2015年のスマートウオッチ事業参入から10周年を迎え、最新モデル「HUAWEI WATCH 5」をリリースしたファーウェイ。技術の進化を続けるヘルスモニタリング機能を活用した法人向けソリューション事業にも注力しているという同社の取り組みを見ていきたい。
「HUAWEI X-TAP」を搭載した最新モデル「HUAWEI WATCH 5」
2025年6月リリースの「HUAWEI WATCH 5」でまず目を引くのは、近未来をイメージした流線型デザインだ。筐体は、46mmのパープルが航空宇宙グレードのチタン合金、同ブラックと42mmのベージュはステンレススチールを採用している。
文字盤に目を移すと気づくのはベゼルの狭さだ。46mmは約2.2mm、42mmは約1.8 mm、それぞれファーウェイのスマートウオッチ史上最も狭く、没入感を高める。ディスプレイは高精細LTPO 2.0 AMOLEDディスプレイを採用し、80%以上の画面占有率を実現。透明感と耐擦傷性を兼ね備える球面サファイアガラスがディスプレイを覆っている。
「HUAWEI WATCH 5」の革新性は外観だけではない。文字盤の右側面に、ヘルスモニタリング機能を大きく進化させるマルチセンサーモジュール「HUAWEI X-TAP」を新たに設置、指の腹を当てるだけで、心電図や平均心拍数、血中酸素レベル、ストレスレベルなど8項目を一度に測定することが可能となった。
スマートウオッチ事業参入から10年、センサーやアルゴリズムによるヘルスモニタリング機能を常に進化させてきたファーウェイだが、現在は、その機能を生かした法人向けソリューション事業にも力を入れている。実際にスマートウオッチでどのような課題を解決しているのか。ファーウェイ・ジャパン法人営業本部の井上千郷氏と、同社のスマートウオッチを活用したソリューションを展開するenstem代表取締役の山本寛大氏に話を聞いた。
技術力と自由度を生かした
法人向けソリューション事業
コンシューマ市場に加え、近年では法人向けのソリューション事業にも注力されていますが、どのような業界で展開されていますか。
井上 物流業と製造業が中心ですが、総合病院やオンライン診療に対応する医療用ソリューションも準備しているところです。当社の強みは2つありまして、1つ目が技術力。会社全体として毎年約3兆円規模の開発投資を行っており、とくに重視するヘルスケア分野においても、継続的にセンサーやアルゴリズムの精度を高める研究などを行っています。2つ目は自由度です。バッテリーの持ちやバイタルデータを取る頻度、通信間隔などが自由にカスタマイズできることに加え、一般的なAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)方式だけでなく、SDK(ソフトウエア開発キット)方式が選択可能なので、任意のサーバーに直接データを提供でき、セキュリティ面でも強みになっていると自負しています。
ファーウェイ・ジャパン
端末統括本部
法人営業本部
シニアアカウントマネージャー
井上千郷氏
ファーウェイのスマートウオッチを活用した法人向けソリューションを展開するenstemは、物流業界向けの「Nobi for Driver」と製造業界向けの「MAMORINU」の2つのソリューションを開発されています。開発に至った経緯を教えてください。
山本 enstemは19年に設立したスタートアップで、生体データを活用した事業を展開しています。私自身がスポーツに打ち込んでいたこともあって、当初はスポーツ選手の支援を模索しましたが、体の状態を可視化するノウハウが蓄積するにつれて、ノンデスクワーカーの方々にも有効だという手応えを感じました。ドライバーや倉庫作業員といったノンデスクワーカーの事故は命にも関わります。そこで、スマートウオッチのセンサーを活用して事故防止に役立てられたら大きな社会貢献になると考え、22年に物流ドライバー向けの「Nobi for Driver」、24年に製造業作業者向けの「MAMORINU」を開発したという経緯です。
井上 ちょうど当社も法人ソリューション事業に参入した時期でした。スマートウオッチを活用したBtoBサービスをお持ちの企業を探す中でenstemを知り、当社からお声がけさせていただきました。
enstem 代表取締役
山本寛大氏
山本 パートナー選択にあたっては世界中の様々なスマートウオッチメーカーを検討しました。ファーウェイに決めた理由は、価格面に加えて、開発環境としてSDK方式が用意されていたからです。API方式ですと、アプリを開く工程が増えるため、手間がかかってユーザーが離脱しかねません。とくにノンデスクワーカーは作業で手が離せないケースもあるので、当社のアプリをすぐに開けるSDK方式のメリットは大きいですね。また、ファーウェイのスマートウオッチのセンサー精度はもちろん、エンジニアの協力体制も魅力的に感じました。
井上 当社の法人向けスマートウオッチはSDK方式を採用していますので、当社のサーバーを含め、他のサーバーを経由することがありません。スマートウオッチから直接パートナー様のサーバーにデータを送れるため、セキュリティが高く、またリアルタイム性を担保できることもメリットです。
義務化された熱中症対策など
現場の課題解決をサポート
物流ドライバー向けの「Nobi for Driver」の特徴やメリットについて教えてください。
山本 ドライバーが装着するスマートウオッチのセンサーから得られるデータを基に体調をモニターし、事故削減に貢献するのが開発の狙いです。ドライバーの事故防止については、これまでドライブレコーダーやデジタル式運行記録計のような車発信の情報からの対策がほとんどでしたが、「Nobi for Driver」は、ドライバー自身の危険の兆候を検知するソリューションです。とくに物流業界は、高齢化による健康起因事故の増加が課題となっています。乗車前点呼だけではなく、客観的な数値で眠気などのリスクを検知して管理者や本人にアラートを伝えたり、継続的なデータの蓄積で可視化した危険の傾向をベースに対策することで、事故リスク軽減をサポートします。
井上 スマートウオッチのセンサー精度とバッテリー容量には自信があるので、その強みを健康管理にうまく生かしていただいたと感じています。
スマートウオッチで物流ドライバーの体調変化による危険兆候を検知し、アラートを送ることで事故を未然に防ぐサービス。時間帯や場所などドライバーごとの危険の傾向も可視化できる。
2年後の24年にリリースされた「MAMORINU」は製造業向けですね。こちらについても特徴やメリットをお教えください。
山本 物流で一定の成果が出たため、その知見を生かして製造業にも広げたのが「MAMORINU」です。主な特徴は安全対策と業務改善の2つ。安全対策については、現場が倉庫や工場なので転倒や転落の自動検知、また、アラート検知による作業員の事故発生防止などにも対応しています。25年6月から企業の熱中症対策が義務化されましたが、熱中症の兆候やリスクを検知すれば作業者本人と管理者へ通知、その結果を蓄積して対策を練ることも可能です。実際に、熱中症対策に関する問い合わせは増えています。また、業務改善については、スマートウオッチ上での作業記録の入力や、作業日報の自動出力が可能となり、作業のDX化推進にもつながります。現場では、カメラが付いたスマートフォンが持ち込み禁止の場合も多く、スマートウオッチなら持ち込んで使える点もメリットだとご評価いただいています。
井上 「MAMORINU」に関しては、直近もenstemと一緒に新たなソリューションを開発しました。現場ではグローブを装着しているときなど、スマートウオッチの操作ができない状況も発生します。そのような場合でも、異なる電波のビーコンを現場の各所に配置することで、作業員の位置情報や滞留時間、移動をリアルタイムに把握することができるソリューションです。作業員の動きが把握できるため、業務効率化や生産性向上にも寄与できると期待しています。
山本 現場からの要望を汲んで、両社のエンジニア同士が直接キャッチボールをして開発することもありますね。
スマートウオッチを活用した倉庫や工場の作業員向けサービス。熱中症などの各種アラート、転倒や転落の自動検知といった安全面のほか、ワンタップ作業記録など業務改善にも対応している。
最後に今後の展望についてお聞かせください。
山本 一つはドライバーや作業員がもっと使いやすくなるように、当社のサービスをアップデートすることです。例えば、コンビニやガソリンスタンドと提携して、ドライバーに最寄りの店舗での休憩を推奨するようなこともできると考えています。さらに、ノンデスクワーカーの課題は海外でも同じなので、今後は海外もマーケットとして見ていければと思っています。
井上 当社の法人向けスマートウオッチは流通、製造業以外にも、医療、介護の現場、健康経営の分野でも導入されています。この他にもスマートウオッチのセンサーやアルゴリズムを活用できる領域はあると思いますが、海外に比べて日本はまだまだスマートウオッチの認知度が低いという課題もあります。今後もスマートウオッチを活用した法人向けソリューションの事例を重ね、ビジネスの課題解決にも有効であるということを発信していきたいと考えています。

