トレーラーやトラックを直接運ぶRORO船(貨物専用船)を中心に、国内海上輸送サービスを提供する近海郵船。物流のモーダルシフト(トラック等による貨物輸送を鉄道や船舶に転換すること)が注目される中、効率的で環境に優しい輸送手段としてRORO船の存在感が高まるにつれ、事業は着実に拡大しているという。
日本郵船の近海・内航部門を分離して1923年に設立された同社は、創立100周年に当たる2023年を機に、若手メンバーによるタスクフォースの議論をきっかけにして「ミッション、ビジョン、バリュー(MVV)」を新たに制定した。
ミッションである「Bringing value to life.」は日本郵船グループとして掲げるものだが、ビジョンの「フネ×ヒトのチカラで、日本の未来を明るくデザインする」、バリューの「好奇心・共創力・敏捷性・当事者意識」は自社の強みと弱みを踏まえ、変革と成長を力強く実現すべく、近海郵船が独自に制定したものだ。
同社業務部の井上暢隆氏は、「このMVVは、単なる理念でなく、事業戦略や人材育成にも取り込んで、企業文化として浸透させるよう取り組みを行っています。各部門の目標もMVVに基づくものとし、26年度からはMVVの実践度合いが評価に反映されるようになる予定です」と語る。
新たな旗印の下で事業成長を目指す同社にとって、重要な戦略の一つがDXである。「当社では、DXを採算管理・収益力強化といった経営の高度化を支える機能戦略と位置づけています」(井上氏)。
というのも、同社は経営を支えるデジタル基盤の整備が遅れていたのだという。同社営業企画部の青木菜那氏はこう話す。
「当社の多岐にわたる業務は前例踏襲的な手作業が中心で、国内人口減少等のメガトレンドや経営方針の中で掲げる『ありたい姿』の実現を考えれば、このままの状態では立ち行かなくなることは明白で、中でもDXは当社にとっての最大の課題でした」
同社に限らず、内航海運業界では、古くから根付いているアナログ文化が依然として優勢であり、紙やメール、ファックス、表計算ソフトなどによる現場での手作業に依存したオペレーションが中心だったという。
「運航、配船、陸送手配、荷主対応、港湾手続きなど、多くの業務が手作業での対応であったため、これまではそれらのデータ連携が行われてきませんでした。その結果、情報が各部門、営業拠点に散在し、見たい情報をすぐに見ることができず、データが生かされない状況でした」(青木氏)
同社では、次の100年に向けた変革開始のシグナルと位置づけ、若手メンバーがMVVや各分野での業務改革案を取り纏めて経営への提言を行ったBPR(業務改革)タスクフォース「Noroshi2123」に引き続き、中期経営計画「Shinro2035」が策定された。
その中では「AX/BX(既存事業深化・新規事業開拓)」「CX(人材・組織変革)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「EX(脱炭素)」という変革戦略の実行を通じてビジョンを実現する方針を明確化。とりわけ「DX」は他の戦略実行を支える重要な機能戦略と位置づけられ、「デジタル化により、 経営の高度化・成長に向けた土台・基盤づくりを推進し、更なる成長を目指す」ための活動が本格化した。
しかし、いざDXに向けて現在の業務をひも解いていくと、次々と課題が浮かび上がってきた。
例えば、多くの業務が手作業中心だったとはいえ、業務のデータは表計算ソフトに保存されていた。問題は、それを閲覧したり、分析する際の手間の多さだった。まず、保存場所が全国各地の事業所も含めて分散されている。また、表計算ソフトの各ファイルはまちまちな項目で作成されており、「共通仕様」といったものがなく属人化していた。当然、KPIの統一やダッシュボード、分析ツールなども整っておらず、決算などの業務は、データを集めて整理をするという作業が大半を占めたという。
このように多くの課題が浮上してきたことから、素早く果断にプロジェクトを進めるためには外部の知見を活用することが肝要と判断。共創パートナーとしてPwCコンサルティングを起用し、「BIダッシュボードによるデータ可視化プロジェクト」を立ち上げることを決定した。
「BIダッシュボードの作成に当たり、PwCコンサルティングと達成したい目標についての議論を行い、まずは前提として3つのポイントを選定の上、プロジェクトをスタートしました」(井上氏)