「AI PC」は、コンシューマーからエンタープライズへ、いよいよ環境が整った。インテルの法人向けブランド「Intel vPro® プラットフォーム」は、「AI PC」の本格活用に向けてパフォーマンスとセキュリティのニーズに応える。2024年2月、インテルの最新CPU「Core™ Ultra」に対応、2025年初めにはAIプロセッサNPUの高性能と優れた省電力性を兼ね備えた「Lunar Lake(開発コード名:ルナレイク)」に対応予定だ。企業の競争力を高める「AI PC」。その能力を最大化するポイントについて解説。さらに、インテルとトレンドマイクロの協業による「AI PC」時代のエンドポイントセキュリティについて、サイバー攻撃対策の最前線に立つトレンドマイクロのキーマンに聞いた。

NPUの高性能化と優れた省電力性が
「AI PC」の活用を加速
ビジネスのさまざまなシーンで生成AIの活用が進む。効果を最大化し、従業員1人ひとりの生産性を高めるのが「AI PC」だ。一般的なPCとの違いは何か。定義は統一されていない。共通項と言えるのは、「AIプロセッサNPU(Neural network Processing Unit)を搭載し、ローカルでAIを処理できること」。一般的に、AI処理は高い計算能力を必要とするため、クラウドにデータを上げ、そこで計算を行う。効率やセキュリティの観点から、クラウドのみならずエッジでAIを処理するニーズが高まっている。
ハイブリッドワークの導入が拡大する中、エッジAIの活用は「AIを持ち歩く」と言い換えることもできる。エッジで計算処理するため、オフラインでもAI活用が可能だ。「AI PC」により、要約、翻訳、大量の画像分析、音声認識、自然言語処理などのAI機能をリアルタイムで実行可能となる。クラウドにデータをアップロードして処理を待つ時間も不要となる。素早く処理が完了することで効率化が図れる。また「AI PC」にインストールして手軽に使えるAIアプリ市場の拡大も見込まれる。いつでもどこでも生成AIが仕事をアシストしてくれる。ワークスタイルの未来は、すでに動き始めていると言えるだろう。
生成AIの活用で懸念されるのは、クラウドに重要データを上げることで生じるセキュリティリスクだ。リスク回避のために機密情報などに関して、これまではオンプレミスで活用することが多かった。「AI PC」によりエッジでAI処理を行うことで、データは外部に出ない。機密性の高い情報を活用した分析も安全にオフラインで実行可能だ。企業のセキュリティポリシーに準拠しながら、AI活用の幅を広げることができる。
「AI PC」の能力を最大化するためには、AI処理に特化したプロセッサが求められる。2024年9月に販売開始されたLunar Lake(開発コード名)は、まさに「AI PC」のためのプロセッサだ。高性能NPUと優れた省電力性を兼ね備え、ハイブリッドワークにおいてエッジAIを快適に利用できる。
高いAI処理性能と優れた省電力性を兼ね備えたLunar Lakeが「AI PC」の活用を加速する。
Lunar Lakeは、NPU性能だけで48TOPS(毎秒48兆回の処理が可能)、CPUとGPUも含めプラットフォーム全体で120TOPSを実現。さらに、電力効率も大幅に向上し、AI処理で課題となる消費電力を抑制できる。40TOPS以上のNPU搭載を必須とする「Copilot + PC」にも対応している。
Lunar Lakeは、NPU性能だけで48TOPS、プラットフォーム全体で120TOPSを実現し、エッジでのAI処理ニーズに応える。
Lunar Lakeを活用するメリットは、パフォーマンスだけではない。「AI PC」のセキュリティ強化にもつながる。「AI PC」時代のエンドポイントセキュリティは、NPUの高性能を生かしたエッジAIが鍵を握る。
生成AI時代の
セキュリティ最前線の攻防
トレンドマイクロは、さまざまなAI技術を駆使しセキュリティソリューション・サービスを提供してきた。「これまで培ってきたセキュリティに関する知見やノウハウと、AIを組み合わせた「AI×セキュリティ」戦略を推進しています」とトレンドマイクロ コンシューママーケティング部 部長 ディレクター 木野剛志氏は話し、こう続ける。
トレンドマイクロ株式会社
コンシューママーケティング部 部長 ディレクター
木野 剛志 氏
「AI活用の拡大に伴い、新しいリスクが生まれています。AI×セキュリティ戦略は、AIを活用したセキュリティを提供する『AI for Security』と、AIを悪用したサイバー攻撃から保護する『Security for AI』の2つの柱で企業を守ります」
トレンドマイクロ株式会社
コンシューママーケティング部 部長 ディレクター
木野 剛志 氏
「AI for Security」は、サイバー攻撃から企業全体を保護する。「AIを活用したアタックサーフェス(攻撃対象領域)リスクマネジメント、生成AIを活用し異なるスキルレベルを持つSOC(セキュリティ・オペレーション・センター)のセキュリティアナリスト支援などセキュリティ強化と運用負荷軽減の両方を実現していきます」(木野氏)
AIは、活用する人間の意思によって目的が変わる。「Security for AI」は、AIを悪用した攻撃から「AI PC」やユーザーを守る。まさに生成AI時代のセキュリティ最前線の攻防だ。「ポイントは、エッジAIにより防御力を高めることです。トレンドマイクロはLunar Lakeを活用するためにインテルとの連携強化を図っています。NPUのAI処理性能によりエンドポイントにおいてこれまでできなかったセキュリティ対策が実現可能となるのです」(木野氏)
トレンドマイクロの「AI×セキュリティ」戦略には2つの大きな柱がある。
生成AIの悪用例として、ディープフェイクを悪用した新たな詐欺が注目を集めている。本物と見分けがつかないほど精巧な画像や動画を作成し、他人になりすます被害が拡大。技術革新により攻撃者は容易にディープフェイクを利用できる。今や、誰もがなりすましの対象となり得る。
「トレンドマイクロが実施した調査※では、回答者の65%が、AIが誤情報を広めることを心配し、58%がAIによる画像や肖像の悪用を懸念しているとの結果となりました。このアンケートはコンシューマーを対象としたものですが、ディープフェイクに多くの人が不安を抱いていることは明らかになったと思います。企業の場合は、ビジネスインパクトが大きい点により注意が必要です」
ディープフェイクのなりすましを見破り、被害を防ぐためには、エッジAIによるリアルタイム検知が求められると木野氏は話し、説明を加える。
「トレンドマイクロが開発中の製品では、ビデオ通話の動画が流れている状態でスキャンします。エッジAIがディープフェイクと判断した場合、画面上に警告を表示し対処方法が案内されます。人が眼で見分けることが難しいディープフェイクからの被害を防ぐことができるセキュリティサービスです」
ビデオ通話の動画が流れている状態でスキャンし、エッジAIがディープフェイクかどうかを判断し対処方法を案内する。
トレンドマイクロは、Lunar LakeのNPUを活用しエッジAIによる詐欺メール対策サービスを開発中。個人情報や機密データをクラウドに送信する必要はない。エッジでスキャンを実行することにより、ユーザーのプライバシー保護、セキュリティ強化を実現。「Lunar LakeのNPUで動かすために、早い段階からインテルと一緒に開発を進めています」と木野氏は付け加える。
エッジで動くAIにおいて、セキュリティ脆弱性の観点でプロンプトインジェクション対策も重要だ。「Security for AI」では、生成AIに指示を出すプロンプトを書き変えることで情報漏えいやプライバシー侵害、不正操作などを起こす攻撃から、AIアプリを守るAIアプリガード機能も提供している。
※出典:トレンドマイクログローバル調査 「AIおよびAI PCに関する消費者調査」より
https://www.trendmicro.com/ja_jp/about/press-release/2024/pr-20240613-01.html
ソフトウェアとハードウェアの
両方の対策が必要
脅威から「AI PC」を守るためには、ソフトウェアとハードウェアの両方の対策が必要となる。「AI PC」におけるハードウェアのセキュリティを担うのが、「Intel vPro® プラットフォーム」だ。OS上層はハードウェアレベルで監視し高度な攻撃を検出。OS層は Windows 11 Pro と連携し、シリコン(CPUやチップセット)で対応しセキュリティを強化。OS下層は、PC起動時にファームウェアの改ざんがないかをシリコンベースで確認できる。
セキュリティに加え、運用管理面でも有効な機能が豊富だ。リモート操作により電源をオンにできるため、本体電源オフのPCに対して制御や監視が行える。夜間でも定期メンテナンスが可能だ。運用管理ツールと連携し、出張などで長期間起動されていないPCの資産管理にも役立つ。IT人材不足の中、高度なセキュリティと運用管理負荷軽減の両方を実現できる。情報システム部門からの評価も高い。2025年初めに、Lunar Lake対応「Intel vPro® プラットフォーム」が発売される予定だ。
「AI PC」時代は、AIアプリの活用などによりリモートワークで「できること」が増えていく。木野氏は、「安全安心のもとリモートワークで生産性や創造性を高めるためには、ソフトウェアとハードウェアの両面でセキュテリィ対策を施していくことが、一層重要になると考えています」と話す。
今後の展開について木野氏は「情報システム部門は、サイバー攻撃に関する情報整理に追われているのが現状です。AI for Securityでは、何を優先して取り組むべきかを、AIが具体的に提示するなど、セキュリティ運用の負荷軽減につながる機能強化を図っていきます」と話し、こう続ける。
「Security for AIでは、エッジAIを使ってPCの中をフルスキャンし、個人情報やクレジットカード情報など機密データを特定する機能を提供していく予定です。特定することで、アクセスできない場所に隔離したり、暗号化することで個人情報を保護できます。今後、AIを悪用した攻撃に対し、NPUを活用しエッジAIで対策を講じるシーンが増えると考えています」
NPUの性能向上とともにエッジAIは進化していく。脅威が高度化、巧妙化する中、インテルとトレンドマイクロの協業の意義は大きい。安全安心のもと「AI PC」でワークスタイルをアップデート。従業員1人ひとりの能力が拡張される。


