

京都市と縁の深いパナソニック ホールディングス。
同社参与でプロのジャズピアニストという肩書も持つ
小川理子氏と京都市長の松井孝治氏が、
クリエーティブなビジネスを生む拠点として
国内外から注目される京都市の魅力を語り合った。

今回の対談は世界遺産でもある二条城内にある香雲亭で行われた。京都の豪商であった角倉家の旧邸の一部を移築・改修した建物で通常は非公開。夏季・冬季には、ここで朝食・昼食会が実施される。
松井:小川さんはご出身が大阪だと伺いました。隣接する京都については、どんな印象をお持ちですか?
小川:私は幕末の日本史が好きで、中学生になるとガイドブックを片手に京都の神社仏閣や史跡を1人で巡っていました。子どもながらに、京都がもつ魅力、ほかのどのまちとも似ていない唯一無二の雰囲気に魅了されていたんでしょう。
松井:京都にお住いになったこともあるんですよね?
小川:はい。2018年から副社長を務めていたアプライアンス社の本社が滋賀県にありましたので、念願だった京都暮らしをすることにしました。およそ4年間過ごした市内中心地の自宅周囲は、とても静かで落ち着いた雰囲気。それでいて、少し歩けば素敵な飲食店や商店があり、自転車があればすぐにお気に入りの神社仏閣へ行けるというロケーション。京都はとても暮らしやすいまちですよね。
松井:コンパクトなサイズの中に、多様な個性が詰まっているのは京都の魅力の一つです。京都の市街地は、東京で例えればJR山手線内にすっぽりと収まってしまいます。ウオーカブルなまちの中に、世界遺産に選ばれている14もの文化財があり、三方を囲む山がもたらす豊かな自然もあるのです。路地を歩けば数百年も前に建てられた京町家が並び、その傍らには小さなほこらがあったりする。ただ暮らすだけで、これほど様々な刺激を得られるまちは世界中探しても珍しいのではないでしょうか。
小川:おっしゃるとおりだと思います。18年にPanasonic Designの家電分野を担当しているアプライアンス社デザインセンターを京都に集約し「Panasonic Design Kyoto」を立ち上げたのも、京都がもたらすセレンディピティーに期待してのことです。それまでのパナソニックのデザイナーは、各事業所に勤務していたので全国に散らばっていました。しかし、よりイノベーティブな商品やサービスを生み出すには、デザイナーのクリエーティブハブになるような拠点がどうしても必要だったのです。公私両面で感性が刺激され、新たな発想があふれ出てくるような場所となると、京都以外には思いつきませんでした。
松井:京都を選んでいただき、ありがとうございます。「Panasonic Design Kyoto」の開設から7年ほど立ちますが、期待していたような成果は出ていますか?
小川:もちろんです。京都にしかない、人を引きつける吸引力は想像以上でした。本当にクリエーティブな魅力にあふれるまちです。デザイナーはその魅力を感性で感じ取り京都へ集まってきます。京都移転後は、採用活動も順調になりましたし、国内からだけでなく海外のデザイナーからも「京都で働けるのなら行ってみたい」という声が多数届いています。
パナソニック ホールディングスと京都市にはいくつかの接点がある。まずは、大阪と滋賀に分散していた拠点を京都に集結させた「Panasonic Design Kyoto」。同施設が入るビルの1階には、2023年12月から25年1月までの期間、まちなかにあるガラス張りの空間で音楽を提供する実証実験として、テクニクスサウンドの体感拠点「Technics café KYOTO」もあった。多様な人、音楽、文化の出会いを創出する拠点とするべく、ハイエンドオーディオから流れる音楽を聞きながらコーヒーを飲める場所として人気を博した。

松井:それは我々としてもとてもうれしいことです。特に未来を担う若者に国内外から来ていただき、どんどんチャレンジをしていただきたい。京都は歴史や文化、観光の面において世界的な知名度を誇っていますが、ビジネス拠点としての認識はまだまだ低いのが課題です。最近になって、ようやくクリエーティブなビジネスの拠点として京都が見直されつつありますが、この流れを今後も加速させなければなりません。
小川:企業にとって最大の資産である人材という面で見ても、多くの大学がある京都は魅力的に映ります。
松井:京都は優秀な人材の宝庫です。京都市内には36の大学があり、約15万人の大学生・院生が学んでいます。市民に占める学生の割合は約10%。これは全国トップの数字です。昔から多くの学生を受け入れてきましたから、京都ほど若者のチャレンジに対して寛容なまちはありません。そうした風土を生かし、若いクリエーター、研究者、アーティストたちが、生き生きと活躍できるまちづくりを現在進めています。
小川:新幹線に乗っていると、車窓から見える京都駅周辺の変貌ぶりに驚かされます。これも、そうしたまちづくりの一環なのでしょうか。
松井:はい。京都駅周辺では地域特性に応じたまちづくりが加速度的に進展しています。駅の東にある崇仁エリアには、23年に京都市立芸術大学が移転してきてまちに活気を与えています。そのすぐ北にある菊浜というエリアも、ここ数年で劇的に様子が変わりました。ここは任天堂の本社があった場所で、任天堂創業家の山内家が管理する山内財団の尽力もあり、古い建物をリノベーションして、コワーキングスペースやホテル、アーティストの住居や工房などとして利用されています。京都駅の西にある梅小路エリアは、すでに多くの方に認知していただいているでしょう。京都水族館や京都鉄道博物館といったランドマークを中心に公園や住宅が整備され、多くの若年層ファミリーが移り住んできています。同時に、滞在型のアーティスト向けホテルや、試作ができるものづくり拠点などが開設され、若いクリエーターも全国から集まっています。また、今一番の注目を集めているのは、京都駅の南東にある東九条エリアです。25年の秋には、世界的なアート集団「チームラボ」のアートミュージアムがオープン。その後も、世界中の大規模体験型アート展示に特化した「Superblue Kyoto」などがオープン予定です。近未来には、アートなまちとして認知されるのではないでしょうか。
小川:京都駅の南側では、新たなビジネス拠点を創出するプロジェクトも進行しているとお聞きしました。
松井:そうなんです。オフィスやラボを誘導するプロジェクトで、「京都サウスベクトル」と名付けて23年に始動しました。京都らしい景観を守るための最低限の決まりは堅持しつつ、建築物の高さや容積率の規制を緩和して補助制度も充実。国内外の様々な企業の本社機能や研究開発拠点等を受け入れられる体制を整えています。
小川:コンパクトなまちに、これまで以上に多様な人たちが集まってくれば、おもしろいムーブメントがたくさん生まれてきそうですね。ジャズの醍醐味はインプロビゼーション、つまり即興演奏にあるんです。会ったばかりのミュージシャン同士でも、あうんの呼吸で作品としてその場で仕上げられる。これは、小編成のジャズバンドならでは。スタートアップが成功するためには、できるだけ早くプロトタイピングして実証実験を重ね、世の中の感触をつかんでいくことが大事ですが、ジャズと同じでプロトタイピングは組織がコンパクトであればあるほどやりやすいですよね。優秀な人たちが密度高く集まってくる京都は、コンパクトでスピーディーにプロトタイピングできるため、ビジネスの場としてとても魅力的だと思います。
京都市は地域ごとに様々な特色があり、
それがまちとしての深みや魅力につながっている。


滞在型のアーティスト向けホテルや、休眠スペースを改装した飲食店、試作ができるものづくり拠点などが開設。

グローバルなクリエーター、アーティスト、研究者、起業家などの交流空間として、順次プロジェクトが進行中。

「文化芸術」「若者」を基軸としたまちづくりを推進。2025年秋には世界的なアート集団「チームラボ」によるアートミュージアムが開業予定。

京都駅の東、北側線路沿いに、京都市立芸術大学が移転し(2023年)、学生たちの活気あふれるエリアへ変貌。
松井:ありがとうございます。こうした京都市の取組を全世界の人に知っていただくのに、大阪・関西万博はまたとない機会だと考えています。パナソニックさんはパビリオンを出展されるとお聞きしていますが、差し支えなければ内容を教えていただけますか。
小川:子供たちに向けたパビリオン「ノモの国」を出展します。「ノモ」は「モノ」を逆さまにした言葉で、「物は心の写し鏡」という意味を込めており、心の持ちようによって、モノのとらえ方は大きく変わるということを感じていただくきっかけを提供します。次代を担う子供たちに明るい未来を感じていただきたいです。
松井:未来を担う子供たちにとって、自分たちの輝く未来を想像する良い機会ですね。とても楽しみです。小川さんは、日本国際博覧会協会の理事も務めておられますが、万博開催にあたり京都にどのようなことを期待していらっしゃいますか?
小川:万博にいらっしゃるお客様の足が、スムーズに京都にも向かうような仕掛けを多く用意していただきたいですね。今回は「大阪」万博ではなく、あくまでも「大阪・関西」万博です。万博会場でパビリオンを楽しむだけでなく、関西各府県でも日本の魅力を感じていただかなければいけません。
松井:京都市では、万博を機に来日される政府・ビジネス関係者に対して、市内の様々な産業拠点をご案内するテクニカルツアーの開催を計画しており、京都の魅力を知っていただくとともに、ビジネス交流やネットワーク構築につなげていきたいと考えています。また、2年連続で開催されたスタートアップイベントのIVSが、25年も京都で開催されることが決まっています。24年は、市内を中心に300以上ものサイドイベントが開催されたので、次回のIVSでもスタートアップ・エコシステムとしての京都を、多くの人にアピールしたいですね。
伝統とイノベーションが融合する京都市では、
様々な国際的イベントが開催されている。

IVSは、国内外の起業家・投資家等が一堂に会する、国内最大規模の国際スタートアップ・カンファレンス。2024年の「IVS2024 KYOTO」は、3日間で1.2万人を超える来場者があり、67の国・地域から社会変革の意欲に満ちた方々が訪れ、新たな交流が生まれた。3年連続となる25年の京都での開催も決定し、スタートアップ・エコシステムの発展へとつなげる。

京まふは、京都市で2012年から開催されているマンガ・アニメ・ゲームの総合見本市で、人気作品の出展ブースや豪華声優によるステージイベントでにぎわい、毎年約4万人が来場する。海外でも人気の日本のコンテンツを京まふを中心に京都市から発信している。
小川:どれもとても意義のあることですね。スタートアップは東京に一極集中しすぎていますので、若い才能が京都を目指し、自由な空気の中でイノベーティブな活動ができる基盤づくりを進めておられるのは素晴らしいことだと思います。企業や人々がこれからどんどん京都に集まってくるのだと思うとワクワクします。
松井:私が目指す京都の姿は、「すべての人に居場所と出番がある、突き抜ける世界都市」です。そのため、世界を視野に入れた海外企業誘致に取り組み、突き抜けた人材・企業を積極的に京都へ誘致したいです。日本中・世界中から多彩な人々がつどい、交流し、協働することで、新たな価値を創造し続けるまちを目指しています。

1962年大阪市生まれ。慶應義塾大学卒業後、松下電器産業に技術者として入社し、音響機器の研究開発に従事。2021年から現職。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会理事として万博開催にも尽力している。また、プロのジャズピアニストとしての側面も持つ。

1960年京都市生まれ。東京大学教養学部卒業。83年に通商産業省(現経済産業省)入省、内閣官房内閣副参事官などを経て、2001年から参議院議員、内閣官房副長官などを歴任。13年から慶應義塾大学総合政策学部教授を務めた後、24年に京都市長に就任。
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