2024年、トラックドライバーの労働時間に上限規制が適用され、物流業界は深刻な輸送力不足のリスクに直面した。国土交通省は、“物流の危機”を食い止めるべく、不適切な商慣行に切り込む専門部隊「トラック・物流Gメン」を創設。長時間労働や人手不足といった構造課題にどう立ち向かい、日本の物流を持続可能な仕組みに変えていくのか。改革の最前線を、国土交通省の岡野まさ子氏に聞いた。

きっかけは物流2024年問題

国土交通省

大臣官房 総括審議官 兼 物流統括調整官

岡野 まさ子

東京大学経済学部卒業後、1993年に運輸省入省。2014年 観光庁国際観光課長、16年 国土交通省鉄道局都市鉄道政策課長、18年 航空局航空事業課長、21年 総合政策局政策課長、22年 運輸安全委員会事務局審議官 (物流政策、自動車局、港湾局担当)、24年 鉄道局次長等を経て、25年より現職。

 トラック輸送は、国民生活や企業活動を支える社会インフラだ。物流業全体の売上は全産業の約2%、就業者数は3%を占め、日本経済に欠かせない存在である。一方で現場の実態は厳しい。ドライバーの労働時間は全産業平均より約2割長く、賃金は5〜15%低い。慢性的な人手不足も深刻で、有効求人倍率は他産業の約2倍に上る。しかし、2024年4月からの働き方改革関連法の施行に伴い、時間外労働の上限規制(年間960時間)がトラック業界にも適用されることとなった。俗に言う物流2024年問題だ。

 「このまま対策を講じなければ、2024年度には輸送能力が約14%(4億トン相当)、2030年度には34%(9億トン相当)不足する可能性があると試算されました」と岡野氏は当時を振り返る。

 無論、政府も手をこまねいていたわけではない。「ホワイト物流」推進運動や「標準的な運賃制度」などを導入し、事態の改善に力を入れた。しかし、ドライバーの人手不足の状況は改善されぬまま、その時が近づいていた。

不適切商慣行に
切り込む専門部隊

 こうした状況を受け、政府は2023年6月、「物流政策パッケージ」を策定。その柱の一つが、荷主による不適切な商慣行の是正である。これに伴い、国土交通省は翌7月、物流2024年問題の解決を目指すための調査・指導部隊「トラックGメン」を創設。長時間の荷待ち、運賃・料金の不当な据置きなど違反原因行為の疑いのある荷主・元請事業者等に対する是正指導を開始した。

 発足当初はトラック輸送を中心に活動していたが、2024年11月には対象を物流全体へと広げ「トラック・物流Gメン」へと改組。現在は、各都道府県トラック協会の「Gメン調査員」と連携しながら、全国約360名体制で活動する。  

 Gメンは、トラック事業者への電話・訪問による聞き取りをはじめ、国交省ウェブサイトの「目安箱」で情報を収集。荷主企業へのパトロール等を通じて現場の実態を把握する。  

 「違反の疑いが確認されれば、まずは荷主に事実確認と自主的な改善を促す『働きかけ』を実施。改善が見られない場合は、具体的な措置を求める『要請』へと進み、それでも是正されなければ『勧告』として企業名を公表。勧告に至れば企業の信用に直結することから、多くはその前段階で改善に踏み切っています」(岡野氏)

「トラック・物流Gメン」と公正取引委員会による合同パトロール

トラック・物流Gメンが
もたらした変化

 荷主などへの是正指導は累計で約2,000件に達しており、また、全トラック事業者を対象にした国交省の実態調査では、違反原因行為があったと回答した件数が令和5年の4,441件から令和6年には3,308件へと大幅に減少。

 「荷待ち時間改善の現場の取り組みは、話さえ聞いてもらえなかったような以前の状況と比べて、非常に進んだと感じます。また、かつてはドライバーが検品や棚入れといった契約にない附帯業務まで担うこともありましたが、荷主側が人員を配置して対応するなど、現場ごとに適正な体制づくりが進みつつあります」と岡野氏が言うように、Gメンによる調査・指導が効果を生んでいることは間違いない。

 国交省としては、平均3時間超とされる荷待ち・荷役時間をまずは「2時間以内」に抑えることを目標に、荷主企業への説明会を全国で展開。法改正の趣旨を周知し、引き続き現場の理解促進を図っている。

目指すは
荷主の経営層含めた意識変革

 今後は、本年成立した「トラック適正化2法」に基づき、自家用の白ナンバーのトラック、いわゆる“白トラ” による違法輸送の是正指導にも活動領域を広げる予定だ。

 2026年4月には改正物流法により、大規模荷主等に対し、物流の改善に関する中長期計画の策定や「物流統括管理者」の選任が義務化される。

 さらに、政府は2030年度を見据えた「総合物流施策大綱」の策定を進める。その重点項目にはドライバーの処遇改善と商慣行の見直しが掲げられるなど、トラック・物流Gメンへの期待は一層高まっている。

 国交省では、こうした流れを後押しするため「Gメンアシスタント事務局」を設置。全国で収集した情報や調査データを分析し、地域ごとの課題や改善傾向を可視化する体制を整えた。「データをもとにした分析でより効果的な是正指導につなげ、持続可能な物流の仕組みを築いていきたい」と岡野氏は意欲を示す。

 では、国土交通省が描く“持続可能な物流”とはどのようなものなのか。

 「まず重要なのは生産性の向上です。デジタル化やAIの活用、将来的には自動運転などによって業務を効率化する。同時に、物流産業の社会的なステータスを上げ、魅力的な産業にすることが不可欠だと考えています。物流は我が国において、長らくコストセンターとみなされてきました。しかし、海外では物流を経営戦略の中核に据え、差別化や付加価値創出の手段として位置づけています。荷主の経営層を含めた意識変革に取り組み、物流を戦略的な強みに変えていくための後押しをしたい」と岡野氏は力を込めた。

 荷主企業、物流事業者、そして消費者が互いに利益を分かち合う「Win・Win・Win」の関係を築ければ、物流の在り方は大きく変わるだろう。その変革の最前線を担うトラック・物流Gメンの活躍に期待したい。

国土交通省

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