ダイバーシティから生まれるイノベーションで世界に挑戦

多様性を力に変える、ダイバーシティまちづくりを推進する仙台市。目指すのは、「ちがい」の掛け合わせによるイノベーションの創出と、誰もが安心して住み続け、活躍できる街だ。その未来を、仙台市長・郡和子氏と、東北大学副学長の青木孝文氏、お茶の水女子大学副学長の石井クンツ昌子氏との鼎談から展望する。

── 仙台市がダイバーシティまちづくりを推進する背景を教えてください。

 仙台市には、もともと国際交流や多様性を重んじる歴史があります。1613年に伊達政宗公がヨーロッパに派遣した慶長遣欧使節は、その先駆けといえるでしょう。使節団の出航は、慶長三陸地震津波の2年後。海外との交易・交流を復興の力にという政宗公の期待があったとも考えられます。東日本大震災を経てダイバーシティまちづくりを進める今の仙台市とも通じるところがあります。

仙台市長 郡 和子氏

仙台市長
郡 和子

青木 震災後には、世界中から本当に多くの方々が来訪されましたね。

 本市は市民協働の街であり、復興過程でも市民力が発揮されました。多様な主体がかかわる取り組みは国際的にも評価されています。

── 2025年3月には、仙台市ダイバーシティ推進指針を策定されました。

 市の持続的発展のためには、年齢・性別・国籍・障害の有無などにかかわらず、誰もが力を発揮できる環境を整えていくことが重要です。推進指針では、多様性を尊重した共生のまちづくりに加えて、「ちがい」から生まれるさまざまな価値観や発想を掛け合わせ、新たなイノベーションを生み出すことを目標としています。そう考えるきっかけとなったのが、東北大学の「国際卓越研究大学」認定、そして「ジェンダード・イノベーション」との出合いです。

門戸開放の精神でダイバーシティを加速

門戸開放の精神で
ダイバーシティを加速

── 国際卓越研究大学第1号となった東北大学の取り組みをご紹介ください

東北大学  理事  副学長(企画戦略統括)  プロボスト・CDO 青木 孝文氏

東北大学 理事 副学長(企画戦略統括) プロボスト・CDO
青木 孝文

東北大学 理事 副学長(企画戦略統括)
プロボスト・CDO
青木 孝文

青木 本校では、体制強化計画として3つのコミットメントを発表しています。1つは、未来を変革する社会価値を創造する「インパクト」、2つ目は多彩な才能を開花させ未来を拓く「タレント」、3つ目が変革と挑戦を加速する「チェンジ」です。多様な人材に投資し価値を創出することで、社会を変革していくことを掲げています。

東北大学が取り組む国際卓越研究大学としての体制強化「3つのコミットメント」

── 24年からは、「東北大学サイエンスパーク構想」も始動しました。

青木 第1弾として、「ナノテラス」を用いた「国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)」や、産学連携拠点「青葉山ユニバース」の運用を開始しました。今後も、世界の研究者を惹きつける魅力的な研究環境を整備していきます。

 世界中から留学生や研究者が集まることで、仙台市のダイバーシティもますます加速するでしょう。

青木 本学は、日本初となる女子学生入学や留学生への門戸開放など、早くから多様な人材を受け入れてきました。都市や学術の発展のためにも「知の多様性」は重要だと考えています。

── お茶の水女子大学は、東北大ともつながりが深いと聞いています。

石井 1913年に東北帝国大学に入学した日本初の3人の女子学生のうち、黒田チカと牧田らくの2人は、お茶の水女子大学の前身である東京女子高等師範学校の卒業生なのです。2019年には両校で包括連携協定を結び、東北大学とは活発に交流しています。また、仙台市の姉妹都市である米国リバーサイド市に位置するカリフォルニア大学は、私が20年間教鞭をとった大学であり、今も家族が暮らす街。運命的なご縁を感じますね。

お茶の水女子大学  理事  副学長  ジェンダード・イノベーション研究所長 石井 クンツ 昌子氏

お茶の水女子大学 理事 副学長 ジェンダード・イノベーション研究所長
石井 クンツ 昌子

お茶の水女子大学 理事 副学長
ジェンダード・イノベーション研究所長
石井 クンツ 昌子

 それはうれしい偶然ですね。

青木 こういうつながりが、取り組みの原動力を生むんですよ。

── 石井先生は、お茶の水女子大学でジェンダード・イノベーション研究所の所長も務めておられます。

石井 ジェンダード・イノベーションは、05年に米国スタンフォード大学のロンダ・シービンガー教授が提唱した、研究や技術開発に性差の視点を取り入れようという考え方です。本学には50年の歴史を持つジェンダー研究所もありますが、性差分析に基づく新たなイノベーション創出拠点として、22年4月にジェンダード・イノベーション研究所を開設しました。

── 「ジェンダー」と「ジェンダード」の違いはどこにあるのでしょうか。

石井 男らしさ、女らしさといった“性のありよう”や、そこに“平等性”を求める「ジェンダー」に対し、「ジェンダード」は“性差がある”ことを起点とするのが特徴です。例えば、研究者が男性あるいはオスのマウスからデータを収集して創る薬などは、男性にとっては有効であっても、女性にとっては危険なものがあります。ここに性差の視点を入れようというのが、ジェンダードの発想です。つまり、ジェンダード・イノベーションには、性差に注目しながら全ての人の利便性やウェルビーイングを向上していく、という理念が込められているのです。

ジェンダード・イノベーションとは?

性差に基づくという意味の「ジェンダード」と知的創造と技術革新を意味する「イノベーション」を組み合わせた造語。これまでの科学・技術分野の研究・開発では、性差が見過ごされてきたことで、一方に不利益が生じてしまう状況にあった。その状況をポジティブに捉え、研究・開発のプロセスに積極的に性差分析を組み込むことで、イノベーションと発見を実現しようとする概念(ジェンダード・イノベーション研究所の図版を基に作図)。

 ジェンダード・イノベーションの考え方を取り入れることによって、掛け合わせにも新たな視点が生まれ、より多様性に富んだまちづくりやソリューション開発が行えるようになります。

石井 性差だけでなく、世代や人種、地域性といったさまざまな変数同士の掛け合わせにより、新しい知見が生まれていくでしょう。それを研究だけで終わらせず、たしかな社会価値につなげるためにも、産学官で連携していくことが重要だと考えています。

産学官連携で取り組むスマートなまちづくり

産学官連携で取り組む
スマートなまちづくり

──産学官連携の枠組みとして、「仙台市×東北大学スマートフロンティア協議会」を立ち上げています。

 本協議会では、仙台市と東北大学、約80社の参画事業者が協働し、データ連携による先端的サービスの開発や、規制改革など意欲的なプロジェクトに取り組むことにより、仙台・東北から未来を切り拓くフロンティアとなることを目指しています。

── 具体的なサービス事例をご紹介いただけますか。

 現在は、「自動運転バス」と「診療カーによるオンライン診療」などに取り組んでいます。自動運転バスは、伊達政宗公が仙台城を拓いた「仙台始まりの地」であり、現在は東北大学のキャンパスが拡がる青葉山エリアをフィールドに、レベル2(部分自動運転)による実証実験を実施しました。オンライン診療カーは、中山間地域を中心に23年11月よりサービスを開始しています。地域課題解決に向けたこれらの取り組みを、産学官金言が一体となって推進しています。

青木 リモートでもより正確に診断できるよう、音質にこだわった聴診器の開発は、医学部と医師会、スタートアップ企業との共創になります。

 高齢化や人手不足、医療格差といった地域課題は、産学官金言が一体となって取り組んでいかねばなりません。

青木 重要なのは、学術価値を社会価値に高めていくこと。それには産学官の知見の掛け合わせが必要です。そうした機能や場を提供することも、国際卓越研究大学の使命だと思っています。

石井 理論のための研究は、理論の発展にしかつながりません。研究成果は、社会に還元されてこそ生きるものです。

青木 研究開発事業もリニア型からアジャイル型へと移行する時代。多様なプレーヤーがいれば、同時並行的に多数のタスクやプロジェクトを進めることができます。だからこそ、これからの大学は都市と一緒にデザインしていくことが重要だと考えています。

 協議会では、新たに国際卓越ワーキンググループを立ち上げ、規制改革の提案やグローバル化への対応、ジェンダード・イノベーションへの取り組みを強化しています。24年11月には、ロンダ・シービンガー教授を招聘した企業向けのワークショップも、東北大学と共同で行いました。

『仙台市×東北大学スマートフロンティア協議会』活動の様子

100名以上の企業関係者が集まった国際卓越ワーキンググループの第1回会合。仙台市では産学官金言が定期的に集まり、地域課題解決に向けた議論をしている。

石井 ジェンダード・イノベーションを推進するにあたって、産学官の連携は不可欠です。ジェンダーや年齢、国籍、地域性などが相互に関連する状態をインターセクショナリティ(交差性)といいますが、この交差性もまたイノベーション創出には欠かせない要素。いわば、「掛け合わせ」の視点ですね。参加するプレーヤーが増えるほど、その視点も重層化し、さまざまな可能性が広がっていくはずです。

次世代のグローバル人材を育成する新たな取り組み

次世代のグローバル人材を
育成する新たな取り組み

── 多様な視点をイノベーションにつなげる取り組みには、どのようなものがありますか。

 次世代のイノベーションを担うグローバル人材を育成するために、23年度より「SENDAI Global Startup Campus」を実施しています。これは、東北の若い方々に世界最先端のアントレプレナーシップ教育を受講していただき、優秀者には米国での実地研修を通して自らの事業アイデアを磨き上げていただくというもの。これまでに延べ200名にご参加いただいています。さらに、小中学校で一貫して学ぶ新教科として、「(仮称)国際探究科」の創設に25年度から着手する予定です。子どもたちが学んだ英語を活用し、地域の歴史や文化、防災なども題材にした探究的な学習を通して、多様な文化や価値観に触れ、柔軟なコミュニケーション能力を育んでいくのが狙いです。

石井 「国際探究科」の取り組みは素晴らしいアイデアですね。グローバルな視点を持つことは、ダイバーシティの推進にもつながります。研究者にとっても、英語でコミュニケーションが取れることは重要だと思います。

青木 東北大学においても、グローバル化は最大の課題です。国際対応力をより高めるために、司令塔としてCGO(包括的国際化担当役員)を新たに設置しました。これにより、戦略的なグローバルリンケージと大学組織のトランスフォームを目指していきます。また、外国人受け入れ支援として、仙台市と連携した「国際化共同推進センター」も開設。留学生や外国人研究者およびその家族が、仙台で安心して暮らしていけるような環境を整備する各種取り組みを進めています。

石井 お茶の水女子大学では、東北大、東大と3大学連携で、ジェンダード・イノベーションのオンライン講義を行っています。学生からの評判も高く、企業のみならず多くの方々にこの概念が浸透しつつあることを実感しています。

── 最後に、それぞれの取り組みに対する意気込みと、未来への展望をお聞かせください。

青木 東北大学の新しいスローガンは、「MOVE AND SHAKE」。人を動かし、リーダーシップを発揮していく人材を世界中から集め育て、活躍の場を創造するという決意を込めています。本学は112年前の門戸開放の時代から、新しいことに挑み続けてきた大学。そのDNAを大切に、今後もチャレンジに邁進してまいります。

石井 お茶の水女子大学は、今年で150周年を迎えます。その長い歴史の中で一貫して大切にしてきたのが、「生活者の視点」。ジェンダード・イノベーション視点を取り入れた研究もその一例です。研究の成果を社会に還元するためにも、自治体や企業の皆さまと共に取り組んでいくのはとても重要なこと。これからも仙台市や東北大学が取り組んでいらっしゃるよりよいまちづくりにジェンダード・イノベーションの視点から協力させていただくことがあればと考えています。

 仙台市には、今後ますます国内外から人材が集まります。そうした皆さまにも、仙台を第二の故郷と思っていただけるよう、魅力的なまちづくりを進めていきます。その鍵となるのは、ジェンダード・イノベーションに代表されるイノベーションのエコシステムです。多様な力を掛け合わせ、新たなサービスを創出していくことで、仙台市はもちろん、日本や世界をも元気にしていく。そんな想いを胸に、これからも市政に努めてまいります。

お問い合わせ

仙台市役所
〒980-8671 宮城県仙台市青葉区国分町3丁目7番1号
https://www.city.sendai.jp
ダイバーシティ推進課 mac001660@city.sendai.jp

協力

国立大学法人 東北大学
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/

国立大学法人 お茶の水女子大学
https://www.ocha.ac.jp/index.html

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https://www.tohoku.ac.jp/japanese/

国立大学法人 お茶の水女子大学
https://www.ocha.ac.jp/index.html