
脱炭素経営の難しさはCO2排出量を「見える化」した先にある。世界各地に広がる取引先のデータを集め、各国の規制に対応しながら実際の削減につなげなければならないからだ。企業単独では解きにくいこの課題にAIとグローバルな事業基盤で挑むのがアスエネだ。BlackRockの脱炭素ファンドDecarbonization Partnersによる出資とM&Aを足がかりに、同社はグローバルサプライチェーンの脱炭素化を支えるデファクトスタンダードを目指す。その実現に向けた戦略を代表取締役CEOの西和田浩平氏に聞いた。
世界最大の資産運用会社BlackRockの脱炭素ファンドが日本のスタートアップへの初投資に踏み切った。選んだのは、企業のCO2排出量やESGデータの管理を支援するアスエネである。同社が2026年7月に発表したシリーズDの調達額は総額135億円に上る。
「BlackRockは投資先企業が各ビジネスモデルや産業で世界No.1を狙えるかどうか、を投資基準にしています。当社については日本・アジアで築いた事業基盤や非財務データの蓄積、筋肉質な実行力などが評価され、脱炭素・ESG領域で世界市場の首位を狙えると判断されました。会社にとっても日本にとってもその意味は大きいと受け止めています」と西和田氏はその背景を語る。
調達資金の大半は、国内外でのM&Aに投じる方針だ。その象徴ともいえるのが、サプライチェーン可視化プラットフォーム「Secaro(シーカロ)」を展開する英国の2degreesの買収である。Secaroは欧米を中心に90カ国以上、8000社超の製造業企業のサプライチェーンを可視化している。
「サプライチェーン全体を一つのプラットフォームで管理できれば情報の連携が容易になり、利便性も高まります。すでにアスエネを導入している企業がSecaroのネットワークを活用して欧米のサプライヤーを管理しやすくなるのはもちろん、Secaroの顧客にもAIを活用したエネルギーコストの削減支援やコンサルティングをワンストップで提供できるようになります」と西和田氏は語る。同社は地域ごとの顧客基盤と機能を統合し、世界に拠点を持つ企業がサプライチェーン全体の脱炭素化を進めやすい環境を整える。
アンソロピックやOpenAIなどの生成AIの台頭で「SaaSは終わる」との見方が広がった。だが、アスエネの見方は異なる。SaaSを通じて蓄積された専門性の高い非財務データは、AI時代にも競争力の源泉となるからだ。問われるのは、その資産をAIで新たな価値へ変えられるかどうかである。
そこで同社が打ち出した戦略が、AIを事業の中核に据え、CO2排出量の可視化を中心としたサービスから「AIサステナビリティ統合プラットフォーム」への進化である。AIに複雑かつ膨大な作業をまかせることで、人間は「活動の開始」と「意思決定」の役割に注力できるようになる。脱炭素、ESG、エネルギーに関するデータの収集から分析、改善までを一体で支援する。
例えば、CO2排出量の算定では、「活動量×排出原単位」の紐づけ作業において排出係数を数百種類の中から選ぶ必要があるが、そうした作業は完全にAIで自動化できる。有価証券報告書やサステナビリティレポートについても、AIが前年の文書と最新データをもとに原案を自動で生成する。AIエネルギー削減サービス「NZero」では、エネルギー管理と削減シミュレーションや、省エネ設備の導入費用とコスト削減効果、投資回収期間まで試算できる。
「現在はAIによる業務の省力化やエネルギーコストの削減まで支援できています。次に目指すのは、経営や投資の意思決定を支えることです。リスクやコンプライアンス、ガバナンスの問題は、財務諸表に影響が出る前に非財務データに兆候が表れます。その将来のリスクである『黄色信号』を早期に捉え、経営判断や投資判断に生かせるようにしたいと考えています」(西和田氏)

世界市場への進出を加速するアスエネは、国内でも存在感を高める。花王、ヤマハ発動機、スズキや明治安田生命などの大企業へ導入が相次ぎ、2026年7月には累計導入企業数、プライム上場企業導入社数などの3項目で三冠を達成。すでにプライム上場企業の40%超で利用されており、2028年にはそのシェアを70%まで高める考えだ。
圧倒的な支持を得ている理由は、ソフトウエアとコンサルティング、AIを一体で提供する体制である。
「CO2排出量の算定は複雑で、ルールも毎年変わります。そのため、ソフトウエアだけでは十分ではないと当初から考え、コンサルティングと組み合わせてきました。自社でシステムを開発し、早くからAIも取り入れるなど、顧客にとって何が便利で、何が付加価値になるかを考え抜いてきたことが、評価につながったと考えています」と西和田氏は説明する。
こうして築いた支援モデルは国境を越えて広がる。6カ国に拠点を置き、世界各地でカスタマーサクセスやコンサルティングを展開。多言語にも対応し、グローバルサプライチェーンを支える。その先に見据えるのは、AIサステナビリティ統合プラットフォームのデファクトスタンダードだ。
「日本のスタートアップは数が増えましたが、世界市場で大きく早く急成長する企業はまだ多くありません。日本経済を元気にするためにも、日本発のグローバル企業を生み出すことが必要不可欠。強い国内事業を土台にM&Aと海外展開を進め、この領域で圧倒的なグローバルNo.1を目指します」
日本経済の底上げまでを見据える西和田氏の言葉には、次世代を担うグローバル企業を率いる確かな覚悟がにじんでいた。

多様な専門性を持つプロフェッショナルたちが、圧倒的な成長を牽引している
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