理系人材の育成・支援を通じて日本の科学技術の進展を支える  市村清新技術財団の挑戦 公益財団法人 市村清新技術財団 会長 中村 高 氏理系人材の育成・支援を通じて日本の科学技術の進展を支える  市村清新技術財団の挑戦 公益財団法人 市村清新技術財団 会長 中村 高 氏

半世紀にわたって科学人材の育成・支援に努めてきた「市村清新技術財団」。8月には、その思いを次世代へつなぐ「市村賞受賞記念フォーラム」を開催。助成と顕彰、2つの軸で科学技術の発展を支える、同財団の取り組みに迫る。

子どもたちの創造性を育む2つの次世代育成事業

 少子化とグローバル化が進む今、日本の科学技術の発展を支える人材不足が深刻化している。そうしたなか、早くから次世代の育成・支援に努めてきたのが、市村清新技術財団だ。

 同財団は、リコー三愛グループ創業者・市村清氏の遺志を受け継ぎ、1968年に創設された。70年には、小中学生を対象とした「市村アイデア賞」を設立し、半世紀以上にわたる少年少女創造性育成事業をスタートしている。

「新しい技術開発は、アイデアから始まります。そのため、市村アイデア賞は技術ではなく、発想を評価するのが特長です。現在では、小学生を中心に毎年3万件以上の応募をいただいています」と、財団会長の中村高氏は語る。その多くは、お母さんの困りごとを解決したいといった、身近な問題意識から生まれた作品だという。

 加えて99年からは、「キッズ・フロンティア・ワークショップ」も開催。子どもたちがFAXやカラーコピー機を分解し、その仕組みや構造を楽しく学ぶ実践型のイベントだ。

「分解した部品は、記念として持ち帰っていただきます。普段は見ることのできない工業製品の中身に触れることで、科学技術に対する興味や理解、創造力を育むのが目的です」(中村氏)

 小中学生各32名を招待するワークショップは、春・冬に1日をかけて行われ、冬は全国の地方を回るという。また、毎年11月に実施される市村アイデア賞受賞式では、半日コースとして科学ショーを開催。毎回約150名の受賞者や保護者が参加し、子どもたちの探究心を刺激する場となっている。

理系人材育成・支援の取り組み①【キッズ・フロンティア・ワークショップ】理系人材育成・支援の取り組み①【キッズ・フロンティア・ワークショップ】
小中学生を対象とした実践型イベント。複写機の分解体験などを通じて、カラーコピーの仕組みを学ぶ1日コース(冬・春)と、科学ショーを楽しむ半日コースを毎年開催。

若手人材の支援を通じて科学技術の進展を目指す

 市村清新技術財団の支援は、未来の研究者、技術者育成にも広がる。

 財団では、日本の科学技術や産業の発展に貢献した個人・団体を表彰する「市村賞」を、設立以来毎年発表。こうした形で「成果」をたたえる一方で、そのプロセスにも支援を惜しまない。

理系人材育成・支援の取り組み②【第57回 市村賞贈呈式】理系人材育成・支援の取り組み②【第57回 市村賞贈呈式】
科学技術の発展に寄与した個人・団体を称える「市村賞贈呈式」。「市村産業賞」「市村学術賞」「市村地球環境産業賞」「市村地球環境学術賞」の4部門がある。第57回は「本賞」が2件選定され、注目を集めた。市村産業賞 本賞を受賞した東レ(写真左)と、市村学術賞を受賞した東京大学特任教授の荒川泰彦氏と令夫人(写真右)。

 「技術開発は、試行錯誤の連続です。すべてが成功するわけではないし、研究には資金も必要です。これを支援するために、財団ではさまざまな助成事業を行っています」(中村氏)

 なかでも、若手研究者の支援につながるのが、「地球環境研究助成」と「植物研究助成」だ。

 地球環境研究助成は、財団50周年の記念事業として18年に創設。省エネ、再エネ、蓄エネから、インフラシステム、社会科学分野まで幅広い研究テーマに助成を行い、イノベーションの創造・発展に寄与している。

 また、92年より続く植物研究助成は、植物の生態・環境およびその計測技術、保全・再生・省資源の研究に対し助成するもの。研究フィールドとして、熱海にある財団の植物研究園の施設の提供も行っているという。

 「植物研究を対象とした助成は少ないため、全国の大学や研究機関から注目されています。手の届きにくい分野にもあまねく支援を広げることが、日本の科学技術全体の底上げにつながると考えています」(中村氏)

 この考えは、まさに創業者の理念に則ったものだ。市村清氏は、「科学技術の発展こそが、国の経済発展、国民の生活向上のカギとなる」と確信していた。だからこそ、生前最後の事業として、市村清新技術財団を遺したのだ。「市村自身も、既存の成功事例より、新しい技術や価値を生み出す挑戦を大事にしていました。その思いが、今の財団を形作っているのです」(中村氏)

研究者たちが集う科学の祭典「市村賞受賞記念フォーラム」

 こうした財団の理念と成果を社会と共有する場が、「市村賞受賞記念フォーラム」だ。18年の初開催から第7回となる今年は、昨年に引き続き、明治記念館で実施される。

 「第5回までは地方で開催していましたが、学生やビジネスパーソンをはじめより多くの方々にご参加いただけるよう、舞台を東京に移しました」(中村氏)。開催地だけでなく、プログラムも誰もが楽しめる内容に一新。昨年のフォーラムでは、中高生や大学生・大学院生の参加も目立ち、幅広い世代の交流の場となったようだ。

理系人材育成・支援の取り組み③【市村賞受賞記念フォーラム2024】理系人材育成・支援の取り組み③【市村賞受賞記念フォーラム2024】
受賞者による講演やパネルディスカッションにより、科学技術の魅力と社会への貢献を広く伝えるイベント。明治記念館で開催した24年は、学生の参加者も多く、未来の理系人材との出会いの場となった。

 今年の目玉となる基調講演には、組み込みシステム向けOS「TRON」の開発で知られる坂村健氏が登壇。かつて同研究で市村賞を受賞した科学技術界のレジェンドだ。また、サイエンスライターの竹内薫氏と、本年の市村賞受賞者たちによるパネルディスカッションも予定されている。

  「受賞者には、研究の原点や苦労についてもお話しいただきます。学生や若手研究者の皆さんにとっては、先輩たちの本音が聞ける貴重な機会。ぜひ目指すロールモデルを見つけ、ご自身の成長につなげていただきたいと思います」(中村氏)

 市村賞には、「市村産業賞」「市村学術賞」「市村地球環境産業賞」「市村地球環境学術賞」の4部門があり、それぞれに「本賞」「功績賞」「貢献賞」(*)を設定。例年は滅多に出ない「本賞」受賞者が、今年は2人も登場するという。その点でも注目度の高い本フォーラムは、日本の科学技術の未来を展望する好機となるに違いない。。

(*)「市村地球環境産業賞」「市村地球環境学術賞」は、本賞ではなく特別賞を設定。

Information

「市村賞受賞記念フォーラム2025」

市村賞受賞者や著名研究者が一堂に会する「市村賞受賞記念フォーラム2025」。TRONで知られる坂村健・東京大学名誉教授の講演や、受賞者によるパネルディスカッションを通じて、日本の科学技術の“今”を浮き彫りにする。未来のビジネスヒントを見つけたい方は、ぜひご参加を!

2025年8月29日(金)明治記念館で開催!

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