「日本ならではの美しい風景、食、文化に触れる船旅をお届けしたい」

新時代のクルーズ事業はいかにして創られたのか

商船三井グループでクルーズ船事業を担う商船三井クルーズは、2024年12月、日本ならではのホスピタリティで乗客に特別な体験を提供するラグジュアリークラスのクルーズ船「MITSUI OCEAN FUJI(以下、三井オーシャンフジ)」を就航させた。就航までのプロジェクトをパートナーとして並走したのが、シグマクシスだ。同プロジェクトはどのように進んだのか。キーパーソンの2人に聞いた。

1990年以来。
新クルーズ船就航に挑戦する新たなプロジェクト

2023年10月に新ブランド「MITSUI OCEAN CRUISES」を立ち上げ、2024年12月に新クルーズ船「三井オーシャンフジ」を運航開始した商船三井クルーズ。同社が新クルーズ船を投入するのは、既存の3代目「にっぽん丸」が就航した1990年以来、約35年ぶりの挑戦であった。

三井オーシャンフジ

新クルーズ船「三井オーシャンフジ」

この就航プロジェクトの責任者を務めた商船三井クルーズ 取締役 執行役員の山下晶一朗氏は、新クルーズ船の就航に踏み出した背景をこのように説明する。

「世界的に見るとクルーズ事業は成長市場です。日本でも当社のようなクルーズ会社のほか、海外船社のクルーズ船が就航しており、徐々に需要の喚起自体は進んでいます。日本の人口に対するクルーズ経験者の比率は、欧米に比べるとまだ低い状況ですが、この先日本でのニーズは伸びるとみています」(山下氏)

山下氏
商船三井クルーズ
取締役 執行役員
山下 晶一朗

限られた期間での就航実現に向け、
重視したのは機動力の高い推進体制

「三井オーシャンフジ」の就航プロジェクトを支援したのが、企業のトランスフォーメーションを支援するコンサルティングファーム、シグマクシスだ。山下氏によると、3代目「にっぽん丸」就航当時を知る社員も少なくなっている中、海外からの知見や社外のプロフェッショナルを活用し、機動力の高い推進体制を整備することをまず重視したという。

「シグマクシス様には、これまでも商船三井グループ内の基幹システム刷新や海運事業の業務変革などを支援していただいた経緯があり、多方面から信頼できるパートナーとの評判を聞いていたことから相談させていただきました」(山下氏)

シグマクシス側の責任者としてプロジェクト全体を統括した渡邊綾由子氏は、参画時をこう振り返る。

「長年、海運やロジスティクスの案件に携わってきましたが、クルーズ事業は初めての世界でした。ですが、商船三井グループ様が新たなクルーズ事業に挑戦されると伺ったとき、その壮大さに心を奪われました。そして、35年ぶりに就航する新たな船が、大海原を優雅に航行する姿を思い描き、胸が高鳴ったことを今でも鮮明に覚えています」(渡邊氏)

渡邊氏
シグマクシス
ディレクター
渡邊 綾由子

多国籍メンバーで議論を重ね、
意思決定の速度を上げて気持ちをひとつに

就航に向けて、乗り越えるべき課題は山積していた。船上クルーの確保と育成、提供するサービスの設計、船上システムの構築など、複数のテーマを並行して進める必要があった。そこで、テーマごとにプロジェクトを立ち上げ、それらを同時に推進するというマネジメント体制が敷かれた。複雑に絡み合う要素を調整しながら進めるこのプロジェクトは、シグマクシスにとっても、まさに試練の連続だったと渡邊氏は振り返る。

「常に心がけたのは、現在地を正解だと決めつけず、柔軟に見直しを繰り返すことでした。各プロジェクトにはマイルストーンを設定しながらも、アプローチの妥当性を徹底的にモニタリングしました。そして、ゴールを見据え、今この瞬間に何を最優先とすべきかを見極めながら、幾度となくトレードオフ判断を繰り返しました」(渡邊氏)

さらにクルーズ船1隻の運営には、船上クルーが約300~400人、陸上の社員が約60~70人という規模感の人材が必要になる。船隊を1隻から2隻へ倍増させることに応じて要員規模を倍増させるハードルの高さは予想以上だった、と話すのは山下氏だ。

「単に人数をそろえるだけではなく、プロジェクトに関わる全員の気持ちが同じ方向を向くことも重要です。過去の業務経験も、所属してきた組織文化も異なる多国籍のメンバーでオープンな議論を重ね、大小様々な課題に対して意思決定のスピードを上げていきました。現業の運営もある中、社員たちの負荷が高まりましたが、『新時代のクルーズ船の価値をお客様に届けたい』という一心で、全員で歯を食いしばって走りました。

物事が予定通りに進まないこともありましたが、根気強く冷静にプロジェクトの進捗を管理し、時には軌道修正をしてくれるシグマクシス様の存在は大きかったと思います」(山下氏)

船上イメージ

そんな山下氏の言葉を受け、難度の高いプロジェクトこそ、一枚岩のチームになることを大事にしている、と渡邊氏は言う。

「私たちを信頼し、社内の一員のように迎え入れてくださったことで、情報共有は驚くほどスムーズでした。『お客様と共に未来を描き、それを形にしていく』という価値共創への挑戦こそが、私たちコンサルタントの情熱の源でした」(渡邊氏)

事業規模は倍増
業務の激変の中で生まれた社員の変化

こうしてデビューを果たした、「三井オーシャンフジ」。このプロジェクトを通して商船三井クルーズが得た果実は、就航だけにとどまらなかったという。

「事業規模が倍になり、海外からの役員を迎えたことで社内コミュニケーションも日英併用になり、当社の業務プロセスは激変しました。しかし、新たな業務プロセスを定義するという取り組みを通じて、経験や勘に基づく意思決定から、事実と論理に基づく意思決定へと、社員の思考回路や社内のコミュニケーション方法が進化しつつあります。社員にはまだ戸惑いもあると思いますが、皆前向きで、何より一人ひとりの成長を感じられています」(山下氏)

クルーズ事業はクルーズ船が就航して終わりではない。船上サービスのブラッシュアップや新しい航路の開拓といった今後の取り組みも控えている。また、3月5日には、「三井オーシャンフジ」の同型である姉妹船を2026年に運航開始することが発表された。また超えるべき山を迎えたわけだが、山下氏の表情は明るい。

「これから、我々のサービスの進化を加速させ、クルーズ船での特別な体験をより多くの皆様にお届けできることが、とても楽しみです。私たちのクルーズ船は、狭水道を航行可能で、大小さまざまな港に寄港ができるサイズのため、日本ならではの美しい風景、食、文化に触れる船旅をご提供できます。また、船内でも世界に誇れる日本らしい細やかな気遣いに基づくおもてなしでお客様をお迎えします。こうした豊かな体験を提供するサービスに育てていくことこそが、私たちの使命だと確信できたのも、このプロジェクトの価値の一つだったと思います」(山下氏)

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