高性能EVトラックと包括的ソリューション
2つの柱で顧客に納得感を提供
2050年のカーボンニュートラル達成に向け、自動車業界は変革の真っ只中にある。国土交通省の報告によれば、2023年度の国内CO2排出量のうち、19.2%を運輸部門が占めるという。大幅なCO2削減を実現するには、乗用車もさることながら商用車のEV化が急務となる。
この流れを受け、昨今ではEVトラックの導入が加速している。事実、街なかでEVトラックを目にすることも多くなった。商用車で国内シェアトップを誇るいすゞ自動車は、本カテゴリーのリーダー的存在でもある。2023年3月に同社初となる量産EV車両「ELF EV」(エルフEV)を発売して以降、着実に販売台数を伸ばしてきた。躍進の背景には、包括的なソリューションによってカーボンニュートラルと経済合理性の両立を目指す“いすゞ自動車のポリシー”がある。
いすゞ自動車株式会社
ソリューション営業開発部 部長
尾崎 伸弥 氏
エルフEVは入念な準備を経て開発された。いすゞ自動車では2019年から取引先を対象にEVモニター事業を開始。直接的なフィードバックを踏まえ、モニター車1台1台のデータを収集して知見を蓄積しながら明確なコンセプトを定めた。その特長について、いすゞ自動車 ソリューション営業開発部 部長の尾崎伸弥氏は次のように説明する。
「まずはディーゼル車と同じようにお客様が『これまで通りの使い方』ができること。トラックは仕事の道具であり、オペレーションを変えないことが非常に重要だからです。次に全国どこでも使用できること。そのため、気候条件に左右されない適切なバッテリー温度の管理システムを搭載しています。また、1日のうちに何度もキーのオン・オフを繰り返すトラックにとって、わずかな起動の遅れでもドライバーにストレスを与えます。この点を解消すべく、瞬時に起動するシステムを確立しました。これらのすべてに、モニター事業で検証したノウハウが存分に反映されています」(尾崎氏)
一方、EVトラックの市場は黎明期であり、顧客も手探り状態といえる。導入の大きな壁は航続可能距離、先に触れた経済合理性の2つだ。これらの課題に対し、いすゞ自動車は徹底した伴走支援を行なっている。
「トラックにはさまざまな種類があり、利用形態がそれぞれで異なります。月に1000kmしか走らない車両もあれば、長距離トラックであれば1万kmを超えることも珍しくありません。ですからお客様にもルート配送や都市部の宅配など、置き換えられる業務からEVにしていきましょうと提案しています。
経済合理性に関しては、確かに車両代だけを見ればディーゼル車よりも高いのですが、比較すると走れば走るほど電気代のほうがランニングコストが安くなります。最終的にトータルコストとしてはそこまで差がなくなるのです。逆に補助金などを上手く利用すればEVのほうが安くなるケースもあります。そうした長期的な視点での提案を心がけています」(尾崎氏)
伴走支援を具体化したサービスが、トータルソリューションプログラム「EVision(イービジョン)」だ。最初に、EVを購入したいと考える顧客に対して、航続可能距離を含めてEVが自社の仕事に有効かどうかを検討する「EVision コンシェルジュ」を提供。車両性能や安全装置などの説明に加え、EVの使い方自体を提案する内容となっている。
導入決定後は「EVision ソリューション」によって一貫してサポートする。EVには充電設備が不可欠だが、顧客のほとんどはそれらの事業者と接点がないため、いすゞ自動車が充電設備のパートナーとともに顧客の現場を視察して充電器の見積りを代行。公共充電事業者と連携してトラックでも充電できる街中の充電スタンドの利用促進にも努めている。
「先ほど、使えば使うほど電気代のランニングコストは安くなると話しましたが、忘れてならないのは充電する時間帯です。昼間のピーク時間帯に充電してしまうと次の月から電気代が跳ね上がってしまうからです。そのため可能な限り夜間に充電することが必要になってきます。そこで電気代を抑えたいお客様には、我々が外部パートナーと連携したエネルギーマネジメントシステムの導入をおすすめしています。メニューには太陽光発電やCO2フリー電力の事業者との連携も含まれますので、台数が増えるほどソリューションの価値が高まるはずです。全方位的にパートナーがいるのが当社の強みです」(尾崎氏)
運用フェーズに入るとさらなるニーズが出てくる。運行管理者を置く取引先には、遠隔から車両コンディションを監視できるコネクテッドサービス「PREISM(プレイズム)」を活用する。これにより、リアルタイムでバッテリーや車両の状態を把握できるようになる。万が一故障した場合はサービスセンターに情報が入り、迅速な対応を可能にしている。
「EVはドライバーの運転経験値が低いため、故障に気づきにくい。言うなれば、EVが自ら異常を申告するようなイメージです。新たに『いすゞEVアシストセンター』という専門部署を立ち上げ、24時間365日のコールセンターで対応しています。さらにはお客様の負担となる車両や充電器の補助金申請代行までカバー。これらをすべて包括して提供することがEVビジネスのソリューションだと考えています」(尾崎氏)
地方の環境事業者が意欲的に採用
運転のしやすさや静粛性を高く評価
エルフEVは大手運送会社やコンビニ、飲料メーカーなどに続々と採用されている。だが大手企業のみならず、自治体や地方の環境事業者が導入するケースも増えてきた。それが以下に紹介する3つの導入事例である。
「藤沢市様は環境意識が高い自治体の1つ。一方で直富商事様や志賀興業様は、環境事業者が自らカーボンニュートラルを意識してEVを導入した事例です。資源ごみの回収は狭い住宅街でストップアンドゴーを繰り返すことも多いため、付近の住民にとってもCO2削減に加えて騒音低減といったメリットもあります。日本にはゼロカーボンシティを宣言した自治体が1161(2025年3月31日時点)ありますので、自治体と民間企業の両輪で普及を図ってほしいと願っています」(尾崎氏)
CASE1:藤沢市役所
藤沢市では将来的に塵芥(じんかい)車※のEV化を検討しており、まずは第一段階として平ボディのエルフEVを1台導入した。現在は市内のコンビニに置かれた回収機から1日置きにペットボトルを回収し、1日あたり約40kmを走行している。
藤沢市役所 環境部環境事業センター 団地・狭隘担当 上級主査 鈴木優史氏は「ディーゼルのごみ収集車と比較するとEV車両のほうが明らかにスムーズに発進・停止ができます。乗りやすくコントロールもしやすいので、平ボディに関しては満点評価に近い」とコメント。いすゞ製の塵芥車にも期待を寄せた。
※:ごみ収集車のこと。いすゞ自動車では2025年2月に塵芥車および高所作業車向けの特装車シャシを追加し、本格的な展開を開始した。
CASE2:直富商事
長野県内を中心に、主に固形廃棄物のリサイクル事業を展開する直富商事。エルフEVは定期的な収集ではなく、各企業や個人からその都度排出される廃棄物の収集で活用している。週4〜5日の収集で平均50km前後の走行距離だが、帰社後の夕方に充電を開始すれば翌朝には満充電の状態になっているため、毎日の走行に問題はないという。
直富商事 代表取締役 木下繁夫氏は「我々は環境業であり、環境問題の解決に極めて近い立場ですから、SDGsや脱炭素の取り組みの一環として導入しました。私自身も実際に運転してみて、静かでパワフルな走行性能に感動しました。持続可能な社会の実現は世界中の目標。トラックを保有する企業すべてにおすすめしたい」と太鼓判を押した。
CASE3:志賀興業
東京都三鷹市に本社を構える志賀興業は、三鷹市、武蔵野市、小金井市のごみ収集運搬業務を受託している。月曜日から金曜日まで、びん・かん、古紙などの資源回収車としてエルフEVを活用し、1日あたりの走行距離は30km前後。ドライバーからは「オートマチックで体の負担が少なくなった。また、住宅街でも騒音がなくなったことが大きなメリット」と好評だ。
志賀興業 代表取締役 志賀隆宏氏は「導入検討をサポートする『EVision コンシェルジュ』でも補助金を含めていろんな説明をいただき、とても満足できました。2024年夏から2025年2月末までの間で、導入した3台合計で1tのCO2削減に成功するなどカーボンニュートラルへの貢献度も高い。今後もCO2削減を推進していきます」と語った。
10年間のフルメンテナンスリース
覚悟を持ってEV普及の旗振り役を務める
カーボンニュートラル戦略には、CO2削減を定量化する「EVision レビュー」が役立つ。いかに脱炭素に貢献できたかを検証して顧客に提供し、効果を“見える化”することでさらなる脱炭素化に向けた提案を行なう。
「EVision レビューの結果は自社の状態を把握することはもちろん、“お客様のお客様”にアピールすることにもつながります。現状、物流はコストと見られがちですが、EVで物を運ぶ価値を上げていくためには、物流会社だけの努力では限界があります。実際に欧米の企業では、スコープ3を視野に入れたサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを強化する機運が高まってきました。だからこそ荷物の送り手側である荷主がカーボンニュートラルの効果を実感して、EVの導入を促進してほしい。物流がコストから価値へと変わっていけば、自ずとEVの普及は進むと見ています」(尾崎氏)
いすゞ自動車は商用車領域において、EV普及の旗振り役になっていくことを全社的に掲げている。それを踏まえ、EV車両について今後どのような未来を描いているのか。この問いに尾崎氏は次のように答えた。
「EVでは車両を販売してメンテナンスするビジネスから脱却して思考を変えていく必要があります。エルフEVに関しては、故障しても定額のリースの中で対応するフルメンテナンスリースを提供しています。EVのバッテリーは非常に高額なのですが、これによって故障しても定額で乗ることができます。つまり生涯コストをあらかじめ算出できるので、そこに価値を見出していただければ導入効果はあると思っています。
そのうえでリースに関しては最長10年間で提案しています。しかし10年後のEVがどうなっているのかなど予測不可能です。それでも我々は定額リースでリスクを引き受けながら覚悟を持って取り組んでいます。EVはトラックだけではなくバスも展開していますし、塵芥車も投入しました。『EVならいすゞに任せよう』と選んでいただけることが理想ですし、何よりもお客様に安心して使用していただきたいのが我々の思いです。これからも、お客様がカーボンニュートラルを達成できるように寄り添いながら、包括的なソリューションをアップデートしていきます」(尾崎氏)
2024年には普通自動車免許で運転できる車両総重量3.5t未満の「エルフミオ EV」も発売された。“だれでもトラック”をキャッチフレーズに、深刻なドライバー不足の解消と女性ドライバー活用を狙ったEVトラックだが、ダイバーシティとカーボンニュートラルが融合したプラットフォームとしても注目すべき存在だ。このように、いすゞ自動車は時代のニーズを汲み取りながら進化を続けている。産業基盤を支えるEV車両の次の一手に期待したい。