株式会社人材研究所
代表取締役社長
曽和 利光 氏
京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート、オープンハウス、ライフネット生命保険などで人事を歴任。2011年11月、人事コンサルティング会社の株式会社人材研究所を創業。日系大手企業から外資系企業、スタートアップ、官公庁など、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングを行っている。『人事と採用のセオリー』など著書多数。

「高評価の学生に辞退される」「良い人材を新卒で採用しても、早期に離職してしまう」――。こうした課題の背景には、入社前の企業理解不足があるのではないか。OB/OG訪問ネットワークサービス「ビズリーチ・キャンパス」を運営するビズリーチは、北海道大学の亀野淳氏と共同で、入社前の情報収集と入社後の満足度・定着意向との関係を検証した。共同研究の結果を基に、亀野氏と人事の専門家である曽和利光氏が、採用後の活躍・定着につながる学生との向き合い方を語り合った。
――曽和さんは、大手企業やスタートアップなどで人事を歴任し、30年間で2万人以上の学生と面接をした「人事のプロ」です。最近の新卒採用は、以前と比べてどのように変わってきたとご覧になっているでしょうか。
曽和昨今のようにインターネットが普及するまでは、就職説明会に参加したり、対面でのインターンシップやOB/OG訪問を活用したりするのが、学生にとって主な情報収集手段でした。時代が変わり、就職情報サイトやSNSを通じて、企業の情報を容易に集められるようになったのは大きな変化です。
一方で、入社の意思決定にあたっては「もっと企業や仕事の中身に関する深い情報を知りたい」「実際に働いている社員の人に本当のことを聞きたい」というニーズは根強く、OB/OG訪問を希望する学生は少なくないようです。従来のOB/OG訪問はキャリアセンターの名簿を基に、大学の先輩にメールをして、対面で会うというのが一般的でした。ただ、昨今は自分の大学以外の先輩も含めて、オンラインで実施をする形式が浸透したことも時代の変化を表しています。
株式会社人材研究所
代表取締役社長
曽和 利光 氏
京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート、オープンハウス、ライフネット生命保険などで人事を歴任。2011年11月、人事コンサルティング会社の株式会社人材研究所を創業。日系大手企業から外資系企業、スタートアップ、官公庁など、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングを行っている。『人事と採用のセオリー』など著書多数。
亀野私は北海道大学で職業キャリア教育論を研究する傍ら、大学のキャリアデザインセンターの副センター長として学生たちの就職指導も行っています。実際に学生たちの就職活動を見ている立場として、OB/OG訪問は、ネットやSNSには書かれていない企業の深い情報を入手できる貴重な機会と考えています。
OB/OG訪問を経験するとしないとでは、会社や仕事に対する愛着度が大きく変わり、ひいては定着率にも影響するのではないか――。かねてからそのような仮説を持っており、「ビズリーチ・キャンパス」を運営する株式会社ビズリーチと、「OB/OG訪問の有用性」に関する共同研究を進めてきました。
北海道大学
教育イノベーション機構 教授
副機構長・教育推進研究部長
亀野 淳 氏
1987年3月に広島大学経済学部を卒業。同年4月に旧・労働省に入省。その後、金融機関系シンクタンクなどで勤務するとともに、北海学園大学大学院経済学研究科でも学ぶ。2001年7月から北海道大学へ。高等教育機能開発総合センター生涯学習計画研究部助教授を経て、2021年4月に高等教育推進機構高等教育研究部教授に就任。現在、教育イノベーション機構副機構長であり、キャリアデザインセンター副センター長を兼務。
――共同研究の結果を2回発表しておられます。どのような結果が表れたのでしょうか。
亀野1回目の調査では、OB/OG訪問が学生の企業理解や意思決定にどう影響するのかを検証しました。
共同研究第1弾
ビズリーチ・キャンパス、北海道大学 亀野淳教授と共同で「OB/OG訪問の有用性」を検証
OB/OG訪問が「訪問先企業への志望度アップ」に有効
地域間の情報格差の是正にも寄与
結果を見ると、訪問先企業への志望度が上がったとする回答は7割を超えました。効果の内訳では、「実際の働き方への理解度が高まった」(82.2%)、「社風や企業文化への理解度が高まった」(80.8%)、「就職先の意思決定に役立った」(75.6%)、「働くイメージが明確になった」(74.0%)などが上位に並びました。
ビズリーチ・キャンパスは2024年1〜2月、北海道大学の亀野淳教授と共同で、2024年卒業・修了予定の大学生・大学院生を対象に、「OB/OG訪問の実施と就職活動やキャリア観形成に関するアンケート」を実施した(有効回答数1105)。OB/OG訪問の効果として、実際の働き方や社風・企業文化への理解、就職先の意思決定、志望度の向上などに関する項目が上位に並んだ
さらに、OB/OG訪問を実施した学生は、実施しなかった学生に比べて内定獲得数が多い傾向も見られました。とくに訪問先企業数が4社以上の学生は、企業理解や働くイメージの明確化、ロールモデルの発見、就職活動へのモチベーション向上といった指標でも高いスコアを示しました。
これらの結果から、OB/OG訪問が実際の働き方や社風・企業文化への理解を深め、志望度向上や意思決定に役立つと言えます。
曽和普段、学生の皆さんと接しながら実感していたことが、データで裏付けられたように感じます。OB/OG訪問は、面接と違ってカジュアルな雰囲気なので、踏み込んだ話が聞けるのでしょうね。2回目の共同研究は、どのような内容だったのでしょうか。
亀野2回目の調査では、OB/OG訪問が入社後の企業理解や職場満足度、転職意欲にどう結びついているのかを検証しました。対象は、入社3年以内の社会人717名です。
共同研究第2弾
ビズリーチ・キャンパス、北海道大学 亀野淳教授と共同研究
「入社3年以内の社会人」が対象
就活中のOB/OG訪問が、現在の職場への満足度に寄与 早期離職の防止に期待
検証の結果、就職先企業へOB/OG訪問を行った人は、行っていない人に比べて「社員の人柄や人間関係」「社風」「働き方(休暇・勤務形態等)」「業務内容」「福利厚生」「経営理念・方針」などの項目について、入社時点での把握度が高いことが分かりました。
さらに詳しく分析すると、入社時点での企業や仕事、働き方に対する把握度が高い人ほど、現在の職場満足度が高く、転職意欲は低い傾向にあることも確認されました。こうした結果から、OB/OG訪問は、入社前の企業理解を深めるだけでなく、入社後のミスマッチや早期離職を防ぐ一助になり得ると考えています。
ビズリーチ・キャンパスは2024年11月、同サービスの利用者で入社3年以内の社会人を対象に、「OB/OG訪問とキャリア選択に関するアンケート」を実施した(有効回答数717)。その結果、就職活動中にOB/OG訪問を通じて就職先企業への理解を深めた人ほど、入社時点での企業理解度や現在の職場満足度が高く、転職意欲は低い傾向にあることが分かった
曽和非常に興味深い結果ですね。私はコンサルタントとして、企業から社員の離職防止に関するご相談を受けることが多いのですが、OB/OG訪問の活用は、確かに有効な手段かもしれません。
――OB/OG訪問は、社員の時間を使うため、企業側にとっては一見、負荷の大きい施策にも見えます。
曽和確かに、一見そう見えます。しかし、入社後の早期離職が起きれば、採用活動のやり直しや育成にかけた時間の損失など、企業にとってのコストはさらに大きくなります。
人材が離職する大きな理由の一つは「人間関係」です。その点、OB/OG訪問をすれば、「どんな人と一緒に働くのか」ということをイメージできます。だからこそ、ミスマッチを減らすための投資として捉えると、費用対効果は決して低くないはずです。採用活動だけで考えると企業側の負荷は大きく見えますが、定着までを見据えると、それ以上にやらないことの機会損失が大きいとも言えるでしょう。
――学生だけでなく、OB/OG訪問を担当する社員側にも、何らかの効果があるのでしょうか。
亀野OB/OG訪問を担当した社員にも、一定の効果があると考えています。学生に自社の仕事や魅力を語ることは、学生の企業理解を深めるだけでなく、社員自身が自社で働く意義や仕事の価値を捉え直す機会にもなるからです。
例えば、若手社員は日々の業務に追われ、会社や仕事について立ち止まって考える時間が少ないかもしれません。しかし、学生に説明する過程で、自社の魅力や仕事の意義を再認識することがあるのではないでしょうか。
実際、ビズリーチ・キャンパスの調査データでも、学生との面談回数が多い社員ほど、自社にいる意義や仕事のやりがい、仲間の魅力を再認識する傾向が見られます。こうした点からも、OB/OG訪問は、学生だけでなく、担当する社員のエンゲージメント向上にもつながる可能性があると考えています。
ビズリーチ・キャンパスは2024年8月〜2025年7月、同サービスを利用する企業11社でOB/OG訪問に対応した社員1014名を対象に、学生との面談を通じた社員自身の意識の変化を調査した。学生との面談回数が多い社員ほど、「自社にいる意義・理由」「事業価値・社会的影響」「仕事の意義・やりがい」「仲間の魅力」の各項目(5点満点)で高いスコアを示した
――良い学生を採用しても、すぐに辞められてしまうと悩んでいる企業は少なくありません。最後に、お二方のご経験や知見も踏まえてアドバイスをお願いします。
亀野今回の調査結果からも、入社前の情報不足によるミスマッチが、離職を引き起こす大きな原因の一つであると言えます。OB/OG訪問に限らず、インターンシップやリファラル採用など、多様な手段で幅広い情報をオープンに発信していくことが大切ではないでしょうか。
曽和ネットやSNSで簡単に情報を発信できる今日、負荷の大きいコミュニケーションは、つい敬遠されがちです。しかし、一見、効率が悪いように見えて、実はOB/OG訪問などの深いコミュニケーションは、中長期的には採用後のミスマッチを減らす費用対効果の高い施策になり得ます。選考だけでなく、相互理解に投資する採用への転換を、ぜひ検討してみてください。