
Asana Japan
個人のAI活用を組織の成果へ
人とAIが同じ目標で協働する、働き方の再設計
AIの登場で、以前より個人の作業スピードが向上。しかし、その効果を組織全体の成果につなげるには、業務の進め方や情報共有の仕組み自体を変える必要がある。人とAIエージェントが協働する働き方を、企業はいかに実現しようとしているのか。変革を進めるリーダーと現場の実践者が語る、その取り組みとは。

人とAIが同じ目標に向かい
組織の実行力を高める基盤が重要
「仕事のための仕事」を減らし、人が価値の創造に集中できるようにする。そのためには、人とAIが同じ目標と情報を共有し、協働できる基盤が必要です。私たちは、日々の業務と経営目標をつなぎ、チームの力を引き出す働き方を支えていきます。変革に挑む皆様の実践から、自社での取り組みを進めるヒントを見つけていただければ幸いです。
AI活用を阻む組織の壁とは
調査が示す業務構造の課題
ワークマネジメントプラットフォーム「Asana(アサナ)」を提供するAsana Japanは、2026年8月26日に“人とAIエージェントが協働する次世代のワークマネジメント”をテーマとした「Work Innovation Japan」を開催。冒頭、同社 代表執行役員社長の立山東氏が紹介したのは、日経BPと共同で実施した調査「AIと働き方の現在地2026」だ。
同調査では、8割以上のビジネスパーソンがAIを日常的に利用していると回答。一方、AIエージェントを何らかの形で導入している割合は47.8%、複数の業務や部門をまたいで活用している割合は約13%にとどまっているという。また、複数部門と連携して働いていると答えた人が約9割に達する中、連携先の部門の目標を理解している人は3割未満だった。個人でのAI利用が進む一方で、組織全体の成果につなげるには、なお課題が残っているのが現状だ。
※調査レポート:AIと働き方の現在地 2026
(https://resources.asana.com/GC-FY27-08-JP-AIxWorkReport2026_Reg.html)
Asana Japan
代表執行役員社長
立山 東 氏
立山氏は、その要因として3つの課題を挙げる。会議や確認・連絡といった仕事のための仕事の多さ、情報のサイロ化、部署間における目標の断絶だ。「AIの性能だけではなく、組織の業務構造にも課題があります」(立山氏)。
必要なのは、人とAIが共通の目標と情報に基づいて協働できる基盤だ。Asanaは、経営目標から各人のタスクまでをつなぐ「ワークグラフ」を核に、AIが業務の全体像や過去の意思決定を踏まえて仕事を進められる仕組みを備えている。
「Asanaは、人とAIエージェントが協働するチームや組織のためのオペレーティングシステムです。仕事の流れをつくり、人とAIが同じ目標に向けて働き、その成果を組織に蓄積していく。Asanaは、個人最適から組織最適への変革を実現していきます」(立山氏)
人の創造性を引き出すためにデータ構造と仕事の進め方を変える
三菱マテリアルITソリューションズ
代表取締役社長
(前 三菱マテリアル CIO <最高情報責任者>)
板野 則弘 氏
続いて登壇した、三菱マテリアルITソリューションズ 代表取締役社長の板野則弘氏は、テクノロジーが進化しても「人中心」で考える重要性を説く。
デジタル化の価値は効率化や自動化だけではない。これまで見えなかった情報が可視化されることで、人が課題や可能性に気づき、新たな価値を生む。「その創造性を発揮する主体は、一部の専門人材に限らず、社員全員にあります」(板野氏)。
同時に、AIの普及は人材育成にも問いを投げかける。板野氏が社員との面談で聞いたのは、AIで仕事は速くなったものの、自分に知識やスキルが身に付いているのか不安だという若手の声だった。また、経験が少ない中で、AIの出力をどう見極めればいいのかという悩みもあるという。
板野氏は、AIとの対話を通じて仮説検証を重ね、自ら考え、答えを見極める力を育む必要性を指摘する。「経営者や上司は、社員が集中して考える時間を確保する必要があります」と語り、講演を締めくくった。
富士通
執行役員常務
エンタープライズ事業担当
古濱 淑子 氏
次に登壇した富士通 執行役員常務の古濱淑子氏は、自社における業務変革の実践を紹介。同社ではAsanaを活用し、営業部門に各部署から寄せられる依頼を一元化。依頼の重複や滞留を見える化し、蓄積したデータを業務改善に生かしている。
そこで重要になったのが、データを生む業務の基準をそろえることだ。同じ「優先度が高い」という指定でも、部署によって捉え方が異なれば適切に扱えない。「データをただバケツに入れただけでは、すぐには使えないのです」(古濱氏)。データの粒度や形式をそろえ、マスターの定義を統一する「セマンティックレイヤー」の必要性を古濱氏は話す。
さらに強調したのが、AIをただ導入するのではなく、仕事のやり方そのものを変えることだ。何を達成したいのかを明確にし、ルールやプロセスも見直す。そして、個人に蓄積された営業の経験やノウハウといった暗黙知を、組織の知識として再利用していくことが求められる。「データを整備し、可視化して、それをベースに業務を再設計する。これを高速に回していくことが、AIを前提とした業務変革につながるのです」(古濱氏)。
開発現場で変わる人とAIの役割
AIは人の能力を拡張するパートナー
その後のリーダーズパネルセッションでは、スズキの磯部真也氏と、KMバイオロジクスの横山絵里子氏が登壇。立山氏の進行で、開発現場の変化を語った。
スズキ
四輪エンジン設計部
エンジンヘッド・吸排気設計課
主幹
磯部 真也 氏
スズキでは、コロナ禍でのリモートワーク拡大をきっかけに、仕事の状況が見えにくいという課題が顕在化。メンバーが何に困っているのか、プロジェクトがどこで止まっているのかが分からなくなっていた。「多くの業務を並行して進める中で、進捗確認や情報整理に時間を取られてしまっていました。別々の人が情報をよく知っている担当者に同じことを何度も聞くということが常態化していたのです」(磯部氏)。
磯部氏は、「仕事を見える化し、人が本来やるべき仕事に集中できる環境をつくりたい」と考え、21年にAsanaを導入。その活用と業務改革をセットで進めたチームでは、残業時間が約35%減少した。ただ、それ以上に大きかったのは、マネジメントの変化だという。「進捗や業務負荷が見えることで、優先順位を把握しやすくなりました。優先順位の判断に不慣れな若手の残業削減にもつながっています」(磯部氏)。
また、設計変更や試験依頼などの手順をテンプレート化し、新たに加わったメンバーも自律的に仕事を進められるようになったという。さらには、AIスタジオを活用し、タスクの作成やメールからの情報整理を自動化。Asanaの運用負担の軽減にもつながっている。
KMバイオロジクス
CMC技術開発本部 技術開発統括部
統括課 課長
横山 絵里子 氏
一方、KMバイオロジクスでは、24年の組織再編によって1人が複数のテーマを担当するようになり、情報共有や進捗確認の会議が増加。誰が何を担当し、どこでどのような判断が行われているのかが見えにくくなってしまっていた。また、医薬品開発では業務の経緯を追跡できるトレーサビリティの確保が求められるため、業務の透明性の向上も課題だったという。
そこで同社は、まず業務をAsanaに落とし込み、可視化した上でAI活用を推進。医薬品の有効期間を通じて品質や有効性を確認する安定性試験では、テンプレートとAIスタジオを組み合わせ、試験計画の作成やタスクの割り当てを自動化した。週次レポートの作成にはAIチームメイトも活用しているという。「情報整理に追われず、意思決定や課題解決に時間を使えるようになりました。タスク上のやり取りで業務のナレッジが蓄積され、組織の資産として残ることも大きな成果です」(横山氏)。
磯部氏も、業務の可視化によってリスクを早期に発見・対処し、生まれた時間を人材育成や価値を生む業務に振り向けられるようになったと話す。また、横山氏は「AIは人の能力を拡張するパートナー」と位置付け、道筋が分かる仕事をAIエージェントに任せ、人は対話や試行錯誤を伴うチャレンジに集中する働き方を想定していると語った。

変革を現場の共感で広げる
推進する仕組みも属人化させない
最後のチャンピオンズパネルセッションでは、電源開発の岩崎友里亜氏、東光電気工事の越谷健氏、富士製薬工業の田賀夏海氏が、新たな働き方を社内に根付かせる実践を共有した。
電源開発
デジタルイノベーション部
DX推進室ソリューションタスク
岩崎 友里亜 氏
東光電気工事
企画管理本部 DX推進部 課長
越谷 健 氏
富士製薬工業
経営管理本部 経営管理部
人事グループ
田賀 夏海 氏
電源開発の岩崎氏が直面したのは、「今は困っていない」と語る現場の壁だ。業務が問題なく回っていると属人化のリスクが顕在化せず、新しいツールを覚える負担が先に立つ。東光電気工事の越谷氏も、導入初期は同様の課題を感じたと言う。「工事現場の管理職は、Microsoft Excelなどを使い込んで仕事をうまく回しています。新しいツールを導入する納得感を得るのが困難でした」(越谷氏)。
では、どのように現場の理解を得て、変革を広げていったのだろうか。富士製薬工業の田賀氏は、現場の困りごとを出発点にしたと語る。実際に使うメンバーに日々の困りごとを聞いて回り、Asanaでの改善策を伝える。また、チームごとにアンバサダーを置き、身近な仲間と一緒に使える環境も整えた。「より付加価値の高い仕事に時間を使っていこうというビジョンを繰り返し共有しました」(田賀氏)。
岩崎氏は、かなりの頻度で各部署への説明会を行ったが、当初はなかなか手応えを感じられなかったという。あるとき、利用者自身から活用法に関する相談や「Asanaって良いよね」という声が聞こえるようになり、価値を感じた利用者を起点に活用の広がりを実感するようになったと話す。
「ただ、熱心な推進者がいれば定着するわけではありません。その人がいなくなると活用が止まってしまうのでは、解消したかった属人化と同じ構造になってしまいます」と岩崎氏は指摘。周囲のメンバーや管理職も巻き込み、個人の成功をチームの成功に変えることが必要だという。
現場経験が長い越谷氏は、管理職の負担に理解を示しながらも、全国11支社に足を運び、対面での説明と意見交換を継続。各部署の推進者を通じ、活用事例を広げてきた。やがて現場から、「この業務に使えないか」という提案が生まれるようになったという。現在では、約1800アカウントで全社利用するまでに浸透。「以前は不要だと話していた管理職からも『ないと困る』と言われるようになりました。仕事の文化が変わり始めたと感じています」(越谷氏)。
そして田賀氏は、業務の集約によって、それまで見えにくかった担当者の仕事量や貢献も可視化されたと語る。さらに、問い合わせ対応の終了時に、AIスタジオが担当者を名指しで褒める工夫も好評だったという。労務管理のチームでは、エンゲージメントサーベイの「やりがい」や「承認」に関する項目が上昇し、「仕事が見える化され、貢献が周囲に伝わり、称賛されるという変化が寄与したのではないかと思っています」(田賀氏)。

人とAIの協働を組織の成果につなげるには、仕事と知識を共有できる基盤に加え、それを日々使う人たちの納得が必要だ。現場の課題を起点に業務を見直し、生まれた時間を判断や創造に振り向ける。各社の実践は、他の日本企業にとって、AI時代の働き方を自社で形にするための手掛かりとなるだろう。


