体験価値をキーワードに、
社会課題の解決を目指すPwC
あらゆる産業で深刻化する人手不足、世界に比べて後れている社会やビジネスのDX、頻発する自然災害、高まる地方創生ニーズ――。日本を取り巻く社会課題は枚挙にいとまがない。
企業や自治体が単独でそれらの問題に対処することは難しいため、組織横断型の取り組みや国の支援、金融機関の本格的な参入を促すことが不可欠だ。また、技術開発だけでなく、技術の社会実装や産業形成までを見据えた取り組みも重要になる。このような考え方のもと、産官学連携に基づく取り組みを進めているのがPwCコンサルティングである。
様々な分野の有識者や、異なる強みを持つ企業・組織と共創プロジェクトを立ち上げているほか、自らも政策提言を積極的に行うことで、課題解決に向けた仕組みづくりに携わっている。
「私たちは『体験価値』を届けることを重視しています。教科書的な正論を説くだけではなく、仮説を立てて試行錯誤することで価値創出を目指す。このようなアプローチが、課題解決に向けて重要だと考えています」と同社の三治 信一朗氏は語る。

そのための場が「Technology Laboratory」だ。世界中に存在するPwCのラボと連携し、テクノロジーに関する膨大な情報を集約する。様々な知見を組み合わせた分析と、テクノロジーの実証、実装によってビジネスや社会の課題解決につなげる。民間企業の事業変革はもちろん、大学・研究機関の技術開発から政府の産業政策まで、多様なイノベーションを支援することが可能だという。
ロボティクスの世界で
注目を集める「フィジカルAI」
Technology Laboratoryの活動の中で近年、注力している分野の1つがロボティクスである。
「ロボティクス技術は今、急速に進化しており、産業活用に大きな期待が寄せられています。ここに当社の実践的なナレッジや豊富なリレーションを生かすことで、ロボティクスのさらなる発展を支援しています」(三治氏)
特に注目を集めているテクノロジーが「フィジカルAI」だ。これについて、ロボット研究のトップランナーの1人である千葉工業大学の古田 貴之氏は次のように説明する。

「『ロボットにAIを実装する』のではなく、『AIにボディを与える』。これがフィジカルAIの基本コンセプトです。学習を繰り返す中で、ロボットが周囲の環境変化に対応して自律的に動作するようになっていきます。障害物を乗り越えたり、複雑な行動・作業をしたりすることも可能です」
古田氏はヒューマノイドロボットの開発や、発電所での国産ロボット活用をはじめとする国家プロジェクトなどに多数携わってきた。ロボティクスの国際会議「ICRA(International Conference on Robotics and Automation)2024」のコンペティションで優勝した4脚ロボットの動画を、見たことがある人は多いのではないだろうか。ほかにもパナソニックの次世代ロボット掃除機「RULO」など、コンシューマ向け製品の開発にも携わっているほか、食品メーカーの工場自動化なども手掛けている。
「現在の製造現場には、人にしか行えない細かい作業がまだたくさん残っています。フィジカルAIが進化すれば、これらの作業も自動化できるようになるでしょう。継承が困難な匠の技を忠実に再現するといったことも、実現できるようになると私は考えています」(古田氏)
三治氏もこれに同意する。「ジャパンアズナンバーワンといわれた時代、日本の産業ロボットは世界を席巻しました。しかし残念ながら、現在はその活力が失われています。フィジカルAIは、そのような産業の世界にふたたび強力な推進力をもたらし、ひいては日本経済全体の発展に向けた起爆剤になるものだと私は考えています」。
社会実装人材を育てる
「ロボティクス経営道場」
フィジカルAIの産業活用に向けて、不可欠なのが「社会実装力」である。どの業務/作業に、どのように技術を使い、どうオペレーションするか。グランドデザインを描いた上で実践に落とし込む力だ。
「社会実装を進めるためには、ロボット技術のほかにも、業界のドメイン知識や現場の業務に精通していなければなりません。課題の把握と解決に向けて、現場と対話できるコミュニケーション力も必要です。これらのスキルを網羅的に備えた人材が日本には少ない。そこに強い危機感を抱いています」と三治氏は述べる。
世界では米国、中国、EUなどがフィジカルAIの産業活用に巨額の投資を行っている。いま日本が取り組みを開始しなければ、グローバルの潮流に立ち遅れてしまうだろう。「失われた30年」の二の轍を踏むことは何としても避けなければならない。
そこで三治氏が、古田氏をはじめとする有識者や民間企業に呼び掛けてfuRoと共同で 立ち上げたのが「ロボティクス経営道場」である。
「現在のWebサイトの技術がそうであるように、ロボット技術も、誰もが広く扱えるものになっていくべきだと私は考えています。多様なスキル・知見を備えた社会実装人材が、そのための起点になるのです」と古田氏は話す(図表1)。ロボティクス経営道場は、そのような人材の「トップ・オブ・トップ」を育てることで、日本の産業に貢献することをミッションとしている。
図表1 ロボティクス社会実装人材が果たす役目

まず産業の現場を知り、課題やニーズを把握する。課題解決にはどのような技術やプレイヤーが必要かを考え、協働をアレンジする。さらに稼働後のオペレーションも含めてプロジェクト全体をデザインすることが求められる
“自動操縦のレジェンド”金出
武雄氏も講師として登壇
現在、ロボティクス経営道場は参加者の募集を開始している(募集期間は10月1日まで)。講義は全8回。前半では自動化の歴史に関する講義や、先進的な取り組みを進める三菱電機の協力を得たFAセンター見学を通じて、総合的な知識を習得する。
後半では、日本ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会)の協力を得て、ロボティクスの実用化に欠かせない技術ポイントの講義を実施。さらに目玉といえるのが、参加者がチームを組んでロボットによる価値創出に挑む「ロボット企画構想」だ。まず社会・産業に存在する課題を洗い出した上で、それらの解決策を企画・構想する。収益性、実現可能性の観点からの仮説検証も行い、事業化計画を整理。最終的に優秀チームを選定・表彰する予定だという。ここにはAIに力を注ぐパナソニック社も協力する。
「知識を習得することが目的ではありません。Technology Laboratoryのコンセプトと同様、体験価値を重視した密度の高いカリキュラムを提供します。だからこそ、講座ではなく“道場”なのです」と三治氏は紹介する。
講師を務める古田氏は、自ら開発したフィジカルAIの現物を持参する予定だ。動かして見せるほか、構造に関する技術解説も行う。「現在の技術で何ができ、何ができないのか。現物に触れて、体感してほしいと考えています」と古田氏は述べる。
また、この道場の大きな魅力が講師陣である(図表2)。古田氏、SIer協会、ロボティクス領域のプロフェッショナルである三治氏に加えて、世界屈指のロボット研究者であり、PwCコンサルティングのスペシャルアドバイザーを務める金出 武雄氏も名を連ねる。金出氏は、カーネギーメロン大学などでロボティクスを研究し、米大陸横断自動走行車、スーパーボウルの中継に使われた映像エフェクト技術「Eye Vision」などを開発した“自動操縦のレジェンド”ともいわれる人物だ。第1回の講義で自動化の歴史とイノベーションについて語るほか、ロボット企画構想の審査員としても参加を予定している。
図表2 ロボティクス経営道場の概要

全8回のカリキュラムを通じて、体験価値を重視した実践的な講義を行う。トップ・オブ・トップ人材の育成を標榜する道場にふさわしく、講師陣も超豪華だ
「金出先生のもとで学んだ方の中には、その後、初期から数千億円規模の企業価値を実現した経営者もいます。その金出先生に会って実践的な話が聞ける。いくら払ってもよいので、私も受講したいくらいです」と古田氏は語る。
スタートアップ企業の立ち上げを経験した講師が事業化に向けたアドバイスも行う。失敗経験を踏まえた事業化のリスクや「やってはいけないこと」など、リアルな話を通じて、実ビジネスにつなげる際の勘所も学ぶことができるはずだ。
「加えて、この道場では仲間をつくることも目的としています」と三治氏は付け加える。ロボティクスの社会実装の取り組みは一人で進められるものではない。互いに異なる強みやスキルを持つ人・組織とつながることが、成功に向けて不可欠だからだ。
ここで生まれた参加者・講師との絆はその後も残る。ロボティクス経営道場が、そのまま1つのコミュニティとなって、参加者の貴重な財産になるだろう。
「私は普段、このような講座や講演会は終わったらすぐ帰ってしまうタイプなのですが、この道場に関してはずっと残りたいと思っています。ロボティクスへの情熱を持った皆さんと交流し、私自身も刺激を受けたい。そこから、また新しい社会実装の方法やビジネスモデルのアイデアが生まれてくると思います」と古田氏は言う。
三治氏は次のように語る。「常識にとらわれない尖った人、我こそは“天才”“変人”だと思う方にぜひ参加いただきたいですね。異常に見えることも続けていけば常識になり、やがて限界を突破することができます。道場は第2回、第3回と開催を計画していますので、みんなで新たな挑戦をする、その第一歩をまず踏み出せればと思います」。
フィジカルAIをはじめとするロボティクスの社会実装によって、イノベーションの創出を目指すロボティクス経営道場。そこから何が生まれるのか――。関心がある人は、ぜひその門を叩いてみてほしい。





