2世紀を超えて成長を続けるミツカングループ。従来の統制型から、自ら考え行動する「自考自動」型へと組織変革を進める。ミッション「やがて、いのちに変わるもの。」実現に向け、ビジネスのスピードを上げるためだ。変革に向け、長年培った企業文化はブレーキではなく、羅針盤の役割を果たした。人事本部総務部部長の中村秀樹氏と、人的資本経営や労働基準法、働き方のIT戦略に造詣の深い、産学連携シンクタンクiU組織研究機構で代表理事を務める社労士の松井勇策氏が対談。労基法大改正の先行モデルと位置付けられる、ミツカングループの取り組みに迫る。
管理統制型から、自ら考え行動する
「自考自動」型組織へ変革
―1804年創業、220年以上の歴史を持つミツカングループが新しい働き方に取り組む理由は。
Mizkan J plus Holdings
人事本部 総務部
部長
中村 秀樹氏
中村 2024年は、ミツカングループにとってターニングポイントとなりました。中埜裕子が社長に就任した最初の中期経営計画(2024~2028年度)で、ミッション「やがて、いのちに変わるもの。」を掲げ、その道筋となるビジョン「未来ビジョン宣言2024」、さらにビジョンを目指す上で大切にしたい行動として、バリュー「ともに」を掲げました。
Mizkan J plus Holdings
人事本部 総務部
部長
中村 秀樹氏
企業を取り巻く環境が激しく変化し、先行きを見通しづらい中、グループの持つ価値観、ゴールを、よりシンプルに明示したものです。社内とともに社外に向けてのメッセージでもあります。ビジョン実現に向けて中期経営計画では、「成長」「技術」「サステナビリティ」「人・組織」、これら4つの戦略を進めています。「人・組織」戦略の要となるのが、「自考自動(自ら考えて行動する)・挑戦・多様性」です。
iU組織研究機構 代表理事
社労士
松井 勇策氏
松井 私は、企業における人的資本経営推進を、活動テーマの1つとしています。「経営戦略を実現するための働き方改革」という視点は、とても重要です。ビジョンを実現する「人・組織」戦略は、従来と考え方が大きく異なるものなのですか?
iU組織研究機構 代表理事
社労士
松井 勇策氏
中村 従業員数も人の入れ替えも多い生産物流現場では、労働安全のルールを遵守しながら計画した数量を時間内に生産しなければなりませんし、営業部門では方針に沿った営業活動が求められます。バックオフィス部門は細かいミスも見逃さないといった組織風土があって、規律と統制を重視する会社となっていました。
しかし変化の激しい時代を勝ち抜くためには、管理統制型から柔軟で効率的な業務遂行ができ、新たな価値創造につなげる「自考自動型」への組織変革が求められます。「環境変化に対応して生活者に価値をお届けできるよう、より現場に近いところで意思決定する」という中埜裕子の強い思いがあったと認識しています。
松井 長い歴史の中で培われた企業文化を変えるのは、容易ではないと思います。ミツカングループが変革に舵を切ることができた理由はどこにあると思われますか。
中村 ミツカングループの歴史は、変革と挑戦の積み重ねです。初代中野又左衛門がお酒づくりから生じた酒粕を原料に、発酵技術を活かしお酢をつくったのが挑戦の始まりでした。以来、納豆事業、新主食ZENB(ゼンブ)など挑戦のDNAは脈々と受け継がれています。
ミッション、ビジョン、バリューは、ミツカンが最も大切にしている「2つの原点」の上に成り立っています。1つ目が、「買う身になってまごころこめてよい品を」。2つ目が、「脚下照顧に基づく現状否認の実行」。自分の足元を客観的に眺め、成功体験に満足することなく自己改革を進めていく。まさに、「自考自動」につながるものです。
ミツカングループは、企業理念である「2つの原点」を大切に、ミッション、ビジョン、バリューを設定。それに基づき人事制度改革を進めている
松井 「自考自動」は中期経営計画で策定されたものではなく、企業文化の根底にある考え方をアップデートしたということですね。
中村 「自考自動・挑戦・多様性」を大切にする組織風土づくりは、社員のやりがいや成長を原動力にして会社も成長していくという方針を示しています。それに向かって人事制度改革を実施しています。
ミツカングループの人事制度改革を
支えるプラットフォーム
―ミツカングループにおける人事制度改革のポイントについて。
中村 社員に影響の大きい人事施策は、テレワークの回数と場所の制限をなくしたことです。また、勤務時間の間で最低3時間/1日を個人の裁量で働けるスーパーフレックス制度を導入しました。
働く自由度が増すのに伴い、管理職も社員の労働時間の把握が難しくなります。社外で見えない、従業員の働き方を可視化するために、勤怠管理プラットフォームとしてクラウドサービス「TeamSpirit」を利用しています。サービスを介して従業員が働いた時間や休憩時間を自己申請した内容と、PCのオン/オフのデータを比較し、テレワークにおける労働時間を管理しています。
松井 自由に働くテレワークは、労働品質の低下を招く懸念もあります。さぼる行為は起こり得ることです。PCのオン/オフでは分からない領域に関して、どのように判断をされているのでしょうか。
中村 テレワークに関して、社員と管理職にアンケートを実施しました。その結果、テレワークの回数フリー化以前と比べて、双方とも生産性の低下はないと認識していることが分かりました。私個人の考えですが、「テレワークでさぼる人は、オフィスでもさぼっている」と思います。
松井 個人の裁量で働けるからこそ、社員は自己管理(セルフマルネジメント)がより求められますね。
中村 残業時間、有給取得、勤務間インターバルの状況、連続勤務などを、「TeamSpirit」のダッシュボードを活用して社員本人が自己管理できます。上司も部下の状況が一目瞭然です。また、福利厚生制度を見直す中で、従来積立有給は病気、育児、介護に限定していたのですが、条件をなくしました。積立有給の日数管理もダッシュボードでできます。
「TeamSpirit」のダッシュボードを活用して働き方・休暇等を可視化し、社員は働き方を自己管理。「自考自動」の環境づくりを、ITが支援している
松井 営業やバックオフィスと、生産・物流現場は働き方が異なります。その点はどのように取り組まれていますか。
中村 テレワークやスーパーフレックスは、生産・物流現場を除く社員が対象です。生産・物流部門に対しては、営業部門などと同じ福利厚生が受けられるように見直しを図ったほか、職場環境の改善や、自動化など業務改革による働きやすい環境づくりにも注力しています。
生産・物流現場のパート社員や、派遣社員の労働時間に関しては従来、各人に紙で記載してもらって管理していたのですが、QRコードなどを使ってデータ化して管理する仕組みを検討中です。
松井 人事制度改革では、事業部門の特性に応じて働き方の最適化を図るという視点も大切です。またデータを活用し、人事施策に生かすことも大切です。そうした取り組みは実施されていますか。
中村 勤怠のデータを活用し、福利厚生制度で対象を拡大したプログラムの利用率や傾向を見ています。また労働時間に関しては部署ごとに集計し、長時間労働化傾向のある部署などを把握した上で経営レポートを作成しています。労働時間が月次で45時間を超える場合、事前に理由と超過時間、次月の対策を、紙に記載し管理していました。今は「TeamSpirit」の汎用申請機能を使って上司が入力し、労務課長が理由と対策を確認して適時アドバイスをすることができるようになりました。
松井 労働時間だけでなく、働く「質」も見えるということですね。集約したデータを戦略的に活用できるという点も、「TeamSpirit」の特色の1つだと思います。私が「TeamSpirit」に注目した理由は、単なる勤怠管理ではなく、まさにチーム共通のSaaSプラットフォームとして個人や企業の成長に役立つという点です。
ミツカングループの人事制度改革は
労基法大改正を先取りした先行モデル
―2027年に予定されている労働基準法大改正の本質について。
松井 法改正は規制強化と捉えられがちですが、今回の労基法大改正の本質は、企業の競争力を高めるために戦略的な働き方を実現することにあります。労基法大改正に向けた検討過程で論点は明確になってきています。私は次の4つのポイントがあると考えています。
1.多様な働き方の推進
2.労働時間法制の見直し
3.労使コミュニケーションの深化
4.働き方のIT戦略実現
働き方から時間や場所の制約を取り払い、創出価値を高めていく。事業特性に合わせて働き方の最適化を図る。労使コミュニケーションを密にし、ITによる労働状況の把握を進め、データを活用し戦略の基盤とする。人的資本経営の視点で経営戦略と人材戦略をつなぐ。ミツカングループの人・組織戦略は、労基法大改正を先取りした先行モデルと捉えることができると思います。
2年以上の検討過程を経て労基法大改正の論点が明確になってきた。ポイントは4つある
出所:「iU組織研究機構 労基法大改正戦略レポート」より
中村 松井さんが指摘した労基法大改正4つのポイントは、意図したわけではないのですが、ミツカングループの人・組織戦略においても重要な柱となっています。取り組んだ経験から、変革にはそれを支える新しい働き方が必要になると感じています。また自主性を重んじる働き方は、「TeamSpirit」などといったSaaSプラットフォームで、同じデータに基づき組織的管理と自己管理を行うことが欠かせないと思います。
今後、基幹人事制度の見直しも進め、複雑な運用を整理し社員にとっても、分かりやすいものにしていきます。また、社員1人ひとりのキャリアプランと向きあい育成に力を入れていきます。
―経営戦略を実現する人事戦略で重要なポイントは。
中村 会社と社員は「管理する/管理される関係」ではなく、「自律してお互いの成長に貢献しあう関係」「お互いが選び、選ばれる関係」を目指すという基本的な考え方と、「成長の機会を提供し、仕事を任せる」「働き方の柔軟性を高める」など、会社が取り組むことを社員へ示した上で、2つの原点を忘れずに人事施策を再構築してきました。
松井 ミツカングループの人・組織戦略の中核となる「自考自動」は、220年を超える歴史の中から生まれてきたということに感銘を受けました。人事戦略を見直す場合、企業の根幹に流れるポリシーや考え方を大切に、今後どのような企業になっていくのか。そのような観点から働き方を捉えていくことが重要であると再認識しました。
人的資本経営は、働き方に落とし込むことで価値を創造できます。チームスピリットは、経営戦略と人事戦略をつなぐツールとして役立つと考えています。ポイントは、いかにデータに基づくか。ミツカングループの取り組みが、それを実証済みです。企業と働く人の成長が一致することが、持続的成長の原動力となります。
