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イトーキ 次の成長軸は「防災インフラ」オフィスからシェルターまで事業領域が広がる現在地 イトーキ 次の成長軸は「防災インフラ」オフィスからシェルターまで事業領域が広がる現在地

オフィス家具メーカーとして知られるイトーキが、オフィスにとどまらず、工場・研究所・学校・公共施設など働く場全体を手掛ける企業として事業を広げている。好調な業績の裏では、人的資本経営の観点から企業の“働く場”を再構築する取り組みが進む。一方で、防災・防衛領域では特殊扉などの国土レジリエンス事業が新たな成長軸として浮上している。イトーキはなぜこの二つの領域に注力するのか。その戦略と日本経済の潮流について読み解く。

好調なオフィス事業は
首都圏に加え地方都市が熱い!

業績が絶好調のイトーキ。5期連続増益、2期連続過去最高益を更新し、2025年12月期通期の売上高は1500億円、営業利益も120億円の計画で、中期経営計画の目標も前倒しで達成する見込みだ。

「国内オフィス事業が引き続き好調です。コロナ禍後、オフィスは単なる設備ではなく人的資本投資として見られるようになりました。『働きたいと思われる職場づくり』は今や企業価値向上のテーマになっています」(湊社長)

馬渕氏も市場の変化を肯定的に捉える。「人的資本経営が企業価値評価に組み込まれるようになり、オフィス投資は『コスト』ではなく『成長投資』に変わりました。これは業界横断的な構造変化だと感じます」

イトーキの受注の伸びを支えるもう一つの潮流が「地方リニューアル」だ。

馬渕磨理子氏

「東京の大手企業が職場づくりを進めたことで、その取り組みが支社や関連会社にも波及し、それを見た地方企業や自治体も動き始める流れになっています。地方の市役所や県庁も若手職員が集まらないという課題を抱え、老朽化した庁舎を働きがいのある職場へと変える動きが増えています。私たちは空間デザインの前に、まず『どんな働き方を実現したいか』を対話する。目的に合った働き方の設計から始めるのが特徴です」(湊社長)

市役所の全面リニューアルなど、地方案件は次々と形になりつつある。馬渕氏は「地方でオフィスや庁舎の更新が進む背景には、労働人口の減少という構造問題があります。採用難の中で働く環境を整えることは、地方企業にとって競争戦略になりつつあります。そこに応えられる企業は強いですね」

湊 宏司氏

工場・研究所・学校へ
“働く”の定義を拡張する

好調の背景には、オフィスにとどまらない事業領域の拡大もある。
「家具を売るだけでは差別化できません。だからこそ、“働き方そのものと合わせて売る”ビジネスに転換しました。今では工場、研究所、学校にも同じ発想を持ち込んでいます」(湊社長)

例えば工場では、安全・効率だけでなく休憩時間の質を高める設計が求められる。無菌環境で働く研究者の動線設計や作業効率を踏まえた空間づくりには、子会社の研究設備メーカーであるダルトンの知見を生かす。教育現場では、教師の働きがい、学生の学びの場をどう育むかという新しい視点も加える必要がある。

「オフィスで培った働き方改革のノウハウをあらゆる現場に横展開できる。これは御社ならではの総合力ですね」(馬渕氏)

イトーキが手掛けた工場(左)と、子会社ダルトンによる研究所(右)の事例

防災・防衛領域で花開く
特殊扉事業での注目度が上昇

湊社長は次に、意外な分野の話題を切り出した。「実はイトーキは、創業以来の金庫技術を発展させ、1966年から“特殊扉”を手掛けてきました。原子力発電所21か所のうち18か所の特殊扉に携わっており、原子力施設向けを中心に約3000基を納入しています。当社が手掛けた世界最重量720トンの遮蔽扉はギネス認定されています」

原子力発電所や研究施設で採用されているその技術は、放射線を遮蔽することや津波を跳ね返すための構造と性能が必要で、70を超える特許と高精度の施工技術によって支えられている。10トンを超える巨大な構造物をミリメートル単位で設置する施工力は他に類を見ず、扉によっては1日で取り付けを完了させるスピードと精度は発注元からも高く評価されている。

「これは製造から販売、取り付け、保守までをすべて自社で一貫して担っているからこそ。配線や内部構造といった見えない部分まで美しく仕上げる品質も信頼につながっています」(湊社長)

その技術を基に生まれたのが、マルチ防災シェルター扉「BOUNCEBACK」だ。重さ1.4トンで女性でも手動開閉できる設計と、耐衝撃400kPa(キロパスカル、約40t/㎡)の強靭さを誇り、気密・水密・放射線遮蔽など世界水準の性能を実現。完全国内生産による供給網の堅牢さも強みだ。「私たちはレジリエンスジャパン推進協議会のワーキンググループに特殊扉メーカーとして参加し、国への提言も行っています。地下シェルター整備は、東京都に加え、与那国・石垣など先島諸島でも動き始めています」(湊社長)

マルチ防災シェルター扉BOUNCEBACK

マルチ防災シェルター扉BOUNCEBACK

政府の防災・防衛政策が本格化する今、馬渕氏もイトーキの独自性に注目している。「この分野は“高市銘柄”とも呼ばれています。防衛・防災・インフラ再整備という国家テーマの中心で、供給網を完全に国内で完結できる企業は極めて少ない。イトーキの国産技術と施工の総合力は際立っています」

設備機器・パブリック事業で
第2の柱を築く

現在、この特殊扉を含む設備機器・パブリック事業がイトーキの売上の約4分の1を占めている。研究所の設備、物流倉庫の自動仕分け機(シャトル台車式自動倉庫「システマストリーマーSAS-R」)や美術館の展示ケースなど、分野は多岐にわたるがいずれも社会基盤を支える点で共通している。

「持続的成長を強化するためにはオフィス事業に加え、次の柱を育てなければなりません。まずは2026年度の中期経営計画をやり遂げ、その上で次期(2027~29年)計画でこの領域を一気に伸ばしたいと考えています」(湊社長)

すでにAIによる予知保全や「オフィス3.0」の構想も進行中だ。空間とデジタルを融合させることで、製造・流通・研究・行政まであらゆる場がデータでつながる空間へと進化していく。

馬渕氏はその方向性を高く評価する。「湊社長の強みは、IT業界で培ったデジタル知見と、製造業としての技術力を有機的に組み合わせている点です。これはオフィスメーカーの枠を超えた、社会インフラ企業への進化だと思います」

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