自律的な社員が企業成長を促す
リコー流「人を活かす経営」
リコー
代表取締役会長
山下 良則 氏
PROFILE
兵庫県生まれ。1980年リコーに入社。Ricoh Electronics, Inc.(米国)社長、グループ執行役員、常務執行役員、総合経営企画室長、専務執行役員、副社長執行役員を経て2017年に社長に就任した。23年から現職。
( 聞き手:日経ビジネス発行人 松井 健 )
会社の最大の宝は社員のモチベーション
ー 事業構造の変革を推進される中で、なぜ“人”にフォーカスされたのでしょうか。
私が社長に就任した2017年から事業構造の変革に取り組み、2020年にはOAメーカーからの脱皮と、デジタルサービスの会社への変革を宣言しました。

デジタルサービスの会社になるといっても、社長が号令をかけるだけでは変わりません。組織や制度、文化を全員で変えなければならない。私たち自身も変わらなければならない。会社は社員全員の集合体であり、社員こそがお客様との接点です。社員が認められなければ、会社も市場から認められません。
リコーを含め、多くの日本の製造業は、決められた仕事を指示通り、遂行することが求められてきました。しかしデジタルサービスの会社ではお客様との接点で自律的に課題解決できる人材が求められます。お客様のニーズが多様化するなかで、お客様と共に課題をあぶり出し、価値を創造していく必要があるからです。
人の力の発揮度合いは、環境や期待によって大きく変わります。自らの意思でやり遂げようというときは無限に力が出ますが、人から指示されただけで、その意義も分からないときには、その力は限られてしまいます。
会社の最大の宝は社員のモチベーションです。優秀な社員がたくさんいても、何人かが手を抜けば、他の何人かがカバーしなくてはなりません。だからこそ、「人」の力を最大限に引き出すことが、変革のカギなのです。
3万通りの働き方があっていい
ー 社員がモチベーション高く働き続けられる環境をつくるために、どのような取り組みが必要ですか。
「人」の力を最大限に引き出すには、やりがいを感じられることが不可欠だと考えています。ただし、やりがいの感じ方は皆同じではありません。そのため、やる気がある人がどんどんチャレンジできる文化、社員がいつでもどこでも働くことができる環境、一人ひとりが自分の成果に責任を持ち、自分に合う働き方を自ら考え、自律的にワークライフマネジメントできる企業風土づくりが重要です。
やる気がある人がどんどんチャレンジできる文化を醸成しようとさまざまな仕掛けをしました。例えば、勤務時間の20%まで社内の他の業務に関わることができる社内副業制度や、会社にいながら起業にチャレンジできるアクセラレータープログラム等です。毎日同じ電車でオフィスに向かい、同じメンバーと議論していても、イノベーションは生まれません。
8時間の就労時間のうち1時間、他の活動に使ったとしても、本業の生産性は落ちないんですよ。むしろ、そういう社員ほど面白いアイデアを持ってきてくれます。重要なのは時間ではなく、パフォーマンスです。

また、自分の働き方を自分で選べるよう、コロナ禍の2020年に「マイノーマルガイド」を策定しました。一人ひとりが自分の仕事や生活に合わせ、一番成果を出せる働き方を見つけてほしいという想いを込めました。リコーには国内約3万人の社員がいます。3万通りの働き方があってよいと考えています。
そして、やる気が高まる社内風土づくりとして、オフィス業務の3M(面倒、マンネリ、ミスできない)作業を取り除くべく、「社内デジタル革命」と題して改革を実行しました。オフィス業務には、非常に面倒な仕事や、繰り返しのマンネリ作業、間違えると大変なことになってしまう仕事が溢れています。これらをAIやRPA、ノーコードツールを活用し、デジタルの力で自動化することで、社員のストレスを軽減し、より創造的な仕事にシフトすることを目指しました。
さらに、「つながり宣言」として、年に1回社員に「あなたの仕事は社会に役立っているか」「それは働きがいにつながっているか」と問いかけています。自らの仕事を通じて社会に貢献することは、やりがいにつながります。それを実感すると、社員は一層やる気になり、より自律的にチャレンジできるのです。
単に居心地のいい会社を目指すのではありません。社員一人ひとりの成長を促し、その成長が会社の成長にもつながる――社員と会社の成長は同軸であり、そうした環境をつくることが、私たちの掲げる「“はたらく”に歓びを」の実現につながるのです。
すべての"はたらく"に歓びを!
リコー会長が辿り着いた「人を愛する経営」
リコー会長 山下良則 (著)
新ビジョンを掲げ、企業改革の指揮を執ってきた著者が、何を考え、何を実行し、それをどのように改革につなげてきたのか――。憤慨したこと、人に助けられたこと、出合った本、会社の常識を見直したこと、コロナで考えたこと……多くのリアルなエピソードを交えて「企業改革に必須のプロセス」を明らかにしつつ「未来の人類のワークライフ」を予言する。
聞き手:日経ビジネス発行人
松井 健
1994年筑波大学卒業後、日本経済新聞社に入社。日経産業新聞編集長などを経て、24年より日経ビジネスなど経営誌の発行人を担う経営メディアユニット長。
記事中の肩書きやデータは公開時点の情報です

