3次元の仮想空間で固定資産管理を見える化
「Facility Data hub」を導入すると、総務・施設管理担当者による固定資産の棚卸し業務が一変する。担当者が固定資産管理台帳に記載されている特定の資産をクリックすると、3Dモデル上の当該資産が色分け表示されるので、所在を直感的に確認できる(図2)。
図2 什器・備品を配置した「Facility Data hub」の3Dモデル

固定資産管理台帳に記載されている特定の資産をクリックするだけで、3Dモデル上の当該対象資産が色分け表示されるので、瞬時に所在を確認できる
逆に3Dモデル上の特定の資産をクリックすると、BIMファミリ(建物を構成する部品)の属性情報とリンクする固定資産管理台帳の情報が表示される。属性情報の入力や更新もリアルタイムで行えるため、棚卸しや現場調査の手間を大幅に削減可能だ。
3Dモデルを活用した固定資産管理では、建物や設備、什器の状態をビジュアルに把握できる点も大きな特長となる。例えば、廃棄が近づいている備品や点検の必要性がある設備などをモデル上で色分け表示すれば、保守対象の選別や優先順位の設定が一目で判断できるわけだ。
紙台帳では難しかった検索性や更新性が格段に向上するほか、設備点検のタイミングや修繕履歴もモデル上で確認できるため、保全業務の効率化と属人化の解消にも役立つ。維持メンテナンス業務に多くの人手が割けない中小企業や分散した工場などでは、特に導入効果が大きいだろう。
「『Facility Data hub』を導入すれば、リアルな現場に足を運ぶことなく固定資産の所在や状態を簡単に確認できるようになります。特に大規模オフィスや多拠点にキャンパスを構える大学、海外にある工場などでは、資産管理の業務効率が大幅に向上します。固定資産を移動や廃棄した場合も、台帳とモデルの情報が同時に更新されるので実態把握にズレが生じません。表示される情報量が多い場合は、担当領域の違いによってビューを自由に変更することもできます。固定資産の管理のみ、設備メンテナンスの情報のみといったビューの切り替えで、それぞれの業務を適切に遂行していただけます」(三戸氏)

3Dモデルによる固定資産管理は、業務の見える化を促進し、人手不足の解消も含めて企業全体の運用コスト削減にも寄与する。
導入までに要する期間はわずか2カ月
新築ビルの場合、「Facility Data hub」の導入に要する期間は約2カ月。その間、顧客は固定資産管理台帳へのデータ入力、清水建設はオフィスのレイアウト調査、既存BIMデータに什器・備品を配置した3Dモデルの作成、台帳と3Dモデルのデータ連動などを行う。自社でBIMデータが用意できない場合も、清水建設が有償で代行する。
什器・備品などのBIMファミリ情報は、主要なオフィス家具メーカーが自社製品のものを提供しているため、コピーするだけで簡単に3Dモデルを構築できる。さらにメーカーを横断して多様なBIMファミリ情報を取り扱えるため、異なる企業のコラボレーションを全手とした柔軟なモデル構築が可能だ。サービスの導入費用は、BIMデータがあり、フロア面積2500平方メートル、管理対象となる什器・備品が1500点程度のオフィスであれば基本料120万円、保守費用60万円/年となる。
今後は、BIMで設計された新築ビルを中心に「Facility Data hub」の導入が進むと予想されるが、既に自動車メーカー系の生産施設、金融機関系の事務所ビル、大規模スポーツ施設などでも導入が内定しているという。
オートデスクのソリューションを基盤技術に採用
「Facility Data hub」の基盤には、オートデスクのBIMソフト「Autodesk Revit」(以下、Revit)とデジタルツインソフト「Autodesk Tandem」(以下、Tandem)が採用されている。
Revitは、建物やオフィス空間を3次元で表現する業界標準のBIMソフトで、「Facility Data hub」では、什器・備品といった固定資産を配置する「3次元の器」として機能している。Revit上に配置された什器・備品には、それぞれに取得年月日や資産番号、耐用年数といった属性情報を持たせることができる。これにより、単なる3Dモデルではなく、固定資産管理に必要な情報を内包したモデルとして扱えるようになるわけだ。
一方のTandemは、Revitでつくられた3Dモデルと、固定資産管理台帳の情報をつなぐ役割を担っている。建物や設備の情報をクラウド上で一元管理し、設計後も「運用に使えるデータ」として扱えるようにするデジタルツイン基盤だ。
「Facility Data hub」では、Revitで作成した什器・備品のモデルと台帳情報をTandem上でひも付けることで、双方向の操作を可能にしている。
三戸氏は、「Facility Data hub」の基盤にオートデスクのソリューションを採用した理由を次のように説明する。
「BIM技術を活用した新しいソリューションサービスを提供しようと考えた時、グローバルにデファクトスタンダードとなっているRevitを採用するのは必然的な流れでした。従来ならRevitをダイレクトに扱おうとすれば専門知識を持ったオペレーターの力が必要でしたが、オートデスクのクラウドサービスであるACC(Autodesk Construction Cloud)と組み合わせれば、一般ユーザーでもWebブラウザだけで簡単に操作できるようになります。またTandemもRevitのファイルを直接読み込んで、各種施設のデジタルツインをスピーディーかつハンドリングよく構築できます。この相性の良さは、我々サービスを提供する側として非常に有効で、『Facility Data hub』が求める基盤技術としてベストプラクティスだと判断しました」(図3)
図3 清水建設とオートデスクが技術協力

「Facility Data hub」の基盤には、オートデスクのBIMソフト「Revit」とデジタルツインソフト「Tandem」が採用されている
固定資産管理業務が年々極小化されていく
サービス提供に先立ち、清水建設ではRevitとTandemを組み合わせたパイロット版で、2024年に新設移転した同社の名古屋支店ビルにおいて導入効果を検証した。その結果、固定資産管理業務の工数が以前に比べて約半分に削減できたという。
「この数値は棚卸し前の初期値ですから、今後、工数はさらに削減できます。名古屋支店からは毎月、増加や減少、移管・移動といった固定資産の変更データが送られてきますが、すべてのデータが一元管理されているため更新は瞬く間に終わります。2年目、3年目になってもデータ更新のみで台帳と現場の状況がリアルにひも付いていくため、棚卸しだけでなく資産管理業務自体が、ほぼなくなっていくのではないかと考えています」(三戸氏)
この実証を踏まえて開発された「Facility Data hub」は、総務・施設管理部門だけではなく、ビルや工場全体を「資産」としてとらえる経営層にも、ROA(Return On Assets:総資産利益率)の向上に貢献するサービスとして高く評価されているという。
オートデスクとの緊密なパートナーシップが原点
こうした革新的なソリューションが生み出された背景には、単にツールとしての機能性や市場シェアだけではなく、長年にわたる清水建設とオートデスクとの関係性がある。
両社は2000年代前半から、建設DXの推進における戦略的パートナーシップを築いてきた。建設・設計の業界標準ツールであるAutoCADの導入、BIMとクラウド技術を融合させたデジタルツインの実装、建設生産プロセスをつなぐ共通データ環境とACCを基盤とした次世代建築プラットフォームの構築など、その関係性は長く緊密だ。
そして「Facility Data hub」に代表される新たなビジネスモデルの創出につながったのが、オートデスク社が年に1回開催する世界最大級のコンファレンス「Autodesk University(AU)」への継続的な参加だった。

「我々はAUへの参加を通じて、グローバルな建設・設計分野におけるBIM活用の最新動向に触れ、他社の実践事例や技術的な進化をダイレクトに吸収してきました。AUは製品紹介の場であると同時に、BIMを“実務でどう使い続けるか”を議論する場でもあるのです」と三戸氏は言う。
清水建設でBIMを軸としたDXを担うキーマンたちは、オートデスク社の開発者と毎年のようにミーティングの場を設け、機能追加などの要望を伝えたり、新しいビジネスモデルへの適用に関する意見交換を行ってきたという。
「例えばTandemに関しても、それが製品化される前から開発チームの方々に技術的な要望をお伝えしたり、それをベースに我々が考えるビジネスモデルの有効性などを検討していただきました。その意味では、単なるベンダーとユーザーのお付き合いというより、建設業界の未来に向けた新しいビジネスを一緒に創造していくパートナーといった関係性に近いと思います。そこで得た知見が、今回の『Facility Data hub』の構想にも大きく反映されています」(三戸氏)
こうしたイベントや意見交換の場を通じて、両社のトップマネジメントレベルでの交流や対話が積み重ねられてきた効果も大きい。BIMを設計・施工の支援ツールにとどめることなく、“建てた後の業務にどう生かすか”という課題意識を共有できていたことも、RevitやTandemを軸とした新しいアセットマネジメントの基盤づくりに発展していく土台となった。
「Facility Data hub」が目指したのは、最先端の技術を前面に押し出すことではなく、現場の担当者が無理なく使い続けられる仕組みである。その意味で、RevitとTandemという選択は、技術と実績、人と人との関係性が重なった必然的な結果だったといえるだろう。
出入りの大工からデジタルゼネコンへ
清水建設は、「Facility Data hub」を、まずは什器・備品などの固定資産管理から展開しているが、将来的には設備管理や維持管理など、建物運用の様々な領域へと広げていく計画だ。
「Tandemは、様々なセンサー情報を取得することができ、建物内のヒートマップのような情報を簡単に作る機能が実装されています。それを生かして、例えば、文化財建造物の保守や災害対応に係る情報、プラントや設備機器の稼働状態やエネルギー使用量、ビル・オフィス内の人流データなどをセンサーから取得して、お客様が必要とするソリューションに連携させていく。そういった形で、より高度な設備管理や維持管理など、幅広い分野での情報管理の高度化を支援していきます」と三戸氏は説明する。
そのために清水建設は「Facility Data hub」の展開にあたって、世界的なワークテック企業のepturaとパートナー契約を締結。オートデスクのソリューションを基盤としたデジタルツインプラットフォームと、epturaのプラットフォームである「Eptura Asset(資産管理)」や「Eptura Workplace(ワークプレース管理)」をデータ連携することで、設備機器の維持保全や個々の企業の実態に即したオフィスづくりへと生かしていく計画だ。
そうした清水建設のビジョンには、設計・施工に閉じず、運用・保全まで価値連鎖を伸ばす建物ライフサイクル事業の展開により、顧客と共に「建設のその先」を考えていくベクトルがある。
「清水建設のルーツには、創業者の初代清水喜助、二代清水喜助が体現した“出入り大工の精神”があります。雨漏りや老朽化でお困りの際は、いつでもお客様先に駆けつけ必要十分なメンテナンスを施す。建物や設備の有効活用にお悩みなら、現状をしっかりと把握して最適な提案を差し上げる。そうした誠実なものづくりに込める想いを決して失わず、デジタル技術を核とするゼネコンとして、お客様の課題解決に寄り添いながら、建物ライフサイクル全体に新たな価値を創出する存在へと進化していくことを目指しています。単なる“デジタルを使った出入り大工”にとどまらず、建設業のあり方そのものに革新をもたらすパートナーとして、お客様と共に未来の建物運用を形づくっていきたい」(三戸氏)
清水建設は今後も「Facility Data hub」を進化させるため、オートデスクとの協業をさらに深化させていく考えだ。


