脱炭素に向けた動きが鈍化し、エネルギー業界は新たな局面を迎えている。世界情勢も大きく変化する中、日本最大手のENEOSホールディングスはどのような戦略を描くのか。次世代エネルギーの動向と、それを見据えた経営戦略について、同社代表取締役 社長執行役員 宮田知秀氏に話を聞いた。

低炭素から脱炭素への段階的な移行

 エネルギー業界の脱炭素化をめぐる環境が、大きく変わりつつある。政府は当初、次世代エネルギーの本格普及を2030年ごろと見込んでいた。しかし、技術開発の遅れやコスト高といった課題が顕在化し、移行のスピードは想定よりも緩やかになるとの見方が強まっている。

 「当社もカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めてきましたが、一時的な揺り戻しが起きていると感じています。ただ、完全に後戻りすることはないでしょう。将来的なカーボンニュートラルを見据えた戦略は不可欠ですが、市場のニーズが伴わなければ普及は進みません。まず、低炭素エネルギーを現実的な選択肢として開発し、その先に再生可能エネルギーを基盤とする電力、水素、合成燃料へと移行する方針です」と宮田氏は語る。

財務基盤の強化と投資戦略の柔軟化

 同社は第3次中期経営計画で、カーボンニュートラルを軸に据えながら、ROE(自己資本利益率)10%の達成を掲げ、収益力の向上を図ってきた。しかし、こうした市場環境の変化を受け、財務戦略の柔軟性を高める方針へとシフトしている。

 「当社はエネルギー供給の大きな役割を担っており、その規模を活かしながら次の投資にどうつなげるかを常に考えています。安定供給というミッションを果たすためにも、適切な投資を行い、株主やステークホルダーの期待に応えていくことが重要であり、バランスシートマネジメントを行うことが安定供給にもつながります」と宮田氏。

 この一環として、同社は既存事業のポートフォリオ見直しを進めており、JX金属のIPO(新規株式公開)もその一例にあたる。資本の適正な管理を徹底しながら、新たな成長分野への投資を加速させる方針であり、5月に発表予定の第4次中期経営計画には、その具体策を盛り込む。

 今後の投資戦略については、成長分野を慎重に見極める方針だ。かつては再生可能エネルギーの拡大に向け、「何ギガワットの発電能力を何年までに達成する」といった数値目標を掲げていたが、市場環境が変化し、単なる設備投資では収益性を確保しにくくなっている。現在は、設備容量の拡大のみを追うのではなく、収益性を重視する戦略へと転換した。

 バイオ燃料やSAF(持続可能な航空燃料)、水素などの分野には引き続き投資を行うが、コストや市場環境の課題を踏まえると、事業の本格展開には時間を要する見通しだ。また、排出CO₂を回収し地中に貯留するCCSについても、実用化までには一定の期間を見込んでいる。収益性と安定供給のバランスを取りながら、次世代エネルギーの実装を着実に進めていく構えだ。特に、今後の投資においては、ROIC(投下資本利益率)を重視し、資本効率の向上と収益性の確保を両立させる方針を明確にしている。また、既存事業で培ってきた技術やノウハウを活かし、新たなエネルギー分野への展開を加速させることで、持続的な成長を目指していく。

供給網の再構築で
次世代エネルギーへ備え

国内エネルギー事業を牽引してきた同社は、これまで100年以上にわたり、ガソリンや軽油を中心とした供給を担ってきた。その長い歴史においても、エネルギートランジションへの取り組みは前例のない挑戦となる。この新たな領域で事業を展開するには、サプライチェーンの再構築が不可欠だ。

 「従来のビジネスでは、市場があり、原油を購入し、日本で精製・供給する流れが確立されていました。しかし、次世代エネルギーのサプライチェーンは国内だけでは完結せず、海外からのサプライチェーンが今よりも重要になります。今の時点からターミナルやプラントなどのアセットを海外に適切に確保し、海外からのサプライチェーンを強固にする必要があります。その上で、脱炭素時代の到来に備え、事業をシームレスに移行できる準備を進めます」と宮田氏は説明する。

 海外企業との提携を強化し、大型M&A(企業の合併・買収)も成長戦略の重要な柱と位置づける。

 技術革新にも注力しており、日本初の合成燃料プラントを立ち上げた。

 「実証レベルではすでに1日1バレルの合成燃料を生産できる技術を確立しました。今後はコストダウンを進め、商業化への道を探ります。プラスチックなどのリサイクルの実証実験も進め、政府と連携しながら開発を加速させる予定です」(宮田氏)

変化を続けることで
市場のニーズに応える

 同社が今後もエネルギー市場をリードするための課題の一つが「人的資本経営」だ。技術革新、新たなサプライチェーンの構築、海外企業も含めたM&A——これらの取り組みを支えるには、高度な専門知識を持つ人材の確保と育成が不可欠となる。

 「優れた人材を積極的に採用・育成していきます。変化を受け入れ、挑戦を楽しめる組織をつくることが、今後の成長の鍵になります」と宮田氏。

 同社にとって、エネルギーと素材の供給は事業の根幹だ。時代とともに求められるエネルギーの形が変わっても、その本質は変わらない。そして、その根底にあるのは「お客様本位」の価値観だ。

 「我々が最も重視しているのは、エネルギーの安定供給を確実に実施しつつ、収益を上げ、ステークホルダーの皆様へ還元すること。そして、社会に貢献する企業であり続けることです。そのような企業になろうとしてきましたし、これからさらにそうなっていかなければならないと考えています。変化の激しい時代において、立ち止まることは衰退を意味します。変化に対応しながら成長を遂げることこそ、企業のあるべき姿だと考えています」と宮田氏は力を込めた。

 時代の変化に対応しながら、新たな成長の道を模索する。同社の挑戦は、次世代エネルギー市場の未来を切り拓き、持続可能な社会を創造していく。

※記事中の肩書きやデータは公開時点の情報です

ENEOSホールディングス株式会社

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