アーサー・ディ・リトル “掛け算”思考と自律性が生み出す価値と産業・企業変革

アーサー・ディ・リトル(ADL)は、世界初の戦略コンサルティングファームであり、創業から140年にわたり多様な業界のトップ企業の変革を支援してきた。戦略コンサルタントから見た「日本企業の課題とは」「取るべき次の一手とは」。2026年2月より同社のアジアクラスター統括に就任した大原聡氏、日本代表に就任した祖父江謙介氏に価値創造・企業変革の鍵を伺った。

日本企業は成長モデルの転換点に

祖父江日本企業はまさに「変曲点」を迎えています。高度経済成長の終わりから時間も経ち、産業インフラの老朽化や少子高齢化などの社会課題がのしかかっている状態。さらには、AIなどのテクノロジーによる変化も顕著です。

 求められるのは、企業も社会も、外部環境が複雑化する中で、変曲点をチャンスと捉え、機動的に成果を出すことです。そのためには、戦略的な自社の立ち位置と資源配分を設計・実装し、柔軟に施策を実行して定着させることがポイントとなります。成熟する日本市場への対応と同時に、成長かつ多極化する海外市場への対応を実現し、どのように結果に結びつけるかが問われています。

大原複層化・激変するグローバル・アジア市場の中での“日本セントリック”な経営モデルは限界を迎えています。

 日本企業は内需拡大を基盤とし、欧米先進国向けの輸出により成長しましたが、現在は品質面以上の高付加価値の提供にむけた先端シーズの獲得競争が激化しています。一方、今後成長する新興国・アジアではプレミアム需要が限られるため、マージンが低いマス市場をターゲットに全体収益の拡大を図る戦略も必要です。

 アジアの市場では、韓国・中国企業が大規模投資と迅速な意思決定によりスケールを確立し、コスト優位を確立している。そのうえ、ローカル企業も政府支援や現地の市場顧客特性を踏まえた独自モデルを構築しており、従来の日本企業モデルの延長では競争優位を築けなくなっています。

目的を定め組織の実行力を磨き直す

祖父江 氏「自律性を核に、変化に強い組織へ組み替える。変曲点ともいえる今はその絶好のチャンスなのです。」 祖父江日本企業にとっては、変曲点はチャンスです。今ある強みや資産を生かしながら“創り変えて”新しい価値を生み出すことで、リノベーション的なイノベーションをしなければなりません。

 そのためには、まず、中長期的な「目的志向」の改革プランが必要です。失われた30年では、売上成長より利益確保を優先し、コスト削減や事業売却などで“縮む”方向に舵を切った傾向があります。しかし本来、企業は何を目指すべきなのか。利益や売上は目標であっても目的ではありません。自社の存在意義、大事にしているビジョンやパーパスは何か。その問いに向き合わなければ、本質的な変革は起きません。こうした目的が定まれば、“変えるべき点”と“守るべき点”が整理でき、戦略や組織設計、優先順位も定まります。

大原次に重要となるのは、グローバル・アジアの各局を起点にした全体戦略の策定と、バリューチェーンの再構築です。各市場を“点”で追うのではなく、複数市場にまたがる事業空間として“面”で捉え、どう勝ち筋を作るかを再設計すべきでしょう。

 さらに、バリューチェーンをどう組み替え、どこに投資するかについても、柔軟かつ機動的な転換が必要です。現地企業の買収・提携を通じた大胆なリージョナル事業モデル・新たなインフラの構築も視野に入れた検討となります。

祖父江再設計を実装する段階で重要となるのが、「人」の自律性と「組織」の自発性です。変われと言われて変われるなら、明日から誰でも別人になれますが、実際はそうはなりません。人の心や営みを理解したうえで、変化・挑戦を愛し、社会・企業の変革の難易度にコミットできる自律的な人材を生み出す仕組みが必要なのです。

 一方、組織においては、権限移譲を進めることで、自発的かつ機動的に動く特殊部隊のような構造の構築が求められます。多極化時代に適応するために、従来のピラミッド型組織から脱却し、コンパクトで個々の自律性によって意思決定が行われる組織に磨き直すのです。

大原拠点や機能が分散していても、意思決定の速度と精度を上げる機動性が必要です。地域の自律性を重視しつつ、域内・グローバルとの連携を深める組織マネジメントが鍵になります。

“掛け算”で真の変革を実装する

大原ADLが提供する価値は、クライアントの「変革」を設計・実装して実行まで支援することです。私たちは、サービスの“Difference(独創性)”を追求し、企業・産業の“Innovation(変革)”を実現しているファームです。例えば、未来からバックキャストしたシナリオ、業種・地域の交点(コンバージェンス)での新規事業開発、AIの本質的な企業運営・投資への活用、外部の“オープン”な座組みによる最適なソリューションの提供などの取り組みです。

 特に重視しているのは、複雑化する世界に対応するための“掛け算”による価値創出です。これは「クロスインダストリー/クロスファンクション/クロスマーケット(業種・機能・地域の横断的連携)」によって視点の多角化を図り、領域を横断して物事を見ることで、新しい価値、新しい事業の可能性をクライアントに提供するものです。

 重要なのは、知見やメニューの足し算ではなく、情報の背景にある考え方をも理解し、再構成する能力です。

祖父江その“掛け算”を起こせるのはADLに二つの強みがあるからです。

 一つめは「変革に特化した人材」です。複数領域の知見を有し、課題を横断的に捉えられる人材を豊富に擁しています。さらに、変革は常に摩擦や抵抗を伴うことを理解したうえで、伴走、実装、定着させることを重要視しています。

 もう一つは、「クライアント最優先の体制」です。求められる姿を実現するために、自社の機能や人材にとらわれることはありません。クライアントの変革はもちろん、産業・社会で活躍している異業種企業や人材とのエコシステムの構築を通じた変革もできます。

大原 氏「世界の知見、人材ネットワークと連携し、機動的かつ実効性の高い伴走型支援でクライアントの強みを進化させます。」 大原我々が目指しているのは、機動的で実効性の高いクライアントへの伴走(Side-by-Side)による価値創造。明確に組織が変わる、新規事業が生まれる、戦略を面展開できるといった成果を生み出し、産業・企業の真の変革を共創するのがミッションです。

祖父江ADLは、そのような変革の「発火点」、「触媒」だと思います。変革のきっかけを作り、定着までの道筋を企画し、最後は組織に根付かせてクライアント企業が自走できる状態を作る。固定の方法論を押し付けるのではなく、その時々で最適な手段をオープンに選び、常にリフレッシュし続ける。変曲点の時代に必要なのは、まさにそのようなしなやかな機動性だと思います。

go to TOP