
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン 代表理事 磯崎 功典氏
PROFILE
磯崎 功典 [いそざき・よしのり]
1953年神奈川県小田原市生まれ。77年慶應義塾大学経済学部卒。同年キリンビールに入社。サンミゲル社(フィリピン)取締役、キリンビール/キリンホールディングス経営企画部長を経て、2009年常務執行役員経営企画部長、12年キリンビール代表取締役社長、15年キリンホールディングス代表取締役社長、24年同社代表取締役会長CEO(現任)。25年6月にグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事に就任。
国連と日本企業を繋ぎ
サステナブルな
社会の実現に挑む
国連グローバル・コンパクト(国連GC)は、国連と企業が連携し、健全なグローバル社会を築くためのサステナビリティ イニシアチブです。誕生のきっかけとなったのは、冷戦終結後のグローバル化と、その中で生じた環境破壊・格差拡大などの社会課題。私は当時、留学・事業開発で米国におりましたので、こうした変化を目の当たりにしていました。
新たに顕著になったこれらの課題を民間企業と共に解決するため、2000年に、当時の国連事務総長、コフィー・アナン氏の呼びかけによって設立されたのが国連GCです。現在では世界で約2万5000社が参加しています。日本では、03年にグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)が設立され、670社超が加入しています(25年10月時点)。GCNJは、国連と日本の民間企業を直接結びつけるイニシアチブとして独自の存在感を発揮しています。
現職経営者として
GCNJ代表理事を務める意味
国連GCは人権・労働・環境・腐敗防止の4分野での10原則を定めており、賛同する企業はその順守に向けて努力を継続しています。また、GCNJは、各種の啓発活動やコレクティブ・アクション(会員企業が協働して課題解決を目指す活動)を通じて、国連GCに賛同する日本企業がSDGsへの取り組みを強化するためのプラットフォームとして機能しています。
私は25年6月に、GCNJの代表理事に就任しました。キリンホールディングス会長CEOを務めると同時に、国連と日本のビジネス界を繋ぐ役割を担うことになったわけです。
私は、キリングループとGCNJの目指す方向性は一致していると考えています。
CSV(Creating Shared Value、共通価値の創造)という考え方が米国の経営学者であるマイケル・ポーター教授によって提唱されたのが11年で、キリングループでCSVを経営の柱にすることを私が提案したのが13年です。まだ新しい考え方に、取締役会では反対の意見も出ました。そのときに背中を押してくれた方の1人が、当時のキリンの社外取締役で、GCNJの代表理事でもあった有馬利男さんでした。「ビジネスを通じた社会課題解決」への有馬さんの強い思いを、今度は私がGCNJでも引き継ぎました。
国連グローバル・コンパクトは、人権・労働・環境・腐敗防止の4分野で10の原則を策定している。いずれも国際社会から普遍的な価値として認められたもので、企業がこれらの分野の社会課題において何を期待されているのかを分かりやすく示している
ネバー・ギブ・アップの精神で
次の世代が安心できる社会を
VUCA(※1)の時代、社会課題は複雑さを増しており、国連や各国政府だけでの解決は困難です。もちろん企業も、1社だけで解決できるものではありません。しかし、それぞれに強みを持った企業がプロアクティブに協力すれば話は変わります。GCNJの会員企業670社超が協働すれば大きな力になります。
ただ、企業が社会課題の解決に挑み続けるには乗り越えるべき壁があります。まずは、投資家をはじめとしたステークホルダーからサステナビリティ経営への理解・賛同を得ることです。私自身、経営者として最も苦しみ、何度も諦めそうになったのはこの点です。グループ約3万人の社員とも、株主や投資家の皆様とも、この13年間、繰り返し対話してきました。今の世代は、次の世代が安心して力を発揮できるよう責任と想像力を持って行動する。そして次の世代も、さらに次の世代のために挑戦する。その必要性を、今後もネバー・ギブ・アップの精神で、語り続けます。
また、今の経営層が取り組みを始めても、将来の経営層に引き継がれなければ意味がありません。サステナビリティ経営を持続可能なものにするには、社会的価値だけでなく、イノベーションによって経済的価値を創出し続ける必要があります。これも大きなチャレンジです。
(※1) Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の略。現代社会やビジネス環境の先行きが予測困難な状態にあることを指す
2025年1月開催の「GCNJサミット2025~Social Change by Equity~」の様子。公平な働き方の実現に賛同する日本企業から、17社のトップが集結。事例発表や率直な意見交換を実施した
不可欠なのは経営トップの
協働による社会課題解決
15年に国連総会でSDGsが採択されてから約10年。SDGsの達成に難しさや疲れを感じている企業もあると思います。しかし、気候変動や人権課題に取り組まなくてよいと考える経営者はいないはずです。課題は、先延ばしにすればするほど解決が困難になります。苦しいときほど、企業同士、トップ同士が手を取り合っていく必要があります。国連GC25周年に際し、アントニオ・グテーレス事務総長が改めて世界中の企業へ呼びかけた「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、GCNJというプラットフォームを存分に頼っていただき、また、仲間になっていただきたいと思います。
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