先行者たちが語る「SaaS型ERP×AI」 次世代経営へ導く“クリーンコア戦略”とは

SaaS型ERPの活用による自社の業務、データ、システムの標準化が、経営やビジネスのあり方を抜本的に変えるアプローチとして注目されている。とくにSAPジャパンが提供する「S/4HANA® Cloud Public Edition」は、標準機能をできるだけカスタマイズせずに活用する「クリーンコア」を保つことで、約半年おきに追加される新機能がスムーズにアップデートされ、継続的な生産性向上が期待できることから、次世代のデジタル基盤として選択する企業が増えている。近年では、標準化された環境だからこそ蓄積できるクリーンデータの活用にも期待が高まっている。
この潮流に先駆けてクリーンコアを実践したNTTアドバンステクノロジ(以下、NTT-AT)とSOLIZE Holdings(以下、SOLIZE)、そして両社を支援したシグマクシスに、その意義を聞いた。

法改正へのシステム対応は不要。
コスト削減に加え業務の品質向上を実現

AIや純国産RPA(WinActor)などの多彩なビジネスソリューションを提供するNTT-ATは、20年以上に渡りオンプレミス環境でSAPのERPを運用してきた。

「安定的に運用していたものの、年月を経る中で部門や担当者ごとの業務に合わせて約800ものアドオン(機能追加)が施され、業務プロセスもつぎはぎ状態。今後の成長に向けて、システムも業務も標準化を進めるという経営判断の下、2018年にFit to StandardによるSaaS型ERPの導入に挑みました」そう振り返るのは、NTT-ATでSaaSの活用による社内DXの推進と顧客のDX支援をけん引する都筑 純氏だ。

都筑氏
NTTアドバンステクノロジ
アプリケーション・ビジネス本部
AIXソリューションビジネス部門
AI&DXコアデザイン担当
統括マネージャ
都筑 純

わずか6カ月での導入を成功させ、2019年から新環境を稼働させたNTT-AT。その後、どのような具体的なメリットを享受してきたのだろうか。

「2021年4月に適用された新たな収益認識基準への対応では、従来であれば新制度へのシステム対応に多大な時間とコストが必要だったはずです。しかし、当社は自社固有の作りこみを行わずクリーンコアを保っていたため、SaaS型ERPに追加された新機能をすぐに使うことができました。

おかげで会計・財務チームは『どう機能を運用するか』『運用上の注意点は何か』といった本質的な議論に集中することができ、数千万円単位のコスト削減に加え、社員の視座も確実に高まりました。SaaS型ERPの利点を、現場レベルでまず、実感しています」(都筑氏)

プロジェクト概要

プロジェクト概要
NTT-ATは20年以上にわたり、オンプレミス運用でSAP ERPを運用してきたが、部門・担当者ごとの業務に合わせて独自のカスタマイズを重ねた結果、アドオンは約800機能にも及んでいた。経営層の判断により「業務をシステムに合わせる」方向へかじを切り、2018年に「SAP S/4HANA® Cloud Public Edition」を導入した

この先進的な取り組みを支援したのが、シグマクシスのディレクター、安東太輔氏だ。

「2018年当時、クラウドERPの導入を本気で検討する企業はほとんどありませんでした。そうした中で、NTT-AT様は私たちの話に真剣に耳を傾け、SaaS型ERPがもたらす本質的な価値をいち早く理解されていました。

“何が変わるのか”への理解と、早期に意思決定を行うスピードがあったからこそ、その成果を誰よりも早く手にされたのだと思います」(安東氏)

Fit to Standardにより業務の属人化を解消、
人員再配置が可能になり業務を効率化

テクノロジーを活用した製造業のデジタル化支援を手掛けるSOLIZEは、2021年1月に国内グループ3社を経営統合。これを機にグループ全体での業務の進め方を統一すべく、「SAP S/4HANA® Cloud Public Edition」の導入を決定した。

「3社を統合してスケールメリットを生み出すため、システムと業務の統合が必要でした。しかし教科書通りの統合ではすぐに元に戻る恐れがあり、ならばFit to Standardによって戻ることのできない構造にしようと考えたのです」。こう語るのは、SOLIZE Holdings 上席執行役員の堤 寛朗氏だ。

堤氏
SOLIZE Holdings
上席執行役員
SOLIZE Ureka Technology
代表取締役社長
堤 寛朗

堤氏は、自らが描いた構想が現実の成果に結びついていることを、年々実感しているという。

「標準化された業務環境により属人的な作業が排除され、人材の最適配置が可能になりました。導入以降、当社の売り上げは1.6倍となりましたが、業務の効率化がこの成長を支えています。

さらに、2025年7月の持株会社体制への移行においても、標準化されたプロセスを“コピー&ペースト”のように横展開することができ、わずか4カ月で対応が実現しました。業務改革の土台が整っていたからこそのスムーズな移行だったと感じています」(堤氏)

SDX(SOLIZE DX)活動のグランドデザイン(2020年策定)

SDX(SOLIZE DX)活動のグランドデザイン(2020年策定)
SOLIZEは、国内3社の統合を機に、2020年に全社横断のDX推進プロジェクト、「SDX(SOLIZE DXプロジェクト)」を始動。基盤構築の中核として同年に「SAP S/4HANA® Cloud Public Edition」を導入し、今後はその基盤を活用したAX(AIトランスフォーメーション)の本格展開を見据えている

導入プロジェクトを堤氏と共に推進した安東氏は、当時を振り返りながらこう語る。

「堤様は上席執行役員としてプロジェクトをリードし、スピーディーかつ的確な判断を一貫して行っていらっしゃいました。そのリーダーシップが、短期間での導入を可能にした最大の要因の一つです。

また、単にデジタル基盤を整えるだけでなく、その先にある組織の進化まで見据えていた点も印象的でした。経営陣自らが社員の視座を引き上げたことが、現在のSOLIZE様を支える“人財力”につながっていると強く感じています」(安東氏)

業務とシステムの標準化は経営の高度化への第一歩
「クリーンコア」を保ち続ければ、AI活用の精度も上がる

NTT-ATとSOLIZEは、業務とシステムの標準化を進めてからわずか数年で、着実な成果を得た。今、両社が次に見据えるのは、クリーンなデータ基盤を活用したAI時代の経営革新だ。

SOLIZEは、ERP環境に蓄積された膨大な財務データ、業務データを使った、AX(AIトランスフォーメーション)の本格展開を構想している。

「本稼働から4年がたち、相当な量のデータが蓄積されています。しかも、データの整理やクレンジングをせずとも、すぐAIに読み込ませることができる。これは、クリーンコアを保ち続けてきた成果です。経営におけるAI活用が喫緊の課題となるなかで、当社にはすでにその土台が整っている。これまで困難を乗り越えてきた社員と共に、データを力に変え、企業として次のステージへ進んでいきたいと考えています」(堤氏)

一方、NTT-ATでも、導入当初から周辺システムの見直しを重ね、クリーンコア環境の維持に努めてきた。結果として、機械学習による業績予測の精度はすでに実証されつつある。

「クリーンなデータをそのまま機械学習にかけて全社の売り上げ予測を試したところ、まだ課題があるものの実績との乖離は数パーセント程度。従来は、各部門から上がる数字を経営企画部門が“調整”するのが常でしたが、今ではその手間が省け、意思決定のスピードも精度も格段に上がりました。私たちは今、AI活用を通じて経営そのものの質を高めるフェーズに入っています」(都筑氏)

こうした両社の取り組みを支え続けてきた安東氏は、Fit to Standardによる標準化が経営の高度化に直結することを、目の当たりにしたと語る。

「NTT-AT様もSOLIZE様も、数年前からFit to Standardをベースにした業務改革に踏み出されました。その結果、システム・業務・データの標準化という3つの要素が整い、AI活用を含む経営の進化が加速していると感じています。これからは『経験と勘』ではなく、“データと科学”に基づく経営が問われます。意思決定と実行のスピードを最大化するために、私たちはSaaS型ERP導入とAI活用の両面から企業の変革を支援していきます」(安東氏)

安東氏
シグマクシス
ディレクター
安東 太輔

都筑氏、堤氏、安東氏は、Fit to Standardを軸にした情報発信を継続してきた。それは単なるノウハウの共有ではなく、「日本企業の変革は、まず足元の基盤づくりから始まる」という共通の確信に裏打ちされたものだ。

業務、システム、そしてデータ――三位一体の標準化を実現した先行者たちの挑戦は、AI時代の経営に向けて、これからも進化を続けていく。

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