120年以上前から事業をグローバルに展開してきたブリティッシュ・アメリカン・タバコ(以下BAT)。
21世紀の今、その事業はどのように変革され、どんな世界を目指しているのか。
グローバルCEOのタデウ・マロッコ氏に聞いた。
例えば自動車産業でいえば、ガソリンを燃やして走る内燃機関から、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車と産業構造が変化している時代。たばこ産業でも、燃焼式製品の紙巻たばこから、非燃焼式(以下スモークレス)製品である加熱式たばこ※1、べイプ(電子たばこ)※2、オーラルたばこ※3へと、技術革新による産業変革が進んでいる。こうした世界的動向について、BATグローバルCEO、タデウ・マロッコ氏は次のように語る。

タデウ・マロッコ
BAT 最高経営責任者
1992年、ブラジルのBATグループに入社。財務部門で様々な職務を歴任後、ベネズエラ、コロンビア、東欧で要職を歴任。2014年からBAT本社の経営委員会メンバーに就任、グループの変革担当役員や最高財務責任者を経て、23年より現職。
「これは成人喫煙者が、紙巻たばこに代わる選択肢をますます求めていることが大きな要因です。他業界でいえば、砂糖やアルコール含有量が少ない代替商品へのニーズが高まっていることと類似しています。しかし私たちにとってこの変革は、単に外部環境の変化に対応するためだけのものではなく、明確な目的があります。それは、喫煙を続ける可能性のある世界約10億人の成人喫煙者が、科学的根拠に基づきリスク低減が期待されるスモークレス製品へ完全に移行できるよう支援し、当社の事業が健康に与える影響を低減することです。ただしこの変革は製品だけで実現できるものではありません。科学的知見の蓄積、製品のリスクに応じた規制枠組みの整備、そしてたばこハームリダクション(以下THR:健康リスク低減の可能性を秘めた代替製品への移行を促す考え方)への理解と受容が重要です」
こうしたスモークレス製品への移行が進む中、スウェーデンでは「スモークフリー国家」を実現したという報道もある。これは、日常的に紙巻たばこを喫煙する人の割合が5%未満となり、WHOが示す「禁煙」の基準を達成したということだ。
「スウェーデンはTHRの考え方に基づき、スモークレス製品への移行が進んだ好例です。EUではWHOの基準を、2040年までに達成することを目標に掲げていますので、10年以上前倒しで達成したことになります。その主な要因は、オーラルたばこの急速な普及です。信頼できる代替手段の存在が、消費者行動を大きく変えうることを示唆しています。オーラルたばこは世界で最も速いスピードで急成長しているカテゴリーです。BATはこのカテゴリーでリーディングポジションを有しており、私たちのビジョンである“スモークレスな世界”の実現を加速させるカテゴリーだと考えています」
※1 加熱式たばこ:たばこ葉を含む専用スティックを燃やさずに加熱して、発生するベイパー(蒸気)を吸引する製品。日本でのスモークレス製品の主流。 ※2 ベイプ(電子たばこ):リキッド(液体)をデバイスで加熱し、発生するベイパー(蒸気)を吸引する製品。日本では医薬品医療機器等法(薬機法)により、ニコチンを含むリキッドの販売には許可が必要。 ※3 オーラルたばこ:純白のパウチを上唇と歯ぐきの間に挟み、刺激や味わいを感じる製品。煙やニオイ、灰が出ないため、望まない受動喫煙の防止につながる。
BATは祖業である紙巻たばこ事業から、スモークレス事業に大きくかじを切ったといえる。
「私たちは従来のたばこ会社から、マルチカテゴリー企業へと進化しています。多様なニーズに応える高品質なスモークレス製品群を提供し、紙巻たばこからの移行を支援しています。そしてビジョンの実現に向けて、2030年までにBATのスモークレス製品の消費者数を5000万人にすることを目標に掲げており、すでに3000万人以上に達しています。またビジネス面においては2035年までに収益の50%をスモークレス製品から生み出すことを目指しています」と、マロッコ氏はその決意を示す。
継続的なイノベーション、科学的知見の進展、そして消費者ニーズの変化により、今後10年間でスモークレス製品はBATの中心的な事業になる、と断言する。
BATにとって、日本は加熱式たばこが最大規模となる市場であり、市場構造の変化が大きく進んでいる数少ない国の一つだという。スモークレス事業による収益50%というグローバル目標を10年以上も早く達成したというそのスピードには驚く。
「日本の方々は新しい技術への受容性が高く、また周囲への配慮を重視する文化を持っていることから、THRへの理解が深まり、加熱式への移行が加速したのだと思います。また、煙が出ない、ハンズフリー、喫煙所を必要としないなどの特長を持つオーラルたばこも、日本では過去3年間で利用者数3倍の成長を遂げており、その利用者は2030年までに400~500万人規模になると見込まれています」
オーラルたばこの利用者数は2025年~2030年にかけてグローバルで年平均15%の成長が予測されており、この成長率は紙巻、加熱式、ベイプを上回るとBATは推計する。
「こうした世界的潮流に加え、国民性や文化的背景も後押しとなり、日本市場ではオーラルたばこが大きく成長する可能性を秘めています」と、マロッコ氏は見込む。
市場ごとに環境が異なるためそのスピードには差があるものの、“スモークレスな世界”は単なる理想ではなく、すでに多くの市場で進行している現実の変化だとマロッコ氏は言う。そして、次のような未来を希求する。
「私たちは、紙巻たばこには健康リスクがあることを明確に認識しています。これらのリスクを回避する唯一の方法は、喫煙を始めないこと、または禁煙することです。その上で、科学的根拠に基づきリスク低減が期待されるスモークレス製品が正しく届く世界、未成年者がニコチン・たばこ製品にアクセスできない世界、そしてTHRの役割を踏まえた上で科学に基づく規制環境が整備された世界が、早期に訪れることを期待しています」