関西エリアを中心に幅広い事業を展開するエイチ・ツー・オー リテイリング(以下、H2Oリテイリング)は、2020年に策定したグループビジョン「『楽しい』『うれしい』『おいしい』の価値創造を通じ、お客さまの心を豊かにする暮らしの元気パートナー」の下、その実現に向けた「コミュニケーションリテイラー構想」を打ち出し具体的な施策を推進している。
同社で中長期経営戦略を担う経営企画グループの俵健二氏は、その背景をこう語る。
「小売業は大きな変革期にあります。国内では人口減少や高齢化が進み、同時に人々の暮らしに対する価値観や消費行動も大きく変化しており、生活者の一番身近なところで暮らしの豊かさを提供する小売業は、最も直接的に影響を受ける業態とも言えます。とくに関西エリアは他エリアと比べて人口減少・高齢化などの変化が顕著です。グループの持続的成長に向けて、単にモノを販売するだけではなく、リアル店舗とデジタル技術を融合したダイレクトなコミュニケーションを通じてお客様と継続的で深い関係性を構築し、様々な角度から暮らしのお役に立つ存在を目指しています。お客様の一生涯でどれだけの価値をご提供できるか、つまりLife Time Value(LTV)の視点に立った事業像が、コミュニケーションリテイラー構想なのです」(俵氏)
俵氏はこの構想を「店舗基点から顧客基点への転換」とも表現する。百貨店や食品スーパーをはじめとする多頻度・多様な接点から得られる顧客データを統合することで顧客理解を深め、顧客一人ひとりにより質の高いパーソナルな商品・サービスを提供することを目指している。
こうしたH2Oリテイリングの取り組みを伴走支援しているのが、コンサルティングファームのシグマクシスだ。小売業をはじめ、多様な業界への支援経験を豊富に持つ同社プリンシパルの木村友哉氏は、コミュニケーションリテイラー構想をこう評価する。
「私は約4年にわたり、H2Oリテイリング様の経営企画グループを中心とした取り組みを支援してきました。同社では、お客様お一人おひとりを大切にする姿勢が全社で徹底されており、それは大きな強みです。コミュニケーションリテイラーという言葉にも、この姿勢が表現されています
そして今後10年で、地域密着型の小売りは『店舗』という存在を超えて、生活者の日常をどれだけ設計できるかが問われるでしょう。H2Oリテイリング様の新たな構想は、その未来像を先取りしていると思います」(木村氏)
木村氏は、「地域密着型の企業がより顧客志向へと変革していくには、まず地域全体の特性や住民の傾向を定量的に分析する必要があると考えました」と話す。そこから新たな顧客接点や事業機会を探索し、事業の未来に向けた影響を示すことを目指し、両社は共同で関西エリア2府4県198都市のプロファイリングに取り組んだ。加えて関西エリアの未来を予測分析し、小売業を待ち受ける課題とその対応について考察・提言したのが、2025年1月に発表したホワイトペーパー「関西の未来と小売りの向き合い方 10年後の生活者の変化を見据えて」だ。
このホワイトペーパーは、関西エリアにおける社会変化を踏まえ、10年後の生活者像を描き出したものだ。また、小売業が直面する課題として「経済圏の縮小」「生活者の価値観変化の捕捉」「社会的意義と収益性の両立」の3点を提示している。
基となったのは、顧客戦略策定に向けた約8カ月にわたる調査だ。俵氏の前任者と木村氏が中心となり、H2Oリテイリング社内の多様な部門を巻き込んで進めた。
「人口の推移や世帯構成、収入や消費に関するデータなど、公表統計を集めました。関西エリアを15の都市型に区分して分析し、推計値を基に10年後の生活者の姿を探りました。人口減少や高齢化はネガティブに語られがちですが、予測を立てることで顕在/潜在的なニーズの変化に応じた事業への革新を生み出せます。先入観にとらわれず、数値に基づいた客観的な分析にこだわりました」(木村氏)
データに基づく客観性を担保できたことは、H2Oリテイリングにとっても大きな収穫だった。
「当社でも、中長期的な事業戦略や施策展開を検討する際、当然地域ごとの特徴や消費傾向を分析してきました。しかしイメージ先行になりがちだったため、根拠となる定量データの必要性を感じていました。関西の未来がデータで示されたことで、グループの成長のためには地域の持続可能性が不可欠だという認識が、実感を伴いより確かなものになりました。ただし、そこで見えた地域社会の課題に取り組むには、当社だけではなく自治体や様々な企業、教育機関、そして地域の方々との連携が欠かせません。だからこそホワイトペーパーとして公開し、共感いただける仲間を増やしたいと考えました」(俵氏)
H2Oリテイリングは、時代の潮流を見据えて店舗基点から顧客基点へとシフトしている。持続的な成長に向けて既存の事業領域にとらわれず生活者とのつながりを深め、共感・信頼・愛着による「マインドシェア」を高めると同時に、地域ニーズの掘り起こしによる「マーケットシェア」の拡大を目指す。
取り組みの一つが、生活者の健康習慣を応援する新サービス「まち健」だ。日常生活の中に“健康”を自然に取り入れ、予防や気づきを通じて病気を未然に防ぐためのきっかけを提供することを目的に、2025年5月に実証実験をスタートした。
スーパーやショッピングセンターなどの生活動線上で手軽に健康チェックや無料相談を受けられるイベントを兵庫県川西市と連携して実施。会場では従業員が親身になって生活者と話す姿が見られ、5日間で1000人を超える参加に加え、自治体が課題とする特定健診やがん検診の予約につながるなど手応えもあったという。2025年度内のアプリ導入を目指すなど、リアル店舗とデジタル活用の組み合わせでニーズの掘り起こしと地域貢献の可能性を探索している。
こうした取り組みを支えるのは、2万4000人の従業員だと俵氏は語る。
「関西の人口を約2000万人とすると、約800人に1人がグループの従業員です。土地勘やおせっかいな関西人気質を持ち、生活者にとって“知り合いの知り合い”くらいの親近感があると同時に、その多くは自らが地域の生活者でもあります。一人ひとりが日々お客様と対話を重ねることで新しいニーズに出会う機会が生まれ、質・量ともに豊かなコミュニケーションの積み重ねがファンづくりにつながり、マインドシェアとマーケットシェアの向上が実現できます」(俵氏)
「未来を見据えた活動の中で、マインドシェアという考え方はキーとなります。データ活用も現場の力と結びつけることで、より実装力が増しますね。必ず変革を実現できると期待しています」(木村氏)
また両氏は、マインドシェア拡大の延長線上に「人や地域の絆を深め、その暮らしを豊かに元気にする明るい未来を築く」姿を見据える。
「多様な顧客接点、地域の方々からの信頼や愛着、お客様と対話できる従業員という、小売りで培ったグループの強みを活かし、社会的なつながりやコミュニティの形成の場としてお役に立てる可能性を感じています。人や地域の絆は、地域の魅力である生活文化や慣習とつながっており、その暮らしを豊かに元気にすることは、当社の事業成長にもつながると考えています」(俵氏)
「地域と企業の成長は表裏一体です。共に成長していくことに真剣に取り組むH2Oリテイリング様の底力が問われるチャレンジに、今後も伴走していきます」(木村氏)
小売業の枠を超え、地域と共に未来を築く──。H2Oリテイリングとシグマクシスが歩む道は、変化の時代に求められる新たな企業の姿を示している。
