京都市の誇る歴史と文化がグローバル企業にインスピレーションをもたらす 京都市の誇る歴史と文化がグローバル企業にインスピレーションをもたらす

対談日:2025年8月27日

長い歴史と様々な文化を内包する京都市が、
海外企業の誘致に力を入れている。
歴史都市にビジネスの拠点を置く意味とは。
松井孝治京都市長と、日本文化にも造形の深い
フィリップ・セトン駐日フランス大使が語り合った。

今回の対談は東京・港区にあるフランス大使館で行われた。外交施設でありながら、環境配慮・芸術性・歴史的背景を融合させた稀有な建築物で、江戸時代から続く庭園との一体性を守りながら、現代的な機能性を備えている。

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互いの文化への
敬意が紡ぐ友好関係

松井市長:京都のまちは、3つの大きな山、西山、北山、東山に囲まれていて、その山が蓄えた豊富な地下水があり、鴨川や桂川といった川、庭園や緑地の多い自然豊かなまちです。

そして京都は、現在でも「文化の首都」という言い方をする人もいる、文化・芸術の都でもあります。長い時間をかけ、茶道や華道、能や狂言、西陣織、京焼・清水焼、京料理など日本伝統の奥深い文化が培われ、磨かれ、今も日常に色濃く息づいています。京都人のモットーは「伝統と革新」です。伝統を尊重しながらも、その伝統に甘んじず、新しいイノベーションを志向するというまちの気風が私たちの誇りでもあります。

セトン大使:京都は私にとって、訪れるたびにもう一度行きたくなるまちです。2023年以降、訪日フランス人観光客が大きく増加し、少なくとも65%が京都を訪れているのも、長い歴史と豊かな文化遺産に魅力を見いだしているからでしょう。個人的には、心が穏やかになる無鄰菴や西芳寺(苔寺)が特にお気に入りの場所です。2020年秋に駐日大使として着任し、天皇陛下に信任状を奉呈した日の午後、最初に訪れた出張先が、実は京都でした。その際に妻と訪れた清水寺のライトアップされた見事な紅葉は、まるで魔法の世界のようでした。

松井市長:いずれも素晴らしい場所で、そういう場所を大使が印象深く受け止めていただいていることに感銘を受けました。

共に1000年を超える歴史を有する京都市とパリ市は、1958年に友情盟約(姉妹都市)を締結し、互いの文化を深く理解し、リスペクトしながら、良い関係を育んでまいりました。この秋にも、フランス政府公式機関である関西日仏学館と京都市の主催で15回目となる現代アートイベント「ニュイ・ブランシュKYOTO」が開催されます。

ニュイ・ブランシュKYOTO

パリ発祥の「ニュイ・ブランシュ(白夜祭)」に着想を得て、2011年から京都市と関西日仏学館が毎秋開催する、現代アートの祭典。京都市内各地で日仏アーティストによる展示、ダンス、音楽ライブ、パフォーマンス等、多様なプログラムが実施され、気軽に現代アートに親しみ、姉妹都市パリとのつながりを感じる機会を提供している。

「時間密度」が高いから
京都もパリも暮らしやすい

セトン大使:1927年設立の関西日仏学館内には、2009年からフランス総領事館も開設されています。京都に総領事館を置いている国は、フランスだけです。

松井市長:昨年、工芸レジデンス10周年を迎えたヴィラ九条山も、フランスがアジアに持つ数少ないアーティスト・イン・レジデンス(一時滞在型の創作活動の場)と伺っています。なぜ様々なフランスの機関を京都市に設置いただいているのでしょうか。

セトン大使:端的にお答えするなら「京都だから」です。フランスと京都の間には歴史的な絆があります。各地へのアクセスも非常に便利ですし、なにより生活の質が高く、美しくて魅力が多いまちだと考えています。

松井市長:大使のおっしゃった「京都だから」というお答えは大変光栄であり、最高の褒め言葉だと思います。京都の魅力は、歴史的な建造物や美しい庭園にもありますが、一番の京都の良さは、生活の質、生活の文化にあると考えています。職と住、そして豊かな自然が近接しているウォーカブルシティー、市民が暮らす京町家の美しさや日常の食の豊かさは、パリのまちの魅力にも通じるものがあると思います。

パリ市の都市計画に、生活に必要な機能を徒歩または自転車で15分以内にアクセスできるようにする「15分都市構想」がありますが、こうしたいわば「時間密度」の高さも、京都市とパリ市に共通している点であり、私がフランスやパリ市に強いシンパシーを感じる点でもあります。

ウォーカブルシティー

京都市内は、職と住が近接しており、多くの人が徒歩や自転車で通勤している。また、公共交通網も充実しており、歩いて移動できる「歩くまち」を実現している。さらに、京町家や老舗の歴史的な街並み、個性豊かな喫茶店・書店など、文化性豊かな生活環境を有し、山紫水明の自然環境と全国的にも例を見ない景観政策によって、都市でありながら空が広く、優れた都市景観が守られている。

関西日仏学館

京都市左京区にあり、1927年より活動するフランス政府公式機関。フランス大使館の文化ネットワークに属し、フランス語・フランス文化講座を提供するほか、展覧会、講演、映画、音楽、演劇、ダンスなどの文化イベントを開催。館内には2009年より在京都フランス総領事館が入居している。

ヴィラ九条山

フランス政府が運営する、京都市山科区にあるアーティスト・イン・レジデンス施設。1992年設立の日仏文化交流の象徴的な場所。芸術家や職人が一定期間滞在し、日本文化と対話しながら創作活動を行うための拠点として、世界的にも高い評価を受けている。

京都に本社を置くという、
グローバル企業の経営判断

松井市長:「伝統と革新」が融合した京都市には、ビジネスのまちという側面もあります。

セトン大使:任天堂や堀場製作所などは京都を発祥の地とする企業ですね。

松井市長:他にも京セラやオムロン、島津製作所など枚挙にいとまがありません。各企業には他にはないオリジナリティーを持っているという共通の特徴があります。また、この半世紀ほどで国内企業の多くが本社を東京に移してきたのとは対照的に、京都を本拠地としたまま世界を舞台に事業展開しているグローバル企業でもあります。企業規模の拡大を目指すのであれば東京でもよいが、自分たちにしか作れないものを追求するのであれば「本社は京都にある方がよい」と思っていただけるクリエイティブな環境が京都にはあるのだと思っています。

恐らく多くの方は京都をビジネス都市と認識していないと思いますが、京都の伝統文化を維持発展させるためには、経済的な発展が欠かせません。京都市では近年、企業誘致に大変力を入れており、2023年度からは京都駅の南側で、高さ規制や容積率の緩和といった都市計画の見直しと連動したオフィス・ラボ誘導プロジェクト「京都サウスベクトル」を展開し、新たな企業集積に向けて取り組んでいます。すでに市外の企業から、大規模なオフィス立地の事例が複数出始めているところです。

また、2025年度からは、海外企業向けの支援制度を充実させるなど、海外企業の誘致にも力を入れて取り組んでいます。フランス企業では、特殊化学品や先端材料の世界的企業であるアルケマにテクニカルセンターを設置いただいていますが、フランスをはじめとした多くの海外企業に、京都市への新たな進出をご検討いただければと思っています。

セトン大使:確かに京都を歴史や文化のまちと認識している人たちは多いと思いますが、ビジネスも含め、京都のまちには様々な側面があるということを発信していくことはとても大事だと思います。

海外企業誘致というお話がありましたが、やはり日頃からの交流、パートナーシップの構築が大切ではないでしょうか。両国間のパートナーシップが深まることで、企業が日本へ進出する素地も生まれてくると思います。京都には優れた大学がいくつもありますので、交換留学制度などもさらに充実するとよいのではないでしょうか。

松井市長:京都の大学は質が高いだけでなく、多様でもあります。セトン大使はソルボンヌ大学もご卒業されたと伺っていますが、京都の大学は政治経済の中心地から精神的な距離を置いて学問の自由を追求しているという点で、まさにソルボンヌ的であります。多様かつ独立したアカデミズムが根付いており、それが、まちで長年培われた職人技と上下関係ではなくフラットに尊重し合っています。おっしゃっていただいた交換留学制度は、そうした良い関係を京都の外へも拡大するものです。

セトン大使:新しいことに挑む人々にとって、文化遺産はインスピレーションの源泉にもなり得ます。私は、京都生まれでフランスでも学ばれた、友禅で名高い染織家で人間国宝でもある森口邦彦氏の作品に触れるたび、伝統に基づいたイノベーションという印象を抱きます。

松井市長:京都は、伝統を受け継ぎ守るだけではなく、常に新しいもの・より良いものを求め、取り入れることで、まちとして継続・発展してきました。長い歴史の中で培われた豊かな生活文化や自然、濃い「時間密度」を持ち、多様な人との交わりをもたらす場が、イノベーションにつながっているのだと思います。

京都サウスベクトル

京都駅からのアクセスが抜群で、京都を代表するグローバル企業も立地する京都駅南側へのオフィス・ラボの集積を目指し、京都市では京都駅南オフィス・ラボ誘導プロジェクト「京都サウスベクトル」を展開。高さ・容積率等の規制緩和や、充実した補助金制度などによる様々な企業の進出を支援している。

地域が伴走し包み込むことで
企業の持続可能性を高める

セトン大使:「伝統と革新」は、ともすると対立する概念のようにも見えますが、両立させることもできます。いろんな方がいろんなイニシアチブを持っていますが、それに対して伴走するというか、長い時間をかけて支援していくというような余裕というか、そういう姿勢を国や自治体が示すことが大事ではないかと思います。それが、ゆくゆくはビジネス環境を変化させることにもなり、企業の誘致にもつながっていくのではないかと考えています。

松井市長:大使のご意見に同意します。まさに、突き抜けた個性の自発的な、様々な取組を柔らかく包み込むようにして支援していきたいと考えています。京都市では現在、京都市民の今後四半世紀のあり方を展望する「京都基本構想(仮称)」の策定作業を進めています。この構想では、京都の歴史・文化を築いてこられた先人への敬意、自然への畏敬と感謝の念、自他共生の精神など、これまでも、そしてこれからも大切にすべき京都の精神や、目指すべきまちの姿を掲げ、京都の未来の方向性を示します。私は京都市長ですから、京都市民ファーストであるべきだと考えますが、ここで言う京都市民とは、京都市に住民票を置く人だけを指すものではありません。京都に関わり合いを持ってくださる幅広い人々、京都を愛してくださる全ての方が京都市民です。ここで私が意識するのは西田哲学、京都学派の開祖である西田幾多郎氏による、対立よりも包摂、分離よりも融合という考え方です。

セトン大使:松井市長のお考えと私の考えは非常に似ていると感じます。今、お話しいただいた取組や考え方はDurabilité(持続可能性)を高めるものですね。

2027年には関西日仏学館設立100周年、2028年には友情盟約(姉妹都市)締結70周年と、今後、パリと京都市、そしてフランスと日本にとって特別な年が続きます。

この記念すべき年を、持続的なパートナーシップやプロジェクトの良いきっかけにしたいものです。

松井市長:まったく同感です。現在は周年に向け、フランスと日本、あるいはパリと京都の関係をより豊かにする具体的な記念事業を計画しているところです。

また、イベントだけではなく、もっと日仏の若い人たちの交流を推進したいと思います。こうした文化的な交流は、新たなビジネスが生まれるための豊かな土壌そのものです。京都が誇る「伝統と革新」の気風、そして多様な知と技が融合するクリエイティブな環境は、グローバル企業の皆様にとって、唯一無二の価値創造の源泉になると確信しております。フランスの企業の皆様、そして世界で未来を切り開く企業の皆様には、ぜひこの京都を新たな挑戦の舞台として選んでいただきたい。パリ市との揺るぎないパートナーシップを礎に、文化と経済の両輪で、輝かしい未来を共に創造していけることを心から願っております。

京都市長松井 孝治

1960年京都市生まれ。東京大学教養学部卒業。83年に通商産業省(現経済産業省)入省、内閣官房内閣副参事官などを経て、2001年から参議院議員、内閣官房副長官などを歴任。13年から慶應義塾大学総合政策学部教授を務めた後、24年に京都市長に就任。

駐日フランス大使フィリップ・セトン

1966年パリ生まれ。パリ・ソルボンヌ(パリ第4)大学、パリ政治学院、国立行政学院に学び1994年に卒業。フランス外務省入省後、ヨーロッパ連合(EU)フランス政府代表部参事官など要職を歴任。2016年に本省ヨーロッパ局長に着任。2020年10月より現職。

産業観光局企業誘致推進室

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