真の“SX”に挑む企業たち Striving for a sustainable future
大林組
#1

サーキュラーエコノミーを推進し「地球・社会・人」のサステナビリティへの道を切り開く

カーボンニュートラルへの挑戦が各業界で行われる中、建設業界でもサーキュラーエコノミーやサプライチェーン全体での温室効果ガス(以下、GHG)排出量削減の取り組みが進んでいる。
「真の“SX”に挑む企業たち ~Striving for a sustainable future~」特設サイトでは、真のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に挑む企業と、それらの企業を支援するPwC Japanグループとの対話を通して、SXを実現する上でのチャレンジや、その乗り越え方、SXに向けた取り組みのあるべき姿を探る。今回は、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が、環境経営の専門部署を設置してサステナビリティの視点から企業価値向上に取り組む大林組と議論を深めた。

“環境経営統括室”を設置し、
経営直轄でサステナビリティを推進

企業にとってGHG排出量削減の取り組みは、業種・業界を超えて普遍的な課題であり、その実現に向けた施策が進展している。建設業界でも脱炭素への取り組みは進んでいるが、真のサステナビリティ経営を目指す場合、自社内で省エネやクリーンエネルギー導入を進めるだけではなく、企業活動の中で社会的責務を果たすとともに、経済合理性の実現によって企業価値を向上させる「環境経営」が重要となってくる。

大林組で部門横断的に環境課題の解決とビジネス機会の創出をけん引するのが、2022年4月に発足した環境経営統括室である。室長を務める藤生直人氏は、同部署発足の経緯についてこのように説明する。

「大林グループでは、11年に中長期環境ビジョンとして『Obayashi Green Vision 2050』を策定し、低炭素社会の実現に向けた独自のGHG排出量削減目標を設定しました。しかしその後、『地球・社会・人』のサステナビリティを包括的に追求すべきだとの考えから、19年に『Obayashi Sustainability Vision 2050』へと改訂して現在に至ります。これを受け、22年にスタートした中期経営計画では、カーボンニュートラルに加えウェルビーイングを基本戦略に掲げており、この方針を経営直轄で推進する部署として生まれたのが、私が室長を務める環境経営統括室です」(藤生氏)

藤生直人氏

株式会社大林組
理事 環境経営統括室長 
営業総本部担任副本部長
営業総本部カーボンニュートラル・
ウッドソリューション部

藤生 直人

大林組の環境マネジメント推進体制は取締役会と直結しており、経営会議と経営計画委員会の下に環境経営に特化した環境経営専門委員会が設けられている。実績評価や目標設定、戦略策定、現場との意思疎通などを担当する同委員会の事務局を務めるのが環境経営統括室の役割だ。

環境マネジメント推進体制

出典:大林組提供資料 環境マネジメント推進体制

環境経営統括室が事務局を務める環境経営専門委員会は、上位に位置する経営会議と各現場との連携を強めるハブとして、実績評価や目標設定、戦略策定、現場との意思疎通などを担当する。大林組の環境経営の象徴的な存在だ

こうした大林組の推進体制の機能に着目するのが、PwCコンサルティングのディレクターで、サステナビリティ領域全般を専門とする齊藤三希子氏だ。

「中長期環境ビジョンを『Green』から『Sustainability』へと改訂されたのはより総合的なサステナビリティに取り組まれる意思表示だと思いますし、サステナビリティ課題を経営に直結され、専門委員会まで作られているのは注目すべき事例です」(齊藤氏)

また、PwCコンサルティングで建設・住宅業界を中心に支援活動を行い、大林組のアカウント担当として支援に当たっているマネージャーの山口貴之氏も、「ここまで明確に環境経営を掲げているのは、かなり特徴的だと思います」と語る。

山口貴之氏 齊藤三希子氏

(写真左)
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー

山口 貴之

(写真右)
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター

齊藤 三希子

部品構成表や産業廃棄物まで
環境経営のベースは
先進的なデータ化・電子化

大林組の環境経営の取り組みは、工事現場やオフィスでのGHG排出量削減からサプライチェーンも巻き込んだサーキュラーエコノミーの仕組み作りまで多岐にわたっており、かつ同時進行で推進されている。まずは、同社のGHG排出量削減の活動について簡単に触れておきたい。

「環境経営統括室が設置された22年以降、GHGを可視化するツールの導入、環境負荷の少ないクリーンな軽油代替燃料や植物由来のバイオ燃料の採用促進、再生可能エネルギーへの置換といった施策により、工事現場やオフィスでのGHG排出量削減を進めています。この結果、各年度でカーボンニュートラルに向けた削減目標をクリアし、2025年度は19年度比で25.2%の削減を目指しています」(藤生氏)

このように大林組は、GHG排出量削減において着実に成果を上げていることが分かる。さらに、同社は現在、PwCコンサルティングとのコラボレーションでサーキュラーエコノミーの仕組み作りに挑んでいる。藤生氏によると、その下準備となるデータ整備は何年も前から進められていたという。とくに力を入れてきたのが、BOM(Bill Of Materials、設計・生産管理で活用される建物の構成要素情報)によるデータベースの構築とマニフェスト(建設現場から出る産業廃棄物の処理に関する書類)の電子化だ。

「資源循環を実現するには建材を適正に管理することが必須なので、データとして1本につなげる必要がありました。建材メーカーはそれぞれ異なるので、データベース化することには困難が伴いましたが、リサイクルやリユースも視野に入れるならBOMや電子マニフェストは避けて通れない道だという認識で取り組んでいます」(藤生氏)

PwCコンサルティングがサーキュラーエコノミーの支援に参画したのは24年度からだが、このデータ整備が先行していたことで取り組みがスムーズに進んでいると齊藤氏は明かす。

「サーキュラーエコノミーのご支援にあたっては、建設廃材のリサイクルのシミュレーションなどでデータが必須です。実は独自のデータをお持ちでないクライアントは多く、その場合は最初にデータを作っていただくところからスタートしたり、一般的なデータで置き換えたりするのですが、このやり方では時間もかかりますし、クライアントに特化した解決策が出しにくいという課題があります。大林組の場合は、電子マニフェストといった形でデータが整備されていたので、早い段階で精緻なシミュレーションを出すことができました」(齊藤氏)

山口氏も、データ活用の取り組みについてこう指摘する。

「建設業界でデータを活用する動きは進んでいますが、建物を構成する部品情報を獲得する取り組みと産業廃棄物までデータとして捉える取り組みを並行して推進している企業はまれだと思います。2つの取り組みの合流により、バリューチェーン全域でのさらなるデータ活用の実現が期待できます」(山口氏)

独自のアプローチで資源循環を高度化
新たな扉を開く
リサイクル・リユースへの挑戦

齊藤氏によると、PwCコンサルティングは建設廃材のリサイクルを支援しているという。

「建築物に使われた建材のリサイクルは現在でも行われていますが、今の技術では処理ができないリサイクル困難材については、焼却か埋め立てによる最終処理が一般的でした。大林組は、このリサイクル困難材をゼロにし、しかも一度だけではなく資源として何度も循環させて再利用したいとの要望をお持ちでした。これにお応えするため、国内外の技術を調査し、最適なものを選定し、建材メーカーや廃棄物処理業者も含め、すべてのステークホルダーに対してコンフリクトが生じないよう、三方よしのビジネススキームを検討しているところです」(齊藤氏)

Circular Timber Construction®(サーキュラー・ティンバー・コンストラクション)の概念図

出典:大林組提供資料 Circular Timber Construction®(サーキュラー・ティンバー・コンストラクション)の概念図

「サーキュラー・コンストラクション」として、建設に使用した建材をリサイクルに回すだけでなく、リユース材として複数回の活用を可能とすることを目指す。中でも大林組独自の仕組みとして、近年注目される木造建築において「Circular Timber Construction®(サーキュラー・ティンバー・コンストラクション)」を具現化していく

これに並行して、大林組は様々な独自の取り組みで建設廃材の再資源化の成果を上げつつある。そのうちの一つが、大林組の技術研究所(東京都清瀬市)内の実験棟「オープンラボ3」の新築工事だ。

「既存の建物を解体して取り出した構造材をリユース材として新築工事に活用しました。品質保証面でのルールがまだないので、どこもやったことがなかった日本初の試みです(※1)。当社が建物保有者、新築事業主、施工者だったからこそ実証実験としてチャレンジできました。品質については審査機関の認証を受けたことで担保しています。外気に触れていない建材の劣化がないことも確認できましたし、何より実績を1つ積み上げることができたのは大きいと思います」(藤生氏)

さらにもう一つ、世界では数多くの利用実績があるが日本企業の導入実績がほとんどない海外の資源循環データプラットフォームを導入したことも、大林組の独自の挑戦と言えよう。建設資材の環境性能情報(デジタル製品パスポート)に基づき、建物全体のライフサイクルマネジメントの状況を数値データとして生成・可視化・記録。廃材やリユース品の環境性能情報を正確にトレースできるため、建物のライフサイクル全体をカバーした建設資材の循環利用を推進することができる。

「このプラットフォームの課題は、デジタル製品パスポートが付与された製品がまだまだ少ないこと。新築時に各製品メーカーが情報を登録できるようになるのが理想的なので、提供パートナーに推奨しているところです」(藤生氏)

この取り組みを聞いた齊藤氏は、大林組の意思決定について「リユース材を活用したオープンラボ3の新築も、このプラットフォームの導入も斬新な取り組みです」と述べた上で、「環境経営を標榜されているとはいえ、なぜこのような重要な意思決定をこのスピード感で実現可能なのでしょうか」と問う。

「リユース材は現状ではまだコストもかかりますし、使用している資源循環データプラットフォームも日本ではほぼ知られていないので、ゼネコンで挑戦するハードルは低くありません。前例のないことではありますが、未来のサステナビリティのためには必要だという直感がありましたので、環境経営統括室で実現したいという思いがありました。幸い、社内にも賛同してくれるキーパーソンがいたので、彼らと協力して役員や各部門にプレゼンした結果、納得いただくことができました」(藤生氏)

※1 2024年6月、大林組調べ。「1つの建物から全種別の構造部材を取り出し、新築建物の構造体としてリユースする取り組み」として国内初。

包括的なアプローチで業界を超えて、
“めぐりの良い未来へ。”

藤生氏は今後の展望として、環境経営統括室が掲げる「めぐりの良い未来へ。」とのスローガンを紹介する。

「当社が目指すのは『地球・社会・人』のサステナビリティの包括的な追求です。そのためには、地域共創やインフラ、エネルギーなど、様々なアクションを推進することが重要で、その結果としてもたらされるウェルビーイングこそ『Obayashi Sustainability Vision 2050』が目指すものだという認識です」

「建設における資源循環の手法にとどまらず、めぐりの良い未来の実現のため、業界全体の新しい仕組み作り、インフラ作りをけん引されていると感じます」(齊藤氏)

Obayashi Sustainability Vision 2050の「あるべき姿」実現に向けた取り組み

出典:大林組提供資料 Obayashi Sustainability Vision 2050の「あるべき姿」実現に向けた取り組み

環境経営統括室の独自のスローガン「めぐりの良い未来へ。」は、大林組の長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」に示されている「あるべき姿」からのバックキャストで策定された

対話の最後に、藤生氏は「SX経営に取り組まれている皆様に敬意を表します。挑戦は多いですが、SX経営によって得られる価値は計り知れません」とその意義を説く。そして、「サステナビリティの包括的なアプローチは、次世代への貴重な資源を守り、社員のエンゲージメントや顧客との信頼関係を強化し、新たなビジネスチャンスを生み、結果として企業のブランド価値向上にもつながります。業界を超えてウェルネスな未来を目指していきましょう」と呼び掛けた。

さらに、PwCコンサルティングに対しては「多様なステークホルダーとの共創が必須なので、多岐にわたる知見を生かした知恵をお借りしたい」と期待を寄せた。

「独自の取り組みでけん引される一方で、業界全体の協調領域も意識されていることが分かりました。容易ではない取り組みではありますが、多方面からのインサイトを提供させていただくことができればと思います」(山口氏)

「建設業界におけるサステナビリティのスタンダードを創出されていくことに、PwCのグローバルネットワークも活用しつつ、PwCコンサルティングが引き続きご支援を通して貢献できればと考えています」(齊藤氏)

藤生直人氏 山口貴之氏 齊藤三希子氏
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#2

包括的な視点で全体最適を図る
ホリスティックアプローチで
環境三社会を推進

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