日本の「弱点」が「強み」に変わる 日米のトップランナーが語るAI時代のリーダーシップと組織変革

AI活用で切り拓く
確かな「日本の勝ち筋」

日本がこの優位性を生かすために、国として、あるいは企業として何に取り組むべきか。安野氏は、自身が提言している3つのポイントを挙げた。

第1に「インフラの確保」だ。これまでの経済成長は人口の多さに比例していたが、これからのAI時代は「計算能力」と「電力」が国力を左右する。一企業では賄い切れないこのインフラ基盤を、国が主導して整備する必要がある。

第2に「独自の研究開発」である。安野氏は、米国ビッグテックと同じ「巨大言語モデル(LLM)」のフロンティアモデルを追いかけるだけが戦略ではないと説く。

「日本には日本の勝ち筋があります。例えば、特定の領域に特化して高速に動く『SLM(小規模言語モデル)』や、日本の強みである製造業や自動車産業と掛け合わせたロボティクスなどの『フィジカルAI』、そして科学技術の発展を加速させる『AI for Science』。こうした領域への投資が重要です」(安野氏)

そして第3に「教育」だ。初等教育から高等教育まで、AIリテラシーを底上げすること。安野氏は「プログラミングや英語の教育においては、すでにAIのほうが優秀な教師になり得る」とし、AIを活用した個別最適化された教育の可能性を示唆した。

インフラや教育といったマクロな視点に加え、企業経営の現場で欠けているものは何か。安野氏は「現場の人材不足」と同時に、「経営層のリテラシー不足」を危惧する。

「AIの進化は非常に速く、実際に自分で触ってみて、『何ができて、何ができないか』の肌感覚を持っていないと、正しい経営判断ができません。経営者自身が実際にAIを使い倒すことで、意思決定の精度は格段に上がります」(安野氏)

ジットソン氏も、リーダーが「ロールモデル」になる重要性を説く。

「かつてスマートフォンが登場したとき、私たちは会社から支給されるより前に、個人の生活の中で使い始めました。現在、AIでも全く同じことが起きています。とくにZ世代のような『AIネイティブ』と呼ばれる世代は、すでにAIを日常の一部としてごく自然に使いこなしています。人材獲得や成長機会の創出という観点では、AI導入を『しばらく様子見しよう』とする企業は、早期導入企業に後れを取り、優秀な人材と成長のチャンスも逃してしまうことになるでしょう」(ジットソン氏)

適切な仕組みとプロセスで
AIを積極的に活用

実践フェーズにおいて、経営者はどうリスクと向き合うべきか。多くの日本企業がリスクを恐れるあまり、導入に二の足を踏んでいる。安野氏は、リスクをゼロにするのではなく、「ガードレール」を設けるアプローチを提案した。

「例えば、私の選挙戦で作ったAIアバター『AIあんの』では、対立候補への誹謗中傷やセンシティブな外交問題には回答しないよう、システム的なルール。つまりガードレールを設定しました。AIは時としてハルシネーションと言われるもっともらしいうそをつくリスクがありますが、100点満点の精度を求めて何もしないのではなく、ガードレールの中で実験をさせることが重要です。今のAIスタートアップの中には、わずか数十人のチームで数千億円の評価額を持つ企業もあります。スモールチームでもAIを活用すれば、大企業に匹敵する付加価値が出せる時代なのです」(安野氏)

一方、ジットソン氏は「人とプロセス」への着目を促す。ServiceNowでの経験から、AI導入の成否を分けるのはテクノロジーそのものではなく、75%は「人とプロセス」の問題だという。

「我々は各部門に『最も重要なプロセスは何か』『どこで時間を無駄にしているか』を徹底的にヒアリングしました。そして、サイロ化(縦割り)されたシステムや組織をつなぎ、プロセスそのものをシンプルにすることに注力しました。複雑なプロセスのままAIを導入しても混乱するだけです。プロセスを整流化し、リスク管理できる状態にすることが、AI活用の成功確率を高める鍵です」(ジットソン氏)

何もしないことが
最大のリスクとなる

そして議論は「未来の組織」へと及んだ。安野氏は選挙戦で実践した「ブロードリスニング」という概念を提示した。AIを使えば、数万人の有権者、あるいは顧客や従業員の声を定性的に分析し、経営や政策に反映させることができる。これは、従来の「声の大きい人」の意見ばかりが通る組織運営を変えるイノベーションになり得る。

ジットソン氏は、米国ホワイトハウスが打ち出した「AIスキル・イニシアチブ」に触れた。これは、AIスキルを学びたいすべての国民に無料トレーニングを提供するという国家レベルのコミットメントだ。

「米国では過去20年、デジタル変革の中で多くの人がスキル不足により職を失いました。今回は全員を底上げしようとしています。企業も同様です。良いプロンプトの書き方など、新しいスキルへの投資を惜しんではいけません」(ジットソン氏)

あるCEOは、創業15年の企業の時計をリセットし、「AI以降、我々はまだ創業1日目だ」と宣言したという。過去の成功体験を捨て、全社一丸となってAI時代のやり方を模索する。それくらいの「覚悟」が求められているのだ。

最後に、ジットソン氏、鈴木氏、安野氏の3人から日本のビジネスリーダーに向けて力強いエールを送った。

鈴木氏
ServiceNow Japan
執行役員社長
鈴木 正敏
日本オラクルでの勤務を経て、SAPジャパンでバイスプレジデント、シマンテックの執行役員社長、UiPath日本法人の取締役兼最高収益責任者を歴任。2023年1月にServiceNow Japanの執行役員社長に就任。

鈴木氏は、「ニックをはじめとするグローバル経営陣は、日本の強みを深くリスペクトしています。AI時代こそ、その強みが解放される絶好の機会。私たちもグローバルと連携し、日本企業の変革に全力で貢献させていただきます」と、変革への伴走を力強く約束した。

続いてジットソン氏は、行動することの重要性を説く。 「ヘルスケア分野など、AIのポテンシャルはすでに証明されています。私たちが協力し合い、この技術を正しく使えば、解決できない問題はないと信じています。成功への唯一の道は、実際に使ってみることです」(ジットソン氏)。

そして安野氏は、挑戦への連帯を呼びかけた。 「グローバルな競争環境において、何もしないことこそが最大のリスクです。日本にはチャンスがあります。ぜひ一緒に実験を繰り返していきましょう」(安野氏)。

世界からリスペクトされる日本の「現場力」や「改善文化」に、AIという武器が加わったとき、日本企業は新たな成長フェーズに入るだろう。そのスイッチを押せるのは、他ならぬ経営者自身の「手」にかかっている。

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