生産者の
課題解決に貢献し、
農林水産業の
持続可能な発展を目指す

農林中央金庫
常務執行役員
JA・JF事業担当
農業水産業向け金融・地域活性化担当
川田 淳次

常務執行役員
食農法人バンキング共同統括責任者
サステナビリティ共同責任者
土田 智子
(内容・肩書は2025年3月31日時点)

日本の農業を取り巻く環境の変化とともに、農林中央金庫の役割も変化している。JAから集めた資金を運用し利益を還元する金融機関として、これまで農林水産業の発展に貢献してきた。

持続可能(サステナブル)な農業を実現していくため、農業に携わる生産者の経営課題に対応する「担い手コンサルティング」に取り組んでいる。さらには、農業の脱炭素化・生物多様性の保全にバリューチェーン全体で取り組むため、食品関連企業と生産者を仲介し、アグテック企業を支援するなど、共同事業体も取りまとめている。

 農林中央金庫が生産者の課題解決のための取り組みを加速させている。その一つが2021年度から取り組む「担い手コンサルティング」だ。

 「日本の農業を取り巻く状況は厳しくなっています。現在、生産者の高齢化や人口減少により、農地の集約や農業法人の設立が進んでいます。新たな経営課題を抱える生産者をどう支えるかが大きな命題となっています」 こう話すのは常務執行役員の川田淳次氏だ。

 これまでの生産者は「感覚的に営むことも多かった」(川田氏)というが、経営環境が大きく変化する中で、経営の安定や成長に向けての課題が立ちはだかっている。

JAの商品・サービスを総動員して取り組む「担い手コンサルティング」

担い手コンサルティングは、JAの事業運営を支える各県の信用農業協同組合連合会(信農連)と農林中央金庫による「JAバンク」が主体となって、農業者(生産者)の経営課題を解決する

生産者へのインタビューと財務分析を中心に経営課題を可視化
販売支援や共済商品、生産技術指導など幅広く提案

 農林中央金庫は農林水産業の発展に寄与するために1923年に創設された。これまで生産者を会員とするJAから集めた資金を運用して増やし、利益をJAに還元する金融業を担ってきた。しかし今、生産者がサステナブルに農業を営むため、多岐にわたる経営課題の解決に貢献する役割が求められている。

 「生産者の視点に立つと、資金が足りているかどうかだけでは、経営課題を解決することができなくなっています。経営全体のみならず、技術や組織といった側面も含めて、ソリューションを提供できる金融機関になる必要があります」(川田氏)

 担い手コンサルティングは、生産者へのインタビューや財務分析といった事業性評価の結果を踏まえて経営課題を可視化したのち、課題解決につながるソリューションを提案する。事業性評価からソリューション提案までは、約3~4カ月かけて行う。

「担い手コンサルティングの強みはJAの総合事業とともに多方面から対応できることです。JAは販売、共済(保険)、生産技術指導も手がけているため、ソリューションの提案をしてから、具体的な行動支援に落とし込むことができます」(川田氏)

累計800件超のコンサルティング
累計2億円の所得増に

 例えば、生産量の増加に向けては、デジタルツールを用いた生産管理導入の他にも、収益性の高い品目への転換や、施肥設計の変更、生産性向上に向けた生産技術指導など、生産者にマッチしたソリューションを提案する。

 米生産者の事例では、「人手が不足し、水田の管理が徹底できない」という問題に対し、田んぼの水量を自動的に計測・調整する機械の導入を提案するなどした。

 さらには米の販売で「出荷時の袋詰めや直売に作業の手間がかかる」という問題に対しては、フレコンバッグ(農業用の大型の袋)でJAにまとめて出荷して買い取ってもらうなどの提案を行っている。

 担い手コンサルティングは2021年度に開始し、JA、信農連、農林中央金庫を主体に全国の担い手に展開してきた。「これまで約800件手がけており、累計2億円の所得増につながりました」(川田氏)

経営を継ぐ息子に伝えてくれた
地域の農地を守りたいとの思い

 実際に担い手コンサルティングを受けた生産者からは、「感覚で捉えていたことが数字やデータで明らかになり、新しい取り組みを積極的に進める後押しになった」(法人)、「財務的な観点から営農を振り返ったことがなかったので、有意義だった」(個人)、「息子が経営を引き継ぐに当たり、自分が伝えるべきことを客観的な立場から伝えてもらった」(法人)、「減らす、削るといったリストラありきではなく、経営の実情に即して手を差し伸べてくれた。地域の農地を守ろうという農家の思いをくみながら今後も進めてほしい」(法人)といった声が寄せられている。

 川田氏は「ソリューションの事例を積み上げ、数を増やし、質を高めていきたいと考えます」と話し、多岐にわたる経営課題に対して的確に応えていけるよう、ソリューションの更なる充実化に取り組んでいく。

担い手コンサルティングが手がけるソリューション(イメージ)

経営課題は財務関連や事業管理のみならず、組織運営や人材管理など多岐にわたる。専門性によって、外部コンサルティング会社と提携し、解決に向けての具体的なアクションを考える

バリューチェーン全体での
GHG削減と生物多様性保全に貢献する

 農林水産業のサステナビリティに向け、農林中央金庫が手がけるもう一つの取り組みがある。脱炭素や生物多様性のための取り組みをバリューチェーン全体で解決する「インセッティングコンソーシアム」の仲介役だ。

 インセッティングとはバリューチェーン内に含まれる脱炭素、生物多様性に寄与するプロジェクトを指し、食では農薬や肥料メーカー、農業に従事する生産者、食品メーカー、小売や外食が含まれる。コンソーシアムは共同事業体を示す。

 「牛のゲップには温室効果ガス(GHG)のメタンガスが含まれています。メタンガスにはCO2の28倍もの温室効果があり、その排出量の約8割が農業由来です。他にも、過剰な施肥による土壌の劣化や保水力の低下などの社会課題があります」。こう話すのは、常務執行役員の土田智子氏だ。

 とはいえ、生産者が脱炭素のための取り組みをしても、「必ずしも収穫量が上がるわけでも、高い値段で販売できるわけでもありません」と土田氏は指摘する。

 農林中央金庫は、食品スーパーや小売り、外食といった農林水産業の関連企業との取引関係が深い。こうした企業も脱炭素のためのScope3とよばれる、原材料の調達に伴うGHG排出量の削減が求められている。

 カーボンオフセットは自社のバリューチェーンの外で実施されたGHGの削減に資金を提供することで自社の排出量を埋め合わせるが、カーボンインセッティングは自社のバリューチェーンの中でGHGの削減に取り組み、バリューチェーン全体で削減量を享受する仕組みだ。

 「それぞれが当事者意識を持って、コンソーシアムでどう取り組んでいくかを見つける場を提供し、お互いの状況を想像しやすくする仲介者の役割を果たしています」(土田氏)

脱炭素プロジェクトをバリューチェーン全体で担う「インセッティングコンソーシアム」

生産者の所得向上と食品業界の脱炭素を目指し、コンソーシアムの参加者を広げていく。生産者から食品関連の企業まで、農林中央金庫が持つネットワークを生かすことで構築を図り、取り組みを実現させる

環境保全で生産者の所得が向上
新しい技術で脱炭素の先導役に

 これまでも林業の分野において農林中央金庫が林業事業者と製紙会社、あるいは建築会社を仲介して、ともに課題解決に取り組む例があった。

 「課題は脱炭素が多いですが、生物多様性の保全によって土壌を改良する、水資源を確保するといった長期かつ数値化しにくい目標にも取り組んでいきたいと考えます」(土田氏)

 生産者にとっては、環境保全により農業のサステナビリティに寄与するほか、バリューチェーン全体で取り組みが評価され、安定した調達先が見込めるなど、所得向上が可能になる。

 インセッティングコンソーシアムには、スタートアップのアグテック企業も参加している。農業中央金庫が属するJAグループは、アグベンチャーラボ(AgVenture Lab)と呼ばれる、食、農業、暮らしの社会課題解決を図るスタートアップの支援にも関わっており、アグテック企業と生産者をつなぐ役割を担っている。

 アグベンチャーラボ支援先企業の一つがTOWING社で、持続可能な農業の実現を目指し、「宙炭(そらたん)」と呼ばれる高機能バイオ炭を開発、販売している。宙炭は植物や食品加工の残りかすを炭化したバイオ炭に土壌微生物を付加したもので、有機肥料で培養した資材で土壌を改良できる上、農地に炭素を貯留できるためCO2排出量の削減効果もある。

 「スタートアップ企業には新しい技術により、脱炭素の先導役になれるよう期待しています」(土田氏)

 今後はスタートアップ企業、食品関連企業ともにメンバーを増やしながら、インセッティングコンソーシアムが社会への影響力を強めていけるよう、農林水産業の発展を見据えた取り組みを続けていく。

〒100-8155 東京都千代田区大手町1丁目2−1
https://www.nochubank.or.jp/

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