鍵はセキュリティ対策とガバナンス強化

規制緩和とルールの明確化で甦る
日本の暗号資産・ブロックチェーン市場

かつて、世界に先駆けて暗号資産に関連した法規制を整備するなど、日本は安全な市場形成のための取り組みをリードしていた。しかしながら、重大な資金流出事故を受けて著しく強化された規制がブレーキとなったこともあり、今や諸外国と比べて後れを取っている状況にある。日本の暗号資産・ブロックチェーン市場の成長を図るには何が必要か? 国内最大級の暗号資産取引所、ビットバンクの代表取締役社長CEOである廣末紀之氏と、暗号資産・ブロックチェーン市場の黎明期から、国や業界、個別企業に様々な助言を行ってきたPwC Japan有限責任監査法人の鈴木智佳子氏、須田真由氏に聞いた。

ビットコイン価格が急騰
背景にあるのは世界的な規制の整備

記録的な高値を更新し続け、2025年7月末には11万5000ドル(約1700万円)を記録したビットコイン。ビットコインをはじめ、主要暗号資産のかつてないほどの急激な価格上昇は、暗号資産への資金流入が“新たな次元”に突入したことを示している。

「急激な価格上昇の背景にあるのは、機関投資家が暗号資産市場に参入する動きが加速していることです。2024年1月に米証券取引委員会(SEC)がビットコインの値動きに連動するETF(以下、ビットコインETF)を承認し、複数銘柄が上場したことで、運用ポートフォリオに組み入れる機関投資家が増えているのです」

そう語るのは、PwC Japan有限責任監査法人のパートナーで、暗号資産や銀行、証券を専門分野とする鈴木智佳子氏である。

鈴木 氏
PwC Japan有限責任監査法人
パートナー
鈴木 智佳子
財務諸表監査、分別管理監査、ガバナンス態勢の構築、内部統制体制整備アドバイザリーに係る業務をリード。国内外で、銀行・証券会社の日本会計基準、国際財務報告基準、米国会計基準に基づく監査および、IFRSや金融規制、内部統制などに関するアドバイザリー業務を提供。PwC Japanグループの「フィンテック&イノベーション室」ではCo-Leadとして、金融機関のテクノロジー活用に関する取り組みに携わるとともに、フィンテックサービスを提供するスタートアップ企業に対して規制対応や内部管理体制構築などの支援を提供している。PwC Japan有限責任監査法人では、2021年8月よりBlockchain & DLT(Distributed Ledger Technology) Centre of Excellence をリード。日本公認会計士協会 業種別委員会 暗号資産対応専門委員会 初代専門委員長、2025年7月まで専門委員。一般社団法人 ブロックチェーン推進協会 監事、「デジタル通貨フォーラム」アドバイザー。公認会計士、日本証券アナリスト協会 検定会員、FSA Credential Holder。

盛り上がりを見せている米国の暗号資産市場。それを後押ししているのは、トランプ政権による積極的な規制の整備だ。

2025年7月中旬には、米下院が、暗号資産に対する規制の明確化を目的とする「クラリティ法案(CLARITY Act)」、ステーブルコインの信頼性を高める「ジーニアス法案(GENIUS Act)」、金融プライバシーを保護する「反CBDC監視国家法案(Anti-CBDC Surveillance State Act)」の3つの法案を、わずか1週間で立て続けに審議・可決した。暗号資産関連の法案を集中審議する1週間であることから「Crypto Week」と称され、米国のみならず、世界中の暗号資産・ブロックチェーン市場の関係者たちが注目した。

「規制の整備や明確化は必ずしもビジネスを制約するとは限りません。むしろポジティブに捉えるべきです。国や自主規制団体がよりどころとなる考えを示すことにより、多くの事業者やステークホルダーが共通した目線でビジネスに取り組むことが可能になります。とくに暗号資産をはじめとするブロックチェーンビジネスは、個別検討事項が多くグレーであるが故に、規制の導入に伴い今までは保守的な対応が求められていたビジネス活動にメリハリが生じ、適切な事業戦略の立案や財務面の安心・信頼感をもたらします。それによって投資家の積極的な参加を促し、これまで以上に市場が活性化することが予想されます」

と話すのは、PwC Japan有限責任監査法人 ディレクターの須田真由氏である。

須田 氏
PwC Japan有限責任監査法人
ディレクター
須田 真由
大手製造業・情報通信業・金融業(資金決済・仮想通貨)を中心とした会計監査を実施。アドバイザリー業務としては、US-SOX・J-SOXなど財務報告に係るIT統制監査支援をはじめ、フィンテックに関連するシステム導入プロジェクトの支援、金融検査マニュアル・FISCの各種基準を用いたITガバナンス構築支援、システム監査・第三者評価の業務を提供しており、主にフィンテック関係の業務をリード。共著書に『ブロックチェーンをビジネスで活用する』『DAOの実務 設計と法務・税務・ガバナンス』等がある。JICPA-ブロックチェーン専門委員会 委員(旧任)、JVCEA-セキュリティ委員会 委員(現任)、JBA-会計分科会 委員(現任)。

同様の動きは世界中で広がっている。EUの最高意思決定機関である欧州理事会は2023年5月、欧州議会と共にEUの包括的な暗号資産規制であるMiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)を正式に承認。アジア諸国も、マネーロンダリング対策、税制、消費者保護などの観点から、暗号資産に関する法的枠組みの整備を進めている。

いずれも、明文化されたルールの下で、市場参加者が安心して取引できる環境を実現し、暗号資産・ブロックチェーン市場の発展を促そうという流れに沿ったものだ。

翻って、日本の動きはどうか? 実はかつて、日本は世界に先駆けた“暗号資産先進国”であった。それが今や、市場規模は欧米やアジアに追い抜かれ、安全な市場形成に不可欠な規制の整備もリードするに至っていない。むしろビジネス活動をけん制しすぎる傾向も生じていた。

なぜ、そのような状況に陥ってしまったのか? 日本の暗号資産・ブロックチェーン市場を甦らせ、成長させるためには何が必要なのだろうか。

※ステーブルコイン:米ドルなどの法定通貨や、貴金属などのコモディティ―(商品)の価格と連動するように設計された仮想通貨の一種。