新卒採用のKPIを問い直す 「定着・活躍」重視へ、経営に求められる意思決定

藤田拓秀氏 原田かおり氏
日経BP 総合研究所 企業価値研究所 主任研究員 Human Capital Online編集長 原田 かおり氏 BIZREACH CAMPUS 株式会社ビズリーチ 執行役員 新卒事業部 事業部長 藤田拓秀氏

時代の変化が加速し、“即戦力”を求めるキャリア採用が活発化する中、「人的資本経営の起点」として新卒採用を見直す企業が増えている。問われているのは、学生から選ばれ、入社後も活躍し続ける人材をどう採用・育成していくか。そのカギとなる採用KPIの転換と、現場社員の時間と知見を採用活動にどう活かすべきかについて、株式会社ビズリーチ 執行役員の藤田拓秀氏と、日経BP 総合研究所 企業価値研究所 主任研究員でHuman Capital Online編集長の原田かおりが語り合った。

一括採用から、
職種・配属を見据えた新卒採用へ
一括採用から、職種・配属を見据えた新卒採用へ

――「大転職時代」と言われるほど、昨今の中途採用市場は過熱しています。この状況をどうご覧になっていますか。

日経BP 総合研究所 企業価値研究所 主任研究員
Human Capital Online編集長
原田 かおり

出版社を経て、2000年日経BP入社。編集長として企業機関誌やオウンドメディアの創刊・リニューアルを多数経験。2018年11月からHuman Capital Online編集長。2020年10月、人的資本経営を発信するWebメディアとしてHuman Capital Onlineをリニューアル創刊。

原田 かおり氏

原田「日本経済新聞」が2026年4月28日に公表した採用計画調査では、26年度の採用計画に占める中途採用比率が初めて5割を超えました。今、企業を取り巻く環境変化が激しくなる中、事業戦略に応じて必要なスキルを獲得し続ける「動的な人材ポートフォリオ」の重要性が高まっています。

藤田こうした変化は、新卒採用にも大きく影響しています。事業環境の変化が速くなる中で、企業は事業に応じて必要な人材を見極め、職種や配属をより具体的に設計しながら採用するようになっています。入社後に時間をかけて一律に育成するだけではなく、あらかじめ想定した領域で早期に戦力化することが求められているのです。

株式会社ビズリーチ
執行役員 新卒事業部 事業部長
藤田 拓秀たくほ

大学を卒業後、2013年に株式会社ビズリーチ入社。ビズリーチ事業部ビジネス開発部でコンサルタントとして従事した後、OB/OG訪問ネットワークサービス「ビズリーチ・キャンパス」の立ち上げに携わる。同サービスを運営する新卒事業部で、ビジネス開発職として日系大手企業の新卒採用支援に、また新領域推進室室長として戦略立案・実行に携わった後、2022年8月、新卒事業部事業部長に就任。2024年2月より現職。

藤田 拓秀氏

こうした企業側の変化は、学生側にもつながっています。「どの会社に入るか」だけでなく、「どのような仕事・経験を通じて自分の市場価値を高められるのか」を重視して意思決定する学生が増えています。

つまり、企業も個人も、それぞれの戦略や意志を持ってマッチングを求めるようになっている。その変化が、新卒採用のあり方を大きく変えています。

――原田さんは、昨今の新卒採用市場をどのようにご覧になっていますか。

原田先ほど中途採用比率が5割を超えたという話をしましたが、そうは言っても、新卒採用にも相当力を入れている企業は少なくありません。なぜなら、中途採用でも企業間の争奪戦は激しさを増し、求める人材をすぐに採用できる状況ではなくなっているからです。

藤田中途採用に依存しすぎると、必要な人材を思うように採用できず、「動的な人材ポートフォリオ」の形成が困難になるという問題もあります。その点、新卒採用は、人材ポートフォリオを中長期的に支える基盤として、今後も重要性を増していくはずです。

採用KPIは
「人数」から「定着・活躍」へ
採用KPIは「人数」から「定着・活躍」へ

――企業の新卒採用に対する捉え方は、どのように変わってきていると思いますか。

原田従来の新卒採用は、「大量の人員を一度に補充する手段」と捉えられがちだったのではないでしょうか。しかし、最近では新卒採用を「人的資本経営の起点」と再定義し、採用活動に取り組む企業が増えているように感じます。

人的資本経営は、人材の価値を在籍年数や年功で測り、「全員一律」に処遇していては実現しません。経営戦略や事業戦略に合致した人材を見極め、適切な配置や育成を通じて力を引き出すことで、企業と社員が対等の関係として共に成長するというのが理想のあり方です。

新卒一括採用では、どうしても「全員一律」の枠から抜け出しにくく、人的資本経営がスタートの時点でつまずきかねないのです。先ほど藤田さんがおっしゃったように、新卒でも職種別採用の動きが広がっているのは、「人員補充」のためではなく、「人的資本経営の起点」という新たな目的で新卒採用に取り組む企業が増えてきたからでしょう。

藤田新卒採用を人的資本経営の起点として捉えるのであれば、採用活動の評価も「何人採れたか」だけでは不十分で、「どんな人が採れたか」が重要になります。流動化する労働市場において、採用した学生が入社後に自社の事業や組織の中で力を発揮し、定着し、将来的に中核人材として成長していけるかまで見ていく必要があります。

先ほど触れたように、学生側も、自分がどのような仕事に向き合い、どのようなキャリアを歩みたいのかを理解した上で意思決定するようになっています。この相互理解が十分でないまま、従来のように採用人数や母集団の規模だけを重視してしまうと、入社後のミスマッチが起きやすくなります。早期離職につながれば、採用費だけでなく、育成にかけた時間や現場社員の工数も回収できません。

原田確かに、「人材への投資」という観点で見ると、従来型の母集団形成や一括採用だけでは、採用活動のROI(投資収益率)を説明しにくくなっていると思います。

また、取材を通じて投資家の方々から、企業価値の評価において人材の「採用数」と「離職率」の両方を見ているという話を耳にします。もちろん数値も重要ですが、投資家は人材戦略の中身を注視しています。その中身を把握するために、経営陣やCHRO(最高人事責任者)が投資家と直接対話するケースも、最近では増えてきています。そこで「今年の新卒採用人数はどのような根拠で決めたのか」「どこに配属し、どう育てていくのか」と問われたときに、自社の言葉で説明できるかどうか。新卒採用においても、そうした説明責任が問われる時代になっていると感じています。

従来は、「何人採れたか」が新卒採用の重要なKPIであると認識されがちでしたが、これからは「3年後にどれだけ残っているか」「社員の定着・活躍が業績や企業価値にどう反映されているか」といったアウトカムをより重視する必要があるのではないでしょうか。

新卒採用に求められる「相互理解型採用」への転換

現場社員の時間と知見を、
どう採用活動に活かすか
現場社員の時間と知見を、どう採用活動に活かすか

――そのKPIの転換を実現するには、採用活動の何から変えていけば良いのでしょうか。

藤田採用のKPIが入社後の定着・活躍へと広がるほど、学生の「仕事や会社への解像度」と「意思決定の納得感」を高め、入社後のミスマッチを減らす接点設計が重要になります。企業から一方的に情報を伝えるだけでは不十分で、有効な手段の一つが、インターンシップやOB/OG訪問、座談会などを通じた現場社員との対話です。学生は先輩社員から1次情報を得ることで、仕事内容やキャリア、組織の風土・雰囲気をより具体的に理解できます。

原田藤田さんのお話で印象的だったのは、企業からの情報の伝え方ですね。今の新卒採用では企業側が一方的に取り繕った情報だけでは不十分です。学生もシビアに見ていますから、表面的な言葉はすぐに見透かされてしまいます。そこにはリアリティが必要です。

学生にとって現場社員との対話は、意思決定にどの程度影響しているのでしょうか。

藤田「ビズリーチ・キャンパス」会員3603名を対象に実施した調査でも、意思決定で影響が大きかった機会として、現場社員との面談(77%)や座談会(71%)が上位に挙がりました。学生にとって、企業説明会や採用サイトだけでは分からない1次情報が、意思決定の大きな材料になっていることが分かります。

学生の意思決定を左右するのは「現場社員との対話」

原田学生側の実感は数字にも表れていますね。企業側でも、同様の認識は高まっているのでしょうか。

藤田ビズリーチが人事・経営層など800名を対象に実施した新卒採用活動に関する調査では、「採用プロセスにおける現場社員との相互理解が、入社後の定着・活躍につながる」と答えた企業が80%に上りました。また、現場社員を巻き込む採用活動への投資を3〜5年後に拡大したいとする回答も64%に達しています。

今後は、どの学生に、どの社員が、どのタイミングで会うのかを設計し、現場社員の時間と知見を採用活動にどう活かすかが、経営の意思決定として問われるでしょう。

「社員巻き込み型採用」への投資は拡大見込み

原田人的資本開示においても、採用に参画した社員数や投じた時間を公表する企業が出始めています。こうした流れを踏まえ、現場社員の時間と知見を採用活動に活かす上で、経営や人事にはどのような課題がありますか。

藤田社員の善意や個人的なつながりだけに頼ってしまうと、特定の社員に負担が集中したり、学生に伝わる情報にばらつきが生じたりします。その状態では、長期的に採用活動の質を高め続けることは難しくなります。

加えて、学生と社員が直接接点を持つ以上、ハラスメントや不適切なやり取りを防ぐための安全対策も欠かせません。現場社員の協力を得ながらも、誰が、どの学生と、どのタイミングで接点を持つのか。そこで得られた情報を、採用活動や入社後の配置・育成にどう活かすのか。そうした一連の仕組みを、企業として設計する必要があります。

こうした課題を乗り越え、学生と社員の対話を組織的に積み重ねることができれば、学生一人ひとりの志向や適性への理解が深まり、入社後の配置や育成の精度も高めやすくなります。その結果として、入社後の定着・活躍、ひいては人的資本経営の基盤強化にもつながっていくと考えています。

原田人的資本経営では、採用を人事部門だけの活動に閉じないことが重要ですね。現場社員が関わることで、より経営戦略に即した人材採用につながる。そこを主導することも、経営の責任の一つではないでしょうか。

藤田まさに、新卒採用を人的資本経営の起点として捉え直す上で、現場社員の時間をどう投じ、知見をどう活かすかを、経営として判断することが求められています。「ビズリーチ・キャンパス」も、学生と現場社員の接点設計を通じて、そうした採用の転換を支援していきたいと考えています。本日はありがとうございました。

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