
Safety Driving Award 2024 受賞企業を発表
電動化、自動化、コネクティッドなど自動車業界は100年に1度の変革期を迎えていると言われる。一方で日本における交通事故による死者は1970年の1万6765人をピークに減少は続けるものの、2023年は2678人と、8年ぶりに増加に転じた※。テクノロジーは進化を続けているが、いまだ交通死亡事故の撲滅には至っていない。
※ 出典:「令和5年中の交通事故死者について」警察庁交通局企画課
そのような中、社用車を有する企業にとって、交通事故は社員の心身の健康を損ねる要因となる上、被害者を出した場合、企業イメージの毀損にも繋がる。対応に多大な労力がかかり、一部業務の停止や保険金の増額など様々なマイナスの影響が予想され、大きなビジネスリスクと言える。
このようなことにならないため、多くの企業が交通事故削減に真摯に取り組んできた。しかし、これまで各社の取り組みを共有する場が少なく、優れたアイデアやノウハウも自社だけで閉じていることが多かった。優れた取り組みを共有し、他社のアイデアを参考にさらに各社が磨きをかければ、より良い取り組みが生まれることは想像に難くない。
そこで「日経ビジネス」は、社用車を有する企業の交通事故防止の取り組みを表彰するアワード「Safety Driving Award 2024 Supported by DRIVE CHART」を初開催。営業車、送迎車、自家配送車などを対象とした「営業車部門」と、タクシー、バスなどの旅客自動車、トラックなどの貨物自動車を対象とした「運送事業部門」で、それぞれ3社、合計6社を選出した。交通事故防止のための優れた取り組みを社会で共有することによって、新たなイノベーションを生み出すことを目指す。
本記事では受賞した各社の取り組みを紹介する。そこから、交通事故を起こさない企業の共通項が見えてくる。
審査のポイント・審査委員
本アワードでは、優れた取り組みが広く社会に共有されることを目指し、以下を審査のポイントとした。
①実効性 交通事故削減の高い効果が出ている
②再現性 一過性ではなく、確立された手法に基づいている
③波及性 社内外に好影響を与えている
④先進性 事故削減の進化に繋がる新しい挑戦である
エントリー受付期間は、24年7月12日から9月24日まで(プレエントリー受付後に応募資料の送付が確認できた企業が審査の対象)。期間内に送付された資料を基に、6人の審査委員による選考を経て受賞企業を選出した。
審査委員は以下の6人。

安部 誠治
関西大学
名誉教授

荒川 裕司
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
常務執行役員

井上 悦希
一般財団法人全日本交通安全協会
事務局長

西村 直人
交通コメンテーター

川上 裕幸
GO株式会社
執行役員
スマートドライビング事業本部 本部長

松井 健
日経ビジネス発行人
営業車部門 受賞企業
営業車部門 ゴールド賞ジョンソンコントロールズ株式会社
ジョンソンコントロールズ株式会社
Japan and Northeast Asia・EHS Business Partner
齋藤 健人 氏
空調設備の自動制御システムの設計・施工・保守など、人と地球にやさしいスマートな建物を実現するビルソリューションプロバイダー、ジョンソンコントロールズ日本法人は、顧客サイトに赴く際などに車両を利用している。運転者数が全国で約600人、保有車両は約250台あり、全国の支店に配置した正副2人の安全運転管理者が中心となって安全運転に取り組んできた。
ジョンソンコントロールズ株式会社
Japan and Northeast Asia・EHS Business Partner
齋藤 健人 氏
その一環として、2021年、保有車両のすべてにAIドラレコを導入。リスク運転を分析して対策を検討し、安全運転管理者を通してドライバーにフィードバックを行っている。これらの情報は本社に集められ、全支店に共有。ジョンソンコントロールズの齋藤氏は、手応えを語る。「一番良かったのは、客観的なデータを基に指導する体制やルールを全社で統一できたことです。基準がすり合わせられているためドライバーも自分のリスク運転を確認し、安全運転管理者からのフィードバックを参考に、改善に努めてくれました。リスク運転の危険性をドライバーに理解・納得してもらった上で、ながら運転や速度超過に対しては独自の罰則規定を設けています。今後、優良者には表彰も行いたいと考えています」
最大の成果はここ2年間、重大事故の発生が0件となっていることだ。保険料の削減にもつながっている。ドライバーからは、プライベートでも運転の質が上がったという声があげられている。「まだ残る軽微な事故ゼロを目指して努力を続けます」と、今後の意気込みを語った。
営業車部門 シルバー賞株式会社ビーナス
株式会社ビーナス
運営事業部 部長
古藤 太一 氏
ビーナスは大阪府堺市に本社を置き、関西の93事業所、関東の15事業所でデイサービスを中心とした介護・福祉事業を展開している。2024年4月、利用者の送迎に利用する432台の車両すべてに、AIドラレコを導入。リスク運転に注目し削減を目指した結果、半年で90%の削減ができた。
株式会社ビーナス
運営事業部 部長
古藤 太一 氏
特に大きく削減できたのが一時停止不履行である。加えて、脇見運転や急減速も大きく削減できた。導入前の2023年7月と、導入後の2024年7月を比較すると、車両数が40台増えたにも関わらず、車両台数に対する事故発生率を2割削減できた。特に注力したのが、ドライバーが今まで見ることができなかった自分自身の運転動画を見てもらう活動である。最も高い課はAIドラレコが検出したリスク運転映像について95%と高い閲覧率を実現している。
これにより、各ドライバーが自分自身の運転のリスクを認識し、それを回避するというマインドの統一につながった。ビーナスの古藤氏は、「年単位から日々の取り組みまで、事故削減のための計画を立案し、さらにKPIを達成した優良ドライバーを表彰するなど、現場がネガティブにならずに取り組めるような工夫も取り入れたことで成果につながりました。各ドライバーが協力し、事故に繋がる危険な運転を減らそうと主体的に行動してくれたことが、何よりの成果だと感じています」と語った。
営業車部門 ブロンズ賞トヨタテクニカルディベロップメント株式会社
トヨタテクニカルディベロップメント株式会社
コーポレート管理部 部長
東口 勉 氏
トヨタテクニカルディベロップメントは、IP(知的財産)と計測シミュレーション事業を行うトヨタ自動車の100%子会社である。「自分たちが開発に携わった自動車を絶対凶器にしない!」をスローガンに、年2回の安全運転啓蒙活動を継続実施。毎回のようにテーマを変えマンネリ化を防ぐことも行ってきた。
トヨタテクニカルディベロップメント株式会社
コーポレート管理部 部長
東口 勉 氏
一方、直近5年間で年平均2件の加害事故が起きており、ドライバーがより自分事化できる仕組み作りが必要と感じていた。そこで2023年の安全運転啓蒙活動では、スマホアプリを活用し、個々人の運転に対する気づきを促す新たな取り組みを行った。トヨタテクニカルディベロップメントの東口氏は、「アプリが自分の運転を評価してくれます。自分の不安全な運転に気付き、安全運転のための行動を宣言して行動を変え、変化を振り返るというPDCAサイクルを回しています。その結果、ほとんどの社員が気づきを得て、運転を変えることができました」と語っている。
大半の部署でアプリが測定する安全運転スコアが向上。特に急アクセルを48%、急ブレーキを36%削減できた。当該の安全運転啓蒙活動以降2024年11月まで、加害事故0件を継続している。「今後も、社員の事故ゼロを目指すだけでなく、社会全体の交通事故を減らすために取り組みを続けていきたいと思います」(東口氏)。
運送事業部門 受賞企業
運送事業部門 ゴールド賞ロジスティード株式会社
ロジスティード株式会社
国内戦略営業部 部長
南雲 秀明 氏
ロジスティードは、顧客の物流業務を包括的に受託する3PL事業が中心の総合物流企業である。2015年、同一事業所で連続3件のノーブレーキによる追突事故が発生したのをきっかけに、安全運行管理ソリューションの開発に着手した。
ロジスティード株式会社
国内戦略営業部 部長
南雲 秀明 氏
特に問題視したのが漫然運転だ。見ているようで見えていない漫然運転は、その大半が重大事故化してしまう危険性がある。そのため、1件の重大事故の影に潜む300件のヒヤリハットをAIやIoTなど最新のテクノロジーを使って見える化し撲滅することで、重大事故そのものの未然防止を目指した。
ヒヤリハットの主要な原因は疲労による体調の変化であり、疲労科学の専門家と産官学連携で共同研究を実施。企画段階から自社の運行管理者やドライバーにも参加してもらい、アジャイルで開発を進めた。ロジスティードの南雲氏は、「健康起因事故は重大化してしまうものが多いので、それを防ぐためにもドライバーの体調を見守る仕組み作りが重要だと考えて自社開発に至りました。また、可視化されたヒヤリハットの振り返りを定着させるために、経営層自ら、ドライバーを被害者にも加害者にもさせたくないという想いを一貫して伝えて、企業文化に落とし込んでいくことに注力してきました。結果として、ヒヤリハット動画の振り返りは、現在もれなく継続できています」と語る。
出発前にドライバーの体調を測定する事で、当日の運転可否とこれからの運転の事故リスクを予測する。運転中は疲労や危険運転をリアルタイムに検知して、音声アナウンスで注意喚起を行う。さらに帰社時には、当日の疲労の推移やヒヤリハットを自動切り出しされたショート動画を見て振り返るという3つの機能を搭載した。導入後はヒヤリハットの発生を98%、車両事故件数を75%削減できた。
運送事業部門 シルバー賞ディー・エイチ・エル・ジャパン株式会社
ディー・エイチ・エル・ジャパン株式会社
業務本部グランドオペレーションシニアダイレクター
鈴木 健一 氏
世界220以上の国と地域で国際輸送サービスを提供するDHLグループの日本法人であるDHLジャパンは、ドライバーに対してグローバル共通の教育プログラムを実施しているが、その中にある同乗研修は1人につき年1~2回しか実施できず、十分ではないという課題があった。事故の中には原因の特定が難しいケースもあり、事故が起こる前のリスクの可視化と安全指導の質向上を目指して、2021年、AIドラレコを導入した。
ディー・エイチ・エル・ジャパン株式会社
業務本部グランドオペレーションシニアダイレクター
鈴木 健一 氏
導入後はドライバーに対して頻繁にフィードバックできるようになり、運転特性や習熟度を踏まえた指導が可能になった。ドライバーが事故を起こしやすい「拙速」「見込みの甘さ」「カッとなる」「自分本位」といった特性に注目し、それらを見極める材料としてAIドラレコを活用。DHLジャパンの鈴木氏は、「管理者がドライバーの様子を確認し、ドライバーの習熟度や運転特性に合わせてより具体的な指導を行うことで、事故を未然に防げるようになりました。またAIドラレコを活用した取り組みは、グローバルの会議でもベストプラクティスとして紹介されました」と語る。
管理者の同乗を除くドライバーへの指導時間は、導入前に比べて4倍に増加。有過失事故は、2022年が前年比29%減、2023年が前年比33%減と着実に減少している。2024年は2021年から半分程度に削減できる見込みだと語った。
運送事業部門 ブロンズ賞京王自動車株式会社
京王自動車株式会社
調布中央営業所 営業事務員(事故防止責任者)
奈良 優大 氏
東京都西部を中心にサービスを提供するタクシー会社である京王自動車の調布中央営業所では、保有車両71台のうち33台にAIドラレコを導入した。以前はドライブレコーダーの映像を人が確認していたため、ヒヤリハット映像の発見に時間がかかり、指導が全員に行き渡らなかった。AIがリスク運転を自動で検出することで負担を大幅に軽減。乗務員は自分の運転を振り返ることができ、管理者も個人の癖を把握した的確な指導が可能になった。
京王自動車株式会社
調布中央営業所 営業事務員(事故防止責任者)
奈良 優大 氏
映像閲覧率向上を目指し、教育や声かけで閲覧を習慣化する「AIドラレコ閲覧強化運動」を実施している。京王自動車の奈良氏は、「特に工夫をしたのが、AIドラレコ閲覧札です。未閲覧者に対して、出庫時に渡す乗務員証と一緒に閲覧を促す閲覧札を渡し、閲覧率向上を図りました」と語る。さらに限りがあるAIドラレコ搭載車への「乗務運動」を実施。クリア基準を設けて、年に2回全員を乗務させている。現在ではほとんどの乗務員が1回でクリアできるようになった。
閲覧強化運動の半年後には閲覧率が25%から80%へと大きく上昇。特にその削減に注力した一時不停止を80%、総リスク運転数も46%削減できた。2022年以降一時停止不履行による事故は0件を継続中で、総事故件数も3割削減している。
今後の展望
GO株式会社
執行役員 スマートドライビング事業本部 本部長
川上 裕幸 氏
11月28日には授賞式イベントである「Safety Driving Forum 2024」も開催された。イベントのクロージングでは、本アワードの運営協力を行ったGO 執行役員の川上氏が登壇し、メッセージを送った。
GO株式会社
執行役員 スマートドライビング事業本部 本部長
川上 裕幸 氏
「素晴らしい取り組みは適切に賞賛され、広く共有されるべきではないか」
川上氏のこの言葉のように、社用車を有する企業の交通事故削減の努力は素晴らしく、その進化も著しいことが改めて本アワードを通じて実感された。
また受賞企業の共通項として、交通事故削減において高い成果をあげるために「管理者やドライバーの安全意識を変える」ことに注力している点が見えてきた。
ドライバーにとって納得感の高いコミュニケーションを心がけ、運転意識が変わり事故防止に繋がっているケースや、各拠点の安全運転管理者と連携して無理のない管理運用体制を作り、継続的な働きかけにより会社全体の意識改善を実現しているケースなどがあった。
こうした管理者やドライバーの安全意識を変える取り組みは、本記事をご覧になっている読者のみなさまにとっても、明日からの新しいアクションに繋がるヒントとなるのではないかと考えている。
主催者である日経ビジネスとしても、この取り組みを継続することが重要と考えている。ここから新たに生まれるであろう素晴らしい取り組みを取り上げ、共有・学びに繋げる機会を継続して発展させていくサイクルを作りたい。本記事をご覧になっている読者から来年の受賞企業が生まれることを期待している。
本アワードの協力会社であるGOが提供する