丸亀製麺のトリドールホールディングスは「心的資本経営」で幸福と感動のうねりを起こす 丸亀製麺のトリドールホールディングスは「心的資本経営」で幸福と感動のうねりを起こす

粟田貴也

トリドールホールディングス
代表取締役社長 兼 CEO

1961年生まれ。神戸市外国語大学中退。85年、兵庫県加古川市に「焼鳥トリドール 3番館」を創業。90年に有限会社トリドールコーポレーション設立。2000年に丸亀製麺の国内1号店を出店。年々ファンを増やし、11年には丸亀製麺の海外1号店をハワイ・ワイキキに出店。06年東証マザーズ上場、08年東証一部上場、16年株式会社トリドールホールディングスへ商号変更。「食の感動で、この星を満たせ。」をスローガンに掲げ、唯一無二の日本発グローバルフードカンパニーを目指している。

グループとして丸亀製麺やコナズ珈琲などを展開するトリドールホールディングスは、「心的資本経営」に本格的に乗り出す。
従業員の幸せを源泉にお客様に感動体験を提供し、それを店舗の繁盛、企業の成長へとつなげる姿勢を明確にする。
その狙いを、創業者でもある粟田貴也代表取締役社長兼CEOに聞いた。

人と人の心に着目した
「心的資本経営」とは

トリドールホールディングスは創業以来40年以上にわたり、単なる食事ではなく「感動体験」をお客様へ提供して参りました。

感動体験は例えば、丸亀製麺の各店舗では人の手で粉からうどんをつくり、大きな釜でお客様の目の前で茹で、できたてを提供するという一連を見せる(魅せる)手法によって生まれます。こうした手法は、スケールメリットを追求する一般的なチェーン店経営とは相反するものです。しかし、私たちは、目の前でうどんを打つ、茹でるというライブ感、さらにはできたてだからこその美味しさが、お客様の感動体験となり、それが再びお客様に足を運んでいただく原動力、そして、各店舗の繁盛と企業としての成長の源泉であると信じ、それを貫いてきました。

一方で、コロナ禍を経て社会情勢は激変しました。外食産業も例外ではありません。食材費や光熱費、人件費、建築費などあらゆるコストが高騰しています。生産労働人口の減少はすでに進行しており、人の確保はますます困難になるでしょう。合理性を追求するならば、AIやロボットの導入による店舗の省人化や無人化は当然の流れと言えます。

しかしそれでも私たちは、人の介在をやめません。なぜなら従業員の心のハピネスがあれば、お客様の心の感動につながると考えるからです。私たちはこの2つの心こそ資本であると定義し、「心的資本経営」と名付け、25年9月に本格的に舵を切ることを宣言しました。激変する時代に心の力を最大限に活かし、「心的資本経営」を通して、持続的な成長を追求して参ります。

2025年9月17日に行われた、トリドールホールディングス
「心的資本経営」メディア説明会の様子

従業員の幸せが
お客様の感動体験を生む

もっとも、当社にとって「心的資本経営」は、従来の経営方針から大きく逸脱するものではありません。以前から私たちは、お客様に感動体験をもたらすことのできる店舗が繁盛店になる、繁盛店が増えれば会社は成長する、つまり、感動体験なくして繁盛店はなく、繁盛店なくして成長はないと考えてきました。そして今回、お客様に感動体験を提供するための基盤はどこにあるのかという視点でこの経営思想を改めて見つめ直した結果、感動創出には、店舗で働くすべての従業員の幸福が不可欠だという結論に至りました。

では、どうしたら幸せを創り出せるのか。私は、安心感・繋がり感・貢献実感・誇りが幸せを感じるうえで不可欠な要素であると考えています。

安心感と繋がり感は、職場環境によってもたらされます。従業員同士が心を開き仲間となって支え合える関係がそうした感覚を生み出します。トリドールグループには、国内だけでも4万人以上の、介護や育児など様々なライフステージを迎え、様々な形態で働く従業員がいます。そうした個々の事情を互いに理解し合うことは、大きな安心感につながります。その安心感のもと、互いに支え合うことで繋がり感が得られます。

貢献実感とはたとえばこのようなことです。お子様がうどんの入った器を床に落としてしまい泣いている。温かいうどんをご注文後、支払いの段階になって車に財布を忘れたことに気付いたお客様が、駐車場まで財布を取りに行く。こうしたときに、「大丈夫だった?」とすぐに代わりのうどんを用意する、または、お戻りのタイミングで冷めてしまったものと温かいうどんを交換する。このような内発的動機に基づいたサービスは、従業員の心にゆとりがなければ提供できません。店舗が単なる職場ではなく、自分の居場所、職場でありながらもサードプレイスでもあると感じることができて初めて、目の前のお客様のことを考えた、マニュアルに頼らないサービスを提供でき、貢献実感を得られます。

従業員の貢献実感とお客様の感動体験は裏表です。お客様からお褒めいただき、感謝されること、また足を運んでいただけることが積み重なれば「ここで長く働きたい」「この仕事を他の人にも薦めたい」といった気持ちが生まれます。これが誇りです。幸せとは、こうした小さな体験の積み重ねです。

つまり、感動体験の前にまずは従業員の幸せがあり、その先にお客様の感動体験、繁盛店、そして会社としての成長があるのです。この循環「ハピカン繁盛サイクル」を、「心的資本経営」の中核に据えます。ハピは従業員のハピネス、カンはお客様の感動体験を意味します。このサイクルをより大きく回すことで「心的資本経営」を実現します。

心的資本経営の概念図

人、そして心にこだわることは、省人化・無人化の時代に逆張りをするようですが、しかし、AIにもロボットにも人の心の代わりはつとまりません。先行例もあります。ECサイトの台頭で苦境に陥ったアメリカの家電量販店ベストバイでは、新たにCEOに就任したユベール・ジョリー氏が、従業員一人ひとりと対話をしモチベーションとエンゲージメントを高めたことで、業績がV字回復しました。2022年発行の書籍『ハート・オブ・ビジネス』(ユベール・ジョリー他著)にも詳しい逸話ですが、この事実を知り、従業員が「お客様に喜んでいただきたい」「また選んでいただきたい」と思える環境づくりを進めることに自信を持てました。

従業員の幸福創出のため
専任のスタッフを育成

「心的資本経営」実践のため、具体的な施策も進めています。

まず、従業員は今、どれくらい幸せなのかを定量的に把握するため、25年7月に運用を開始した音声対話型AIインタビューで従業員約3万人を対象に幸福度を可視化する「ハピネススコア」と、お客様の食後の感情を可視化する「感動スコア」(24年4月運用開始)、そして各店舗の繁盛スコア(売上)をデータサイエンスで分析し解明しています。さらに12月にはAIエージェントが各店舗の状態に合わせたレコメンテーションで店舗のアクションを活性化・サポートする仕組みが開始されます。これによって、従業員の幸せが店舗の繁盛につながることを実証し、さらなる店舗ごとのアクションを進めていきます。

丸亀製麺をはじめとした各ブランドそれぞれの活動はまだ1年足らずですが、確かな変化が起きています。お客様からのお褒めの言葉が増えていますし、従業員同士で自発的に懇親会を開いたり、誕生日会をしたりするケースも増加しています。つまり、積極的なチームビルディングが行われているということです。

また、今までの店長制度に代る「ハピカンオフィサー制度」がこの12月に丸亀製麺からスタートします。従業員に幸せを実感してもらうには、リーダーが不可欠だからです。このオフィサーのミッションは、従業員の心の力を最大限に引き出せる環境づくりです。ハピカンオフィサーの呼称は、たとえば丸亀製麺であれば「ハピカンキャプテン」というように、業態ごとに固有にするつもりです。ハピカンキャプテンはまず25年12月からスタートし、3年で300名体制に規模を拡大しながら、店舗での居場所づくりや内発的動機の醸成に専念します。

この「心的資本経営」は、これからのトリドールグループの最高のエナジーです。また、私たちにしかできない経営であるとも自負しています。「なぜセントラルキッチン方式を採らずに各店舗に設備投資をするのか」「なぜ属人性の高いサービスを追求するのか」と言われても貫いてきた、人の心を動かすのは人の心であるという揺るぎない信念を持つから、私たちは挑戦できるのです。

言うまでもなく、未来は予測不能です。そして現在、日本の飲食業界は、人口減少に伴い供給過多という課題を抱えています。しかし私たちは、現状はチャンスであると捉えています。今後も、幸せを感じて働く従業員がお客様の心を揺さぶる感動体験を提供することで、多くのお客様にもっとも身近なレジャーである外食を楽しんでいただきたいと思います。

目標を掲げ覚悟を決めて公言し
達成するのがトリドール流

「心的資本経営」への移行を宣言するのは、私たちの本気度を従業員やお客様に知っていただきたいからでもあり、これが私たちの挑戦のスタイルだからでもあります。

私たちは1985年、兵庫県に「焼き鳥トリドール 3番館」をオープンして第一歩を踏み出しました。初めての店なのに3番館と名付けたのは、3軒は出店したいという目標を具体的に掲げることで、自らに奮起を促すためです。その後も、ひとつを達成すればさらに高い目標を設定するというサイクルで、出店の加速や上場を果たしてきました。こうした経験から、奇跡とは、リスクを取って夢を語り、挑戦した先でしか起こらないものだと学びました。

そして、これだけ「心的資本経営」に邁進するとお話しておきながら、結果が変わらなければ、こんなに格好悪いことはありません。だからこそ私は、この挑戦は間違っていないことを証明するためにも、覚悟を決めて公言をすることにしました。

トリドールホールディングスの第一歩、
「焼き鳥トリドール 3番館」の看板は
本社エントランスに掲出されている

近い将来、「ああ、あの時トリドールが言っていたことはこういうことだったんだ、「心的資本経営」こそが成長の原動力だったんだ」と多くの方々にご納得いただけるように、全力で「心的資本経営」を推進します。

株式会社 トリドールホールディングス

〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-21-1渋谷ソラスタ 19階