NTT東日本グループ
地球温暖化の影響により、これまでの常識を超えた異常気象が世界規模で多発している。特に日本では、首都直下地震や南海トラフ地震などの激甚災害に対するリスクも増加する一方だ。そこで急務となっているのは、地域のレジリエンスを強化させる防災DXの推進にほかならない。安心安全で持続可能な社会づくりを進めていくため、官民の専門家・有識者との議論を深めるとともに、災害対策本部のより効率的な運用方法を体験的に学ぶワークショップも開催された。
NTT東日本
代表取締役社長 社長執行役員
澁谷 直樹氏
NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員の澁谷直樹氏は「日本の情報通信ネットワークを支える者として、防災は最も重要な使命の一つと考えています」と切り出した。
事実、NTT東日本は電気通信155年の歴史を通じて、地域のインフラを守ってきた経験と実績がある。
「そうした中で培ってきた多くのノウハウ、多岐にわたる技術を磨いてきた社員の力を生かし、官民が一緒になって取り組む、地域防災トータルプランの策定・実行の高度化を進めています」と澁谷氏は基本方針を示した。
地域防災トータルプランは、「最先端技術を活用した防災力の強化」と「自治体と地域住民の防災対応力の強化」の両輪からなる。
「災害に強い地域にするためには、業務継続を支える強靭な社会インフラとリモート環境など、ハード面の整備が重要になります。さらに、自治体と住民、民間企業が連携する人間中心のソフト面のアプローチの両面を通じて、平時から災害を想定した準備を行うなど、レジリエンス向上も大切です」と澁谷氏は語った。
これにより、「平時」から取り組んでおくべき地域防災計画の作成や防災訓練の支援、「切迫期」における地域住民の避難行動の支援、「応急時」における救命活動の支援やデジタル技術を活用した避難所の高度化、「復旧・復興期」に入った段階での被災者の生活再建まで4つのフェーズを一貫し、災害に強いまちづくりを実現していくとする。
さらに澁谷氏は、地域防災の新たな仕組みの研究に官民共創で取り組む「防災研究所」を、2025年4月1日に設置することを表明した。
基調講演に続くパネルディスカッションでは、前出の澁谷氏に加え、防災DX官民共創協議会 理事長の臼田裕一郎氏、大阪公立大学大学院 文学研究科 准教授の菅野拓氏がパネリストとして登壇。気象予報士 防災士の久保井朝美氏のMCのもと、防災DXに対する議論をさらに深めていった。
そもそも現在の災害対応の問題点はどこにあるのか。
「例えば要援護者のケアや医療など社会保障に関するサービスは、平時では社会福祉法人やNPO、民間企業などが担っています。ところが、いざ災害が発生した後は、すべてが自治体任せになっているのが実態です。職員は普段の業務であまり経験のない、不慣れで大量の仕事に追われます」と指摘したのは菅野氏だ。結果として、要援護者に対する配慮が不足してしまう恐れがある。
では、どうやってこの課題を解決していけばよいのか。
菅野氏は「官民が総出で連携しあって被災者支援を行う『災害対応のマルチセクター化』と、支援者の日常活動の専門性を生かしながら災害対応につなげていく『社会保障のフェーズフリー化』の2つの考え方に基づく施策を実践することが重要です」と語った。
要するに非常時も「餅は餅屋」に任せられることが災害対応のあるべき姿であり、その実現を目指したデジタル活用を検討していく必要がある。
「防災DXは魔法ではなく、タネも仕掛けもある手品です」と臼田氏は語る。
例えば2024年1月1日に発生した能登半島地震では臼田氏自身も現地に駆けつけ、交通系ICカードを活用した避難所や入浴施設の入退室管理、義援金の配布や罹災証明の発行など、デジタル技術を活用した施策を支援した。
背景で大きな役割を果たしたのは、さまざまな施策やサービスをつなぎ合わせるデータベースの存在だ。
「この成果は今あらためて評価されており、標準化された被災者データベースシステムの社会実装をはじめ、避難所IDの全国公開、災害対策関連法の改正など、新たな施策がどんどん進められようとしています」と臼田氏は語った。
こうした議論を受けて澁谷氏が訴えたのは、災害対応にあたる人の重要性である。「災害を経験したことのない人は、生の感覚として事態の深刻さを把握できず、あるべきデータ活用への想像力が働きません」と語り、災害の経験者と未経験者の“温度差”を埋めていくための人材育成の重要性を説いた。

防災DX官民共創協議会 理事長
AI防災協議会 理事長
防災科学技術研究所 総合防災情報センター長
臼田 裕一郎氏

大阪公立大学大学院
文学研究科 准教授
菅野 拓氏

気象予報士 防災士
久保井 朝美氏(ゲストMC)
災害情報をリアルタイムで集約発信する総合防災情報システム「EYE-BOUSAI+」の活用も有効だ
災害発生時の大きな混乱の中で、果たして必要な情報を正確に収集・整理しながら、対策本部を的確に運営していくことはできるだろうか――。当然のことながら場当たり的な対応では上手くいくはずはなく、日頃から準備と訓練を重ねていくことが重要だ。
そんな被災地の自治体の災害対策本部における初動対応の混乱を肌身で体感するとともに、あるべき運用方針策定の重要性を学ぶため、DMTC(東京大学生産技術研究所附属 災害対策トレーニングセンター)監修のもと、仮想の自治体職員として対策にあたるワークショップが開催された。
参加者は、7つの自治体から集まった12人の職員をはじめ、教育機関に所属する3人、民間企業に所属する6人の計21人だ。各メンバーは、それぞれ指導者(リーダー、サブリーダー)、計画策定部門、後方支援部門、財務/総務部門、事態対処部門に分かれ、発災現場の情報収集や対策の意思決定など、役割に応じたタスクを遂行していく。
もっとも、設定された演習ストーリーはきわめて過酷なものだ。前日から降り続いた大雪による交通インフラの麻痺やけが人の発生などに対応している最中に、東京湾北部を震源とするマグニチュード7.3の首都直下地震が発生。甚大な被害が各地で頻発し、津波注意報まで発せられる中で、緊急設置された災害対策本部において対応にあたる。その上で、「人的被害の把握」「被害状況の可視化」「第一回災害対策本部会議の実施」の3つのミッションを達成するというのが概要である。
約25分間の演習は2回にわたって実施されたが、さすがに初回は不慣れによる混乱や戸惑いが目立った。リーダー役を務めた参加者からは「次々に寄せられてくる情報の整理が難しく、優先度付けも上手くできませんでした」と反省の弁が聞かれた。
ところが2回目となると、状況は一変する。「人命に関わる情報を最優先でリーダーに上げてください」「人手が足りなければサブリーダーに知らせてください。人員の再配置を行います」など的確な指示が出されるようになり、チーム全体がスムーズに連動し始めたのだ。結果として、前述の3つのミッションも無事に達成することができた。
今回のワークショップを主導した東京大学 生産技術研究所の准教授であり DMTCの副センター長を務める沼田宗純氏は「困難な災害シナリオだったにもかかわらず、皆様とてもスムーズに課題を達成してくれました」と総括。そして、「私たちは多くの被災地の状況を見てきましたが、災害対策本部を効率的に運営できている現場には、明確な理由があります。事前にしっかり準備し、トレーニングを行い、検証と学習を重ねているからこそ、いざ災害が発生した際にも的確に動けるのです」と語った。
自治体関係者のみならず、誰もが常に留意しておくべき重要ポイントだ。


