるのが足し算だとすると、足を引っ張る課題をどんどん消すのが引き算。足し算と引き算を駆使し、組織の利害を超えて企業全体の最適化が求められていましたが、それが難しい企業だったのだと思います。プラスも増えないし、マイナスも消えないので、企業が成長しない。PBR(株価純資産倍率)が低い企業は、基本的に同じ状況にあるのではないでしょうか。ビジョンが明確ではないから、投資家に将来を買ってもらえないのです。
未来への道具立てが、
ひと通り揃った
福田さんから見て、CRO(Chief Revenue Officer)の使命とは何でしょうか。それを富士通で実践することについて、大西さんはどのような難しさを感じていますか。
福田 CROの使命は、収益の最適化です。売り上げの最適化ではない点がポイントです。マーケティング、人事戦略、事業ポートフォリオなど、ビジネスの様々な機能が連携して生み出す最終結果が収益になります。収益を伸ばすには、部門の壁を超えたチームプレーが必要です。しかし、従来は部門ごとの縦割り意識が強かったため、部門ごとの最適化はできても、全体の最適化が難しい組織でした。CROは組織の壁を壊し、企業全体を横断する大きな戦略とストーリーを通す役割を担います。
大西 先ほど述べたSEと営業の分断のような話を解決し、大切にすべきお客様をしっかりと絞り込む取り組みを続けています。一般的にCROというと、「商品を猛烈に売り込む人」のようなイメージがあります。富士通の場合もそれはそれで重要ですが、お客様との長期的な関係を構築することの方がより重要であり、製品やサービスを提供するだけでなく、エンジニアやコンサルタントとの緊密な連携があって初めてビジネスが成り立ちます。人間関係もしっかり作っていかないと、崩壊してしまう。その点が、富士通の特徴だと考えます。
そう考えたときに難しかったのは、当社のキャパシティに対して、お客様の数が多すぎたことです。「お客様を絞ると売り上げが下がる」と抵抗する意見もありましたが、そこは断腸の思いで絞り込みました。その成果として、個々のお客様との関係性が深まり、売り上げと粗利が向上してきました。成果につながってきたことで、社内の皆さんにも納得していただけたと思っています。
福田さんはそれを見て、どう思いましたか。
福田 企業全体の方向性が定まり、非常に良い動きだと思いました。その動きに合わせ、12万人の組織が1つの方向を目指すために、ITは不可欠です。「OneFujitsuを目指す」という方針が固まったことで、IT側でも基幹系を1つに統合する「OneERP+」や「OneCRM」、「OnePeople」などの動きが加速しました。
リージョンやグループ会社ごとにバラバラだったITシステムの標準化や統合はIT部門としても進めたかった施策ですが、IT自体が目的化してはいけません。経営陣が「グローバルに横串を通してビジネスを可視化・標準化したい」という意思を明確に示したからこそ、IT部門は自信を持って進むことができました。経営と業務とITの方向性が一致したのです。
大西さんは、CROとしてのこれまでの取り組みをご自身でどう評価していますか。
大西 プロダクトの営業とシステムインテグレーションのSEが並列するという古い世界を脱し、本格的なサービスの世界へ進み出しました。グローバルデリバリーも可能になり、「Fujitsu Uvance(以下 Uvance)」の基礎もできてきた。未来に向けて動き出すための道具立てが、ひと通り揃ったと思います。
しかしミクロな視点で見ると、まだ足りないと感じていることがあります。それは、社員の「個人力」。チームプレーは今後も重要であり続けますが、世界で勝負していくには、それを支える個人力をもっと強化していく必要があります。
福田 同感です。近年、サッカーやラグビーの日本代表チームがとても強くなりましたよね。30年前は国内でのプレー経験しかない選手ばかりでしたが、今は世界でプレーしているトップレベルの選手が集まり、そこに日本独自の戦略やチームワークが備わっています。個人力と組織力の両方が整い、世界レベルの戦闘能力を実現しているのです。これは、ビジネス界にとっても良いお手本になります。
大西 個人の成長を、企業として全面的にサポートしていきます。しかし、わたしは育成という言葉があまり好きではありません。そもそも自分はどうなりたいのか。そこに目覚めれば、成長への投資や学びの機会を自発的に探していくでしょう。自律的な成長に向けた本人の意欲がまず必要で、それを企業がサポートするのが健全だと思います。
その軸がぶれることは
ありません
2024年2月に「Uvance Wayfinders」を立ち上げました。これが目指す理想について教えてください。
大西 Uvanceは、当社のパーパスに基づいています。顧客やパートナーと協働することで、サステナブルな世界を作っていきます。その道先案内人を務めるのが「Uvance Wayfinders」です。単にプラットフォームを提供するだけでなく、持続可能な社会のシステムを実現しつつ、困難な課題を解決していきます。その結果として、富士通の成長の最大化に結び付けたいと考えます。
福田 業種や企業の枠を超えて他者と協働し、誰も実現したことのない世界に挑戦していく必要があります。それは、データとAI無しには考えられません。「お客様に期待されたことを逃げずにやり切る」という富士通の伝統的な価値を大切にしつつ、道先案内人としてお客様に新しい価値を提案していく決意が、Wayfindersという言葉に込められています。
今後の変革に向けた展望を教えてください。
福田 大企業の変革には、時間がかかります。中期経営計画で言えば2~3回分、10年以上かかる話です。この大きなジャーニーに一貫して伴走し、最後までやり切れるところはそう多くありません。Wayfindersは、まさにその使命を担おうとしています。
また、変革は駅伝であり、たすきリレーです。欧米企業は短距離走に強いですが、日本企業は駅伝に強い。動きは決して早くないかもしれませんが、日本企業は戦略に一貫性を持ってたすきリレーを続けながら理想に向けて進むことが比較的得意です。ウサギとカメの話も、最後に勝ったのはカメです。一貫性を持って変革し続け、努力を続け、世界で勝負できる企業を目指します。
大西 わたし個人のパーパスは「遅れてしまった日本企業のグローバル化を実現すること」です。その軸がぶれることはありません。富士通のグローバル戦略は長らく迷走し、失敗も繰り返してきました。しかし、いま富士通が始めていることは、経営起点で戦略を決め、それを全世界に通すということです。
捨てるモノと残すモノが、次第に明確になってきました。時田と共にいろいろなモノを壊し、新しいモノをたくさん生み出してきました。しかし、まだ完成形には至っていません。このたすきを次の世代につなげていける状態をつくることも、今後の重要な取り組みだと思っています。



