ルート配送をメインとする生協を舞台に小型EVトラックの導入が進む。宮城県・福島県のみやぎ生協、東京都のパルシステム東京では、普通免許で運転できる車両総重量3.5 t未満の「エルフミオEV」を採用し、さまざまな効果を生み出している。深刻化するドライバー不足とカーボンニュートラル達成という2つの社会課題解決に寄与する“一挙両得”のユースケースに迫った。
人口減少に伴う労働力不足は、さまざまな業界で喫緊の課題となっている。中でも物流・運送業界における慢性的なドライバー不足は深刻だ。拍車をかけたのがいわゆる「2024年問題」である。働き方改革関連法によって2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限され、各事業者が対応に追われた。
もう1つ、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて商用車のCO2排出量削減も避けては通れない。ここでは商用車のEV化が重要な役割を担う。昨今では都市部を中心にEVトラックを目にする機会も増えており、徐々に普及しつつある。
ドライバー不足と脱炭素の推進――この大きなテーマを解決する有効な手立てが、“普通免許で誰でも乗れるEVトラック”だ。いすゞ自動車が2024年に市場投入した小型EVトラック「エルフミオEV」がまさにそれに該当する。
2017年の道路交通法改正後に普通免許を取得した人でも運転可能で、トラックと聞いてイメージする準中型や中型免許を必要としない。さらにエルフミオEVは乗用車感覚で運転できる取り回しの良さという特徴を持つ。これによりドライバー未経験者に対するハードルはぐんと下がり、若年層や女性などリーチが難しかった新たな層の掘り起こしに貢献している。
EVトラックの導入にあたっては、充電計画や日々のスケジュールなど運行成立性を考慮し、ルートを定めて導入するのが推奨される。例えば、毎日一定のコースを走行するルート配送やごみの回収などと相性が良い。これらの用途は道路が狭い住宅街で頻繁に停車・発車を繰り返すことが多いため、EVトラックの導入によってCO2削減に加えて騒音低減といったメリットも得られる。
今回は宮城県と東京都、2つの生活協同組合(以下、生協)でのエルフミオEV導入事例を紹介したい。まちなかのルート配送を基本とする生協にとって小回りの効くエルフミオEVは相性抜群で、環境配慮をアピールする面でも功を奏している。双方とも1日あたり10〜20キロ程度の走行で、充電に関する問題もないという。航続可能距離が短く導入が難しいと思われがちなEVトラックだが、“適材適所”の活用方法としてぜひ参考にしてほしい。
みやぎ生協は1982年、宮城県学校生協と宮城県民生協が合併して誕生した。2019年には隣県のコープふくしま、福島県南生協と組織合同を行い、現在は宮城県全域と福島県中通り・浜通りを事業エリアとする。

みやぎ生活協同組合
みやぎ生活協同組合
宅配運営本部 課長
渡辺 憲一 氏
宮城県内には各地に11の配送センターがある。このうち、仙台市中心部をカバーする「仙台中央センター」では、いすゞ自動車を含む3メーカー/3台のEVトラックを運用中だ。導入の経緯について、宅配運営本部 課長 渡辺憲一氏はこう語る。
みやぎ生活協同組合
宅配運営本部 課長
渡辺 憲一 氏
「みやぎ生協では、環境理念の中で温室効果ガス排出削減を掲げています。これに基づき、宅配部門でも2030年までに全車両に占める次世代車両の割合を高める計画があり、EVトラックが環境理念の達成につながると考えて導入しました」(渡辺氏)
EVトラックは2023年から段階的に比較検証していたが、荷台とプラットフォーム(荷物の積み下ろし場所)との段差が生じている点に懸念があった。
そこで2024年にエルフミオEVを検討したところ、荷台高が855ミリとちょうどプラットフォームにフィットする高さだと判明。渡辺氏は「現場の職員が支障なく積み下ろしできること、そして普通免許で運転できることが決め手になりました」と語る。
みやぎ生活協同組合
仙台中央センター 配送グループマネージャー
井島 貴之 氏
仙台中央センターは普通免許しか持っていないドライバーの割合が高く、なおかつ女性ドライバーが多い特徴がある。現にエルフミオEVのドライバーも女性が担当している。配送グループマネージャーを務める井島貴之氏は「担当ドライバーからは『とても乗りやすくなった』『スムーズに運転できるので助かっている』との声が届いています。停車と発進を繰り返して1日60件ほどを回ってもストレスを感じず、配送先で停車して休憩するときにアイドリングの騒音や排気ガスが出ないことも利点です」と話す。

カラフルなラッピングが特徴的なみやぎ生協のエルフミオEV
仙台中央センター センター長の黒田明彦氏は次のように語る。
みやぎ生活協同組合
仙台中央センター センター長
黒田 明彦 氏
「トラックのイメージは古い、汚い、うるさいといったものかもしれませんが、エルフミオEVは静粛性に優れ、外装もキレイで清潔感があります。このことはパートの主婦の方々にとっても安心材料になりますし、女性でも無理なく運転できることをもっと訴求していきたい。加えて普通免許で運転できる点は求人でも強みになり、ドライバー不足の解消に役立つと考えています」(黒田氏)
2025年度中には2台のエルフミオEVを追加することも決まった。その2台は仙台中央センター以外への導入を予定している。現在、いすゞ自動車からは毎月の定期レポートの提供を受けており、「CO2排出量削減目標に向け、期待通りの運用ができています」と渡辺氏は言う。
EVトラックであることが目立つようにラッピングに力を入れたこともあり、配達で訪れた組合員からも好意的な反応が増えたという。職員にとってもモチベーション向上に結びついており、黒田氏は「新しい技術や環境に配慮した車を導入し、職員が実際に運転できることは、『先進的な取り組みをしている職場で働いている』という良い刺激になっています」と語った。
1970年に設立したパルシステム東京は、島嶼部を除く東京都全域が事業エリア。2025年3月末時点の組合員数は53万9465人、職員数は1770人を誇り、都内に全17カ所の配送センターを構えている。

パルシステム東京 多摩センター
パルシステム東京では、2030年度までに2013年度比でCO2排出量46%削減を掲げる。内訳は施設由来が4割、車両由来が6割。ただし施設の削減対策に関しては太陽光パネルの設置や省エネ機器の導入、電球のLED化に至るまで施策が進んでおり、今後は車両によるCO2削減に本腰を入れていく。
こうした背景から2024年度、「多摩センター」と「狛江センター」に各1台ずつエルフミオEVを導入した。パルシステム東京の委託協力会社ではEVトラックを2023年度に1台、2024年度に3台を導入していたが、プロパーで導入したのは今回が初めてとなる。なぜこの機会にエルフミオEVに切り替えたのか。パルシステム東京 総務部 部長 工藤明氏はその理由をこう説明する。
パルシステム東京
総務部 部長
工藤 明 氏
「先行して導入したEVトラックを関連部署で何度も検証しましたが、積載量が課題でした。私たちは基本的に毎日1便で60〜70件の商品を満載状態で配達しますが、当時検討していたEVトラックでは7~8割しか積めず、1便での運行が難しい状況だったのです。次の候補を探しているときにこれらの要件に対応するいすゞのエルフミオEVが発売され、最終的に当組織の配送トラックとして採用することになりました。普通免許対応だったことも後押ししました」(工藤氏)
パルシステム東京
総務部 部長
工藤 明 氏
とりわけ普通免許対応は欠かせないファクターだった。ここ数年ほどで採用した新卒職員は全員普通免許のみで、準中型免許を持っていないからだ。中途採用職員も同様で、20代はほとんど準中型免許を所持していない状況だった。パルシステム東京 多摩センター センター長の中山雅之氏は「3年、5年、10年と先を見据えると、普通免許のみを持つ人の割合がどんどん増えていきます。そう考えると、普通免許で運転できるエルフミオEVはメリットが大きいです」と話す。
ドライバーの反応も上々だ。従来のディーゼル車、ガソリン車と比べて圧倒的に静かで、操作性や発進時のスムーズさも好評だという。
パルシステム東京
多摩センター センター長
中山 雅之 氏
「パルシステム東京のトラックは住宅街を走行します。とくに多摩地区はマンションよりも一戸建てが主流で、都市部や湾岸エリアとは状況が異なるため、騒音を気にされる方が多いのが特徴です。これまではエンジンをつけっぱなしにすることで組合員以外の地域住民の方から問い合わせをいただくことがよくありましたが、EVトラックならその問題を回避できます。さらに、給油の必要がなくセンター内の充電設備で充電できるため、時間効率が向上した点も長所として挙げられます」(中山氏)
パルシステム東京
多摩センター センター長
中山 雅之 氏
また中山氏は、環境に対する職員の意識向上や組合員に対する発信効果についても手応えを感じている。
「職員の多くは環境問題に関心が高く、EVトラックの導入はその方向性と一致しています。センター全体としても脱炭素をアピールでき、組合員の方々からも『環境配慮型の車両を使っている』という認知が得られています。今回のEVトラックは特別仕様として通常の約3倍の費用をかけたデザインにしたこともあり、広報面でも大きな役割を果たしていると思います」(中山氏)

エルフミオEVの導入は全国生協で初。専用デザインを施した
先に述べた46%削減を達成するには、車両だけで多くのCO2削減を必要としていた。
「2年前は車両におけるCO2削減計画がまったく立てられない状況でした。しかしこの間に各メーカーの実験導入を行ない、私たちの状況に適したエルフミオEVを導入したことで計画を一から見直し、目標を達成できる計画を立てることができました。計画通りに進めば、目標削減量を達成できる見込みです。開発に尽力いただいた関係者には感謝しています」(工藤氏)

暑さが厳しい倉庫には大型シーリングファン、太陽光パネルの設置など環境に配慮した取り組みがなされている
パルシステム東京では2025年9月・10月にエルフミオEVを10台導入し、各センターに1〜2台ずつ均等に配置。2026年度以降も「パルステム東京:2030年CO2削減計画」に基づき導入していく。工藤氏は「EVトラックの導入はハードルが高いと感じるかもしれませんが、実際に導入してみると環境面での効果に加え、環境アピールや運転の快適さなど多くのメリットがあります。ぜひ一歩踏み出して導入を検討すべきではないでしょうか」とエールを送った。
両生協ともに太陽光パネルを設置して再生可能エネルギーを施設の運営に活用するなど、もともと積極的にカーボンニュートラルを推進してきた。工藤氏の言葉にあるように、EVトラックの導入によってCO2削減目標計画そのものが変わる可能性も高い。ここで紹介した当事者の言葉は、EVトラック導入を検討する事業者にとって心強いヒントになるはずだ。