ワクワクが企業価値を生む ワクワクが企業価値を生む
ウェルビーイングを土台としたサステナビリティ経営とは? ウェルビーイングを土台としたサステナビリティ経営とは?
社員一人ひとりがワクワクし、チャレンジし、新しい価値が生まれる。それが、社会への貢献につながっていきます。 アサヒ飲料 近藤 佳代子 氏 社員一人ひとりがワクワクし、チャレンジし、新しい価値が生まれる。それが、社会への貢献につながっていきます。 アサヒ飲料 近藤 佳代子 氏
企業の持続的成長と、社員一人ひとりが幸せに働くこと。その両方を実現するのが、真の人的資本経営だと思います。 一橋大学 伊藤 邦雄 氏 企業の持続的成長と、社員一人ひとりが幸せに働くこと。その両方を実現するのが、真の人的資本経営だと思います。 一橋大学 伊藤 邦雄 氏

ウェルビーイングを土台としたサステナビリティ経営 社長が語る、アサヒ飲料の実践と挑戦

アサヒ飲料は、人と社会のウェルビーイングを起点とした価値創造に取り組んでいる。
2026年3月、社長に就任した近藤佳代子氏は、人的資本経営とサステナビリティ経営を両輪としながら、持続的な成長を目指す。
社員のワクワクや挑戦を促す組織文化は、いかにイノベーションや企業価値の向上につながるのか。
「伊藤レポート」の提言者として知られる伊藤邦雄氏との対談で、
人的資本経営をベースにしたサステナビリティ経営のあり方、社会課題を解決する商品開発への取り組み、
そして100年先を見据えた展望について語り合った。

ワクワクが生み出すウェルビーイングな組織文化

近藤 アサヒ飲料は、社会との約束として「100年のワクワクと笑顔を。」を掲げています。お客様に笑顔を届けるためには、まず社員がワクワクできる会社でなければなりません。そのワクワクのサイクルを支えているのは、やはり人と組織だと日々実感しています。その意味で、伊藤先生が提唱される「人的資本経営」に大いに共感しています。

近藤 佳代子

アサヒ飲料
代表取締役社長

伊藤 私が「人的資本経営」を提唱したのは2020年のことですが、その背景には日本企業の構造的な課題があります。そこで、資本効率を唱えた2014年の「伊藤レポート」以降、ESGやSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)、人的資本経営へと議論を発展させてきました。一見バラバラに見えるそれらの目的はすべて、日本企業の競争力を高めることにあります。そしてその成長ドライバーは有形資産ではなく、無形資産だということです。なかでも人的資本は特別な存在です。知的財産などと異なり、人は自ら学び、成長し、自分自身の価値を高めることができます。だからこそ、「人的資源」ではなく「人的資本」という考え方が重要になるのです。

伊藤 邦雄

一橋大学名誉教授
CFO教育研究センター長

近藤 「人的資本経営」というと難しく聞こえるかもしれませんが、私はシンプルに、社員がWillを持てる組織文化をつくりたいと考えています。社員にも「Willを持とう」と話しています。「こんなことを実現したい」「こんな仕事に挑戦したい」という意思を持つことが、ワクワクや働きがいにつながると思うからです。さらに、目標を達成するために努力し、それが実現できたときに「やってよかった」「嬉しい」と感じる。その連鎖がウェルビーイングにつながるのだと思います。

伊藤 ワクワクすることでモチベーションやエンゲージメントが高まり、仕事の成果にも自己の成長にもつながる好循環が生まれていく。それは、まさしくウェルビーイングな環境だといえるでしょう。近年、私は人的資本経営の発展形としてウェルビーイングを重視しています。企業の持続的成長を実現することと、社員一人ひとりが働きがいを感じながら幸せに働くこと。その両方を実現するのが、真の人的資本経営だと思います。

近藤 そのためには、心理的安全性のある環境づくりが必要です。トップダウン型の組織では、「こうしたい」と思っても声を上げづらい。挑戦できる文化をつくることは経営トップの責任だと考えています。

伊藤 日本企業は「企業文化は自然にできるもの」と考えがちですが、私は意図的につくる必要があると思っています。それには、経営トップのメッセージが重要です。私が2年間にわたって行った調査では、「経営トップがウェルビーイングの重要性を発信している」企業ほど、社員のウェルビーイング感が高いという結果が出ています。私はこれを「ウェルビーイング・コンシャス・プレミアム」と名づけています。近藤さんが「ワクワク」と言い続けることで、社員の方々もそれを意識し、ウェルビーイング感も向上していくのです。

近藤 ウェルビーイング感が高まれば、生産性やエンゲージメントの向上も期待できそうですね。

伊藤 ウェルビーイング感の高い人は、生産性やチームへの貢献意欲も大きく、成果につながりやすい。それが会社に認められることで、エンゲージメントもより高まるでしょう。ウェルビーイングとエンゲージメントの両方が高い状態に入ったとき、人は「フロー」を経験します。時間を忘れるほど仕事に没頭でき、創造性やチームへの貢献意欲が高まる状態です。ただし、エンゲージメントだけが高くてウェルビーイング感が伴わないと、心身を崩すリスクがあります。逆にウェルビーイング感だけ高くてエンゲージメントが低いと、ぬるま湯になる。近藤さんが目指す「ワクワクする組織」とは、その両方が高い社員が多い組織のことではないでしょうか。

近藤 おっしゃる通りです。エンゲージメントが高くても、ウェルビーイングな状態でなければ健全とはいえません。組織として成果を上げることはもちろん大切ですが、その前提として社員一人ひとりが心身ともに健康で、自分らしく働けていることが重要です。先生のお話を聞いて、ワクワクとは「フロー」を生む源泉なのだとあらためて気づかされました。

近藤氏は積極的にタウンホールミーティングを行い、社員と様々な意見を交わしている

社会課題と事業課題を統合するサステナビリティ経営

伊藤 人的資本と並び、企業の持続的成長において欠かせないのが、サステナビリティの概念です。「伊藤レポート3.0」では、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化する、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を提唱しています。

近藤 私は2019年から5年間、アサヒグループホールディングスでサステナビリティ領域を担当してきました。その経験を通じて強く感じたのは、サステナビリティは事業成長と切り離されたものではなく、経営そのものだということです。環境や社会の課題を解決することが、結果として企業価値の向上にもつながる。その確信が今の経営の土台になっています。

伊藤 サステナビリティ経営は、企業がレジリエンスを獲得するためのプロセスでもあります。そのベースとして、人的資本やウェルビーイングが重要となってきます。

近藤 まさにその通りだと思います。特に飲料ビジネスは、水や農作物などの恵みの上に成り立っているため、環境への取り組みは事業に直結します。そこで2018年、業界に先駆けて実践したのが、ラベルレスボトルです。ラベルは商品の大切な顔ですが、それをなくすことで環境負荷の低減に努めました。もともとはECを担当していた若手女性担当者の「家でラベルをはがすのが面倒である」という気づきから始まった挑戦です。当初の規模から今では約8倍にまで拡大し、その取り組みは、各社にも広がっています。

PETボトルからラベルをなくすことで樹脂量を削減。
また、従来のロールラベルに替えて、小面積のタックシール(シンプルecoラベル)も採用している

伊藤 それは大きいですね。1社だけでなく、業界全体で進めていくことで、社会も変わっていきます。注目すべきは、この取り組みが社員のアイデアから生み出されたということ。人的資本経営とサステナビリティ経営が連動している好例だと思います。

近藤 同様に、PETボトルを再びPETボトルへと再生する「ボトルtoボトル」にも取り組んでいます。2025年時点でリサイクルPETの利用率は54%を達成しています。リサイクルPETは現時点では収益に結び付けることが難しいと感じていますが、私はこれを「未来への投資」と位置づけています。

ボトルtoボトルを中心に水平リサイクルを進めることで、「PETボトルが循環し続ける社会」を目指している

伊藤 今後、流通や社会全体がよりサステナブルな商品を求めるようになれば、その投資は必ず生きてくるはずです。企業価値は四半期の利益だけでは測れません。今の稼ぐ力とサステナビリティへの取り組みが、将来の稼ぐ力につながるという「価値創造ストーリー」を説得力を持って描ければ、投資家を含むステークホルダーの共感も得られるでしょう。

近藤 新たな価値創造への取り組みとして、2024年に社内ベンチャー組織「Sustainable Drinks ベンチャーズ」を立ち上げました。その一環として展開しているのが「カルピスじゃぐち」です。蛇口をひねるとカルピスが出てくるという体験を通じて、子どもたちにワクワクを届ける取り組みです。同時に、将来的な容器レス社会を見据えた実証でもあります。

子どもから大人まで世代を超えてみんなが笑顔になれるワクワクするサービスを通じて、
カルピスの新しい体験価値を提供する

伊藤 これもアサヒ飲料さんらしい事例ですね。社会課題を解決しながらも、使う人の利便性や楽しさといった新しい価値も生み出しています。

近藤 事業とサステナビリティの両立という点では、「CO₂を食べる自販機」も象徴的な取り組みです。これは、大気中のCO₂を吸収する国内初の自動販売機。回収したCO₂を再利用し循環させるビジネスを進めています。2026年5月末時点で設置台数は全国で7800台を超え、2030年には5万台を目標としています。

自動販売機で吸収したCO₂はコンクリートやアスファルト、タイル等の工業原料に配合することでCO₂を固定化している

未来を見据えた商品開発が新たな価値を生む

近藤 サステナビリティ経営を実践する中で、私たちは既存事業の改善だけでなく、未来の社会課題を見据えた商品開発にも取り組んでいます。その代表例が、コーヒー豆を使用しないコーヒー代替飲料「未来のBLACK」「未来のLATTE」です。世界ではコーヒー需要が拡大する一方で、気候変動によって将来的にコーヒー豆の生産量が減少する「コーヒーの2050年問題」が懸念されています。その解決策の一つとして、コーヒー豆を使わずにコーヒーの味わいを再現する技術開発を進めています。

伊藤 非常にプロアクティブな取り組みですね。課題が顕在化してから対応するのではなく、未来を予測し、すでに対策を始めている。その姿勢に大きな価値を感じます。

近藤 また、抹茶市場の拡大を背景に開発したのが「泡 MATCHA」です。缶のふたを全開すると、きめ細かく滑らかな泡とともに抹茶の香りが広がります。これは、アサヒグループが培った「フルオープン缶」の知見を応用した商品で、お客様にワクワクを届けたいという思いから生まれました。

伊藤 茶筅で点てたような抹茶体験が楽しめそうですね。

近藤 そうなんです。それを缶で味わえるという新しい価値を追求しました。そしてもう1つが、「refrezz(リフレッツ)」です。これはカルピス由来の乳酸菌を配合した商品で、アメリカで開発したブランドを日本向けに再構築したものです。「レモン&レモンバーム」と「アップル&ローズマリー」の2つのフレーバーで、健康価値とおいしさを両立しながら、新しい飲用体験を提案していきます。

伊藤 いずれの商品にも共通しているのは、社会課題や生活者目線を起点に、新たな価値を生み出そうとしている点です。単に新しい飲み物をつくるだけではなく、例えば「未来のBLACK」なら、コーヒーを取り巻く課題に向き合うストーリーがある。その物語も一緒に届けることで、共感や愛着が生まれ、長く選ばれ続けるブランドになっていくのだと思います。早く味わってみたいですね。

近藤 市場でどのように受け入れられていくのか、私自身も楽しみにしています。

左から「未来のBLACK」「未来のLATTE」「泡 MATCHA」「泡 MATCHA ラテ」
「refrezz(アップル&ローズマリー)」「refrezz(レモン&レモンバーム)」

100年先の未来へ向けた新たな価値創造への挑戦

伊藤 人的資本経営とウェルビーイング、サステナビリティ経営は、本来別々のテーマではなく、一連の流れとして捉えるべきものです。ここまでのお話を聞いて、近藤さんがまさにそれを実践されていることが伝わってきました。

近藤 ありがとうございます。社会課題の解決も、新しい価値創造も、すべては人と組織があってこそ実現できるものだと思っています。昨年サイバー攻撃を受けた際も、最後に会社を支えてくれたのは社員たちでした。事業継続に大きな影響が出る中で、現場も本社も、それぞれの立場で「何とかしよう」と動いてくれた。その姿を見て、人の力はこれほど大きいのかとあらためて感じました。

伊藤 それはまさにレジリエンスですね。平時には見えにくい組織の力が、非常時に発揮されたのだと思います。

近藤 実は最近、「人は有形資産なのではないか」と思うことがあるんです。本当に組織を動かし、事業を成長させるのは人です。戦略も事業も、人がいなければ実現できません。無形の価値を持ちながら、有形の成果を発揮する。これほど重要な資産はないと思います。

伊藤 確かに人は、有形資産と無形資産の両方の性質を有しているのかもしれません。実際に行動し価値を生み出す一方で、創造性やワクワク、バイタリティといった目に見えない力も持っている。そう考えると、人は極めてユニークな資産だといえます。

近藤 アサヒ飲料が掲げる「100年のワクワクと笑顔を。」も、結局は人から始まるものです。社員一人ひとりがワクワクし、自らチャレンジし、結果として新しい価値が生まれる。それが、お客様の笑顔や社会への貢献につながっていくのだと考えています。だからこそ、社員が自律的に活躍できる組織文化をつくっていきたい。失敗を恐れず挑戦し、学び続ける。その積み重ねが事業成長や社会の持続性にもつながっていくと信じています。

伊藤 今日のお話で最も頻度高く出てきたキーワードは、「ワクワク」でした。それだけ近藤さんが大切にし、経営の中核に据えていることが分かります。ワクワクという言葉には、社員の主体性や自律性を引き出し、会社と社員、さらには社会との共鳴を生み出す力があります。それが新たな価値創出を促し、レジリエントな人と組織を育むのだと思います。

近藤 私たちは、「三ツ矢」「カルピス」「ウィルキンソン」という100年以上続くブランドを3つ有する日本で唯一の飲料メーカーです。価値あるものをつないでいく素晴らしさを知っているからこそ、100年後の未来にもワクワクを届けたいと考えています。社会との約束の実現に向けて、アサヒ飲料はこれからもウェルビーイングを起点とした、新しい価値創造に挑戦してまいります。

「カルピス」はアサヒ飲料(株)の登録商標です。