真の人的資本経営を実現するための「HRモダナイゼーション」のススメ

人材の有効活用と人手不足の深刻化が、多くの企業を悩ませている。そのため従業員の能力を引き上げつつ従業員エンゲージメントを高め、組織力を強化する有効な経営手法として、人的資本経営が注目されている。その中核を担う人事と財務、経営管理アプリケーション分野のリーディングカンパニーであるワークデイでは、「組織・人材に関するデータ」を社外へ開示するだけでなく、自社製品のAI(人工知能)プラットフォームを介して、社内のビジネスリーダー、マネージャー、従業員などの関係者に活用してもらうことで自社の人的資本経営を推進してきた。同社自身での活用事例を通じて、日本企業のHRモダナイゼーションを考える。

グローバル人事のリーダー企業が
実践する
人的資本経営の情報活用法

 カリフォルニアに本社を置くワークデイは、2005年に設立された従業員2万人超のテクノロジー企業だ。同社が提供する人事と財務のクラウドサービスへの評価は高く、Fortune 500の6割以上の企業に導入され、SaaS型ERPで売り上げシェア21%を誇る。

 同社はESG戦略の基盤となるコアバリューの1つに従業員重視を掲げ、人材中心の経営、つまり人的資本経営を重点戦略に掲げ実践してきた。「人的資本経営で重要なことは、社外に情報開示をするだけではありません。社内でそれらの情報を実際に活用して人財能力の最大化と経営成果につなげることです」と同社チーフHRストラテジストの籔本レオ氏は話す。

籔本 レオ 氏

ワークデイ株式会社
チーフHRストラテジスト
籔本 レオ

 コアバリューの中に楽しんで仕事をする「FUN」も掲げる同社では、従業員をワークメイトと呼び、働きやすい環境やイベントなど楽しみを提供するための活動にしっかり投資する一方で、「Peakon」という独自プラットフォームを活用して、従業員エンゲージメントの向上にも注力している。

 「エンゲージメントスコア以上に、Peakonへの参加率やビジネスの成長につながる従業員コメントを重視しているのが特徴です」と籔本氏は説明する。全従業員の95%がPeakonに参加しており、従業員コメントの総数は2024年度の1年間で14万件以上にもなっている。

 当然ながら同社のダッシュボードでは、社外開示に必要な各種の人事データも提供されている。階層別に見た女性比率、年齢別の男女比といったダイバーシティーに関連したものや、部門別に見た管理職1人当たりの部下の人数などだ。

 さらに離職率や応募者と入社待ちの人数など、採用関連の情報も社内関係者に公開している。「例えば、離職率全体は健全でも、入社1年未満の従業員の離職率やハイパフォーマーの離職率が社内で定めている数値を上回った場合には、改善が必要だということがデータから見えてきます」(籔本氏)

財務的な成果を分析し
AIでスキル活用を促進する

 一方で人的資本経営を実践するには、教育や環境など非財務資本への投資だけでなく、その先にある財務的な効果も明らかにする必要がある。「経営ダッシュボード上の人件費をドリルダウンすることで、様々な経営判断に必要なデータが取得できるようになっています」と籔本氏は話す。

 ヘッドカウントプランに対する現時点での実員及び補充予定、従業員タイプ別のコストサマリー、要員・人件費の計画の進捗状況、部門別の総報酬、一人当たり報酬など、多くの切り口から分析できるようになっている。

 「経営には、非財務分野としての人財情報だけでなく、収益性を意識した上で人員数、人件費、目標達成率などを見る仕組みが必要です」と籔本氏は、人的資本経営を推進する上で、成果をデータとして捉えることの重要性を指摘する。

人的資本経営では、社外向けの情報開示と社内での情報活用が大切

 さらに人的資本経営の重要な要素であるスキルの見える化も重要だ。同社の自社システム(Workday)では、幅広くAIを活用している。入社時に従業員が提出した経歴書や社内での異動歴などをAIが読み取って、従業員が保持していると思われるスキルを自動的に関連付けて表示する。そこに従業員が自分でスキルを追加することもできる。

 「弊社では、一般の従業員から役員層までスキル入力率は非常に高く、全社員がお互いのスキル情報を見ることでコラボレーションを促進しています。さらに、そのスキルを基にキャリア形成やメンタリングを行ったり、学ぶべきスキルを推奨してくれる仕組みも全社員に提供しています」(籔本氏)

 経営ダッシュボードはマネジメント層向けの情報活用の仕組みであり、スキルは従業員向けの情報活用の仕組みだと言える。両者に対して実践的な情報活用を促す仕組みが整ってこそ、人的資本経営の成果を上げられる。

Workdayのスキルの管理画面例。AIによる示唆に富んだ洞察も活用できるのが特徴

「HRモダナイゼーション」で
人事戦略は次の段階へ

 同社では社外向けの人的資本経営の宣言にとどまらず、社内で自社システムから得られる豊富な情報活用を通して人的資本経営を実践し、非財務資本への投資とともに財務的な効果を追求している。これまで同社では人材が持つスキルをはじめ、ノウハウや知見などを効果的に業務に活用するために、AI活用の大前提となるクリーンデータ基盤の構築に取り組んできた。現在はAIエージェントによる直接的な業務支援機能など、機能強化と対応領域の拡張に注力している。

 「デジタルの力で新たな人事戦略とビジネス成長を支援する“HRモダナイゼーション”が、日本企業にとってますます重要になってきます。だからこそ私たちは、自ら実践して得たデータ活用のノウハウをベースに、システム導入だけにとどまらない人的資本経営の推進を運用面でもご支援しています」と籔本氏は力を込める。

 具体的には同社の人事の事例紹介だけでなく、人的資本経営を推進するデータ活用度チェックやHRテックの活用手法の提供も行っている。籔本氏は「試行錯誤の先に、答えが見つかります。どうぞ壁打ちの相手としてもお気軽にお声がけください」と話す。

 HRモダナイゼーションを実践し、人的資本経営で成果を上げている同社だけに、日本企業の参考になるところは多いだろう。

ワークデイ株式会社

http://www.workday.com/jp/

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