世界最先端の半導体の開発と製造を目的として設立されたラピダス社に出資した三菱UFJ銀行が、半導体産業への支援活動をさらに強化している。2024年4月に半導体産業の課題解決を目指す半導体バリューチェーン推進室を新設し、同10月には既存の組織を改組して営業本部内に半導体・テクノロジー部を設置した。同行の2つの専門組織のリーダーにその活動について話を聞いた。
2つの組織が中核となり
半導体産業の支援に取り組む
――半導体バリューチェーン推進室と半導体・テクノロジー部と、半導体分野で2つの組織があります。設立の経緯を教えてください。
中野 半導体バリューチェーン推進室は、半導体産業に対する更なる貢献を目指し、産業リサーチ&プロデュース部という組織が中心となり立ち上げました。産業リサーチ&プロデュース部は産業知見をベースに社会課題・産業課題を特定し、新たな価値を提供することで、その課題解決を目指す組織です。当時、業界の名前を冠した組織は同時に立ち上がった宇宙関連しかなく、それだけ半導体産業への想いが込められています。
半導体バリューチェーン推進室では、デバイス、製造装置、材料の主要3産業だけでなくバリューチェーン全体を活動領域として捉えています。当室にはファイナンスの新たなプロダクトを開発するメンバーも所属しており、半導体産業に対する新たな金融ソリューションを実装することもミッションの一つに掲げています。
井上 半導体・テクノロジー部は営業部門です。元々は営業第六部という組織で、総合電機や精密機器などのテック企業を担当していましたが、2024年10月に再編され、半導体の名を冠する営業部として活動しています。
コロナ禍から、半導体不足によって企業活動に支障をきたす場面が増えました。改めて半導体の重要性が認知されましたし、今後、生成AIの発展や自動化などによりその重要性は増すばかりです。半導体関連企業の一大集積部としてお客様の共通の課題を導き出し、業界課題の解決に向けたアクションを企画・実行していくことで、半導体産業と日本経済の成長へ貢献することを目指しています。
三菱UFj銀行
半導体バリューチェーン推進室
室長
中野 慶三郎 氏
――相互の役割分担を教えてください。また、お互いに連携することもあるのでしょうか。
中野 半導体バリューチェーン推進室は半導体産業全体を俯瞰し、当行としての新たな役割期待創出を目指して活動していますので、日本全国の半導体関連企業はもちろん、広くは自治体、インフラや総合商社といった他産業、金融機関等とも議論を行っています。産業知見を蓄積していく機能も当室が担っています。
半導体・テクノロジー部とは同じ産業を対象にしているので、日々連携しながらともに取り組んでいます。
井上 私たちは営業部として深くお客様に向き合い、お客様のニーズや課題を探索するところから活動が始まります。しかし、業界の変化が早く、向き合っている課題も多岐にわたるため、個社へのアプローチだけでは解決できないことが増えています。多くの半導体企業を担当する部の視点から、産業軸での活動にも責任をもって取り組んでいます。
当行では最近、セクターに精通した人材が増えており、担当者が各業界の特徴を理解できるようになってきています。お客様とは銀行取引に関するお話と同じくらいの頻度で、お客様の事業に関するディスカッションの機会をいただくことが増えてきていると感じています。
三菱UFj銀行
営業本部
半導体・テクノロジー部
第三グループ次長
井上 仁 氏
――三菱UFJ銀行としてラピダス社に出資した背景にはどんな狙いがあるのでしょうか。
中野 最先端のロジック半導体を量産する企業が日本に存在することは、大きく二つの意義があると考えています。一つは今後すべての産業で使われることになる先端半導体の調達力を高めることが、日本全産業の競争力強化に直結する点です。もう一つは、先端半導体企業は、日本が現状強みを有する装置・材料を中核とした半導体エコシステムのさらなる競争力強化にとって非常に重要である点です。
将来的な資金調達に備え、金融機関が初期段階から議論に参画し、事業リスクを正しく理解できる体制を整えていくことがこのプロジェクトの成功には不可欠であると考え、ラピダス社への出資を決めました。プロジェクトの立ち上げに確固たる決意で取り組み、半導体産業および日本経済全体に貢献して参ります。
井上 「産業のコメ」以上の存在となった半導体産業を日本全体で支えていくことが重要です。そのためには、半導体産業のことを正しく理解していただくと共に、金融機関の立場や考え方も理解してもらうことが大切だと考えています。ラピダス社への出資もその手段の1つです。
金融機関だからこそできることで
業界全体の発展に貢献していく
――現在までの取り組みについて教えてください。
中野 半導体を今後の日本経済発展における最重要産業の一つと捉え、解決すべき課題の洗い出しやソリューション検討、行内外向けの教育、専門家との意見交換など、様々な活動に取り組んでいます。これらの活動を通じて半導体関連について、当行が金融機関の中で最も信頼される銀行になることを目指しています。
今、特に注力しているテーマの一つがサプライチェーンの強靭化です。日本の半導体産業が発展するためには周辺企業を含むサプライチェーンが重要な役割を果たします。しかし、この領域には様々な課題が存在しており、解決に向けたソリューションを様々検討しています。2024年11月に締結したふくおかフィナンシャルグループとの連携もこの活動の一環で、ソリューションの検討・実装に向けて、両行が持つネットワークと強みを生かして取り組んでいます。
井上 半導体産業は市況変動の波が激しく、金融機関にとって決して取り組みやすい業界ではありません。だからこそ知見を蓄え、リスクの所在を見極め、お客様から相談を受けられる体制を確立することが必要です。古い金融機関のイメージから脱却し、「銀行としての在り方が変わった」と思われるように活動の幅を広げています。
中野 半導体産業の方たちに、我々が真摯に向き合っていることを理解してもらうことが、信頼の獲得につながります。今注目されている産業だから注力しているのではなく、日本経済にとって重要だと考えて取り組んできました。営業部門も同じ思いで活動しており、行政や地域の方々もそのように認識してくださっていると考えています。
――今後も活動内容を伝えていくことが重要ですね。どのような展開をお考えでしょうか。
中野 伝えていくことはもちろんですが、新しい取り組みを一つひとつしっかりと形にしながら、継続的に手がけていくことが大切だと考えています。そのために、これまで述べてきた産業課題解決に向けた新たな取り組みだけではなく、半導体産業を支援するために必要な人材の教育や行内の制度整備などにも取り組んでいきます。
多様なネットワークを持ちながらも中立的な立場である当行だからこそできる、貢献の在り方があると考えています。産業の壁を越えて皆で成長を実現できる世界を目指していきます。
井上 コロナ禍でのサプライチェーンの混乱などから、国民の半導体産業への見方が変わりました。今後、日本の半導体産業に求められる役割はますます重要になります。どうしたら世界の中で日本が競争力を高められるのか、次の世代に引き継ぐことをしっかりと考え、責任を持って活動していきたいと考えています。
ふくおかフィナンシャルグループ
メガバンクと地銀グループの連携で
サプライチェーンの強靭化を支援
半導体分野に注力する三菱UFJ銀行は、2024年11月ふくおかフィナンシャルグループと半導体産業基盤強化に関する基本合意書を締結している。その狙いと活動内容について話を聞いた。
ふくおかフィナンシャルグループ・福岡銀行ソリューション営業部長の森永良氏は「両社が連携し相互の強みを生かすことで、九州における半導体サプライチェーンの課題解決に貢献できると考えています。我々が九州地場企業から出てくる声にしっかりと向き合い、この連携を通じて大手企業と対話することで新たな仕組み作りができるのではないかと期待しています」と語る。目指すのは半導体サプライチェーン強靭化の九州モデルを確立し、街づくりやサスティナビリティなど、周辺ビジネスに波及させていくことだ。

福岡銀行
ソリューション営業部
部長
森永 良 氏
同グループがカバーする九州は歴史的に半導体産業が集積しており、近年ではTSMCの熊本進出をはじめ、半導体産業および周辺産業より活発に投資が行われているエリアである。そこで、2023年10月にグループ内の各銀行をまたがる「半導体ビジネスグループ」を立ち上げた。「現在、専担18名、兼務16名の規模で半導体産業と向き合っています」と主任調査役の田崎亨氏は話す。
半導体ビジネスグループでは取引先の中から半導体関連企業を掘り起こしてきた。その数は九州域内で600社超に上る。営業統括部半導体戦略室長の田中信博氏は「営業店の行員が、自分の担当している取引先が半導体関連企業だと把握していないケースもあり、目利き力を高めるための勉強会などを実施しています。半導体産業は裾野が広いため知識の習得も大変ですが、この産業に新規参入したいと相談してくる企業も増えてきました。九州における半導体産業の盛り上がりと共に、『半導体のFFG』としてお客様に選ばれるために泥くさい努力も必要であると感じています」という。

福岡銀行
営業統括部 半導体戦略室 室長
田中 信博 氏
三菱UFJ銀行は半導体デバイス企業、製造装置企業などの大手企業と強い取引基盤を持つ。この両社が連携することで、九州における半導体のサプライチェーン全体を解像度高く捉えた上で施策を打つことができる。商流の川上と川下相互のニーズや課題を集めて、日本の半導体産業全体の成長につながるソリューションを生み出すことが期待される。

