The Power of Data Science

従業員の心と顧客の心を可視化して「心的資本経営」を推進する!

南雲克明

株式会社トリドールホールディングス
執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長
株式会社丸亀製麺
常務取締役 マーケティング本部長

株式会社トリドールホールディングスは、
従業員のハピネス(幸福度)と顧客の心の感動を追求する「心的資本経営」の推進を2025年9月に宣言した。
その経営の根幹をなすのが、データサイエンスに基づくハピカン繁盛サイクルだ。
執行役員でCMO 兼 丸亀製麺 常務取締役の南雲克明氏にその仕組みを聞いた。

想定以上の反響を呼んだ
「心的資本経営」

——2025年9月、トリドールホールディングスは「心的資本経営」の推進を宣言しました。反響をどのように受け止めていますか。

南雲氏:想像を上回る反響がありました。多くの企業が人的資本経営に取り組んでいる状況で、それよりも一歩踏み込んだというポジティブな印象を持っていただいたのだと思います。従来の店長制度に代わり、年収を現在の上限520万円(残業代・インセンティブ除く)から最高2000万円まで引き上げる「ハピカンオフィサー制度」や、従業員の15歳以下の子どもが、従業員が勤めるブランドの全国の店舗で無償で食事ができる「家族食堂制度」といった、「心的資本経営」を象徴するような具体策についても、前向きに受け止めていただくことができました。

——心的資本経営は、「ハピカン繁盛サイクル」を回すことで成り立つそうですが、ハピカン繁盛サイクルとはどのようなものですか。

南雲氏:その名の通り、従業員のハピネスがお客様の心の感動を起こし、それによって店舗が繁盛し、それが従業員のハピネスへと還元され、その従業員がさらにお客様の心を動かすという循環です。「心的資本経営」における心とは、従業員の心とお客様の心の両方です。この心的資本によって各店舗を繁盛させ、グループとしての業績を持続的に拡大していこうと考えています。

ハピカン繁盛サイクルを支える
データサイエンスの活用

丸亀製麺ではハピカン繁盛サイクルを回すため、2年半ほど前から、段階的に様々な仕組みやアプリを開発してきました。まずは2024年4月にローンチした「感動スコア」です。お客様にその日のお食事後の感情を、直感的に使いやすいUIで回答していただき、スコア化し、それを翌日には店舗に共有する仕組みです。また25年7月からは、3度のPoC(概念実証)を経て従業員の心の状態を示す「ハピネススコア」も導入しています。従業員は専用のアプリから、会話形式で今の心の状態を答えていきます。テキストではなく音声入力とし、会話の相手に「丸亀うどーなつ」のキャラクターを採用したのは、できるだけ本音を引き出したいからです。ここでは音声対話型AIを利用していますが、このように、テクノロジーを使って従業員一人ひとりの心を可視化しようという取り組みは、あまり聞いたことがありません。

丸亀感動スコアの画面例。お食事直後のお客様の感情・評価をヒアリングして可視化

丸亀ハピネススコアの画面例。
音声対話型AIを活用した従業員ハピネス・エンゲージメント測定システム

——なぜ、感動やハピネスといった定量化が難しい感情を可視化しようとし、マーケティングとHRを融合しようとしているのでしょうか。

南雲氏:「すべてを数字で説明できるようにする」、これは私自身のポリシーでもあります。たとえば、かつてテレビCMがどの程度の効果を上げているかは、非常に可視化が難しいものでした。しかし今は、進化した測定手法やデータサイエンスによってより確からしい裏付けを得ることができます。同じように、人の感動やモチベーションについても、データに基づき、納得感のある形で共有した上で、施策を打つことが必要だと考えています。

また私は長くマーケティングにおいて、お客様の内発的動機にいかに火を点けるかという点に着目してきました。そして、同じ商品で同じマーケティング施策をおこなっても、店舗によって成果は大小まちまちであることを何度も経験しています。この違いを生む大きな要因は、店舗と従業員の内発的動機の違いです。どれだけマーケティング施策が素晴らしくても、従業員の内発的動機がゼロなら、掛け算の結果、成果もゼロになるということです。

そこで、これまでお客様の内発的動機を引き出してきたのと同じように、従業員の内発的動機も引き出したいと考えています。この従業員の内発的動機に火を点ける取り組みは、マーケティングで培ったさまざまな経験があるほうがうまくいくだろうという自負もあります。

人にとってのAIエージェントは
ゴルファーにとってのキャディ

——感動スコア、ハピネススコアは店舗で参照できるようになるそうですね。

南雲氏:今年12月、各店舗でハピカンオフィサー・店長・スタッフが見ることが出来る「ハピカンダッシュボード」をローンチの予定です。これは、ハピネススコアと感動スコア、そして業績を一目で確認できるものです。単に数字やグラフが並んでいるのではなく、ゲームをしているかのような楽しい気持ちになるデザインを採用しました。

ハピカンダッシュボードには、AIエージェントが気付きや改善アクションをアドバイスする機能を付けました。ハピカンオフィサーや店長はAIエージェントから、感動スコアやハピネススコアを向上させる施策の提案やアドバイスを得られます。経験の少ない店長も、いつでもAIから示唆を得られ、すぐにアクションにつなげることができるという仕組みです。

ハピカンダッシュボードのイメージ

このAIエージェントのイメージは、ゴルファーにとってのキャディです。スポーツの世界戦などで、監督がタブレットでデータを見ながら采配を振るっている姿を見かけることも多いと思います。データも見るのだけれど、「この選手はチームの精神的支柱なので外さない」といった感覚も重視し、データと現場の感覚を併せ持って判断していくことで、勝てる道をつくっていくというやり方です。

私が今後、ハピカンオフィサーに期待するのもこうしたスタイルです。あくまで、最終的な決断を下すのは人間です。テクノロジーは従業員の心の引き出しを増やすために使うものでありお客様の心を動かすのは従業員の心です。AIが示す通りの予定調和の中からは感動は生まれません。自分たちで考え、自分たちで決断する癖をつけることで、自律性と内発的動機を高め、アイデアを実行にうつし成果を実感することで、さらに仕事へのモチベーションを高めてほしいと思っています。

——今後、ハピカン繁盛サイクルはどのように拡張していきますか。

南雲氏:感動スコアについては、ダッシュボードへのフィードバックのサイクルをさらに短縮し、感動スコアから分かる午前中の問題点を午後には解決できるようにもしたいと考えています。

ほかにも、進化に向けた取り組みはすでに始めています。これまでの従業員のとの会話から、自分の住んでいる地域への貢献が働くモチベーションに大きく関わっていることが分かっています。地域社会から好感度が高いブランドは、店舗への来店行動も強くなるというデータもあります。そこで今後は、地域の食材の利用や子供向けのうどん教室の開催など、すでに店舗ごとに進めている地域貢献を「ソーシャルスコア」として可視化し、ハピカン繁盛サイクルへと組み込みます。言い換えると、EXとCXの連動にソーシャルの観点を入れるということです。こうすることで、店舗では働く人の個性や強み、地域性を発揮しながら地域全体を感動させることができます。個性ある店舗が集まれば、トリドールも丸亀製麺ももっと唯一無二で面白いブランドになるでしょう。

こうした夢を実現するためにも、日本の外食産業を魅力的な産業にしていく必要があると思います。今、日本食は世界各地でも人気です。しかし、日本食を提供する現場は必ずしもそうではありません。「ハピカンオフィサー制度」は年収面が注目されていますが、これは、トリドールは外食産業とそこで働く人の価値を高め、夢のある仕事にしていくというメッセージでもあります。トリドールは、外食産業の変革を担える会社です。「心的資本経営」の根幹となるハピ感繁盛サイクルを回しながら、日本らしい体験価値を大切にし、世界中で感動体験を提供する唯一無二のグローバルフードカンパニーへと成長していきたいと思います。

株式会社 トリドールホールディングス

〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-21-1渋谷ソラスタ 19階