海外に羽ばたく女子プロテニスプレーヤーを支援 慶應義塾大学・テニス・三田の縁がつなぐ“恩返し”海外に羽ばたく女子プロテニスプレーヤーを支援 慶應義塾大学・テニス・三田の縁がつなぐ“恩返し”

出光社長室の窓からは、2人の母校である慶應義塾大学の三田キャンパスを望むことができる

東京・三田(港区)を中心に不動産賃貸業を展開する三田興産は、2022年8月、女子プロテニスプレーヤーの佐藤南帆選手とスポンサー契約を締結した。大学や病院、街などへの社会貢献にも力を注ぐ同社の出光正道社長、そして世界的活躍を目指す佐藤プロ。2人をつないだのはともに慶應義塾大学(以下、慶應大学)で学んだという縁であり、共通するのは今の自分を育て支援してくれた“存在”への感謝と恩返しである。(文中敬称略)

——佐藤プロがテニスを始めたきっかけは何ですか。

佐藤南帆 家族3人でラリーができるようにとテニスを始め、気が付けばテニスが大好きになっていて、家に帰ってきたらすぐに窓に向かってボールを打っていたんです。他に習い事もしていたのですが、遊び感覚で始めたテニスの魅力にハマってスクールにも通うようになりました。6歳から全国を目指し始め、毎週試合に出るようになりました。

三田興産 出光正道 何が楽しかったんですか?

佐藤 勝つと褒めてもらえたんです。父も「優勝したら携帯電話買ってあげるよ」「焼肉連れて行ってあげる」とご褒美をくれたので頑張れました(笑)。

出光 13歳から海外に主戦場を移して、グランドスラムジュニアを目指されましたね。海外に出る決断はすごいと思います。

佐藤 世界で活躍するには、当然、外国人選手に勝っていく必要があります。ただ、いろいろなプレースタイルの選手と対戦したり、時には“ズル”をしてくる選手も多いのでそれに慣れたりする必要があります。もちろん英語力も必要になるので、小さいうちに海外に出ることは大切かなと思います。

——お二人とも慶應大学のご出身ですが、特に出光社長は三田との縁が深いのですね。社名からもうかがえます。

出光 三田に来たのは父の代なんです。昭和40年か41年ごろ、父が「三田にマンションができるらしい」と知人から聞いて引っ越して来たらしいです。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の舞台になったように、当時は高い建物なんて全然なかったそうです。私は三田で生まれたので、街の発展・成長と歩調を合わせるように育ち、間近で見守ってきたと感じています。私の前職は出光興産ですが、父の生前贈与もあって、2021年に三田興産を設立して不動産賃貸業をスタートさせました。

佐藤南帆

佐藤 私は慶應大学「體育會(体育会)庭球部」に所属し、環境情報学部で学びました。ただ、湘南藤沢キャンパスだったので三田には縁がなかったんです。父も慶應大学出身で、子どもの頃に三田キャンパスに来たことは覚えています。今でも下町的な雰囲気や人と人との触れ合いが残っているそうですね。

出光 そうなんです。会社の前の三田通りは夏になると提灯(ちょうちん)が吊るされ、お祭りでは屋台も並びます。サンバカーニバルが開催されることもありますし、7色のデコレーションが浮かびます。実は通りに面したビルの間口に応じて、メートル単位で分担金を負担するんですよ(笑)。

佐藤 え、そうなんですか。

出光 でも、街に貢献できることが逆にうれしいんですよ。それがお祭りなどの原資にもなっていますからね。

プロになっても海外で転戦するにはスポンサー契約が不可欠

——スポーツ全般そうだと思いますが、テニスもかなりの活動資金がかかると想像します。

佐藤 学生時代まではすべて自己負担です。日本のアマチュアが海外の世界大会で入賞すれば賞金をもらえますが、日本で開催されるほとんどの大会ではプロ登録していなければ賞金はもらえません。日当をいただく形になりますね。

出光 プロになるまではご両親の支えが頼りですよね。

佐藤 はい。プロになっても賞金だけではやっていけませんし、海外の試合で勝たなければランキングは上がりません。選手として強くても、スポンサーが見つからないために国内でしか戦えない選手は少なくありません。ただ、プロ登録するということは、賞金面だけでなく、意識も自然と変わるので1つの節目になると思います。

——三田興産は2022年8月に佐藤選手とスポンサー契約を締結しました。その経緯や狙いを教えてください。

三田興産 出光正道

出光 私は中学時代には軟式テニス、高校では柔道、大学では硬式テニスと、もともとスポーツが好きなんです。当社は現在、佐藤選手と男子プロの田島尚輝選手とスポンサー契約をしていますが、ほぼ同時期にそれぞれ違う方向からお話が来たんです。佐藤さんの場合は、私のテニス仲間で慶應大学庭球部のOB会会長から「うちの庭球部にすごく強い子がいるんだけど、一度会ってもらえない?」というご依頼がありました。お会いしたのは佐藤さんが大学4年の夏でしたよね。身長は高くないのにすごいサーブを打つし、技術があります。

佐藤 ありがとうございます。スポンサー契約は以前にもしていたのですが、所属契約をするのが初めてで、本当にありがたかったです。

出光 それ以前から、私は社会貢献にも関心を持っていたんです。祖父の出光佐三(出光興産の創業者)は晩年、「世界の平和と福祉に貢献」とよく口にしていました。その根幹にあるのは「人間尊重」「大家族主義」「消費者本位」です。慶應大学創設者の福澤諭吉先生も、「人間(じんかん)交際、大小のソサエティー間の交際、国同士の交際の広がりによって世界が発展し、平和と福祉の増進を理想とする」と説かれたようです。私はこうした理念に加え、「和の精神」や「真心」を大切にして世界の平和・福祉・環境に貢献してきたいと考えています。

——アスリートに対するスポンサードは、広告とは全く異なる行動ですね。

出光 もちろん広告とは全く考えていません。スポンサー契約は法人税の寄付金控除の対象にもなりませんし(笑)。あえて言うなら「恩返し」でしょうか。慶應大学や三田という街、それからスポーツ全般、特に私が好きなテニスへの恩返しという面もあります。

佐藤 テニスへの恩返しとはどのような意味でしょうか。

出光 テニスは様々な効用があると思っています。イギリスのあるレポートによると「テニスをやっている人はやっていない人と比べて平均寿命が10年長い」そうです。しかも、交友関係が広がって孤独にならないのも効用の1つだと。実際、私もテニスのおかげで交友関係がかなり広がりました。

強い選手への資金提供ではなく、「強くなるためのサポート」が求められている

——スポンサー契約によって、佐藤プロの活動や遠征は大きく変わりましたか。

佐藤 すごく変わりました。例えば、以前は予算の関係で海外の試合にコーチに帯同してもらえませんでした。でも、それでは勝てません。特に女子選手は男性コーチがいないと、治安面でも不安があります。私は最初からコーチと一緒に回ることができて本当に恵まれています。

出光 そう聞くと私もうれしいですね。海外選手もスポンサー探しには苦労しているんですか。

佐藤 「日本はスポンサーが多くてうらやましい」とよく言われます。グランドスラムの開催国は協会の予算が潤沢なので、選手の育成・強化に力を入れています。特にオーストラリアの選手は強くなってきましたし、それに合わせてテニス協会も大会のグレードを上げるなどサポートする環境が整ってきています。

出光 日本はまだまだ遅れていますね。強い選手に資金を出す仕組みはありますが、「強くなるための資金援助」が必要です。当社もスポンサー活動に関わることで、問題点や改善への道筋が見えてくるようになりました。

佐藤 17歳の時、全仏オープンで国枝慎吾選手の試合を現地で観戦して本当に感動しました。今年はグランドスラムの舞台に立ちたいと思っています。将来的には世界で活躍できる、たくさんの方に勇気や希望を与えられる選手になりたいです。

出光 佐藤さんの世界ランキングの変動に一喜一憂していると、私の精神が持ちませんのでそこはお任せしますね。お金は出すけど、口は出しませんので(笑)。

佐藤 ありがとうございます。

出光 私は会社でも社員たちが生き生きと働ける環境・職場づくりを目指しているんです。「自分で考えて自由に働く」という働き方が理想ですね。

佐藤 素晴らしいですね。私もプロになってからは自分と向き合って「何が課題なのか」「強みは何なのか」を考える時間が増えました。

出光 「今こんなに面白いです」「体のコンディションはこうです」「今はこういう気持ちでいます」と佐藤さんは毎月報告してくれますが、それは自己分析できている証拠だと思います。心配なのはやはり佐藤さんの人の良さです(笑)。

佐藤 海外に限らず日本でも下部大会の予選では、審判がおらずセルフジャッジするんです。私のボールが相手コートにギリギリ入っているのに「OUT!」と叫ばれることもあります。言葉が通じなかったり、相手の圧に押されたり……。大人しい性格の克服は課題の1つで、「変わらないといけない」と自覚しました。今は「絶対負けたくない」という強い意志を持って毎試合戦えています。

佐藤南帆 Naho Sato

2001年1月23日、東京生まれ。身長153cm。3歳からテニスを始め、12歳で全日本ジュニアを制す。13歳の全仏ジュニアでダブルス準優勝。17歳でジュニアを卒業し、主戦場をWTA/ITFに移す。慶應義塾大学(環境情報学部)在学中は庭球部に所属し、インカレ単複制覇、ユニバーシアード優勝などの輝かしい戦績を重ねる。2022年11月にプロ登録。直近では2024年7月、ポルトガルにて100W大会で初優勝(ダブルス)
[佐藤南帆オフィシャルWebサイト]
https://teamnaho.com/

慶應大学、病院、三田の発展にも継続的に貢献していきたい

——三田は田町駅周辺を中心に再開発が進んでいます。三田興産の不動産賃貸業、そして社会貢献などについて今後の抱負を教えてください。

出光 私が生まれ育った、そして今も住んでいる三田の発展に、今後も貢献していきたいと思っています。2023年11月に本社近くに新たにビルを竣工したのですが、1階に「サーティワンアイスクリーム」に入居いただきました。学生や女性、近隣住民にすごく好評で、たった1店で人の流れが変わることを実感しました。三田は共働き夫婦やファミリーも多いんです。幅広い世代の人たちが住みやすい街づくりを進めていきたいですね。また、社会貢献については慶應大学をはじめ、東京都済生会中央病院、地元の商店街などへの支援を継続していきます。特に慶應大学については、新たな取り組みとして国際交流の活動をより支援すべく、その準備を進めているところです。

佐藤 トライすることがたくさんありますね。

出光 そうなんです(笑)。今のスポンサー契約には終わりを設けていないので、佐藤さんも存分にチャレンジしてくださいね。

佐藤 ありがとうございます。今後はトレーナーさんを付けるなど体づくりにも力を入れて、恩返しできるように頑張ります!

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