2025年7月17日、日経BP 総合研究所主催、プラスアルファ・コンサルティング協賛による「科学的人事・AIフォーラム特別編 人事データと生成AI活用で実現するこれからの人的資本経営〜人事の未来と求められる役割とは〜」が開催された。本イベントにはHRに精通した識者、データに基づく科学的人事を推進する企業が参加。これからの人事のあり方について、数多くのヒントを示した。満員御礼の盛況となったイベントの模様をレポートする。
高倉&Company 高倉氏
HRのスペシャリストがエール
「人事が強ければ世界で勝てる」
高倉&Company
共同代表
髙倉 千春 氏
基調講演には高倉&Company共同代表の髙倉千春氏が登壇。国内外大手企業で人事部門の要職を務めたHR領域のスペシャリストである。人的資本経営を実現するHRミッションとして、髙倉氏はタレントマネジメントと組織開発の2つを挙げる。
高倉&Company
共同代表
髙倉 千春 氏
「航海にたとえるなら、現在は天候=経営環境が不安定な状況。多様な人材を育成・確保し、サクセッションプランによって将来のリーダー候補を見極めておく必要があります。また、すべての乗組員=社員が生き生きと働ける組織づくりも欠かせません。どれだけ優秀な人材がいても、組織風土が悪ければ力を発揮できないからです。これらが人的資本経営にタレントマネジメントと組織開発が必須とされる理由です」(髙倉氏)
タレントマネジメントで大きな役割を果たすのが、「自社にどんな人材がいるのか」を可視化するITプラットフォームだ。
「社会課題への対応力を把握するには、従来型の人事では限界が出てきました。タレントパレットのようなプラットフォームを活用して人材情報を可視化し、経営戦略と直結した『適所適財』へと方向を転換することがタレントマネジメントの本質です」(髙倉氏)
組織開発においては、配置した人材の「心に火をつける」ことの大切さを説く。「形式的な1on1ではなく、エンゲージメントサーベイの結果を深掘りして本気で社員の声と向き合う。それこそが心に火をつける第一歩です」と髙倉氏は話す。そのうえで、会場に向けてこのようにエールを贈った。
「育成や採用には将来像を見せることが大切です。そのためにはデータを読み解く力が重要であり、データ分析力とあわせて、人を理解してチーム全体を高めていく力も必要です。人事が強ければ世界で勝てる――私はそう信じています」(髙倉氏)
プラスアルファ・コンサルティング
生成AIがもたらす人事データの民主化
“ヒト・モノ・カネ”から“ヒト・ヒト・ヒト”の時代へ
プラスアルファ・コンサルティング
取締役副社長
鈴村 賢治 氏
データに基づく科学的人事を掲げるタレントパレットは、大手企業を中心にさまざまな業界の約4300社に導入されているシェアNo.1※タレントマネジメントシステムだ。プラスアルファ・コンサルティング副社長の鈴村賢治氏は、「これまでは人事データは中央集権的に管理されていましたが、現在は人事戦略が経営戦略の中核になり、活用の重要性が増している」と述べ、次のように続ける。
※出所:ITR「ITR Market View:人材管理市場2025」人材管理市場 ベンダー別売上金額シェア(2023~2024年度予測)
プラスアルファ・コンサルティング
取締役副社長
鈴村 賢治 氏
「ある経営者が『これからの経営は“ヒト・モノ・カネ”ではなく、“ヒト・ヒト・ヒト”だ』と話していたのが印象に残っています。変化の激しい時代には、適時に適切な人材を育成・配置する力が問われます。タレントパレットは人と組織の科学的なマッチングを支援し、個人の能力を最大限に引き出し企業の競争力へとつなげるプラットフォームとして支持されています」(鈴村氏)
直近では生成AIを活用した「タレントリーチ(社内スカウト)機能」を実装。社員のスキルや経験をもとに生成AIがマッチングを行ない、社内の活躍人材発掘に貢献する。
「タレントリーチは蓄積された社員の情報から生成AIが職務経歴を自動生成し、人事部や事業部は必要なスキルや素質を持つ人材を検索して社内スカウトが可能です。例えば、「デジタルマーケティング経験があり、海外勤務経験もある人」といった自然な文章で人材検索が可能になり、人材発掘とともに優秀な社員の離職防止効果も期待されます」(鈴村氏)
生成AIの進展はタレントマネジメントの可能性をさらに押し拡げる
「AIアドバイス機能」は社員が人事評価の目標を設定する際、生成AIと壁打ちしながらどのような目標が最適か精度を高めることが可能。対する上司もAIの支援を受け、部下に行うべき的確なフィードバック内容を得ることができ、属人的だった人事評価が改善される。
「生成AIは、人事データの民主化をもたらすブレークスルーとなる技術です。私たちは2050年からのバックキャスト(未来からの逆引き)思考で、今後のタレントマネジメントや人事のあり方を見据えて機能開発を進めています。将来的には自律型AIエージェントの導入やリスキリングを支援する新機能も登場予定です。これからも科学的人事の前進を支援していきます」(鈴村氏)
パネルディスカッション
先進企業3社が挑む
モダンな人事戦略とは
日経BP 総合研究所
チーフコンサルタント
主席研究員
小林 暢子
ソフトバンク
執行役員
コーポレート統括
源田 泰之 氏
日経BP 総合研究所の小林暢子氏をモデレーターとするパネルディスカッションにはソフトバンク、プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン、デンソーの3社から人事、財務管理、キャリア支援の担当者が登壇。通信・ネットワーク、保険、製造とバックグラウンドは異なるものの、それぞれ事業戦略と連動した人事を推進する企業である。
日経BP 総合研究所
チーフコンサルタント
主席研究員
小林 暢子
AI事業へと大きく舵を切っているソフトバンクでは、求められる人材像が刻々と変わりつつある。ソフトバンクの源田泰之氏は「生成AIやDXのスピード感に対応できる人材が鍵を握ります。当社では最適な人材ポートフォリオの構築を進めており、既存領域の業務を生成AIで効率化しています」と話す。
ソフトバンク
執行役員
コーポレート統括
源田 泰之 氏
リスキリング前提の育成型ジョブポスティングなどを通して既存事業から新規事業への人材の配置転換を行うなど、新たなチャレンジに取り組んでいる。「社内外の人材を柔軟に活用しながら、事業と密接に連携した人材戦略を展開しています」と源田氏はいう。
生成AIの積極的な活用も進めている。全社員に「ChatGPT Enterprise」やソフトバンクの子会社が開発する国産LLM(大規模言語モデル)「Sarashina」が利用できる環境を整備し、AI資格の取得も推奨する。
ソフトバンクは生成AI活用に向けて全社を挙げて人材育成に取り組む。
経営戦略と連動した人材戦略と、その本気度ゆえに大きな成果が出ている
「ソフトバンクは昨年度、全セグメントで増収増益を達成しました。これは社員一人ひとりの成長が事業成長に結びついた結果です。盤石な基盤があるからこそAIへの投資が可能となり、その投資によって社員がAI分野へシフトし、さらに成長する好循環が生まれています。これこそがソフトバンクの考える人的資本経営のあり方です」(源田氏)
プルデンシャルの秋山泰宏氏は「近年は保険商品も多様かつ、複雑になってきています。資産運用の観点から国際化も進み、海外の取引先とのやり取りが増えてきました。そこで我々は、長期的な視点と部門間の連携、この2点を重視した人事戦略に取り組んでいます」と語る。
プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン
財務管理ファンクション
CFO
秋山 泰宏 氏
そのポイントは「複眼的かつ多層的な視点を持つ人材の育成」にある。同社は10年前に、ジョブ型人事制度を導入。結果、社員個人の専門性は高まった一方で、各部門の分断・サイロ化も進行。その反省も踏まえ、ここ数年は対話型でじっくりと人材を育てる方向に転換したという。
プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン
財務管理ファンクション
CFO
秋山 泰宏 氏
「会社のミッションや戦略に基づくケイパビリティを社員と話し合いながら育てる取り組みを進めています。また次世代人材のキャリアアップもフォローする仕組みを整えています。対話には時間と手間がかかりますが、社員の目標やキャリアの考え方を共有することで、中長期的に多様な経験を通じて成長できる人材が育つ手応えを感じています」(秋山氏)
「複眼的かつ多層的な視点を持つ人材の育成」を目指し、プルデンシャルは部門の壁を越えて長期的な視点で社員と接する
横断的な社員のデータ共有にも力を注ぐ。部下のキャリアを直属の上司だけが把握していては、属人的な人材配置になってしまう。そこで人事部門が積極的に各部署に関与し、データを活用しながら客観的な助言を行なっている。
「将来のリーダー人材には、深く掘り下げる力と同時に視野を広げる力も必要です。ジョブ型制度の枠を超え、日本国内に限定されない幅広い経験を通じて成長してもらいたいと考えています」(秋山氏)
デンソーの現社長、林新之助氏はソフトウエアエンジニア出身だ。車の電動化や自動運転の隆盛を受け、近年同社はソフトウエア分野の成長が目覚ましい。
デンソー
ソフトウェア統括部
ソフトキャリア支援室
担当次長
SOMRIE® 人材開発スペシャリスト シニア(Lv.5)
山田 隆太 氏
今回登壇した山田隆太氏もソフトウエアエンジニア出身だ。「全グループ社員約16万人のうち、ソフトウエア関連の社員は1万人強と発展途上ですが、その領域から人材育成の方針を見直し始めています」と語る。
デンソー
ソフトウェア統括部
ソフトキャリア支援室
担当次長
SOMRIE® 人材開発スペシャリスト シニア(Lv.5)
山田 隆太 氏
具体的には、幅広い視野と柔軟なスキルを持った人材を育てるために「キャリアイノベーションプログラム」を推進している。プログラムの1つが、社員の能力を可視化して各人のレベルを認定する「SOMRIE(ソムリエ)認定制度」だ。
「SOMRIE認定制度では、業務上の役割と能力を分けて定義しています。ソフトウエア領域には40の役割マップと18の能力マップがあり、役割に対して具体的な能力セットを定めることで自分に求められるスキルとのギャップを把握。ギャップを埋めるための教育や経験が可能です。そして、その成長を会社が全面的に支援します」(山田氏)
能力マップは「データサイエンティスト」「プロジェクトマネジャー」「ソフトウエアアーキテクト」など汎用的なケイパビリティからなり、世の中で通用する能力に結びつけることを目的としている。
デンソーが確立するキャリアイノベーションプログラムの全容。
産業界全体で活躍できる人材を目指して社員自ら行動できる仕組みを構築した
「こうした仕組みにより、デンソーの人材が他業界でも活躍できるようになり、逆に他業界のIT人材が自らの能力を生かして車両開発などに関われるようになります。このような人材の流動と育成を、多くの人と共に実現していく育成プラットフォームのオープン化が我々の狙い。自社の社員だけでなく、デンソーと関わるすべての人が自らの目標を実現し、成長できる社会を目指しています」(山田氏)
ソフトバンクではタレントパレットをはじめとした各種システムを導入し、エンゲージメントサーベイのデータなども自社で構築している。プルデンシャルでは個人の評価・スキル・キャリアプランをタレントパレットで可視化、グループ全体で一元集約している。デンソーも「人材情報DX基盤」のタレントデータ管理にタレントパレットを駆使するなど、タレントマネジメントシステムはモダンな人事戦略に不可欠なプラットフォームになっている。本イベントの随所で言及された人材の可視化、そしてAIの社会実装は“未来の人事”においてますます存在感を高めていくだろう。
業態が違うが人事の悩み事には共通点があり、時間が足りなくなるほど濃い内容のディスカッションとなった

