毎年1月初旬に米ラスベガスで開催される巨大イベントCESは、かつての「家電見本市」から、イノベーションを生み出し、加速させるイベントへと変貌しつつある。こうした潮流に合わせ、新しい材料の開発と提供を通じてメーカーのイノベーションを支えるのが米3Mだ。2026年1月6日~9日に開催されたCES2026でも、同社のブースには、イノベーション創出を求めて多くの関係者が訪れた。同社のブースでは、どのような展示を見ることができたのか。輸送・エネルギー分野の責任者の声と共に紹介する。

この10年で役割が変わったCES
見本市から「革新を生み出す場」へ

3M
トランスポーテーション&エネルギー事業
プレジデント
デゥリータ・ロッゲンバック氏

かつてのCESは、世界中の家電量販店のバイヤーが訪れ、電機メーカー各社が開発する新製品の品定めや購買交渉の場だった。いわゆる「家電見本市」である。しかし、この10年で大きくその姿は様変わりした。電機業界に限らず、イノベーション創出を目指す様々な業界の企業トップや現場責任者が一堂に集まり、お客様や社会の課題、そして新しい要素技術を共有。最終製品やサービスの開発に向けた交渉を始める場所へと急速に変化している。

3M
トランスポーテーション&エネルギー事業
プレジデント
デゥリータ・ロッゲンバック氏

そうした傾向を踏まえ、3Mもお客様のイノベーション創出に向け、幅広い製品やサービスを同社ブースに出展した。

ブースでは、お客様との対話型サービスである「Ask3M」と「3M Digital Materials Hub」、そして自動車業界向けのソリューションに注目。3Mのトランスポーテーション&エネルギー事業のプレジデントであるデゥリータ・ロッゲンバック氏に話を聞いた。

お客様との共創を支えるAsk 3M
新しいAIツールが迅速なソリューションを提供

今年のCESで発表したプロダクトの1つが、AIを活用した対話型のオンラインサービス「Ask 3M」。3Mの製品や材料に関して質問すると、蓄積されたデータベース、Ask 3Mから即座に回答を得ることができる。「お客様はその回答を活用して設計を進められるようになり、最終的にはイノベーションを起こすことができるようになる」(ロッゲンバック氏)。同社によれば、このサービスによってお客様と3Mの関係は「これまでより強化される」という。

従来は、お客様が製品や材料について知りたいことがある場合、3Mの担当者にメールや電話をしたり、同社のWebサイトを探したりする必要があった。Ask 3Mでは、まずAsk 3Mに聞けば迅速に回答してくれる。「チャネルが1つになり、コミュニケーションはさらにスムーズになる」(同氏)。お客様にとっては「どこを探せばいいか、誰に聞けばいいか」という悩みから解き放たれることだろう。3Mにとっても、お客様を待たせたり、別の部署やチームに問い合わせ直したりする手間が減らせることが期待される。

単なる対話効率の向上を超えて、Ask 3Mは戦略的な優位性を提供することができる。お客様の問い合わせを一元管理することで、3Mはフィードバックを分析し、製品開発の改善とサポートプロセス全体の強化を図ることができる。

ロッゲンバック氏は今後のお客様との関係性について「3Mが製品情報を提供し続ける一方、お客様の設計・開発を支援していく」と述べた。Ask 3Mはお客様のフィードバックを3Mの開発プロセスに直接統合し、市場に投入する製品を強化する架け橋としての役割を果たす。コミュニケーションが製品改良とお客様のイノベーションを促進するこの相乗効果が、プラットフォームに「新たな次元」をもたらすだろう。

3Mのトランスポーテーション&エネルギー事業のプレジデントを務めるデゥリータ・ロッゲンバック氏。CES2026の3Mブース内にて。

新材料を仮想的に検証
お客様のイノベーションを加速

CES2026に出展された、もう1つの対話型サービスが、材料の仮想的なサンプリング(分析・検証)を可能とする「3M Digital Materials Hub」。このサービスについてロッゲンバック氏は「エンジニアの仮想検証に大きく貢献する」と語る。コンピューター上のシミュレーションにより、想定される挙動やトレードオフといった新しい材料に関する評価が得られるようになる。結果として、お客様は迅速な意思決定ができるようになるわけだ。

「自動車業界は今、変革とイノベーションが起こっている。この業界に携わることは本当にエキサイティングだ」と語るロッゲンバック氏。この写真の後ろの壁に貼られているのは、3Mテクノロジープラットフォーム。元素周期表を模して、上流(材料)から下流(アプリケーション)まで3Mが提供する技術要素を示した図。

3M Digital Materials Hub登場前の製品開発プロセスでは、まず材料に関して物理的なプロトタイプ(試作品)を複数作り、作業中のシステムに組み込んでシステム全体の性能をシミュレーション、その結果を見て材料を作り直すという作業を繰り返していた。この3M Digital Materials Hubを使えば、材料開発という設計の早期の段階でシミュレーションを実行できる。「我々のサービスは、従来の開発プロセスのうち、後半のシミュレーションを上流側に寄せるものだ」(ロッゲンバック氏)。このシミュレーションによって、新しい材料が設計基準を満たすかどうかを判断できるようになる。

最初の3M Digital Materials Hubが導入されてから1年近くが経過した。お客様の評価はどうか。同氏は「お客様の評価は非常に肯定的。情報への迅速なアクセス、素早いシミュレーションやイノベーションの能力、そしてスケジュールの短縮を高く評価している」と語っている。特に、高度なエンジニアリングを必要とする自動車や航空宇宙産業からの引き合いが多いようだ。

今後について同氏は「可能な限り多くの材料をライブラリに追加して、提供したい。目標は、エンジニアがこれまでよりもはるかに速いペースでシミュレーションを行い、イノベーションを実現できるようにすること」と語った。3Mとしては、単なる材料の供給者にとどまらず、適用プロセスまで支援したいというわけだ。

自動車業界ではAI技術の進化が続いているCESで
最新技術をキャッチアップ

今年のブースで特に注目を集めたのは、日本において大きな存在感を示す自動車産業向けの新たなソリューションだ。この点は、CESにおける自動車分野の拡大傾向と一致している。

そもそも、CESにおける自動車業界向けのソリューション展示は年々増している。ロッゲンバック氏が指摘したように「CESは変革の触媒」となり、自動車が極めて重要な役割を担う中、業界の進化にとって理想的な舞台となっている。自動運転やロボタクシーからAI統合まで、このイベントではモビリティーの未来を再定義する最先端技術が披露されている。

3Mは今後の自動車の方向性をどのように捉えているのか。同氏は、内装の高品質化、ソフトウエアによる定義(SDV)、フレキシブルな生産能力、そして持続可能性を挙げた。その上で「当社が取り組んでいることの多くは、こうしたメガトレンドと密接に結び付いている」とする。

その方向性を踏まえた同社のソリューションは、外装から内装、機構部分、バッテリーまで多岐にわたる。「車両のほぼすべての部分に私たちの技術が活かされている」(ロッゲンバック氏)。いずれにおいても「お客様と共に、最終消費者にとっての快適性や安全性、さらには他社との差異化を支援することが目的」(同氏)という。同社の強みとしては、材料の提供にとどまらず「製造面や実装面でもお客様の課題に一緒に取り組むことにある」(同氏)。

同社が持つ自動車向けソリューションのうち、CES2026ではいくつかを展示した。

会場ブースの入り口に展示した高級SUV「Lincoln Navigator」には、同社が提供する技術が散りばめられている。まず、360度見渡せる特殊なフィルムが貼られており、大画面でも視認性・安全性を維持している。内装については、音響面でもノイズ対策を施しており、車内での会話を聞き取りやすくするような素材を提供する。バッテリーに関しては、熱暴走対策として、独自の接着剤及び関連技術を採用することにより、バッテリー本体だけでなく乗員も保護できることが差異化要素となっていることを示した。

同社のブース内に目を転じると、多数のアクリル板で自動車を模したモックアップが目に入る。その運転席のインストルメントパネル(インパネ)部には液晶画面が設置されており「EVパワートレイン」「センサーと電子部品」「騒音と振動の軽減」「テープと接合」「ソーラーフィルム」「車体フィルム」のアイコン(ボタン)がある。それぞれのアイコンをタップすることで、3Mの技術や提供製品がどこでどのように使われているのか映像で見られるようにしていた。

ブース内に設けられた、アクリル板による自動車のモックアップ(左)。運転席のインパネの操作によって(中)、3Mが提供するソリューションがどこに適用されているか映像で見られるようにした(右)。

最後に同氏は、日本のお客様である自動車メーカーや部品メーカーとのパートナーシップの重要性を強調した。「日本のメーカーは、開発、エンジニアリング、生産方法で高い評価を得ている。戦略的であり、お客様の期待に応じた優れた製品を開発している」と敬意を示し「日本の人たちは協力的で、物事を徹底的に検討して実行に移している。日本のお客様と一緒に仕事をするのは楽しい」と話した。

3Mの製品やソリューションは、同社の日本法人スリーエム ジャパンを通じて日本のお客様に対して提供される。CES2026における発表・展示を通じて、日本市場からどのようなイノベーションが生まれるのか注目したい。

写真:Photo by Laurent Velazquez

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